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5 霊に捕らわれる

<レベルアップ! レベルアップよ!>


 アムリスのシステムボイスが響く。

 その後に大波先生から拍手がフロアに響いた。


「噂以上の力だ、照日君。スキルを十二分にこなしているな」


「武器とかの使い方を考えるのは良くしていますからね、俺は」


 先生の評価の声に俺は答えた。


 スキルの使い方は日頃から考えている。

 武器にならなそうなものを武器として有効活用する方法はダンジョンが現れる前から考えている。

 なので、こういう色々な使い方も頭の中で思い浮かぶのだ


「なるほどな。出来ることをスキルの文字だけでしかとらえてないという訳だ。事実、粘着化という文字だけに捕らわれていては、自分を結晶から射出するという方法は出てこない」


 大波先生からの評価の言葉。

 でも、いまいち評価してくれているのか分かりづらい。


「えっと、まあ、そうかもしれません」


 ので、俺は当たり障りのない言葉を出した。


「スキルって言うのはその文字だけの活用法に捕らわれてはいけない。頭一つでやりたいことが大きく増えるんだ」


「……はい」


「私はスキルを自分のやりたいことへの懸け橋になると考えている。照日君のようにスキル一つで様々な手段を思い浮かべるのは十分な強みとなる」


「……先生の言うこと、なんとなく頷けます」


 先生の言うことを俺は噛み締める。

 他人のスキルかどうかは分からないが、この粘着化のスキルで色々な窮地を逃れているのは事実。

 だからこそ、先生の言葉は何となくわかるのだ。


 一方負けた渋沢は姿勢を低くしていたメイルオンさんから回復処置を終えていた。

 大きな傷を受けた様子でもないのでこれからも大丈夫だろう。

 それで次の生徒、黒い髪で数珠を持った生徒が歩んでくる。


「ならば今度は拙僧が参りましょう。前々から天川殿のうわさは聞いておりますし、戦うとなって胸が躍ります」


「誰だろうと負けないからな」


 俺も再選の準備は出来ている上に、相手の生徒も数珠を構えていた。

 お互いに戦闘準備は出来ているということ。


 対して見届けるメイルオンさんは処置を終えたようで、立ち上がった。

 その後に俺と生徒の間を見る。


「では、私の方も処置が終わりましたので、メイルオンが御銅(ごどう)成田(せいた)と天川照日の戦闘を見届けます。戦闘開始」


 メイルオンさんからの宣言。

 その戦闘開始を受けて、俺は相手の生徒、御銅へと走っていく。

 まずはどう出るかを確認するために近づいて斬撃を狙ってみる。


 だが、相手はその場から立ち止まったまま。

 することと言えば、数珠を鳴らすように動かすだけ。

 ただの攻撃をする様子ではないことは分かる。


「早速、拙僧から仕掛けましょうか。霊降下!」


 その言葉と共に御銅は俺に両手を突き出す。

 結果としては何かを手から出すようでは無いようだ。


 でも妙な真似をしてきそうなのは分かる。

 だからこそ、俺から今攻撃をした方がいい。

 結晶を作って遠距離攻撃をすれば。


「何をするかは知らないが先に潰……ん?」


 突きを出そうと俺は言葉も出す。

 しかし、その手は途中で止まる。


 妙な感覚が俺にのしかかっていたためだ。

 もうすでに相手は攻撃の手を打っていたのか。

 でも何の手だ。


 その変化に俺は後ろを見た。

 視界に入ったのは半透明で青みがかった死に装束の霊が俺を手で包むように広げていたところ。

 髪は長くて女性と思われる。


(照日! 後ろをすぐ払って! 出来ないと私と話が通じなくな……)


 アムリスからの忠告を受けて、俺は逃げようとする。

 だが、足は妙に重い、それも人の体重以上の。

 それどころか手の動きも重みが乗ったように重かった。


「不味い。だったら、昨日手に入れたあのグランデソードのスキルなら……」


 グランデソードで手に入るスキルは気合具現化。

 具体的にやることは気合を俺の体から放つ。

 それであればあの礼を解ける可能性はある。


 しかしだ。


(あなたどうしたの? せっかく会ったのに離れるなんて……)


