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【書籍化、コミカライズ】王子様などいりません! ~脇役の金持ち悪女に転生していたので、今世では贅沢三昧に過ごします~   作者: 別所 燈


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お店をゲットします1

 ローザはとりあえず、おびえる老夫妻に友好的な笑顔を向けた。

「お嬢様、お顔がとても怖いです。お気を付けくださいませ」

 ヘレナがぼそりと耳打ちする。


『何よ、失礼ね』と言い返したいところだが、店主が妻を庇うように震えながら抱きしめている姿を見て、ローザは真実から目を背けることをやめ、まずは用件を切り出すことにした。


「私は、ローザ・クロイツァーと申します。この店を買い取りたいのですがいくらで売ってくださいます?」


「ひぃ! それだけはご勘弁を! この店は妻と必死に働いて手に入れた店なので」

 するとヘレナがずいっとローザの前に出た。


「ローザ様はクロイツァー侯爵家の高貴なお嬢様です。いつまで、立ち話をさせるおつもりです!」

 確かにヘレナの言う通りではあるが……。


「ちょっとヘレナ。そんなこと言ったら、怯えちゃうじゃない。そうだ。あなたがたの店の生地を売ってちょうだい。そこからそこまでおいくらかしら?」

 ローザは店先に並んでいる生地を右から左まで指さし、適正価格で買いとった。

 すると夫妻も態度をやわらげ、ローザを店の奥に招き入れた。


 街路樹の影から見張っていた護衛がのヒューが当然のようについてきたが、彼がそばにいると老夫妻がさらに怯えるので、店番を命じてローザは奥へとはいっていった。


 奥と言っても部屋は一間で住空間は狭く、ほとんどが生地を保管する倉庫となっている。おそらくこの倉庫部分がなくなれば、かなり広いのだろう。


 ローザがすすめられるままに席に着くと、薄く香りのない茶と素朴な焼き菓子を出された。

 きっとこれが彼らにできる最高のもてなしなのだろう。

「ずいぶん売り物が余っているのね」

 保管されている生地を見てローザが言った。


「いえいえ、余っているわけではありません。大量に安く仕入れて、保管してあるのです。そのおかげで私たちの商売は成り立っているのです」

 上手い商売の仕方だと思った。


「なるほどね。で、先ほど言っていた、みかじめ料というのは何ですの?」

「ときおり、来るんです。街のごろつきどもが、金を払えと脅してくるんです」

 店主の言葉に、ローザのこめかみに青筋がたつ。正義感ではなく、乙女心が荒ぶる。


「ほほほ、それは面白いお話ですこと! まさかこのローザ・クロイツァーがそのごろつきに見えたと? ほーほほほっ、それは異なこと!」

 ローザが手にもった扇子をバチンと鳴らすと、老夫妻が飛び上がった。


「お嬢様、落ち着いてくださいませ。まずはご夫妻に事情を伺ってみませんか?」

 ヘレナになだめられ、深呼吸をするとローザは一息ついた。


「そのごろつきを役人に取り締まらせたら、いかがですか? ここは目抜き通りのすぐそばですし、それほど治安が悪いと思えませんが」

 ローサの言葉に、夫妻は困ったように顔を見合わせ首をふる。


「それが誰も手を出せないのです。おそらくですが、中心になっているのはどこぞのご貴族様のご子弟かと」


「何ですって! つまりさっき私を見て怯えたのは、私が高貴な貴族令嬢だと気づいたからってことなのね!」

 ローザは歓喜のあまり食い気味に言う。

「ひいっ!」

 しかし、ローザの勢いに夫婦はのけぞる。

「お嬢様、とりあえず面目は保たれたので、お話を先に」 

 ヘレナの冷静な突っ込みにローザはハッとした後、咳ばらいをひとつして気持ちを切り替えた。


「それで、あなた方、自警団を組織しようとは思わなかったのですか?」

 王都では役人だけでは手が足りず、自警団を組織するのは普通のことだ。


「ここは年寄りばかりなので難しいのです。目抜き通りが、ここまで栄えるようになる前から私らは店を構えていました。しかしごろつきどもが現れてからは、店を売って故郷に帰ってしまったり、店が立ち行かなくなって夜逃げしたりするものが増えました。

 私らもそろそろ引退して故郷に戻りたいのですが、こんな状況ですから店を二束三文で売るしかありません。ですが、それでは老後の生活が立ち行かないので、ここに居残り怯えながらも商いを続けおります」

 なかなか深刻な事情を抱えているようだ。


「なるほど。この店を買いとったとしても、ごろつきの問題が残るわけね。それで、そのごろつきは何人くらいいるのですか?」


「十人以上はいると思いますが、そのうち三人の貴族子弟が中心になっているようです。そんな事情もありまして店には買い手がつきません」

 老夫妻は憂鬱そうに語る。前世でいうところの地上屋げなのかもしれない。このままでは商売を邪魔され、いずれはそのごろつきに安く買いたたかれる運命にあると言うことだ。


「なるほど、目抜き通りのそばとはいえ、貴族がバックについている店がない地域だし、役人も平民で貴族が交ざっているごろつきには手を出せないってわけね」


 ローザが店主の話を思案していると、外から叫び声が聞こえ、やがて物が壊れ人が争う大きな音が響いてきた。


「奴らが来たんだ! 店が壊されてしまう」

 店主が叫び、老夫妻は恐慌状態だ。ローザが席を立とうとすると、ヘレナが止める。

「ここは私が見てまいります。お嬢様はどうかこちらに!」

 決然と言って、部屋から出ていった。


「ヘレナったら、できる上に肝も据わっているわねえ」

 ローザは彼女に感心しつつ、老夫妻にさらりといった。


「多分、私のお父様が雇った護衛がどうにかしてくれると思うので、大丈夫ですよ」

「ですが、護衛の方はお一人では?」

 店主が不安をにじませる。

「まさか! 私、侯爵令嬢ですのよ」

 ローザは鷹揚に笑う。


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