ローザの爆買い
石造りの瀟洒な建物に、立派な錬鉄の門構えの店前でローザは馬車を降りる。
王都随一の宝石店だ。
店に一歩入ると、まるでそこは別世界。高い円天井には巨大なシャンデリアが吊り上げられてキラキラと輝いてる。
床には赤い毛氈が敷き詰められていて、ショーケースには色とりどりの宝石が並べられ、燦然と光を放っている。
ローザは迷わす、店の中央のショーケースに向かった。
ダイヤ、トパーズ、サファイヤ、エメラルド、が飾られている。
どれかほしいのか一瞬迷ったが、そんな必要はないのだと思い出す。
迫力ある悪女顔だが、金髪の美女のローザにはどの宝石も似合う。
(これは全部買いね!)
いつの間にかローザの横にもみ手の店員がやってきていた。
「このショーケースの宝石すべてくださらない?」
店員はひれ伏さんばかりに喜んだ。
「ほかにご注文はございませんか? お嬢様の美貌に合わせたデザインで特注などいかかでしょう?」
さらにこんなことを言ってくる。それもそのはず、ローザは以前一点ものにこだわり常に特注していた。だが、今は成金買いに執心している。
「そうねえ。宝石ではなく、金の延べ棒が欲しいわ」
「はあ?」
店員がいつにないローザの注文に目を丸くする。
「できればたくさん用意して欲しいのよ。それと金の延べ棒を届ける先についてはご相談があるの」
もちろんイーサンから聞いた島へ、金の延べ棒を財産として蓄えておくつもりなのだ。
当然、父の資金で。
実は父に王国の手の及ばない場所に財産を作っておこうと提案したのだが、のらりくらりとかわされている。
業を煮やしたローザが勝手にことを進めることにしたのだ。幸い、屋敷には使用人が少なく、金はいつもより、有り余っている。
「はい、仰せのままに!」
ローザに付き添っていたヘレナも驚いている。
「お嬢様? 金の延べ棒をそれほどお買い求めになられていかがなさるのですか? まさか店に金の棚を作るとか?」
「やあねえ、違うわよ。ほーほほほ」
(備えあればうれいなしよ。没落した時の準備をしておかなくてはね)
ローザがドレスを爆買いしたり、店の経営をしたり、宝石を爆買いしたり、隠し財産をせっせと作ったり、フレグランスを爆買いしたり、母の手伝いとしたりと奔走している間に月日は過ぎて、王宮で夏の舞踏会が行われることになった。
驚いたことに、招待状と共に、ローザにアレックスからエスコートの申し出があった。
自室で午前の茶を飲みながら、ヘレナを相手にその話をする。
「ほら、見てヘレナ、呆れたわね。エスコートのお誘いよ」
「お嬢様、不敬罪に問われてしまいます」
ヘレナの冷静な突っ込みが入る。
「そうね。口には気をつけなくては。では、今日もやることが山積みだし、早速お断りのお返事書いちゃいましょ!」
ローザは今貴族の間に広がっている『馬に蹴られたのは自作自演』の噂を利用して上手に断りをいれた。
「お嬢様は本当に殿方に興味を失ってしまわれたのですね」
残念そうにヘレナが呟いた。
「言ったでしょ? 私は私だけを愛してくれる人でなければいやなのよ。考えても見て。うちはすごい財産があるじゃない? だから、結婚したとたん毒殺でもされたら、たまったものではないわ」
ヘレナが訝しげに首を傾げる。
「あの、お嬢様以前から不思議なのですが、その毒殺の発想はどこから湧いて出るのです?」
まさか漫画設定というわけにもいかず、ローザは高笑いでごまかすしかなかった。
「ほーほほほ! もののたとえよ!」




