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40 頼ってしまう


風呂に入り寝巻きに着替えた私は、ガヴェインの部屋へ向かった。ドアをノックした際出てきたガヴェインは、風呂上がりだったのか髪がまだ濡れている。そして私の姿を見て、やや頬を赤くしながら引き攣った表情を向けた。


「本当に来たのかよ」

「お邪魔しまーす!!」


この狼、まだ私に対して恥ずかしさとかあったのか。濃厚な口付けから始まり、この前は首を噛んで来たのに。今更すぎないか?ガヴェインに笑顔を向けながら、私は勝手に部屋の中へ入っていく。

部屋の中は、脱ぎっぱなしの服などがやや散乱しているが、教会にあるガヴェインの宿舎の部屋もこんな感じだったし、まぁ男の子の部屋はこんなもんだろう。全く物が乱れていない、モデルルームの様な兄の部屋よりずっと居心地がいい。そのまま私はまだ使われていない方のベッドに寝転がり、寝具の状態を確認する。寝転がる私を見てガヴェインは呆れているがそれには無視だ、無視!


「このベッド使っていいの〜?」

「……お前、バカなのか?」

「主人になんて事いうのさ。……あ!髪の毛拭いてあげようか!?」


勢いよく起き上がった私は、そのまま自分が寝ていたベッドを叩き座らせようとする。ガヴェインは嫌そうに離れたが、彼の腕を掴み無理矢理座らせた。嫌そうにしている癖に、私の力であっさり座ってくれる忠犬に私は笑う。そのまま彼の首にかけられていたタオルを取り、後ろから腰まである白髪の髪を拭き始めた。耳が忙しなく動いているのが可愛い。


「ガヴェインいいな〜。凄いサラサラで癖もない。私なんてすぐ絡むしハネるのに」

「お前の髪だって、柔らかくて触り心地いいだろ」

「えーサラサラの方がいいじゃん。いつも一纏めにしてるの、動くたびに綺麗に揺れていいなって思ってた」

「……そうかよ」


愛想がない声で言葉を吐いたガヴェインに、後ろからでも彼が、褒め言葉に恥ずかしがっているのが分かって笑った。

普段一纏めにするガヴェインの髪は、思わず見惚れてしまうほど美しい。白髪だから目立つし、とにかく私の焦茶色の髪より魅力的なのだ。……そういえば、ガヴェインにさっき自分の部屋で起きた事を伝えるべきだろうか?……いや、それで精霊達に知られたら、イザークの玉を潰す前にハリエドに戻されそうだ。


ゲドナの王族を調べる。真実を見つける為には城を、しかも重要なものがありそうな場所を調べる必要がある。……簡単に言ってくれるが、王族でもないし、他国の聖女で、一公爵令嬢の私がゲドナ城を調べるのは難しい。しかもあの城、最初入った時に思ったが結界魔法が施されており、招かれた者しか入ることが出来ない仕様になっている。本当に要塞のような城だ。確かに王太子と王女とは仲がいいが、あの二人に父親の事でこれ以上負担をかけたくない、確信が持てた所で伝えたい。魔法が使えないが、自分以外に迷惑をかけるのも嫌だ。わがままなのは分かっているが……何かないだろうか?合法で城の中に入る事ができれば、あとはこっそり城を散策すればいいのだが。



「………………あ、そうだ。家庭教師だ」

「はぁ?」


突然意味不明な言葉を喋る私に、ガヴェインはこちらを振り向き怪訝そうな表情を向ける。だがそれに反して私は、自分の考えた素晴らしい妙案に表情を輝かせた。


そうだ!私は全ての魔法を知っているし、理解している!その知識はウィリアムやディランにも勝るし、当然他の加護持ちよりも優れている。ゲドナ国は軍事国家なので魔法には疎い。かつてのゲドナの聖女も、魔法は基本的な部分しか知らなかったし、この国には魔法に関する書物が少ないと言っていた。だからルーベンも父親の状態が分からず、他国の私や精霊達を招くまで窮地に陥ったのだ。……ならば!この有り余る魔法の知識をルーベンに教えればいい!その中でゲドナ王を救う手がかりを、頭の良いルーベンなら見つけれるかもしれない!なにせ私の花びらの応用魔法を一回見ただけで覚えてしまったのだ。そして私は城に入れ、別の方法でゲドナ王を助ける手がかりを見つける……win-winすぎる!別々の方法で王を助けれる可能性を探れる!


