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【書籍化、コミカライズ】王子様などいりません! ~脇役の金持ち悪女に転生していたので、今世では贅沢三昧に過ごします~   作者: 別所 燈


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オリバー商会

「別にエレン様に機嫌を取ってもらう必要はありませんわ。私はそれほど偉くはありませんもの」


 淡々とローザは告げる。

 自分でも驚くほど気持ちが醒めていた。


(これから、ヒロインとヒーローの見せ場でも始まるのかしら? 馬鹿らしい)


 ローザは白けてしまい、今すぐ帰りたくなった。

 なによりもくだらないことに時間を割きたくない。


「だそうだよ、アレックス殿下。悪いがクロイツァー嬢は借りていくよ」

 ローザの言葉を引き取ったイーサンがさらっという。


「え?」 

 ローザはイーサンに手を取られ、彼を二度見した。


「薬草入りのバスボムの件で話がある。君が開発してくれたおかげで患者には好評だよ」

「まあ、そうですか!」

 現金なもので、ローザの気持ちはすぐに浮上した。


(自分の店の商品を褒められるのは嬉しいものね。全部私が作ったわけではないけれど)


「じゃあ、あちらで話そうか」

 そう言ってイーサンが二人から引き離してくれた。


(ん? これは助けてくれたの?)



 よくわからないが、その後また新しい薬草を使ったバスボムを開発する商談がまとまっていた。


 ローザはアレックスとエレンのこともすっぱり忘れて、その日は上機嫌で帰っていった。



 ◇◇◇



 翌朝ローザは食堂で父を見つけてさっそく質問した。


「おはようございます、お父様! 昨夜、オリバー商会と何のお話があったのです」


「なんだ、藪から棒に。朝食の時間くらいゆっくりと楽しんだらどうだ」


 父はのんびりとエッグスタンドの卵を割る。


「楽しんでいますわよ」


 ローザはサラダに手を付けた。


 屋敷は王都の中心地にあるにもかかわらず、広い庭があり食堂の広く切り取られた窓からは朝の日が差し、カーテンが風に揺れる。


 天井が高いため非常に声が響き、テーブルは長方形で盾に長く、貴族を集めて会食できる広さだ。


 父は窓からバラの咲く庭園に目を向け、目を細めた。


「ローザ、外の景色を見てみろ。美しい眺めではないか。それに毎朝聞こえる鳥のさえずり、耳に心地よいぞ。ここは王都の一等地だ。私はこうして毎朝ゆっくり朝食を食べながら、クロイツァー家の財産の豊かさを確認し堪能している」


(……確認って)


 やはりローザの父だけあって、俗物だ。景色の美しさを堪能しているのではなく、財産を確認し堪能ているらしい。


「確かに美しいですわ。それでお父様。昨夜は何があったのです?」


「仕方のない奴だ。モロー家の借金を全額返してもらったのだ」

「え? オリバー商会にですか?」

 寝耳に水だ。


「それが、きつねにつままれたような話なんだが、突然オリバー商会がモロー家の借金を肩代わりすると言ってきてね。それで急遽オリバー商会の代表とモロー卿と会見し、借金を全額返済してもらった」


「まあ! そうなんですか?」

「そうだ。利息もしっかりもらった」

「どれくらいの金額ですか?」

「ローザ。外でそんな不躾な物言いをするのではないぞ?」

 父が心配そうにローザを見る。


「大丈夫です。家の中だけです。でおいくらくらいですか?」

 ローザは父をせかす。


「うむ、金額にしたら、王都に屋敷が一つ買えるくらいだ」

「うわ! そんなに借金していたんですか?」

 ローザはびっくりした。


「ああ、積もり積もってそうなった」  


(ならば、私の悪評を流しているのは、モロー家?)


「でも、どうしてオリバー商会はモロー家に?」

「ああ、王都進出で焦っているのだろう。貴族のパイプが欲しいんだ」


「パイプが欲しいというなら、ほかの貴族家ともつながっているってことですか?」


(これは大事な質問だ。どこの家が、オリバー商会を通じ

てローザの悪口を流しているのか、突き止めねばならない)


「いいや、モロー家だけだ」

「……なんだって、またそんな事態に?」


(だいたいモロー家って、お金もないし。今の代になってから、政財界のパイプもろくにないんじゃないの? これって、私の悪評を流しているのはモロー家で決定ということでいいのよね?)


 ローザはテーブルの下でぐっと拳を握る。


「さあ、詳しくはわからん。もとよりオリバー商会とはあまりかかわる気にはなれない」

「それはまた、どうしてですか?」

 

「ここのところ急速に力をつけてきた商会で、後ろ暗い商売をしているという噂もある。貴族で相手にしてくれるのがモロー家だけだったようだ」


「確かに貴族社会って閉鎖的なところがありますよね」

 

 庶民から見たら、ただ優雅な人たちだろう。


「貴族の後ろ盾が欲しくなり、ろくに情報を集めず、焦ったのだろう」


 父は訳知り顔で言うと、スープを口に運んだ。


「貴族の噂とかって入ってこないものなんですかね? 社交界は噂にあふれ返っているのに」


「広まりやすいのはゴシップだけだ。みな使用人を前に気軽に話すからな。しかし、大切な話となると別だ」


 確かにローザの『馬に蹴られた事件』が自作自演という噂はゴシップとして楽しまれている。


 そして、ありがたいことに父の耳にはまだ届いていない。届いたが最後、アルノー派と面倒なもめ事が生じるだろう。



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