6 闘技場に来て
剣もなんとか戻ってきて、俺はアムリスの世界へとたどり着いた。
世界の移動はメイルオンさんの力を経由してだ。
ワープで着いた先は闘技場の中。
その後はメイルオンさんからの簡単な説明を受けて、すぐにワープしていってしまう。
「ここがアムリスの世界か……と言っても、闘技場の中しか見えないけど」
俺は部屋の椅子に座って呟く。
今、俺は闘技場の選手の部屋にいる。
その部屋は中世を思わせる作りだ。
部屋に同じくアムリスもいる。
「案内する時間があれば案内してもいいのだけど、それも無理だから……」
「この世界の警備する人も警戒が強くなっているからな。街への被害が出た今ではこれ以上の被害を出したくないだろうし、やむを得ないことだよ」
言葉を聞くにアムリスは案内する予定でもあったのだろうか。
せっかく別世界へと来たわけだから、観光のようなことをしてもらいたかったのかもしれない。
「それよりも……ルールって変わったのよね。今回のトーナメント」
「冒険者同士の戦いだけど、変更されているところもあるんだよな。戦ってもLVが上がらなくなって、スキルの回収もないという話だし」
「簡潔にまとめると戦闘で強くならなくなったということよね」
今の話ではデメリットしかない。
だが、変更はまだある。
「ただ、デメリットだけではなくて、契約したモンスターを短時間残す召喚は一日三回から一回の戦闘につき三回に変わったから。俺は複数召喚してもその場に残せるスキルもあるし、それもこのトーナメントで有効だから」
「召喚関連はメリットとしてあるのよね」
「そういう訳だ」
召喚についてもメリットはあるので、俺にも恩恵はある。
モンスターを長時間残せるスキルも今回の戦闘では有効だ。
アムリスは俺から視線を外して、別の場所へと顔を向ける。
「このトーナメントで優勝すれば照日も王様か」
「そうだな、あっという間に王様が近づいて来た感じだな」
「そうね……頑張ろ。ここが踏ん張りどころだから」
「当然だ。王に成ってやることはあるから、負けられない」
俺は意思を改める意味も含めて、言葉を出した。
その後にアムリスは俺を見る。
「照日、王様になったら私もサポートするからね。色々と」
アムリスは笑顔で答える。
「助かる。でも、まだまだ王に成ったわけではないし、気が早い話でもあるからな……」
「まあ、そうだけど……そういえば、試合も私たちがいない間に進んでいるようだし、ちょっと見に行ってくるわ」
「ああ、ありがとう」
俺からの礼を聞いてから、アムリスは部屋から出て行った。
「で、俺一人になったわけだが、どうするか……?」
俺は一人部屋で呟く。
移動にも割と時間がかかったので試合の経過具合は俺も気になるところで、出ていくのは構わない。
そう考えているとふと、佐波さんと三木島のことが思い浮かぶ。
「佐波さんとかもどうしているか気になるしな、試しに電話してみるか……ん? ノック音?」
ドアから音が聞こえた。
アムリスが帰ってきたのか。
それにしては早いし、わざわざノックなんてする必要はないだろう。
おそらく、アムリス以外の誰か、そして俺の知らない人物。
俺はドアの方へと向かって手を伸ばす。
「はーい。今、開けます」
俺がドアを開けるとだ。
そこには方までの長さより少し短い金髪の女性がいた。
しかも、俺と佐波さんと同じ制服の。
「天川……照日さん、ですよね?」
「はい、そうですけど……」
俺の声を聴いて、女性は喜びの表情へと変わった。
「やった! 本物だ! 二日前の戦闘を見ていてすっごいなって思ったのよ!」
「二日前の……早乙女との戦闘か」
「あんなに強いやつでも倒しちゃうんですもの。ファンになっちゃうわ」
「もしかして、俺のファンってやつ?」
「そうよ。このタイミングしかないと思ってここに来ちゃった」
確か応援は可能と聞くから、応援目的を伝えて来たと見える。
そこまでするくらいのファンなのだろう。
「そういうことか、長話になるなら座って話すかい?」
「いいの?」
「試合が始まるなら、この部屋で声がかかるから。どれくらい話せるか分からないけど、いいよ」
「えへへ……天川さんとこうやってお話しできるんだ……」
俺は椅子へと歩いて行くと女性も後をついてくる。
俺のファンだというのであれば、粗末に扱えない。
この光景を戻ってきたアムリスも見るかもしれないが、事情を説明すればわかってくれるだろう。
試合についてもメイルオンさん曰く、この部屋で待機していれば声がかかると。
なので、いつ試合が始まるか気を遣う必要もない。
「じゃあ、ここで。あと、君って冒険者なのかい? 俺のことを知ったってことは」
「私ね、冒険者に興味があって、色々な人の戦いを遠くから眺めていたの。その中ですごいと思った人が天川さんという訳」
「それで知ったという訳か」
「以前から小耳にはさむ程度に聞いていたけど、二日前の戦いで私は会いたいってがっちり心を掴まれちゃったのよ」
空で派手に戦ったから、見ている人がいくらかいるようだ。
マーシナルさんも見ていたから、この女性が見ていてもおかしくはない。
「あの戦い、割と他の方面へ影響があったんだな」
「そうよ、あなた、なかなかかっこよくてすごかったんだから」
女性は褒めてくれた。
声の色も艶めいたものに変わって、少し驚く。
その誉め言葉に俺は戸惑いもあった。
以前のように慣れない感情が湧いていた。
「あ、その、ありがとう……」
「天川さんって、褒められるとそんな反応するんだ……」
「あ、その……まあ……」
「いいよ、私は迷惑でもないし、それを知った貴重な人に今なれたもの」
マーシナルさんに褒められたときは少しは慣れた物か思ったが、どうもそれは思い過ごしだったようだ。
少し残念なところ。
ここで一つ気になったことがある。
「ところで、なんだか俺との距離が近くないかい?」
「え? ダメ?」
女性は問い返す。
今の状況は俺の横に一緒に座っているという状況。
密着しているほどではないが、腕と足が触れ合っている。
「あ、その……」
「せっかくの機会だから……王に成ったら、こうすることもできなくなるかも知れないし」
「う、うーん……分かった……」
女性の願いにダメとも言えなかった。
アムリスが見たらこういうことは良くないだろうけど、拒む言葉も出しづらい。
拒めば、きっと落ち込むのは目に見えていた。
「それと、もう一ついい?」
「あ、と……何かな?」
俺が聞くと、女性は俺の顔を見る。
俺は何か変な表情でもしているのか。
女性はどこか笑顔も浮かべていて、俺をそんな気持ちにさせる。
そう思っていた時だった。
女性は俺の顔との距離を一気に詰めていく。
顔と顔が触れ合った。
しかも、その唇同士が。
「……」
不意の行動に無言が流れる。
さらに女性は俺の後ろに腕を巻き付けてきた。




