7 空から見渡して
早乙女は爆発と斬撃を受けた。
間違いなく大きなダメージだ。
しかし、早乙女の様子は煙で見えない。
焦げる臭いばかりで早乙女の臭いも分からない状況。
「これで終わり……だといいが」
俺は甘い考えを呟く。
今の俺の耐久力は4500。
まだまだ続くようであればアクアヒールもしないといけない。
そう思っていた時だ。
「私がこんなことなど……ジャクソン様のために私は……」
煙の中から早乙女の声。
耐久力はまだ見えない状況だ。
耐久力の表記が煙でうまい具合に隠れていた。
「な、まだだったか……!」
「ジャクソン様のために、私は……」
早乙女を覆う煙が取り除かれて、その姿が見える。
その姿は傷を受けてふらつきながらも、空中へと浮いていた。
「周りに闇はないようだから、仕掛けるなら……」
「苦しみを……ジャクソン様のために……」
「……ん?」
「ジャクソン様のために……苦しみを……」
早乙女は言葉を繰り返しているようだ。
はっきり言って様子がおかしい。
「おい。俺の声が聞こえるか?」
「ジャクソン様のために……苦しみを分からせる……」
早乙女は返答せずに言葉を繰り返す。
そこで耐久力表記の周りの煙が晴れて、ようやく見える。
耐久力は0となっていた。
それが分かった瞬間に早乙女は前向きに倒れる。
「あ! 不味い!」
俺から無意識に声が漏れる。
ジャクソンは吸血鬼だから落ちても死にはしないだろうが、早乙女は別。
冒険者であろうと俺と同じ人間で、硬いコンクリートに落ちればただでは済まない。
(照日!)
心の仲でのアムリスの声。
相当な騒ぎを起こした張本人であろうと今ここで死ぬのは話が違う。
「ああ、死なれるようじゃ後味が悪い!」
そのため、俺は粘着化した空気を早乙女に放った。
落下よりも早く粘着化した空気が彼女へと届く。
空気が彼女を包んで、これ以上の落下もなかった。
(これで一安心ね。そういえば、急性衰弱スキルも消えていたわよ)
「おお、そうか。後は俺も少しづつ回復するな」
それを聞いて俺の耐久力を見ると、4500から5000へと変わっていた。
間違いなく回復しているし、再度の戦闘でもこれならいけそうだ。
狐燐さんとトルーハさんも戦闘が終わったようで、モンスターが取り囲む様子もない。
俺のやるべきことはひとまず終わったと見える。
そう思っていたところでだ。
指輪が光って声が響く。
「天川照日。今よろしいでしょうか?」
この声はメイルオンさんの声。
「ああ、メイルオンさんですか。ちょうど早乙女とジャクソンを倒しました」
「そのようで、モンスターたちも戸惑いを見せ始めましたから」
確か早乙女が闇をまとわせるとモンスターも力が上昇するといっていた。
その彼女がいなくなって力の根源がなくなったことが戸惑いの原因と見える。
「大元の早乙女を倒したからか。でもモンスターは残っているようだし、戦わないといけないか」
「いえ、ギルドの人たちがこの世界に到着して戦っています」
「あ、ギルドの人がこっちに来ているのですか? ガティーク達ギルド三闘士も?」
「はい、ガティークさんも来ていますし、他のギルドの人たちもです」
冒険者たち以外の戦力が来た、それも信頼できるほどの。
ということはだ。
「あっちの世界の戦力も来た。ということは、これからは残党狩りと思っていいのですか?」
「はい、今回のご依頼は達成となりますので、後は私たちの方にお任せください」
メイルオンさんの達成の言葉。
そこまで言えば、後は本当に任せてしまってもいいだろう。
それこそ俺が戦わなくても終わりそうなくらいに。
「終わりという訳ですか。それは分かりましたけど、倒した二人はどうすれば?」
「今、私が向かいますので、それも含めて任せてください」
「分かった」
そう言うと魔法陣が俺の近くから出てきた。
メイルオンさんは魔法陣から出てきて、宙に浮きながら早乙女の方へと向かう。
その気絶していた早乙女に光の輪で拘束をした。
拘束をした後にメイルオンさんは静止する。
「今回の件では多大な迷惑をおかけしまして、申し訳ございません。本当であればこうならないように私たちが務めるはずでしたが……」
「……気にするな、とはさすがに言えないけど、ともかくやるべきことはやってほしいです」
俺は呟きつつ、無意識に周りを見渡す。
改めてみると暗い上に煙や火災も起こっていて、さらには家自体が崩れているところもかなり見受けられる。
今回の騒動での被害は一目でとんでもないことだと分かる。
それでも、メイルオンさん達を責めるつもりもない。
結局悪いのはジャクソンと早乙女なのだからだ。
「住居等の物への被害は大きいですから、ガンワークがメインで急速な復旧をします」
「ガンワークか……それだったら大丈夫そうかな」
「人的な被害はマーヴェケアーズとアイセムシステムが対応していますので、そこは安心してください」
「そうですか、一応俺も残党狩りには協力しますよ」
俺は何もしなくてもいいかもしれないが、本当に何もしないのは気が引ける。
おそらく、三木島も佐波さんもまだまだモンスターを倒しているはずだから。
「ありがとうございます。ギルドの力だけでも問題はありませんが、見回るだけでも構いませんので、お願いいたします」
断られたらどうかと思ったが、俺の協力は受け入れられた。
そこで一つ思い出したことがあった。
「ところで、幸前の方ってどうなったのか分かりますか?」
「幸前継刀のほうですが……」
メイルオンさんの言葉。
すると、俺の下でゆっくりと近づく男がいた。
その男はスーツ姿の男だ。
「ん? なんだかこっちに近づいている男がいるな……」
俺はその男に視線を向けて呟く。
この状況でただ単に近づくなんて妙だ。
普通の人であれば急いで逃げるはずなのに。
「あれは……」
「知っているのですか、メイルオンさん?」
俺の問いにメイルオンさんは黙る。
その後に口を開いた。
「あの男……大河原です。幸前継刀に倒してほしいと言った、あの……」




