注文の多い錬金術工房
しつこいようですが!!
6/1にこちら「無自覚な天才少女は気付かない」の2巻が発売されますのでよろしくお願いします!!!
5/25追記
特集ページが出ましたので是非ご覧ください。特典SSの一覧もあります〜
<a href="https://www.es-luna.jp/bookdetail/3tensai2_luna.php" target="_blank">「無自覚な天才少女は気付かない」2巻特集ページ</a>
「お話とは一体なんですか?」
「言った通り、良いニュースなのですけれど。私ではなんともお返事できない事だったので、リアナさんにまず窺ってからと思いまして」
ミエルさんが取り出したのは発注書のような形になっている。どうやら人工魔石を買いたいという要望をまとめてくださったらしい。
「これは……人工魔石の注文ですか?」
「一昨日から今日までの間に来たものだけでそうなりますね。日に日に入ってくる注文が増え続けて……それと、こちらは『錬金術師リオ』へのお手紙です。開封するわけにはいきませんでしたのでこのまま失礼します」
「取次をしていただいてありがとうございます」
「正体が広く知られてしまったら騒ぎになって大変ですからね。それに、こうして正体を隠して活躍する手助けをするなんて大衆小説のようで楽しいじゃありませんか」
確かにそう言われると本で見るようなシチュエーションだ。ミエルさんがちょっと楽しそうに笑ってくれたので、そのおかげで少し気が楽になる。
「対価はいただいてますから気になさらないで良いのに……と言ってもリアナさんは気にしちゃうのよね。まぁとりあえず、子供達にもきちんと言い聞かせてますから、しばらくは安心して活動なさってくださいな」
「……ありがとうございます、甘えさせていただきます」
座ったまま正面のミエルさんにペコリと頭を下げると改めて手元の書面に目を落とす。どれもこれも大口の発注。今の体制だと難しい量ばかりだ。一昨日もこの孤児院に来て、届いていた注文については引き取っているのに。つまりこの注文はこの2日で新しく来たものになる。
「どうですか? 受けられそうですか?」
「正直、難しいですね……今日来た注文の納品だと何週間後になってしまうか、というレベルです」
「あらまぁ」
完全に、生産できるスピードを大きく上回って注文が入ってきてしまっている。本来であれば、「自分しか作れない商品にたくさん注文が入る」のは商売繁盛で良い事なのだが。製造が完全に追い付いていない。
「人工魔石の製造のために何人か錬金術師を採用したってリアナさんは言ってましたけど、それでも足りないなんて、すごい人気ね」
「そう……ですね……に、人気なのはありがたい事なんですけど」
嘘である。半月ほど経つが実は、いまだに私以外の錬金術師は誰も人工魔石の製造に成功していないのだ。確かに作業助手がいるのは助かる事も多いが、結局私しかできない作業があるため製造スピードはそんなに変わっていない。そもそも入ってくる注文の数が「工場とかで取り扱う数字ね」ってものになってきてしまっている。当然このまま受注できないので持ち帰って「とても待たせる事になるが本当に発注しますか?」という返事を書かなければ。
技術が必要なのは、魔石の結晶の向きを揃えるために均一な魔力を流すところと、そのままある程度大量の魔力を流して圧をかけるところ。それだけ。そこ以外は色や粘度を指標によく混ぜるだけなので本当に誰でもできる。
均一な魔力を流さないと魔石の結晶の向きが揃わず、圧をかけないと人工魔石として固まらない。均一な魔力を維持したまま圧をかけるための魔力を流すのが難しいらしく、私はそれに対して適切な解決策を示せずにいた。
ミエルさんから預かった注文書を手に、私は憂鬱な気持ちのまま錬金術師ギルドの借り上げている工房に向かった。正直特別な施設が必要な作業ではないので、あのまま錬金術師ギルド内の貸し作業所でも問題はなかったのだが、在庫の保管スペースと情報漏洩が問題になるので店舗と一体になった工房をギルドから物件ごと貸していただいている。
錬金術工房の開設には建物単位で届出が必要で、自分で物件探しからしていたら開業があと2ヶ月は遅れるところだったのでありがたかった。でもこうして目をかけていただいているのに、紹介された錬金術師の方達に今のところ何一つちゃんと教えられていないので、ひたすら申し訳なくなってしまう。
やはり自分は世間の常識から大きくズレているんだろうな。しかしそれが分かっていても、どうズレていて、どう補正すれば良いのかが分からないのだが。
琥珀は私が教えてグングン成長して見違えるように戦闘技術が上達したけど、たまたま私の教え方が琥珀にあっていただけで、やはり私は教師の才能が無いんだな。琥珀がいつも「リアナの教え方はまっこと分かりやすいな!」と褒めちぎるからちょっと勘違いしそうになっていた。
もしかしたら人に何かを教える職業もいいかも、なんて一瞬でも考えていたのは恥ずかしいから誰にも言わないでおこう。
私が教え方が下手だって言うのはいい。いや良くないけど、仕方のない事だ。ただそれで「教えられないならしょうがないね」で終わりにできないから、何とか人工魔石の製造ラインを増やさなければならない訳で。
「錬金術師は元々魔力操作が苦手な人が多いですよ。得意だったら魔術師になってると思います。それか、錬金術がよっぽど好きだったんでしょうね」
とは、今私の工房で働いてくれているアドルフさんの言葉だ。
確かに、魔術師なら精密な……というか私ができる程度の魔力操作が出来て当然なのだが、錬金術師の場合は工作魔道機械も発達した今では魔力がありさえすれば、その操作なんて自分でできなくても錬金術師としてやっていくのに問題はない。
しかし私がまともな製造マニュアルを示せていないのがそもそも悪いのに、「作る技術が足りない俺たちが悪いんですよ」とかばってくれているとても良い人である。
だがこのまま、私の作業の手伝いと魔力操作の練習を続けるわけにはいかない。ただ、今のペースだと販売できるレベルの人工魔石が作れるようになるまでだいぶ時間がかかってしまいそうなのも事実である。何か、飛躍的に魔力操作の技術が上達するようないい練習法がないだろうか。
私は悩みながら足を進める。
このために作ったんだから、大人気なのは良い事だけど……私の予想を遥かに越えちゃってるのよね。目新しいものだから一時的に注目を浴びているだけと思ったら注文が落ち着く気配がまだ全然見えないし、考えなければならない事が山積みだ。