「私は頭弱くなかった!!!」

「何言ってんだお前」


少しきつめの声を出す彼は、1年間ずっと私の側にいたおかげか、私がまたよからぬ事を考えていると思ったらしい。だがゲドナ王の件について、私以外はあまり関心がない事は知っている。精霊達は皆、精霊の王だった私が関係する事には突っ込んでくるが、それ以外は特に興味もないし、リリアーナやガヴェインは、私が危険な事をするのを好んでいない。今回も私が誘って無理矢理休みをもぎ取り来てくれたのだ。これ以上迷惑をかけるのは申し訳ない。


「何でもない!ねぇねぇガヴェイン、明日は護衛大丈夫だよ。ガヴェインもゲドナ国楽しんでよ」

「…………」


ちょっと無理矢理すぎたか?しかしそうでも言わないと、この獣人は何処までも付いてくるのだ。本当に仕事熱心である。

髪の毛を拭き終わると、私はタオルを風呂場へ戻そうと立ち上がった。そのまま足を進めようとしたが、それはガヴェインが後ろから腕を掴んだ事によって叶わなかった。一体どうしたと彼を見ると、険しい表情を浮かべていた。


「……そうやって、一人で何でもやろうとするのやめろ」

「ガヴェイン?」

「俺がどれだけ、お前を見てると思ってるんだ。ゲドナ国王を助けようとしてるんだろ?」

「…………」


紫色の瞳が、鋭くまっすぐこちらを見た。あまりにも綺麗な瞳に見つめられて、私は勝手に頬が赤くなって目線を泳がせてしまう。それを見たガヴェインは、小さくため息を吐いた。


「俺を頼れよ。お前の騎士なんだから」

「………う」


私の騎士。……いつも言っている言葉が、ガヴェインが言うとまた違って聞こえる。……なんという事だ。そんな事を言われてしまったら、頼りたくなってしまう。また迷惑をかけてしまう。私は頬が赤いまま俯いて、小さく声を出した。


「………でも、また迷惑かけちゃうし」

「お前が一人で突っ走るよりいい」

「で、でも!ガヴェインも危険な目にあうかもだし!」

「尚更お前の側にいさせろよ」

「〜〜〜〜っぐぐぐ!!!」


いつもより言葉がストレートすぎないか!?耳まで赤くなっていっちゃう!くぅー!年上の余裕さが憎たらしい!!恥ずかしすぎて震え始めていると、腕を掴んでいた手が、私の頭の上に置かれる。アイザックと違う乱暴な撫で方をしながら、ガヴェインは小さく笑った。


「……シトラ。もう観念しろ」

「…………ううううう〜〜〜!!!」


滅多に呼ばない私の名前を、あまりにも優しい声で言ってくるものだから。……もう負けた。私は顔が赤いまま、目の前のガヴェインに抱きつく。まさか抱きついてくると思わなかったのか、突然の衝撃に驚いた彼はベッドに倒れてしまうが、私はそれでも抱きつき彼に顔を擦り付ける。擦り寄る私を離そうと肩に手を振れ、ガヴェインはやや怒り気味に叫ぶ。


「お、おい!?バカか!!離せ!!!」

「ガヴェイン好き!大好き!!!」

「バッ!!!……ってお前!どこ触ってんだよ!?」

「好きぃ〜〜好きぃ〜〜〜」

「話を聞けバカ聖女!!!」



多分、帰り道に何度も好き好き言っていたので、この手の言葉に恥ずかしさがなくなったのだろう。抱きつき愛を叫ぶ私に、ガヴェインは心底嫌そうだが、そんなもの知ったことか!ガヴェインが悪いんだ!!

無理矢理離そうとすれば出来るのに、彼は私を傷つけまいと強めに出れない。それが分かり更に愛おしさが込み上げて強く抱きつく。微かに匂う石鹸の匂いと、獣の匂いが心地よい。


私は顔だけ起こし、恥ずかしくて首まで真っ赤になっていたガヴェインに、笑顔を向けた。



「ずーっと私の騎士で、側にいてね!ガヴェイン!」



私の騎士は、真っ赤な顔のまま目を大きく開く。……その後すぐに、堪える様な表情を向けながら、聞いた事もない高めの鳴き声を出した。



鳴き声の後にもっと目を大きく開くものだから、それが狼の愛情表現と気づくのには、時間は掛からなかった。


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