 霊が俺の心に響くように語り掛ける。

 アムリスの声らしきものは聞こえるが、内容が全く聞こえてこなかった。

 更にとその霊は俺を後ろから絡むように抱き着いてくる。


「う……」


 冷たさに声が漏れる。

 急激な冷気が俺の背を覆った。

 動きにも震えが出てしまいそうなほどの冷気だった。


 それでも、アイテムボックスをオープンしなければ。

 その念が通じて、黒い円は俺の斜め前に広がる。


「その隙、狙わせてもらいましょう。式神霊降下!」


 離れたところから御銅は掌を突き出し、青く半透明な鳥の霊を俺に向ける。

 避けないといけないが、動きも重くなっている。


 ならば、痛みは覚悟でアイテムを取り出した方がいい。

 奪われても俺の粘着化で取り戻す名は簡単だから。


 俺はアイテムボックスへと手を伸ばす。

 更にその中の空気も粘着化させる。


「があっ!」


 俺は相手の式神を正面から受けて、飛ばされる。

 体も重くて受け身もまともに取れない。


 しかし、グランデソードの確保には成功だ。

 握ってはいないが、粘着化した空気が俺の手にも付着してソードごと近くに引き寄せている。

 後は握ってスキルを使えば状況打破となるはず。


(なぜなの、あなた? 私たちは結婚して愛し合っているのに? 離れるような真似を何故するの?)


 しかし、この霊はそれを許さない。

 というか、俺を誰かと間違えているようだ。


 俺は結婚した覚えだってない。

 俺と似た人と結婚したとかだったら、それこそ迷惑だ。

 というか、本当に愛し合っているなら身に覚えのない人に愛しているなんて言わないはずだし。

 その愛が本物なのかと疑問が出てくるよ。


(そんなことを言わないで。それは、あなたが忘れているだけ。だから、今から思い出させてあげる)


 そう心で響かせて、霊は仰向けの俺の上に位置するように飛んでくる。

 その手を俺の首に回す。

 次に鈍い動きの俺に唇を重ねてきた。


「んっぐ……」


 俺の唇から冷気が流れてくる。

 いきなり冷凍庫に閉じ込められたような感じの冷気。

 さらに、生命力も俺から抜けて奪われていく。

 冷たさはなかったが、サキュバスと同じように生命力を奪われているのは分かる。


(どう? 気持ちいいでしょ? 私はあなたの命を感じてとっても気持ちいいわ)


 心に響くように霊は語る。

 その間にも俺の前に青い鳥の霊が向かってきていた。

 霊が半透明だったので、正面の様子が確認できたのは幸いか。


 あっちは防がないといけない。

 これで行けるかは分からないが、結晶の壁を作るしかないか。

 握っているミシワイドエンデスに魔力を注ぐ。

 イメージは俺の上にドームを作るように。


 鳥の霊が俺に届く前に何とか結晶のドームの精製が間に合った。

 結果として鳥の霊には当たらずに済む。


(あなた、すごい。でも、別の腕だけはそのままね。今の私ではこれくらいが限度のようだから)


 霊はこう語りかけて、剣を握ってない俺の手を握る。

 冷気が襲う上に、指を微塵も動かせないほどに感じる重力もすごい。

 その手の近くにはグランデソードもあったため、重力を感じる手で掴むことは出来そうにない。


 ならばミシワイドエンデスで、霊を何とか出来れば。

 そう思って、結晶のドームを粘着化させ、霊を覆うように動かす。

 だが、やはり霊なのか。

 結晶は付着することはなかった。


「くっ……これじゃあどうしようもない……移動もできないから魔法も当たりそうにないし、このままじゃ相手の遠距離攻撃で負けるのがおちだ」


 俺は状況分析を言葉に出す。

 視界の確保は出来るも立ち上がることもできないため、魔法どころか結晶の遠距離攻撃も当てにくい状況。

 嗅覚も強化されているが、体が冷たくて臭いも分からない。

 なので、臭いで探ることも困難だ。


 自然治癒も全面的に頼りにできないのは昨日の戦いで分かる。

 回復できずにじわじわ削られて負けという可能性だってあり得ること。

 現に今、俺の生命力が奪われている状況でもある。


(いいでしょ? 私の愛で徐々にこっちの世界に連れてきてあげる)


 ならばミシワイドエンデスをいったん放棄して、グランデソードの確保をすればいい。

 その手は思いついている。

 しかし、相手はそれを許さない。


 すでに金棒を持った鬼の霊が俺に向けて飛んできているのだ。

 その大きさは鳥の霊よりも大きく、もう少しで俺に命中するのは分かる。

 グランデソードを握らせない動きを相手はしているかのようだ。


 俺は再度ドームを作って、霊の金棒攻撃を防いだ。

 敢えて捨て身でグランデソードをとるという動きも出来そうにない。

 あれに当たって負けという可能性もあり得たわけだ。


「せめて、両手で二本の剣を持てれば……」


 ないものねだりの言葉だというのは分かる。

 だが、剣を握っている手も重くて持ち上がらない状況。

 二本の剣だって持てるかは分からない。


 このままでは負けるのは見えていた。

 状況の打開策を別に考えないと。

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