第12話 戦争が始まるのだ!
「昨夜、後宮に再びサキュバスが侵入した。かの邪悪な魔道士の仕業だろう」
デクストン団長の話に、ざわつく騎士団。
俺はめでたく医務室から戻り、本日も訓練の予定だった。
「だが、サキュバスは突如乱入した謎の男によって撃退された。マリーナ様は無事だ」
「オー!」「良かった」「これ以上エッチになったらどうなっちまうんだって思ってた」
お前らもみんな同じ思いか。
俺が守ってやったからな!
「なお、謎の男は後宮に侵入するという大罪を犯したため、見つけ次第処刑することになっている」
うっ!!
「だが、それが誰なのかは全くわからないようだ。それに、どうやら王女を守るために戦ったらしいという、後宮兵士からの証言もあり……国王陛下はまあ、今回は不問にしてやるかという話になった」
ちらっとデクストン団長が俺を見た。
き、貴様、気づいているな!?
団長の視線からダイオンも何か察し、チラチラ俺を見ている。
ええい見るな見るな、見世物じゃないぞ!
「話は変わるが、こちらも重要な話だ。いよいよ……ガーデン帝国に動きありとの情報が入った。我が国のスパイがあちらに入り込んでいてな。帝国は領土の巡回警備を名目に、領土を侵犯。そのまま実効支配してしまおうと考えている」
「なんてことだ」「ふてえ連中だ」「許せねえ」
「そして、この実効支配を予定している地域には既に我が国の住民が入植しており、つまりは……彼らを侵入者として排除し、これを口実に戦争を仕掛けるつもりだろう」
「なんてことだ」「血も涙もない連中だ」「許せねえ」
怒りに震える騎士団。
基本的に騎士団、素朴な愛国心を持つ連中なのだ。
「ということで……我が国も偶然、かの国と同じタイミングで巡回警備を行うことになる。接触次第、侵入者を排除する」
おおーっとどよめく騎士団。
ちなみにこの巡回警備による実効支配を狙う姑息な作戦行動、向こうは幾つかの部隊を派遣しているそうで。
我が王国も、同じだけの数の巡回警備をぶつけることになった。
そのうちの一隊に、俺。
そしてダイオン。
なぜお前なのだ。
「なんでお前なんだよ!」
ダイオンが顔をしかめた。
さらに一人、魔法使いがつく。
「あ、わ、私です~」
「あっ、この間はどうも」
俺はあくまで優しいジョナサンの演技をしながら、ペコペコする。
彼女は医務室で俺の怪我を癒やしてくれた、魔法医の卵チエリ。
ピンク髪のおかっぱで、背丈は低めで華奢な女の子。
年齢にして、ジョナサンやダイオンと同じくらいではないだろうか。
つまり、ミドルティーン~ハイティーンくらいである。
「あっあっ、その後お元気ですか? 私の魔法はちゃんと癒せていますか? そのう、私、戦場とか初めてなので……! 色々不慣れな所も多いと思いますが、どうぞよろしくお願いします……!」
「おう、よろしく頼むぜ! ……結構かわいいな」
「えっ!? かわいいですか!? いえいえ、私なんてそんな……」
よし!!
いいぞダイオン!
そのまま彼女とフラグを立ててしまえ!
お前はここでNTRフラグキャラから引退だ!
いや待てよ。
チエリもサブヒロインでNTRフラグが立つから、俺が守らなくてはならんではないか。
うおお、なんたること!
ということで、俺たちはスリーマンセルとなり、郊外を巡ることになる。
さて……。
ここからやって来るイベントに、俺は心当たりがある。
「スリーマンセルイベントは、確かサキュバスとの何度目かの戦いの後、業を煮やした魔道士が城をまるごと時間凍結してしまうイベントだったはず……! 展開が早すぎる。いや、これはこれでマリーナを守らなくて良くなるからいいんだが! だが!!」
「何をぶつぶつ言ってやがる! 行くぞジョナサン!」
「おう! ……じゃない。う、うん」
「今、ジョナサンさんあえて気弱そうに言い直しましたよね?」
「そうでもない」
さて、どうやら原作の様々なイベントが、時系列さえ合っていれば何が起こってもおかしくない状態になっているようだ。
フラグ乱立というやつだな。
だが、この異常な状況も俺は納得できる。
なぜなら、夢の中で会話した本当のジョナサンが、既に幾度もこの世界をループして様々なルートを歩いたっぽいことを言っていたからだ。
ジョナサンの心が完全に折れたので、俺が……俺が来た!
で、ジョナサン(本物)があらゆるルートのフラグを立てたので、現状はいわゆる全てのイベントが発生しうる状況になっているわけだ。
バカッ!
俺がこのゲームを遊び込んでなかったら一発アウトじゃないか!
とんでもない状況で俺をこの世界に召喚しやがって!
『今、私に対する凄い苦情みたいな思念を感じましたけど』
「苦情みたいなもんだよ! なんでもっとこう、ジョナサンがループする前に召喚しなかったんだッ」
『おっしゃる言葉の意味が良く分からないんですけど……? 私が勇者を召喚したのは、これが最初ですよ? ループとかなんですか?』
おや?
女神ともあろう者が、世界がループしているのを認識していない……?
まあ、きっとジョナサンの心が折れてない状況だと、俺が入り込む隙間が無かったのであろう。
結果オーライと言えよう。
「ジョナサンが一人でブツブツ言っている間に、目的地についちまったぜ」
「ジョナサンさん、肩の上のピカピカ輝く魔力とおしゃべりしてるみたいですけど」
「チエリにはそんなのが見えんの? 俺が知ってるジョナサンはそんなやつじゃなかったけどなあ……。だが明らかにこいつ、人間が変わってるしなあ」
いかん、怪しまれているぞ。
既に混乱の底にあるこの世界での冒険。
これ以上、俺の正体が露見したりで不確定要素を作るわけにはいかないからな……!
というわけで、俺達スリーマンセル……三人の名前の頭を取って、ジダチ隊は辺境にある村に到着したのだった。
訓練ではない、実戦が近いぞ……!
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