第10話 マリーナの貞操は俺が守る!
『えっ!? まさかサキュバスの誘惑への守りは全くゼロ?』
「当たり前だろう! レベルとスキルポイントの配分的にそんな余裕はない! 守る暇があったら攻撃に回す! ツアーッ!!」
俺はサキュバス目掛けて
ダッシュからのショルダータックル……。
『甘いわ! 男ならば、私は誘惑して骨抜きにできる! お前も私のものにおなり!』
ぽわわわわっとサキュバスの目から放たれる誘惑光線!
男性特効の恐るべき魔法であり、男である限りこれに抵抗することは難しい。
だが!
当たらなければどうということはない!
ショルダーと見せかけて、俺はそこから前方に回転して床に飛び込んでいる!
そしてスライディングからのカニバサミ!
『な、なんだとーっ!? ウグワーッ!!』
誘惑光線を外し、俺によって転倒させられるサキュバス。
石畳でスライディングなどこちらが傷つきそうなものだが、このための鉄の手だ。
格闘技に使う限り、全身を鋼の強度に変える常時技だぞ!
「ここから……うおおおおっ、スコーピオンデスロック!!」
『ウグワーッ!! あ、足が! 足がーっ!!』
サソリ固めとも言われる関節技である。
立ち上がって足をロックしたこちらからは、相手の背中しか見えない。
誘惑光線、敗れたり!!
「な、何が起きているというの……! ハッ、そうだ、応援を! 応援ーっ!」
ピーッと笛を吹く女性兵士なのだ。
このままでは、彼女の仲間が駆けつけることだろう。
サキュバスとしても、大人数の女性兵士相手では分が悪い。
なにせ、後宮を警備する兵士たちだ。
最低限の魔法の武器を携帯したものも多い。
魔法の武器を防げないサキュバスにとっては、多勢に無勢である。
『まずいっ! くそっ! こんなはずでは! マスターに気持ちよくない方のお仕置きをされてしまうーっ!!』
うおおおっ、サキュバスの全身に凄まじい力が籠もった!
そして、俺のサソリ固めを力づくで外してしまう。
よろよろと起き上がったサキュバスは、俺を憎々しげに睨みつけた。
おっと、誘惑光線だ!
軽気功を使い、壁を駆け上がって天井に貼り付く俺。
まさに蜘蛛の如きアクション!
「ひいーっ! ゴキ、ゴキ、ゴキブリみたいに!」
女性兵士が悲鳴を上げた。
なんだと失敬なー!!
そして天井から、俺はサキュバス目掛けて回転しながらの体当たり。
丸まって背中からぶつかる、セントーンという技だ。
『またも誘惑光線破り!? お前ぇーっ! サキュバスの性質を知り尽くして……ウグワーッ!!』
セントーンでサキュバスがふっ飛ばされた。
俺は相手の目を見ないように背中を向けて立ち上がり、身構える。
サキュバスの背後から、女性兵士の仲間が駆けつけてくる音がした。
ダメージを受け、俺という意味のわからない男には誘惑光線が通用せず、しかも相手は大勢。
サキュバスは悔しげに『むきぃぃぃぃぃ!!』と叫ぶと、俺を指さした……ようだ。
『覚えていろ! お前のことはマスターに報告してやるから!! 絶対、絶対にお前を誘惑で落としてやる!! もう王女どころじゃないんだから!!』
サキュバスが、大きなコウモリに変身した。
そして窓から逃げ去っていく。
『逃げますよ!!』
「追いかけても、実は今の俺では中位悪魔に決定打を与えられる技がないのだ!」
『なんですってー!! よくぞそれで戦おうなんて思いましたね。しかも、相手の誘惑を受けたら一撃でアウトなのに』
「全てはマリーナのためだ」
『それだけ聞くと純愛なんですけどねえ』
「俺も脱出するぞセレス! ツアーッ!!」
『あーっ、窓を体当たりで破って!』
「フライングクロスチョップだ!」
浸透勁は実に便利だ。
鎧戸をやすやすと破壊できる。
俺は外に飛び出すと、軽気功でくるりと宙返りして着地。
全力で城塞に駆け込んでいくのだった。
※
兵士たちが集まった、後宮の一角。
扉が開き、寝間着姿のマリーナ姫が現れた。
「賊が入ったのね?」
「はっ! 恐らくは中位の悪魔サキュバスかと! ですがご安心下さい、撃退いたしました!」
「そう。みんな、ご苦労さま。きっと、以前私を襲ったのと同じやつね。怪我人はいない? 私も治癒の魔法の心得があるから、癒やしてあげるわ」
「ありがとうございます。ただ、私達は直接はほとんど戦っていないので、怪我はなく……」
「あなたたちが戦っていない……?」
マリーナは首を傾げた。
室内にいる時に聞こえてきたのは、ツアーッ! とか言う男の叫び声。
つい最近、どこかで聞いた覚えがあるのだが……。
「殿方が後宮に入ってきて、サキュバスを撃退して立ち去っていった」
マリーナが呟くと、兵士たちがギョッとした。
それはまさに、彼女たちが秘していた侵入者のことだからだ。
どこの誰とも知れぬ男が後宮に入り込み、兵士の一人の危機を救い、サキュバスを撃退した。
そんな話を、王族にできようものか。
「安心なさい。私はあなたがたを責めることも無いし、お父様に報告だってしないわ。だって何も起こらなかったのだもの。だけれど、もし偶然その姿を見ていたなら……私の言葉に頷いてくれると助かるわ」
マリーナは兵士たちに向けて、一言。
「その彼、剣を佩いていたのに素手で戦っていたのではないかしら?」
沈黙。
そして、女性兵士の一人が小さく頷いたのだった。
「やっぱり」
マリーナは微笑んだ。
彼であるという確証はなくとも、その可能性があるだけで嬉しくなる。
「今夜は良い夢が見られそうだわ」
彼女の貞操は、確かに守られたのだった。
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