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「それで、その子供たちにはどのようなバスボムがあいそうか考えて欲しいんだ。今から一緒に来てくれないか? もちろん、忙しければ、日を改める」
「いえいえ、最優先で!」
顧客が広がるアイデアにローザはうきうきして、さっそく立ち上がり、外出の準備を始めた。
ヘレナに少しの間店を任せ、ローザは護衛のヒューだけを連れてイーサンの馬車に乗り込んだ。
だが、行くのは下町で。
儲け話と思ったが、どうやらセレブが相手ではないらしい。
下町に入ってほどなくして、馬車は止まる。
古いが立派な作りの修道院の前で、ローザはイーサンと共に馬車から降りた。
「あの、修道院とバスボムと何の関係があるんです?」
ローザは不思議に思って尋ねた。
「この教会には、孤児院が併設されていてね」
そこまでイーサンが語ったところで、年配のふくよかな修道女が出てきた。
「まあまあ、グリフィス閣下。ようこそお越しくださいました」
「これは院長お久しぶりです。今日は私の婚約者を連れてきました」
などとローザは勝手に紹介されてしまう。
「ローザ・クロイツァーと申します」
仕方がないので、ローザはなるべく感じよく見える笑みを浮かべ、マーサという名の修道女とあいさつを交わす。
つまりイーサンはここの修道院に寄付しているということなのだろう。
(で、子供用のバスボムって?)
院長について修道院に入ると、中は清潔に磨き上げられていた。
窓は大きくとってあり、柔らかい日差しが降り注ぐ廊下を歩く。ふと子供たちの声が聞こえてきた。
この先に孤児院が併設されているのだろう。
ローザが周りを観察している間もマーサとイーサンはのんびりと世間話をしている。
そして、ローザが連れて行かれた先には、大きな沐浴場があった。ここで修道女たちは身を清めるのだろう。
(で、なんで私はここへ連れてこられたの?)
「ここって沐浴場ですよね?」
ローザの疑問にマーサが答える。
「ええ、以前はそうでしたが、今は子供たちの体を洗うために使っています」
「そうなんですか! それはまた画期的ですね」
まるで前世で言うところの大衆浴場のようだ。ローザは驚きに目を見開いた。その発想はなかった。
「はい、以前は流行り病にかかる子供が多かったのですが、閣下のご指示で子供たちを風呂に入れるようになってから、皆健康になりました」
(なるほど、感染症とかって、衛生問題大事よね)
ローザは感心して、イーサンを見る。
「それで、バスボムは薬草をいれたりとか、そういったお話ですか?」
ローザが質問するとイーサンが首を振る。
「それが、子供たちが風呂ギライでね」
「はい? あれほど気持ちの良いものが嫌いなのですか!」
前世から風呂好きのローザとしては驚きだ。
「君にとってはそうかもしれないが、彼らは今まで体は拭いても、風呂に入ったことなどこれまでなかったからね。嫌がる子供が多いんだ。それで、君の作ったバスボムを与えたら、喜んで風呂に入るのではないかと」
「確かに子供は好きでしょうね」
イーサンの言葉に頷いた。
「そこで、君から仕入れたいと考えたんだ。子供たちはいま二十人いる」
「なるほど、それでバスボムはどれくらいほしいのですか?」
ローザはサクッと商売の話に入るため、イーサンをスルーしてマーサに直接尋ねる。
「週に三日入れるので、まずは子供たちの様子を見たいので十個ほど欲しいのですが……」
マーサの十個というのを聞いて、ローザが目を丸くした。
「それでは子供同士で喧嘩になりませんか?」
「院長。心配しなくても私が仕入れる。値段のことは気にしなくていい」
イーサンが鷹揚にいう。
「しかし、閣下にはいつも多額の寄付をいただいているし、子供たちが病気になった時も無償で、みていただいますから」
マーサが申し訳なさそうにうつむく姿を見て、ローザは呟いた。
「無償って……」
イーサンは国一番の治癒師なので、お値段もそれなりに高額なのだ。
それがここでは無料で彼の治療が受けられる。
ローザの中でふつふつとおかしな対抗心が湧いて来た。
「子供たちが二十人いて、週に三日お風呂に入るなら、まずは百個ほどもってきますね」
「ええ? いえ、それは」
驚いたマーサが目を見開いた。
「大丈夫です。子供たちが気に入るかどうかわからないので、試作品を持ってくるので」
「試作品ですか?」
「はい。それで子供たちの反応を教えていただきたいのです。今後の商売にいかしたいので、ぜひよろしくお願いします」
ローザがきっぱりと言い切ると、今度はイーサンが驚いたような顔をする。
「つまり、ただでということか?」
「はい。もちろん無料です。ここの子供たちにモニターになっていただき、きたんのない感想を聞きたいです。最初は無香料のものをもってきますね」
そんなふうにローザが請け負った。
「いや、しかし、そういうわけにはいかない」
イーサンが珍しく慌てて止める。
「ここは私にお任せください!」
なおも言い募ろうとするイーサンをよそに、ローザはにっこり微笑んで再びマーサに話しかける。
「子供たちの好きな色を教えていただけますか?」
そこから話はとんとん拍子に進み試作品は二週間後に届けることとなった。
(ふふふ、知らないの? 商売の基本は『損して得取れ』よ)
これも前世知識だ。
最初から長いとわかっていたけれど、まだクライマックスを迎えていません!
時々更新とまりつつ、続けています。おつきあいただけると嬉しいです。
誤字脱字報告いただいますが、全然追いつけません。すみません。そして、感謝です。




