急展開3
憂鬱そうな表情で、イーサンがおもむろに口を開く。
「検死の結果、ジリアンは酔った上に川に落ちて溺死したということになっているが、私は何者かに突き落とされたのではないかと思う」
「何者かって……。いやまさか、それはないと思います。不幸な事故ですよ」
ローザは首を振る。
エレンの髪飾りを持っていたのは謎だが、状況からいってジリアンが誰かに殺されたとは思えなかった。
第一漫画の中で、ヒロインの周りでそんな血なまぐさい事件は起きていない。
だが、ジリアンがどうやって髪飾りを入手したのかが気になるところだ。
「クロイツァー嬢。それならば、必ず情報は共有しあおう。これは私の問題でもある」
イーサンは紅茶を一口飲むと再び口を開いた。
「君は、クロイツァー卿に自分の悪評が広まっていることを隠しているのだろう」
「はい、私が言わない限り、父や母の耳にそれをいれる命知らずはいないでしょう。
それに父に知れたら、それこそアルノー派を疑って報復に出るはずですから」
ローザはそれを望んでいなかった。敵対関係にある貴族を刺激するべきではない。
だから、ローザは決めたのだ。
「私はその前にこの事件を解決したいと思います。とりあえず、犯人に証拠を突き付けて社交界で大々的に謝罪させるつもりです」
そうでもしなければ、ローザの名誉は守られないのだ。
「謝罪……だけでいいのか? 結構君はぬるいんだね」
薄く笑んでイーサンは立ち上がる。
「では失礼するよ。身辺には十分気を付けて」
そう言って彼はバックヤードから出ていった。
ローザは背筋がゾクっとした。
(こわっ! やっぱり、閣下が毒殺犯の容疑者っていうのもあり?)
その後ローザはぼんやりと考えた。ジリアンの遺体の引き取り手はいたのかと……。
ローザは首を振って雑念を払い、仕事に没頭した。
この先、店を留守にすることが多くなりそうな気がする。
店に代理店長を立てようかとローザは考えた。
少しずつ業務を従業員に分散し、最終的にはオーナーという立場に落ちつこうかと思う。
◇
その晩、ローザは寝支度をして天蓋付きのベッドに寝転ぶと、事件のことが頭に浮かんだ。
(モロー家はオリバー商会にそんな頼みごとをする金などないはず。それなのにオリバー商会はモロー家の借金を立て替えているようだし。いったいどうなっているのかしら)
オリバー商会に何のうまみがあると言うのだろう。
そこでローザはひらめいた。
「もしかしたら、モロー伯爵がエレン様をアレックスの婚約者にしたいの? それで王族とのパイプを作るつもりなのかしら」
それならば、オリバー商会がモロー家の後押しをするのもしっくりくる。
しかし、それでも謎は残る。
「そもそもなんでジリアンはエレンの髪飾りを持っていたのよ」
頭を悩ませながらも、ローザはいつしか深い眠りについていた。




