エピローグ9
俺は竜殺槍をゼルティアへと放った。
この技はアクセサリーがスキルもない俺にもたらしてくれたもの。
今の状況でたった一つのスキルだった。
そのスキルで放った衝撃波はゼルティアへと近づく。
「ん? 急に扇風機のような風が……?」
向きもしないゼルティアは衝撃波に気づいてさえもいなかった。
やむを得ないか、俺がこんな攻撃ができるなんて思いもしなかっただろうから。
それは俺にとってもだ。
「当たれえ!!」
「ぐおぉ!」
ゼルティアは当たる直前に後ろを向いたが、それでもかわす方法はなかった。
俺がこんな攻撃をしてくるなんて予想も出来なければ、こうなるか。
攻撃を受けてゼルティアは魔王と共に前へと吹き飛ばされる。
「ありがとう、柄池さん……! でも、この技……結構負担があるな」
俺の腕はかなり痛い。
しかし、この皆がダメージを負っている状況でそれは些細なことだ。
この様子を見ていた三木島は驚きの顔であった。
「あ、天川さん! まさか……記憶が!」
「ああ、三木島! ちゃんと思い出した! ここまで粘ってくれてありがとう!」
俺からの礼。
決定戦で起きたことは記憶として全て戻っている。
アムリスにあった夜も、戦ってきた日々も、ゼルティアに封印される直前までも。
柄池さんとのやり取りをきっかけに全て思い出せたのだ。
「ああ、良かったです……ここまで粘った甲斐が……!」
「後は俺に任せてくれ。佐波さんも」
ただ、俺はアムリスがいないとスキルがないも同然だ。
現状アクセサリーがあって一つは使えるが、これで渡り合うには不安。
それでも、俺が戦うしかないのもある。
「天川君……もう、大丈夫なのね?」
「ああ、心配と迷惑をかけて悪かった」
その俺の言葉に佐波さんは笑顔を見せる
「あの人に勝てるって……信じているから」
「……必ず、勝つ。アムリスだって取り戻さないといけないからな」
俺は語る。
約束をしたのだ。
アムリスとまた再開して、ゼルティアに勝つと。
「うん、いつもの天川君だね。これならば……」
言葉の途中に佐波さんは倒れた。
やはりダメージだってある。
今まで精神を柱にして立ってきたと考えられない。
三木島も同じなのか、大剣を突き立てて、膝も地面に付き始める。
俺は最初に佐波さんの元へと走っていく。
その行動の前にだ。
「天川照日君。なかなかにやってくれるじゃないか」
剣を振ってきたゼルティアが急に俺の前に現れてきたのは。
急なことで回避するすべを持っていなかった。
「ぐあっ!」
俺は腹に斬撃を受けて、後方に下がってしまう。
「驚いたよ。まさか、そんなことまで出来るなんて思いもしなかった」
ゼルティアからの冷静な言葉。
やはりスキルは戻っていないので、俺の傷も自然治癒で回復する様子はない。
「驚いたという割には顔に出ている様子はないな」
「悪かったかな? 驚いても冷静でいられる余裕があるのだ」
「その力があっての事か」
「その通りだ。私の力は失っていない。時を止めて動く力も暗黒を操作する力も」
ゼルティアは後ろで影を操作しつつ語る。
ここで気になることもある。
彼の持つペンダントにひびがあったことに。
それを見て、もしかしたらと希望が出てきた。
今の俺はスキルがないわけでもなく、全く戦えないわけでもない。
「だが、スキルは一つだけあるし、俺のベルガルドエンデスだってまだ健在だ」
スキルは装備で得たものだけだが、俺には剣で結晶を精製することと、体を軽くすることは可能だ。
「アムリスがいても手出しできなかっただろう? やはり君はここで倒すに越したことが……おや、このテニスボールは?」
ふとゼルティアの言葉の最中、テニスボールが足元を転がってくる。
転がってきた経緯が俺にも分からなかった。
それも一瞬で分かったが。
そのテニスボールは煙を巻き上げて爆発をしたのだ。
横目で見ると、離れたところで西堂さんが上半身を起こしていた。
あのボールと爆弾の仕込み、それはテニスラケットを持って、俺から爆弾化スキルを奪った彼女しかできない。
「西堂さん……! この隙、狙わせてもらいます」
俺は魔力を剣に注いで軽量化をし、瞬時にゼルティアへと接近する。
突きの三連続、それが煙の中の相手に命中した。
「くっ……!」
不意の攻撃を受けて、ゼルティアから声が漏れる。
煙の中では時間を止めようとも度過去から攻撃が来るかは確認できない。
そして、攻撃の一つにペンダントへの命中の手ごたえもあった。
これも俺にとって都合がいい。
俺は通過してゼルティアから距離を置く。
「ふふふ、倒れていたふりはするものね。こうやって奇襲は出来たことだから」
俺の傍にテニスラケットを持って翼を生やした西堂さんが近づく。
佐波さんや三木島も根性で立ち上がってきたのだ。
同じダメージを受けて、彼女がこうして立ち上がれる理由は納得がある。
「西堂さん、助かりました」
「お礼はいいのよ、こんな敵がいるなら共闘するしかないわけだから」
「この状況での加勢はありがたいです」
俺からの礼。
すると、俺の足元から影が伸びてきた。
ゼルティアが捕縛のために伸ばしたものだ。
「この手か! さっきは予想できなかったが、来る可能性も考えられる今なら回避も出来る!」
俺はそれを回避して、ゼルティアへと接近し、西堂さんはその場を離れる。
素早く動ける今ならば回避も出来る上に、今まで伸びてきた機動力や攻撃力は俺から消えてもいない。
「ふむ、これを避けるか。ならば、この影を受けてもらおう」
ゼルティアは背後から影を伸ばして俺に向けた。
その影は大さ5Mの龍の形となって、口を開けて向かってくる。
「待ちなさい。水魔法、フロストボール」
俺がかわそうかと考えたときに西堂さんが三つの白い球を竜の影へと向ける。
龍はかわすこともせずにあたると、当たったところから凍結して、身動きができなくなる。
「西堂さん、助かります!」
俺は礼を言いつつ、ゼルティアへと突きの攻撃を放つ。
しかし、それは瞬時の移動でかわされてしまう。
「忘れていないか? 私に時間停止化スキルがあることを」
ゼルティアは俺の背後へと回ると、魔王の拳を後ろに出してふるわせる。
背後だったこともあって、回避は出来ない。
「ぐあっ!」
俺は飛ばされる。
地面に体がぶつかると同時に影が伸びてきたが、受け身も取って影も回避した。
ここで俺は体勢を整えて、再度粘着化スキルを念じてみる。
すると、空気が粘着化し始めたのだ。
粘着化する速度は決定戦が始まって最初のころと同じだが、スキルが戻っていたのだ。
きっかけはゼルティアの持つペンダントへの攻撃だろう。
俺が持っていた希望。
それはアムリスを封印したペンダントを攻撃して、ペンダントにひびを入れれば、封印の力が弱まる可能性。
どうもそれは当たりのようだと、スキルの戻りを見て感じていた。
そして、ゼルティアの力の弱体化もペンダントを狙えれば、可能ではないかとも思いつく。
まだ俺の勝機は消えていないとより強い可能性が俺に湧き出てきた。




