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【書籍化、コミカライズ】王子様などいりません! ~脇役の金持ち悪女に転生していたので、今世では贅沢三昧に過ごします~   作者: 別所 燈


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意外な事実?1

「ジリアン、ほかの客の迷惑だ。座ってくれないか」


 イーサンが穏やかな口調で告げると、途端にジリアンはおとなしく腰かけた。


 おりよく、テーブルにはサンドイッチやケーキ、紅茶が運ばれてくる。


「取りあえず、紅茶でも飲んで落ち着いて」


 にっこりと微笑むイーサンに頬を染めながら、ジリアンは素直に紅茶を飲みサンドイッチを食べ始める。


(ずるいわ。イケメン)


 ローザはジト目でイーサンを見た。


 しばらくして、ジリアンが落ち着いたのを見計らって、ローザは用件を切り出した。


「あなたは、依頼人の指示でカフェや酒場で『ローザ』の悪評を流したのでしょう?」


 また、ジリアンが機嫌を悪くしても面倒だと思い、ローザはあえて『私』とは言わなかった。


 ジリアンはローザの言葉ににやりと笑う。


「まあ、今回の仕事はあたしの女優としての演技力が買われたのね。指定されたカフェで、客を演じたり、うらぶれた酒場から上等酒場までいろいろな場所で女給や客を演じたりしたわ。メイクも変え、ウィッグをかぶって髪色も変えたのよ。話し方も仕草も全部。すごいでしょ?」


 得意げにジリアンが言う。


「大したものね」

「あたし、演じることが好きなの。大劇場のいつか看板女優になってやるわ。こんな下町でくすぶっているのなんていやなの」


 彼女なりの野望があるようだ。


「大劇場ならば、別に看板女優じゃなくていいんじゃないの?」 


(そんなに脇役を嫌わなくてもいいじゃない)


 脇役ローザは切なく思う。


「は? 何言ってるの? 脇役と主演じゃ、扱いが違うのよ。楽屋からして違う。そんで客からのチップや花束をたくさんもらうんだ。運がいい女優は金持ちに見初められる」


「そっちが目的? 演じることが好きなんじゃないの?」

「あたしは両方手に入れたい!」

 ローザは彼女の言葉に頷いた。


「つまり、お金と名誉が欲しいのね」

 気持ちはわからないではない。


「そ、でも先立つものが必要だから、今はお金が欲しい。だから、マーピンさんのところで時々仕事を貰っているの。まさか売られるとはね」

 ジリアンは声に怒りをにじませる。


 そして、ローザはその言葉を待っていた。

 

すっと手を挙げると、音もなくヘレナが近くの椅子からローザのそばにやってくる。


 ジリアンはそれをぎょっとして目で見る。


「え? ちょっと何? この人誰? 今までいた?」

 空気と同化するのはヘレナの特技だ。


 金貨の入った小袋をヘレナから受け取ると、ローザはそれをどんとジリアンの前に置く。


「依頼主は誰? 本当のことを言ってくれればこの金貨をあげる」 


 ジリアンは恐る恐る小袋に触れ、中の金貨を確認する。


「え? それだけでこんなにくれるの?」


 彼女は金のためにためらいなく、依頼人を売る気でいる。それともそれほど困っているのだろうか。


 太っているわけではないが、肉付きがよく肌も綺麗なジリアンを見ていると、金に困っているようには見えない。


「私に依頼主を明かしたら、あなたはほとぼりが冷めるまで、しばらく身を隠したほうがいいかもしれないわ。その時の資金にでも使って」


「へえ、依頼人を教えるだけでこんなにもらえるの?」


 ジリアンが目を光らせる。

 欲に目がくらんだのだろう。


「私はその依頼人を訴えたいと思っている。証人になってくれればもっとお金を払うわよ」

「どれくらい?」

「その倍」

「なんでそんなにくれんの?」

 ジリアンが訝し気に問う。

「証人になるということは、あなたの身を危険にさらすことになるかもしれない。でも私にとってはそれだけの価値があるから」


 ローザが真剣な目でジリアンを見る。

 ジリアンは、世間知に長けたように見えて、目先の欲にとらわれて失敗するタイプなのかもしれない。


「わかった。引き受ける。で、ついでに大劇場の方も紹介してよ」

「それは無理、コネがないわ」

 ローザは呆れ、はっきりと断った。

「でも、そっちのお兄さん役者でしょ? こんな綺麗な顔の男ここらじゃ見ないもの」


 ジリアンが嬉しそうにイーサンを指さす。


(知らないって怖いわね。王族の血を引く公爵様を指さして役者だなんて)


 さすがのローザもおののいた。

 イーサンはというと感情をうかがい知れない、淡い笑みを浮かべている。


「駄目よ。そのお方を指さしては」


 ローザが静かにジリアンの指先を下げると、キョトンとした顔をする。


「え?」


 彼女は本物の高位貴族がここまで来るとは、頭から考えていないのだ。


「で、依頼主の名は?」

「オリバー商会ってとこ。依頼主の秘書って人があたしのところにきたよ。なんだか慇懃無礼な奴だったから、顔は覚えている」


「え? オリバー商会って……」

 意外な答えに驚いてローザはイーサンと顔を見合わせた。彼も同じく驚いている。


 オリバー商会とは最近王都で台頭してきた新興商会だ。手広く商売をしていると言う噂は知っていた。


 しかし、ローザとは何の接点もないはずだ。


(だとするとお父様? お父様の商売上のトラブルで、一番隙がある私が狙われたのかしら?)


 ローザが最初に思いついたのはそんな事だった。



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