ならず者の集まり
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──ならず者の集まり
俺たちに3階層の調査命令が正式に下ったのは、ブラックマーケット襲撃から7日後のことだった。
この時点で公社は3階層のトラブルをある程度把握したようだ。
「佐世保、湊。3階層の調査命令だ。で、それに伴う情報を伝えておく」
村瀬はそう言って俺たちの端末にODIN経由で情報を送信。
「ブラックカイマン・インターナショナル?」
「そう。その連中が軍閥化した民間軍事会社ってやつらだ」
俺たちの端末にはブラックカイマン・インターナショナルというアメリカに本社を置く民間軍事会社のデータが表示されていた。
第三次世界大戦にも参加しており、さらにはダンジョン戦役でも後方の治安維持のために各国に雇われてる。かなりの大手だ。
「こいつらが3階層で悪さしてるってわけか」
「そうだ。恐らく3階層を調査し、4階層に向かうには排除する必要がある」
ブラックカイマンはそこそこデカい民間軍事会社らしい。戦車や攻撃ヘリの類も保有していると情報にあった。
「この連中と正面からやり合うのはごめんだぞ」
「ああ。カルトをやったときと同じように斬首戦略でしのぐ。軍閥化した連中ならば、美味しい指導者の立場は取り合いになるはずだ」
「ボスが消えれば後継者争いで揉める、か」
「まさに」
公社が総動員をかけて正面からやりあってもブラックカイマンは排除できるだろう。だが、そうなると犠牲やコストが大きくかかる。公社も無限の人材と資金を持っていない以上は、そこら辺に気を配る必要があった。
首狩りというのはそう言う意味では低コストかつ上手くやれば犠牲が抑えられる作戦だ。もっとも現場の負担はデカいが。
「以上が3階層でやるべきことだ。頭に入ったか?」
「ああ。ブラックカイマンのボスが誰か調べなくていいのか?」
「それについてはもう分かっている。ブラックカイマンのボスはアレックス・ウィットロック元アメリカ情報軍大佐だ」
「情報軍か。アメリカと今も繋がっているという可能性は?」
「その点は問題ない。上が非公式ルートで確認したが、アメリカは否定している」
情報軍のような組織だと一時的に軍籍を離脱しただけで、今も本国と繋がっている可能性があった。非合法な作戦に従事する場合などは特にそのようなことがある。
俺たちも退役と言う形で軍籍を離脱しながら、国のために動いてるのだから。
「じゃあ、アレックス・ウィットロックの首を刎ねに行くか」
「オーケー。3階層に向かう手筈は整えておく」
3階層にも公社の拠点は存在する。しかし、1階層、2階層にあるよりも大規模なものではなく、そして安全でもない。
俺たちは3階層に向かうための車両などを準備しながら、命令を待った。
そんなときである。意外な人間たちも同行を申し出てきた。
「やあやあ、諸君。私も同行するよっ!」
「篠原? あんたが一緒に来るのか?」
そう、マオを連れた篠原である。やつがいつもの白衣にバックパックを背負ってやってきたのだ。
「そうだとも。本当ならばスパイダー君に任せようと思ったのだが、階層をまたぐとやはり通信面で不満があってね。それに3階層の生態系がどう変化しているのかも気になるじゃないか!」
「1階層と違って安全は保障できないぞ。まして民間軍事会社が軍閥化しているんだ」
「危険は承知の上さ」
「はあ。それなのにマオも連れていくのか?」
俺はそう言ってマオの方を見た。
「君たち。忘れては困るよ。君たちより先に6階層から1階層への突破をやってのけたのはマオなんだから。彼女の意見は役に立つはずだ」
「分かった、分かった。そう言うことにしておこう」
そういうことで篠原とマオも3階層へと同行することになった。
俺たちは装備を準備し、車両を準備すると3階層の受け入れ準備が整ったのを確認してから2階層を発つ。目指すは3階層だ。
