使用人の異変!?
「おお、ローザ。お前も手伝ってくれているんだってね。急に人がたくさん辞めたものだから、大変だよ。新しく入った者たちに仕事を一から教えなくてはならない」
「お前も書類仕事がわかるだろ。こっちも手伝えよ」
フィルバートが疲れたように言う。
「私は今お母様のお手伝いをしているのです。お母様がお一人になってしまって大変でしょう?」
「そうか、そっちはそっちで大変か、まいったな」
フィルバートが疲れたようにこめかみをもむ。
「どうして突然やめてしまったんですか? 家は給金がよかったのではないですか? それともお父様が休みなしで働かせたとか?」
「馬鹿を言うな。うちの使用人は皆長く勤めてくれているのは知っているだろう。それが突然不幸が重なって、一気に人が次々に辞めていったんだ」
ローザは作為的なものを感じて、ぞくりとした。
「それで、新しい使用人はどうやって募集をかけたのですか? 突然のことなのにすぐに集まったのですね。急だとはいえ、身元は調べてあるのですよね?」
父が驚いたような顔する。
「どうしたのだ。ローザ。そんなことに興味を示したことはなかったのに。身元に関しては心配ない。急だったもので、王宮で使えるものはいないか聞いてみたんだ」
「え? 王宮にそんなシステムがあるのですか?」
「ああ、時々上級使用人を融通してくれることがある。下級使用人は仕方がないから口入れ屋で斡旋してもらった。いつもは一人一人面接するのだがな……」
父が困り果てたように言う。
「そうだったんですね。それでその口入れ屋というのは信用できるのですか?」
「ああ、貴族家がよく口利きしてもらっている店だ。おそらく何人かは使えるだろう。そうそう、上級使用人の方はアレックス殿下が直々に紹介状を書いてくださったんだ」
「はい?」
ローザは目を見開いた。
その様子を見て父が何を勘違いしたのか、にっこりと笑う。
「大丈夫だ。ローザ、うちはたとえ相手が王族といえども、簡単に借りを作ったりはしない。きちんとアレックス殿下に謝礼も払ったぞ」
初めて父がお人よしに見えて、ローザは混乱した。
ローザは父とフィルバートと茶の時間を終えると頭をフル回転させながら、廊下を歩く。
(ローザ、考えるのよ。漫画の中で公爵家はなぜつぶされた?)
そこでやっと思い出した。
「は! そうだわ! 確か国の重要な情報を他国に売ったからよ」
だから、罪が重かったのだ。
(当時罪を告発したのは王太子、つまりアレックスだ。もしかして新しい使用人たちが証拠を捏造した?)
ローザはその後、母の補助をして一日忙しく過ごした。
店はローザがいなくても、通常業務だけなら、優秀なヘレナがいれば回るようになっている。
◇
その晩、ローザは珍しくイーサンに手紙をしたためた。もちろん現在のクロイツァー家の状況を知らせるためだ。
知恵を借りられそうなのは彼以外いなかった。
するとすぐにイーサンから屋敷に直接来てほしいと連絡があった。
翌日、ローザは朝食を終えると、早速グリフィス邸へ向かう。
出てきた執事にサロンに通されると、ほどなくしてイーサンが現れた。
目の前の優美な猫足のティーテーブルには、薫り高いお紅茶と焼き菓子が並んでいて、向かい側のソファにはイーサンが腰かけている。
「突然押しかけてすみません」
ローザにしては殊勝な挨拶をする。が、気が急いて仕方がない。
「それで、手紙には上級使用人や下級使用人が入れ替わったと書いてあったが」
「そうなんです。閣下のおっしゃった通りになってしまいました。父は、上級使用人に関してはアレックス殿下の紹介だから大丈夫だと言っています。下級使用人に関しては今回は口入れ屋で頼んだと言っていました」
それを聞いたイーサンの顔が曇る。
「アレックスか……。それで、君は上級使用人の経歴書を持っているのかい?」
「はい、念のため昨晩書き写してきました」
そのせいでローザは寝不足だが、今はそれどころではない。
「ではこれは預かるよ。私の方で調べてみよう」
「閣下。それと、もう一つご相談があるのですが……」
ローザにしては珍しく言いよどむ。
「何だい?」
イーサンが気軽に応じたので、ローザの口も軽くなる。
「ええっと、隠し口座を作りたいのです」
「は?」
イーサンの反応は芳しくない。しかし、へこんでいる場合ではないのだ。
ローザの優雅な令嬢生活を失いたくないし、これには実家没落後の生活もかかっている。
「ほら! クロイツァー家はお金持ちだから、何かとやっかまれるではないですか。だからもしもの時ために国の手がおよばないところに財産を預けておきたいのです。どこか知りませんかね?」
ローザはこの国にも絶対抜け道はあると信じていた。
(だって前世にもあったもの。〇〇諸島とか、〇〇国だとか)
イーサンは、意気込むローザを前にため息をつく。
「以前にも同じようなことを言っていたね」
そう言って少し思案した末、今度は教えてくれた。




