ローザ命を狙われる?
――結局、車輪に細工されていたことが分かった。
その後、馬車は壊れてしまったが、馬は王都から離れた森で発見された。
馬車の前輪が外れる前に、馬に石を投げつける男がいたなど噂がたち、事故とはいいがたい状況であった――。
事故の数日後、再びイーサンが訪れた。
「とりあえず。マーピンのところへ行ってみようかと思います」
「ローザ、外出はしばらく控えたほうがいい。それにマーピンは情報を売り買いするだけの人間だ。荒事や殺しは請け負わない」
「殺しだなんて、怖いこといわないでくださいよ」
ローザはぞくりと寒気を感じた。
「だが、車輪に細工がされていた以上、ただの事故ではない」
ローザはほとほと困った顔をした。
「修道院へのバスボムの納品がまだです。子供が喜ぶように改良を重ねたんです」
イーサンはそんなローザの言葉に微笑みを浮かべた。
「そちらは君の代理として私が代わりに納品しておこう。そんな事よりも君はしばらく外出禁止だ」
ローザは目を見開いた。
「外出禁止だなんて、店だってあるのに無理です」
「ローザ、犯人が捕まるまで心配だ。どうか聞き入れてくれ。先ほど君の御父上とも話をした。これはクロイツァー家の総意でもある」
そういえば、ローザが家に戻って来た時、母が気絶しそうなほど心配していた。
それは父も同じで……。
フィルバートに至っては珍しく怒り狂い、御者や馬丁を集め尋問していたようだ。
「困りました。仕事が滞ってしまいます。せっかくここまで軌道に乗せてきたのに。でも家族に心配をかけては元も子もありませんね。しばらくは大人しくしています」
イーサンが軽く目を見開いた。
「驚いたな、君がそう簡単に納得するとは思わなかった」
「私が店に出勤して、今度は店が襲撃されたら、被害が甚大ですからね」
ローザの言葉にイーサンが微笑む。
「君はりっぱな経営者のようだね」
彼の素直な賛美の言葉を聞いてローザは初めて照れた。
その後、フィルバートの執拗な調査により、新しく入った下男が一人、失踪していることが分かった。
彼は事故の朝、馬車の側にいた姿も目撃されていたのだ。
この事件をきっかけにクロイツァー家は、新しく入った使用人の教育よりも、彼らの身元調査に重きをおいた。
その結果、上級使用人として雇われた、秘書見習いや、執事の見習いが首になる。いずれも詐欺や横領、書類の改ざんなどの罪を犯しており、それを巧妙にもみ消していた。
◇
ローザが部屋で暇を持て余している頃、執務室では父とフィルバートが額を寄せ合って相談した。
「これは困ったことになったな。王宮を信用できんとは、誰が彼らの過去をもみ消したのかわかればよいのだが」
「アレックス殿下ではないでしょうか?」
フィルバートはローザの度重なるケガにアレックスの存在があることが気に入らなかった。
「殿下がこの件にかかわっているかどうかは、まだわからない。この件に関しては彼は官吏からとどいた書類にサインをするだけだ」
珍しく、いつも余裕の笑みを浮かべている父が深刻な表情をしている。
「では引き続き新人の身元調査をすすめ、それと並行して辞めた者たちの追跡調査も続けるしかありませんね。まったく、どんな策謀がうずまいていることやら」
フィルバートが憂鬱そうに言った。
「うむ、我が家門が足をすくわれぬよう気をつけねば。ローザが言っていた通り、他国への財産の移動も考えたほうがいいかもしれん」
「確かに、いくつか候補をあげておきましょう。脱出経路も含めて」
「ローザもなかなか先見の明がある。船と、どこかに土地と別荘でも買っておくか」
こうしてフィルバートと父は家門の危険を察知して、動き始めた。
いきなりシリアスになったりしませんので、ご安心を。
最後まで、コメディでいきます☆