装甲車に乗り込み、2階層の企業が整備した道路を進み、俺たちは3階層へ続くポータルを目指す。企業の道路にちょっかいを出していたカルトは今やさしたる影響力を持たす、俺たちは無事に3階層に繋がるポータルについた。
「さて、いつでも戦えるようにしておけよ」
「任せろ、相棒」
そして、俺たちは民間軍事会社が軍閥化しているという3階層へ。
ポータルを潜って向こうに出た途端、広がるのは2階層とは全く異なる光景だ。荒れた赤茶色の山岳地帯が延々と続くというそんな光景が目の前に広がった。
「いつ来てもいい気分はしないな」
「ああ。緑って物がない」
俺が3階層が苦手なのは、その山ばかりが広がる光景が俺にアフガンを思い出させるからである。ここは忌々しいアフガンの思い出を刺激する。
「まずは拠点に向かおう」
俺たちはまずは公社の拠点に向けて進む。
3階層における公社の拠点は1階層や2階層より小さい。3階層までの兵站線を維持することが困難であることと、純粋に3階層は危険だからだ。
3階層にはドラゴンがときおり出没する。それが脅威となってきた。
それに加えて様々な危険なクリーチャーが生息しており、3階層の不安定さを形成しているのだ。
ここに来てさらに軍閥化した民間軍事会社なんてものまで出現し、3階層はより一層混沌とした場所となっている。
「そろそろ拠点だ」
そして、俺たちは公社の拠点に到着。
公社の拠点は小規模な基地という具合で、ヘスコ防壁に囲まれたそこに俺たちの乗った装甲車が近づくとゲートがゆっくりと開いた。
「よう、ブギーマン。首狩りに来たんだってな」
「お前らが頼りないからな」
「言ってくれるぜ」
公社の警備要員とそう言葉を交わし、俺たちは施設内に。
「さて、軍閥化した民間軍事会社ってやつについて詳しく教えてくれるか? 3階層ではそいつらが暴れていると聞いている」
「ああ。面倒な問題になっている」
3階層のいる情報部の人間が説明を始めた。
「暴れているのはブラックカイマン・インターナショナルって連中。連中は4階層に続くポータルを占領し、通行料とやらを巻き上げている。これまで企業や犯罪組織が攻撃を仕掛けたが、全て失敗した」
「企業の攻撃もか?」
「ああ。大井と契約している太平洋保安公司とも小競り合いをしたが、最終的に企業側がが諦めたようだった。今は大井も通行料を払って4階層への出入り口を利用しているという情報を得ている」
「そいつは厄介そうだな……」
このダンジョンでの最大戦力に近い太平洋保安公司が排除を諦めたということは、相手はそれなり以上の脅威ということになる。
「連中の拠点などは分かっているのか?」
「ある程度は。連中はこの3階層に複数の拠点を持っている。通行料以外にもビジネスをしているようでな。ドラッグカルテルとドラッグを作ったり、武器を密売したりといろいろあって、そのための拠点があちこちにある」
「俺たちの任務は首狩りだ。アレックス・ウィットロックを殺さなければならん。そいつがどこにいるかっていう確実な情報はあるのか?」
「まだだ。今、情報部が通信傍受を行っているが、そのアレックス自身暗殺を警戒しているようでな。どうやら2階層でお友達が暗殺されたことを知って、公社の作戦を予想したらしい」
「イズラエル・ホワイトの暗殺の件か……」
暗殺に警戒している人間を殺すことは難易度が高い。そもそも暗殺と言うのは不確定要素が山ほどある作戦なのだから。
「だけど、太平洋保安公司の攻撃を退けるような連中と正面からどんぱちはごめんだぜ。あたしはどうあれ暗殺に賭けるべきだと思う」
「そうだな。俺もその意見には賛成だ」
アレックス・ウィットロックの暗殺は、そう簡単にはいかなそうだ。
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