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【書籍化、コミカライズ】王子様などいりません! ~脇役の金持ち悪女に転生していたので、今世では贅沢三昧に過ごします~   作者: 別所 燈


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家族会議

 ローザは帰りの馬車に揺られながら考えた。


(結局、物語の強制力で私は毒殺され、家門までつぶされてしまうの? だが、断る! だいだい馬にけられても生きていた令嬢よ。私の生命力を甘く見ないことね)


 ローザはまだ見ぬ敵に向かって心の中で吠えた。



 家に帰るとローザは早速、イーサンから聞いたことを母に打ち明けた。


 ローザはついでに口入れ屋がオリバー商会の息がかかっていることも知らせておいた。


 その後も数日間、家の中ではトラブルが絶えなかった。


 母となんとかことをおさめ、部屋で一息ついて茶を飲んでいると、珍しくヘレナがローザに恨み言を言う。


「お嬢様、どうして相談してくださらなかったのですか?」


「いや、だって使用人を監視しているなんてわかったら嫌でしょう」


「お嬢様が監視しているのは、新入りですよね。おっしゃってくだされば、私もお手伝いいたしましたのに」


「あなたには『ローゼリアン』があるでしょ?」

「私はお嬢様の侍女です」


 ヘレナは引かない。


「困ったわ。店にも屋敷にもあなたが必要なのよ。ねえ、ヘレナ、二人になれない?」


「またそのような面妖なことを……」


 ヘレナがいつもの調子で呆れたような視線をローザに向ける。


「でも、助かったわ、今回はあなたから報告があって」


 屋敷で盗難があり、手癖の悪い新人メイド二人が首になった。それから、素行の悪いメイドが三人もやめる事態となった。


 いち早く彼女たちの行動を見抜いたヘレナの手柄である。


「このお屋敷の前に二件ほど、経験がありますのでメイドのことはある程度見抜けるつもりです」


「そうすると、あなたの仕事がやりにくくならない?」


「それはまったくないので、お気になさらないでください。お嬢様が屋敷での私の地位を上げてくださったので、何の問題もございません」


 世が世なら、ヘレナと大親友になりたいくらいだとローザは思う。


 そして屋敷は深刻な人不足に陥っている。

 金は有り余るほどあるのに、屋敷の掃除をする使用人が足りないし、管理も行き届かない。


 父の指示により、使っていない部屋や屋敷の一部を急遽閉鎖することになった。


 金は有り余っているというのに。


 クロイツァー家の家族会議はサロンや食堂で行われることも多かったが、いまでは父の執務室一択になってしまった。


 新しく入って来た使用人たちが信用ならないからだ。


 今夜も家族全員が集まっている。


「下級メイドは今まで通り屋敷で一人一人私が面接して決めますわ」


 母がそう宣言すると父、フィルバート、ローザは頷いた。


 それからおもむろに父が口を開く。


「実はつい先ほど、新入りの上級使用人を二人首にした」

「え? 殿下から、ご紹介いただい元官吏ですか?」


 ローザの質問に父が渋い顔で頷く。


「帳簿の改ざんだ。本人は書き間違いだと言っているが、どうだか」


 フィルバートが憂鬱そうに言う。


(やっぱり、クロイツァー家は内部からつぶされるのね)


 ローザは身震いした。


「もう一人は、入ってはいけないと言いおいてあった金庫室に勝手に侵入していたから、その場で屋敷から叩き出した」


 たいてい上機嫌な父が、珍しく怒っている。


「殿下もとんでもない人たちを紹介してきたものですね」


 ローザが頷くと、


「まあ、殿下は書類を確認してサインをしただけだろう。しかし、グリフィス閣下はなぜそこまでお前に協力してくれるんだ? お前から情報がなければ、忙しくて新入りの使用人の監視などしなかったところだぞ」


 フィルバートが不思議そうにローザに問う。


「『ローゼリアン』のバスボムがなくなると困るからではないですか? 閣下の特注で薬草成分入りのものを作っているので。なんでも患者さんたちに好評だそうですよ」


 ローザが胸を張って答える。商品を売って感謝されることは非常に気持ちの良いことだ。


「まあ、それはさておき古参の使用人が何らかの事情で流出しないよう注意しよう。この件には裏があると思うだが、それを探っている暇もないほど忙しい。さしあたり、やめた元使用人の状況を追跡調査する。少しずつ真相を解明していこうではないか」


 そんな父の言葉を閉めに、クロイツァー家の家族会議は幕を閉じた。



 父の執務室を後にすると、いつものようにヘレナがローザの後ろに影のように付き添って廊下を歩く。


 ローザの部屋は執務室のある二階の同じフロアにあるのだ。


「ああ、いろいろとストレスがたまるわね」


「やることは山済みですから」


 それは重々承知だが、前世で社畜だった彼女には教訓があった。


 忙しければ忙しいほど、ガス抜きは必要なのだ。


「ええ、だから、今から王都一の宝飾店に行くわよ!」


「はい、たくさんお買い物なさるのですね」


 慣れた様子でヘレナが馬車の準備をさせる。


「ほーほほ、今日は宝飾店でここからここまでをやりますわ!」


 ローザは高らかに宣言すると一階のエントランスに降り、ポーチから馬車に乗り込んだ。






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