エピローグ8
ゼルティアは立ち上がった佐波さんと三木島を見ていた。
俺なんかに目もくれずに。
「天川照日君よりはあちらの方が脅威だろう。相手をする」
「まだまだなんだよ、俺は……こんなところで倒れちゃ……天川さんに申し訳ない」
三木島は倒れそうになりながらも、大剣で支えにしながら言葉を出す。
俺には分からなかった。
明らかに負ける戦いだって言うのにこうまでして立ち上がれるのか。
「ふむ、そうか。時間に余裕はあるから、新たな力を確認するために君たちと遊ぶとしようか。今すぐ封印しては確認もできない」
「まだまだなめるなよ! 俺の力はこんなもんじゃないんだよ!」
三木島はダメージを受けた身体を押して走っていき、佐波さんはその場で魔法の詠唱へと入る。
モンスターたちは出る必要もないと考えてなのか、その場で停止していた。
「そうか。では、どうすれば力が出せるのか教えてほしい」
ゼルティアはその言葉の後に掌を前に出す。
すると、二つの1Mほどの黒い球体が掌から放たれて、三木島と佐波さんに飛んで行く。
二人に回避するすべもなかった。
「ぐあぁ!」
「きゃああ!」
二人に当たった黒い球体が液体として包んでいく。
更には煙を立てて、二人の装備品や衣服を溶かす。
あの液体は溶解の特性でもあるかのようだ。
「ほうほう、暗黒溶液化スキルはこういうものなのか。服もだが、武器ももろくできそうだ」
ゼルティアはその様子をただ眺めていた。
物に対する実験を見るかのようでもある。
もう、あの二人が戦うところを見るのも嫌だった。
しかし、二人はその液体を弾き飛ばすと、再び武器を構えてゼルティアへと視線を向ける。
俺はその様子に驚くしかない
「な、なんでだよ……何で二人とも立ち向かえるんだよ? もう、こんな相手にどうしようもないだろ?」
俺からのの言葉。
「天川君……」
それに反応したのは佐波さんだ。
ゼルティアは脇の方へと下がり、このやりとりに手も口も挟まなかった。
明らかに余裕しかない。
「お、俺が頭を下げればあるいは……ゼルティアだって諦めるかも……!」
「そんな事……必要ないよ」
「え?」
「私と三木島君だって……まだ戦えるから」
佐波さんの言葉。
二人は衣服もぼろぼろ、ダメージだってかなりあるはずなのに立ち向かう。
俺にはそれが理解できなかった。
「どう考えても無茶だろ!? 俺だって力を取り戻してもどうなるか分からないってのに!」
「無茶だってのは……否定できないね……」
「じゃあ、俺が頭を下げれば……! もう戦わなくても……!」
俺が頭を下げたところでどうにかなるとも思えない。
少なくともそれが一番可能性があったから、それを選んだだけ。
俺が出来ることで状況を動かせることなんて何一つないが、これしかできなかった。
「私も三木島君もね、天川君に助けてもらったのよ。だからこういう時こそ戦わないと。それで少しでも時間を稼いで、天川君の記憶を取り戻してもらいたいの」
「な……それで……!」
「天川君がそう言ってくれても、私たち戦わないと。一番勝機があるのは……天川君なんだから」
「……」
ぼろぼろの体での佐波さんの言葉。
そんな状態でも俺への期待が大きな物だと伝わる。
「俺もですよ。俺たちがやられたら次は天川さんの命だって危ないんだ。この場で粘らないと助けてもらった恩も返せやしねえ」
「三木島……」
三木島も同様の期待をしていると俺でも分かった。
佐波さんと同様に引く意志はないと分かる。
やり取りの終わりを感じたのか、ゼルティアが再度佐波さんと三木島と俺の間に入ってくる。
俺へと背後を向けて。
「ほうほう、そこまで粘るのは感心だ。まあ、次で死ぬかもしれないので覚悟はしてくれ」
ゼルティアは黒い上半身の魔王を出して語った。
三木島は走って大剣を掲げ、佐波さんは魔法の詠唱へと入る。
未来が見えなくとも次の光景は分かった。
佐波さんと三木島が死ぬかもしれないということが。
「止めろ……」
俺からの声。
不思議だったが、この状況、俺の声しか響かなかった。
そして、時間の進みが極端に遅く、三木島と佐波さん、ゼルティアの動作がものすごく緩やかだ。
「止めろよ……!」
こんな状況であれば俺にも出来ることはあるかもしれない。
でも、影響を及ぼせることが思い浮かばなくて、何もできやしなかった。
やはり俺はいじめられっ子で日陰者なのか。
「止めろよーーー!!!」
俺からの言葉。
それでもゆっくりと他のことは進む。
こんなどうしようもない状況。
一つだけ思い出したことがある。
状況は違うが、命が消えるかもしれない状況。
俺はその状況で助けてもらったことがあったと。
(心配するな)
ふと、俺の心の中で声が聞こえる。
「……?」
(俺が助けてやるから)
疑問の中、男性の声が聞こえた。
その男性の姿も心綺楼のように見えて、髪はオレンジ色だ。
更に思い出す、そのレンジ色の髪をまとめたアクセサリーの存在を。
「……」
(それと、辛そうな君にこの言葉を送るよ)
男性の声で俺はさらに思い出す。
俺は成人男性並みの大きさの黒いイノシシに襲われたのだ。
その時に今の声の男性に助けてもらったのだ。
「俺は……」
(光の当たらない陰はない、絶対に自分にも光が当たる日は来る)
その言葉で思い出した。
男性は柄池さんであの襲われた日も救ってくれたことに。
彼の姿がはっきりと見える。
剣を後方に引く姿を。
「俺は……そうだ、そうだよ……」
(忘れないでくれ。君もこれからもっと救われるはずだから)
思い出した、この言葉で。
出来ることはまだあると。
そして、いま消えかけそうな二人を何が何でも救わないと
俺は剣を後方に引く。
柄池さんと同じモーションで。
(行くぞ……!)
「俺は……救わなきゃいけない! 俺を救ってくれた柄池さんのように!」
俺は強い意志を込めて、言葉に、剣に力も籠める。
腰のアクセサリーも共鳴するかのように光った。
「「竜殺槍!」」
俺と柄池さんは力を込めて、真正面に突きを放つ。
アクセサリーから力がそそがれるのが分かる。
その力は俺の何倍もの力を引き出してくれた。
突きは衝撃波となって、急速で走っていく。
背後を向けるゼルティアの方へとだ。




