5 兄からの話
アムリスの世界の人からの貴重な会話の機会。
それが今ここに出来たことになる。
聞きたいことを聞くのは今しかない。
「じゃあ、俺から先にいいですか?」
「ああ、構わない」
ゼルティアさんからの了承はすぐに来た。
ならば先に聞くことはこれしかない。
「今回ダンジョンが目立つように出来たのって何故ですか?」
「それはだね。私の調べではモンスターを使って人さらいをするためだと聞く」
ゼルティアさんの答え。
思ったよりもシンプルな理由が来た。
俺はもっと特殊な理由が来ると思っていたので、シンプルな分もあって納得は行く。
「人さらい……そう言えば最初のダンジョンのゴブリンもやっていたような」
「目立つように出来ると人は集まって目標の人も来るんだ。それが危険なものだとしても」
「なんとなく分かります。でも、目立つように出来ると最初は効果的でも後はさらえなくなって来るはず」
「それが違うんだよ。確かにそのあとはさらわれる被害も出なくなったけど、更にその後は人々の警戒も薄れて行ってさらわれる人がまた増え始めた」
まさかの言葉がゼルティアさんから来た。
「な!? そんな……」
「さらったモンスターから聞いた事で私達の調査とも合致する。間違いはない」
「結局、目立つように出来た方がさらえる数が増えたという感じですか?」
「そんなところだ」
やけにモンスター側の事情に詳しいとは思ったが、そのさらったモンスターから聞ける立場なら納得だ。
しかし、さらわれる人がまた増えたということは学習してない人が多いということ。
その報告に呆れている俺もいた。
「でも、そんなにさらって来て何が目的なんだろう……?」
「分からない。ただモンスターいわく、儀式がどうとまでは聞いている。ずいぶん大掛かりでまだまだ人は足りないとも聞く」
「儀式……ですか。やはり生け贄に……」
「生け贄への使用かまではっきりしていないが、そうだと思ってこちらは動いている」
さらってきて儀式というと生け贄しか思い浮かばない。
それ以外のパターンもあるかもしれないが、さらわれた人の命が危ういことには違いない。
「でも、そのダンジョンも出現しないですから、これ以上さらわれる心配もないですけどね」
「その通りだな。さらわれた人はまだ見つかっていないが、こちら側で探している」
さらわれた人の調査もしているなら、安心だ。
俺ではどうしようもなかった部分であったから。
「なら、さらわれた人に対して俺から出来ることはないと。あと、一ついいですか?」
「ああ」
ゼルティアさんからの了承。
俺が気がかりにしていることはまだある。
「ヴェルナって他国の女王についてですけど」
俺が気掛かりにしていること、ヴェルナの処遇の改善を口に出した。
「あの人か……実は私も処遇について納得がいってないんだ」
「ということは、処遇について改めても?」
「私もそうするつもりだ。が、私だけでどうしようもない現状だ」
「そうですか……簡単な事ではないと」
「そうだが、天川照日君が王になればその話だって簡単に行くはずだ」
そうなってくるのか。
俺が権力を持って指示を出すことが早い道ということに。
「やはり王へとなる方が手っ取り早いか」
「それと天川照日君、私からもいいかい?」
「何でしょうか?」
「トルーハについて何だが、知らないだろうか?」
ゼルティアさんからの言葉。
まさか、トルーハさんについてここで聞かれるとは思わなかった。
「トルーハさん?」
「ああ、謎多き生態で分からないんだが、もし知っているなら……」
「俺と契約しましたよ」
俺はそのままのことを伝えたつもりだった。
その言葉にゼルティアさんが言葉を失うとも思わなかった。
表情は変わってないように見えるので、どう受け取ったか分からない。
「……」
「え、えっと……何か不味いことでも?」
「いや、実に好都合だ。私も探していた所だったから、天川照日君がこうしてくれると私も助かる」
ゼルティアさんは笑ってこう答えた。
ただ答えるまでは何か考え事でもしていたかのような間にも見える。
予想外の事でも起きたから考え事でもするのは仕方ないか。
「そういうことでしたか……だったら安心です」
「トルーハの力は凄いからな。その気になれば100体もの生きた兵隊を瞬時に生み出すことも可能だから」
「生命を作る力はあると聞きましたが、そんなにすごいことが出来るんですか……」
「ああ。だからこそ、人知れない相手に渡ることは困っていたけど、天川照日君であればそれは安心だ」
ゼルティアさんは安心を語る。
トルーハさんは凄い力は持っているようだったけど、具体的な例を出すと分かりやすい。
凄い人物だとは分かっていたが、いまいち俺の中で実感はなかったのが今までの現状である。
ただ、俺もトルーハさんが赤の他人に力が渡るようなことは避けないといけない。
その義務も改めて認識できた。
「敵に小さい軍を軽率に渡す真似なんてできませんからね。俺も気を付けないと……」
「そうだ。気を付けてほしい。では、私は話も出来たのでここで帰るとしようか」
「あ、一人で帰って大丈夫ですか? 俺もついて行って護衛とかは必要では?」
俺から不安を込めた疑問。
流石に王族の人を一人で返すのは気が引ける。
愛用の剣はないが、戦うことなら今でもできるので、護衛が必要なら引き受けたい。
「心配いらない。それに私がここにいるのはお忍びでね。だから、一人で帰らないといけないんだ」
「……そういうのであれば、分かりました。気を付けてください」
俺の声に対して、ゼルティアさんは手を振って玄関へと向かっていく。
そして、彼は家から出て行った。
「お兄ちゃん、元気そうだったしなによりね」
「それに、色々と分かったこともあったのもよかったな」
収穫を思い起こしつつ俺は呟く。
とここで、指輪が光る。
「てるやん! てるやん! すまない! 見つかった! 見つかった!」
指輪からガティークの声が響く。
「ガティーク! 見つかったってことは……」
「ああ、ベルガルドエンデスが!」
ガティークの喜び溢れそうな声。
見つかったと言われれば、剣の事しかない。
これで別のものが見つかったとなれば、こける自信がある。
「見つかったか……これで俺の試合も別の剣を使わなくてよくなったよ」
「実はさ、何回も探した場所に何故かあったんだよ……どういうこった……?」
「そこは俺に聞かれてもな……」
「とりあえず、送るから待っていてくれ。試合の時間も大丈夫そうなんで間に合ってよかったよ……」
ガティークの声の後にすぐに強化されたベルガルドエンデスが送られてきた。
その後、俺は準備を整えて家を出て行った。




