意外な事実?2
だが商会が王都で幅を利かせるには必ず、バックに貴族がついている。
その貴族が商会を利用してマーピンに依頼を出したのかもしれない。
「ねえ、『ローザ』とオリバー商会の間には何の利害関係もないの。商会は誰の依頼を受けていたかわかる?」
「ああ、そんなようなことは言っていたね。どっかの偉い人からの依頼だって。貴族じゃないかな? あたしは、それ以上は聞いていないからわからない。知らない方が身のためだろ?」
あっけらかんというジリアンが、嘘をついているようには思えなかった。
どうやら、今度はオリバー商会を調べる必要があるようだ。
ローザがふうと嘆息する。
「ねえ、あんた。がっかりしたようだけど、この金は返さないよ」
ジリアンが小袋を掴んで、ローザをにらむ。
「もちろん、どうぞ。その代わりあなたはちょっと行動を慎んだ方がいいわ。なんだか、言動すべてが軽はずみな気がする。お金が入ったからって、いきなり派手な生活しないようにね。強盗に狙われるわよ」
「あんたって、ほんと偉そうね。でも金払いがいいから嫌いじゃないけど」
そう言ってジリアンがにかっと笑った。
「奇遇ね。私も金払いがいい人が好きなの。商売をやっているから」
「あはは、やっぱ貴族のお嬢さんじゃないんだ。途中から妙に品がいいような気がしてきになっていたんだよね」
「ほほほ、よく言われるのよ。品のいい美人って」
ジリアンが納得したように頷く。
「うん、まあ、あんたもここいらじゃ見ない、かなり美人だと思うよ。だけどもてないでしょ?」
大きなお世話だが、その時のローザは腹を立てるより驚愕に目を見開いた。
「なんでわかるの?」
ジリアンの方へがばりと身を乗り出す。
「男っていうのはね。あんたみたいに一人で生きていけますって顔している女にはそそられないんだよ」
「え? そうなの?」
「なんなら、あたしが教えてやろうか? 授業料はもらうけど」
ジリアンは美人というわけではないが、色気があり、魅力的なのだ。
「ええ、ぜひ!」
ローザはジリアンの手を取った。
「ちょっと待った」
そこで今まで口を挟まなかったイーサンがストップをかける。ローザはいかにも邪魔そうな目でイーサンを見た。
「ローザ、そろそろ帰ろうか?」
だが、イーサンはひるむことなく、いい笑顔でローザを威圧してくる。
がっちりと腕を掴まれてジリアンから引き離された。
「え、私はまだジリアンとお話が」
「もう用は済んだでしょ?」
「いや、でも」
渋るローザを、イーサンが意外に強い力で立ち上がらせる。
「では、ジリアンごきげんよう」
イーサンは支払いを済ませると、ローザの腕をとったまま店から連れ出した。
「ちょっと待ってください。ジョン様!」
店外に出るとローザはイーサンの手から逃れようとしたが、しっかりと掴まれている。
一見エスコートされているように見えるが、これでは連行されているようだ。
「もう、その芝居はいいから。なんで君は情報を取りに来たのに、彼女にいいカモにされているんだ。もっと他に考えることがあるだろう」
半ば呆れたようにイーサンが言う。
「そんな、カモじゃありません! ジリアンってなんか色っぽくて魅力的じゃないですか?」
ローザは素直な感想を口にした。
「君の目には、彼女がそう見えたのか……」
イーサンはローザに気の毒な者を見るような眼差しを注ぐ。
(時々ヘレナやお兄様がする眼差しはやめて!)
ローザは心の中で悲鳴を上げた。
「お嬢様、御用も済んだようですし、おうちに帰りましょう」
いつの間にか、そばにヘレナが来ていて、なんだか慈愛に満ちた瞳でローザを見る。
「大丈夫です。お嬢様もとても魅力的ですから。あのような者にたぶらかされてはいけません」
「え? そう? ヘレナがそう言うのなら」
ローザのヘレナに対する信頼は絶大だ。
「そうです。お嬢様は素晴らしい方です。誰にも教えを乞う必要などありません」
実直なヒューまでそう言ってくれる。
「なんだか、みんな優しくて嬉しいわ」
ローザは素直に帰りの馬車に乗ることにした。
◇
クロイツァー家に到着すると家族総出で迎えられた。なぜなら、イーサンが送って来たからだ。
父が食事でもと誘うが、イーサンはまだ仕事があるからと丁重に断り帰っていった。
「ローザ、すごいじゃない。あなた、いつからお付き合いを始めたの?」
母はイーサンがいる間、ずっとウットリと眺めていた。
「お付き合いではありません」
これ以上両親に期待させるわけにはいかないので、ローザは真剣な表情で告げる。
「どうして隠すんだ。ローザ」
父が寂しそうな顔をする。
「隠していません」
「まあまあ、いいじゃありませんか。本人がそう言うのですから。私たちは、黙って見守っていましょう」
そう言って母が父をなだめている。
誤解は解けていないものの、ローザは両親から解放されてほっとする。
早速、部屋に戻ろうとすると、今度はフィルバートにつかまった。
「ローザ、何を企んでいるんだ?」
「なんですか、藪から棒に」
なかなか鋭いフィルバートに冷や汗をかく。
ローザが何をやっているのかバレたら、非常に面倒なことになってしまう。
「あやしいじゃないか、閣下と仲良くしているなんて。何か裏があるだろ? 閣下はそうそう女性とは仲良くしないんだ」
フィルバートが鬱陶しく絡んでくる。
(だるぅ!)
「本当に何でもないんです。客と店主です。ん? 女性と仲良くしないって、何か別の趣味が……」
そういえば、漫画ではイーサンはモテる設定ではあったが、女性と付き合っていると言う描写はない。
(まさかここに来て隠し設定が! 新しい扉が開いてしまうの?)
ローザはその可能性におののき、なぜか胸が高鳴る。
「おい、ローザ、何を勘違いしているかだいたい想像はつくが、間違っても閣下にそんな質問するなよ?」
声を潜めて言うフィルバートをふりきって、ローザはあわてて部屋へ戻った。
(漫画では語られなかった事実が……)
ローザの思考はいつも通り残念な方向へ広がっていった。




