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【書籍化、コミカライズ】王子様などいりません! ~脇役の金持ち悪女に転生していたので、今世では贅沢三昧に過ごします~   作者: 別所 燈


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ローザの証言

 オリバー商会から追い出された青年貴族は、そのままモロー邸へ向い、使用人用の裏口から入ったという。


 ローザはそれを聞いて、いてもたってもいらなかった。


「噂も、今回の件も、やはりモロー家が関係していたんですね。なんで私はそれほど恨まれているのでしょう?」


 ローザはモロー伯爵とはほとんど面識がなかったが、そんな予感はしていた。

 それがぴたりと的中した。


「さあ、そこはモロー伯爵に聞いてみないとわからないよ。今回、伯爵はどこかの没落貴族か伯爵自身の隠し子でも使ったんだろう」


「隠し子?」


 ローザは驚いて目を見張る。そんな設定は漫画にはなかったからだ。

(いったい、どうなっているの?)


「貴族に隠し子など珍しいことではないよ」


 ローザはイーサンの推測にとりあえず頷き、ソファから立ち上がる。


「では早速、モロー家に踏み込みましょう!」

「まさか一緒に行くつもりか?」

 イーサンが苦り切った表情を浮かべる。


「なにより私は真相が知りたいんです」


「行くなといいたいところだけれど、止めても無駄だろうね」

 イーサンがため息をついた。


「とはいえ、君は先ほど溺れたばかりだ。具合が悪ければいつでもいってくれ。くれぐれも無理はしないように。それから絶対に私のそばから離れないでほしい。突っ走らないと約束してくれ」


「ずいぶんと注文が多いんですね。私、子供じゃないんですけれど?」

 不満げにローザが首を傾げる。


「ローザ、私は君の親御さんから、君を預かっているんだ。約束できないなら、屋敷から出さないよ」

 珍しくぴしりと言われてしまった。


「閣下、誓います」

 ローザが神妙な顔で言うのを、イーサンは疑り深い目で見ていた。




 取調官と数人の兵たちが馬と馬車で、モロー邸に向かう。


 グリフィス家の馬車はそれに着いていった。


 ローザの心臓は高鳴る。


(ついに! ついに! 漫画ではわからなかった毒殺犯が捕まる。いや、絶対今回の犯人が毒殺犯じゃないと困るのだけれど。そんなに私を殺したい奴がいっぱいいたらお手上げよ)


 実行犯はあの青年で、犯人はモロー伯爵だとローザは見当をつけていた。


 いよいよこれからが、大詰めだ。


 この件が解決すれば、ローザは今度こそ枕を高くして眠れる。

 

 今までもぐっすりと眠っていたけれども。



 ほどなくしてモロー邸の前で馬車が止まり、兵が屋敷に踏み込んでいった。


 否が応でもローザの胸は高鳴る。


 ローザもすぐ後を追おうとすると、門の前でイーサンに首根っこを掴まれた。

「待ちなさい。ローザ」

「うぐっ!」


 びっくりしたのと出鼻をくじかれたのとで、ローザの口から淑女らしからぬうめき声が漏れる。


「ああ、すまない、君がものすごい勢いで駆け出したから、つい掴んでしまった」


 言葉通り申し訳なさそうな表情をする。本当に謝っているようだ。


「だからって、掴まないでください!」

 どう考えても淑女に対する扱いではない。


「とはいえ、君は腕に覚えもないのに、屋敷に乗り込んでいったい何をしようとしているんだ?」


「ここまでついて来たんですよ。事の顛末を見たいではないですか! それにモロー伯爵がどう言い訳をするのかも聞きたいです」


 ローザはそこでふと気づく。


(あれ? ここでモロー伯爵が悪で、もし伯爵家がお取り潰しにでもなったら、ヒロインのエレンはどうなってしまうの?)


 今まで頭に血がのぼっていて考えもしなかった。


「イーサン様。もし、モロー伯爵がすべて仕組んだのならば、モロー家はどうなってしまうのでしょう? エレン様はアレックス殿下が助けてくれるのでしょうか?」


 イーサンの瞳にふと憂いの色が浮かぶ。


「君は本当に、こんな時まで楽観的で性善説の人なんだな」


「はい? イーサン様、それはいったいどういう意味なんですか?」


 ローザはただ今後ヒロインがどうなっていくのか心配なのだ。漫画の中ではエレンとアレックスは結ばれるはず、なのだから。


 だから、イーサンの口ぶりが少し気になった。


 ローザが今か今かと門のそばで気をもんでいると、一人の兵士がイーサンの元にやって来た。


 彼はローザを見てぎょっとする。


「なぜ、クロイツァー家のご令嬢がこのような場所に?」


「彼女にせがまれて連れてきたんだ。彼女は証人でもあるしね。で、君は何か報告があって私の元へ来たのだろう?」


 イーサンがローザのことをさらりと告げると、兵士に先を促した。


 兵士の話ではモロー家の納戸に貴族青年が隠れていたのを発見したとのこと。


「これから取り調べが始まりますが、閣下は立ち会われますか?」


 兵士の言葉を聞いて、さすがは王弟だとローザは思った。

 彼にはそのような特権があるらしい。イーサンがローザを振り返る。


「ローザはどうしたい?」


「え? 私も行っていいのですか。もちろん、当事者なので行きたいです。それに私を池に落とした犯人だと断言できます」


「では、行こうか」

「はい!」

 絶対に真相を暴いてやるのだとローザは息巻いた。


 その後、サロンで青年の取り調べは行われた。


 ちなみにデイビスとエレンはそれぞれ私室に軟禁状態である。口裏を合わせないようにという配慮で、皆別々に監視がついているという。


 ローザはサロンに入った瞬間、青年を指さし証言した。


「私を池に投げ込んだのはこの人ですわ!」

 早速自分の役目を果たしたのだ。


「違う。見間違いだ。あんな暗いところで見分けられるわけがない。それに君は具合が悪いと言ってふらふらしていたじゃないか。そんな状態で人の判別などつくわけがない」


「何ですって! それはあなたが薬をのませたからでしょ!」

 


「ローザ、口論をしに来たわけではないだろう?」

 イーサンに諭されて、ローザはだまる。


 取調官が仕切りなおすように、咳払いをして口を開く。


「クロイツァー嬢の証言は有効だ。さあ、名前を白状してもらおうか」


 そう言われて、青年はだんまりを決め込んだ。

 しばらく沈黙が落ちる。

 

「今、白状すれば減刑もあるかもしれん」


(はい? 人に薬を盛って、池に放り込んで減刑って何?)


 ローザはそう叫びたいのだが、深呼吸をしてしのいだ。

 

 しかし、『減刑』という言葉に反応し、青年はぺらぺらと話し出した。


(なんてやつ!)




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