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27 爆速失恋



「……で?二人とも、何か弁解はあるのかい?」


目の前に、口だけ笑っている国王がいる。私とダニ……イザークは、城の応接室の床で正座をして、目の前に座る国王に恐怖で真っ青になっている。国王の背後にはギルベルトとアイザックがおり、二人とも魔王の幹部か?という位に冷ややかな目線を向けている。魔王、じゃなくて国王はゆっくりと口を動かす。


「城下町での騒ぎ、そして教会の一部破壊行動と舞踏会での失態……牢屋行きたいのかな?ねぇ牢屋行きたいのかな君たち?」

「兄上は牢屋でいいとして、シトラは私の部屋でもいいですか父上?」

「ギルベルト様は何するか分かったもんじゃないので、俺の部屋にしてください陛下」

「後ろの君たち、下心隠すとか出来ないのかね?」


何やら国王達も騒いでいるが、私は横にいるイザークが気になってしょうがない。先ほどの国王達との会話を聞けば、元々いたイザーク王子にダニエルが憑依し、魂が混じったとの事ではないか。つまりはイザークもいてダニエルもいるって事?イザダニ?なんかカップリングみたいな言い方になってしまった。



国王はゆっくりと深呼吸をして、目を細めてイザークを見た。


「私はお前がある日突然、父上から陛下と呼び方を変えて来た時。王子としての心構えが出来たのかと思っていたが……そうではなかったんだね」

「………申し訳、ございません」


その言葉の意味に、私はイザークと同じく下を向いた。……そうだ、13年前にダニエルが憑依した事で「本来のイザーク」が消えてしまったんだ。父親である国王や、王妃もギルベルトも、家族がそんな目に遭っていたのを知って、辛いに決まっている。掠れた声で謝罪をするイザークに、国王と後ろのギルベルトはため息を吐いた。


「全然平気、とは言えないが……本当のイザークが消えた訳じゃないし、建国当時の宰相だった男が混じっているなら有望だし………まぁいいんじゃないか?二重人格みたいなものだろう?」

「大司教だった時の性格が本当の兄上なら、私は虫けら以下と思っていたので、むしろ良かったです」


あっこの二人めっちゃ冷めてた。なんならギルベルトは辛辣だった。イザークは思いもよらなかった返事に、目を大きくさせて無言になっている。国王は頬杖を付きながら、面倒臭そうな表情で私たちに目線を向ける。うーわその顔、ギルベルトに本当に似てるなぁ。


「舞踏会は、アイザックの顔面と話術のお陰で無事に終了出来たし……シトラ嬢とイザーク。君たちは三日間の謹慎を言い渡す」


私は足が痺れるのを震えて耐えながら、あまりにも軽い刑罰に驚く。


「そんなに軽くていいんですか?」

「じゃあ、アイザックとギルベルトのどっちかの部屋で謹慎するかね?」

「自宅で猛烈に反省させて頂きます」


二人の部屋で謹慎なんて、顔面の暴力に鼻血と心臓麻痺を起こしてしまう。王弟と王子の部屋を血まみれにする訳にはいかない。私の即座の返事に後ろ二人は不機嫌そうにしているが、お前ら自分の顔面良く見ろ。




私とイザークは、国王により自宅と城での三日間の謹慎を言い渡され、そのまま応接室から出た。……廊下に出ると私もイザークも疲れたため息を吐いて、お互いを見る。最初に声を出したのはイザークだった。


「シル……シトラ様。謹慎が終わりましたら、お時間頂いてよろしいですか?」

「えっと、何か話があるんですか?」

「ええ、シトラ様に伝えなくてはならない事があるんです」


そう言うイザークの表情が、かつてのプロポーズをした時と同じ、赤く染まった頬と決意を固めたような表情で。……私は自分の顔も、どんどん赤くなっていくのが分かった。それを見たイザークはとても嬉しそうに笑い、頭を撫でる。


「……昔から、すぐ顔に出る可愛い人だ」

「っう」

「三日後、またお会いしましょうね」



イザークはそう言い残し、謹慎場所である自分の部屋へ向かった。


……残された私は、愛おしくて愛おしくて堪らないダニエルが蘇っていた事、そして自分へ向けた殴りたい男の表情に雷が打たれた様な衝撃を受けた。


( ああ〜〜〜〜これは三日後プロポーズされるぞ!絶対にされるぞ〜〜!!!うわ〜〜〜どうしようどうしよう!!500年……いやもう513年?ぶりの恋愛イベントが来るぞ〜〜〜!!!えーーーどうしよう!ダニエルって分かったら!殴りたいとしか思わなかった顔面が格好良く見える〜〜〜!!! )


先程までイザーク(ダニエル)への怒りしかなかった癖に、愛を囁かれると分かると目がハートになる程に彼への愛で溢れている。魂にダニエルが入っていると分かった途端に、イザークがちゃんと王子様に見える。


イザークは、13年前にダニエルの魂と交じってから私を守ってくれていた。物覚えつく頃からあった教会の検査で、いつも終わった後にあの庭園で愚痴を聞いてくれていた。私にシトラと名前をつけてくれた。……正直あまりにも幼い頃の記憶なので、記憶が蘇ったとしてもうる覚えだが、其れでも幼い頃の私は、教会で彼と話すがとても大好きだった。


「ど、どうしよう……」


心臓の音が煩い。自分をずっと守ってくれていたイザークへ気持ちが溢れてしまう。……そうか、これが恋なのか。殴りたい男がこの世で一番格好いい男に見える。13年前のイザークの性格がどんな風だったのか分からないが、其れでも今のイザークが好きだ。ダニエルの魂も、イザークの魂も好きだ。……いや若干、大分ダニエルの方が好きだが。



そのまま私は公爵家、イザークは城で三日間謹慎をした。家に帰ると兄から猛烈な雷を落とされたが、其れすらも小鳥の囀りに聞こえてしまうほどに浮かれていた。あまりにも普段と違う私に、雷を落としていた兄も途中で心配してしまうほどだったが気にしない。だって三日後、好きな人に愛を囁かれるのだ!えっ?ダニエルの魂が入ってると分かった途端チョロい?いやいや知らない時も結構好きだったし!殴りたいとか全然、50回位しか思わなかったし!今では魔法でぶっ飛ばすとか考えてないし!あの時の私は可笑しかったんだよはっはっは。







そして待ちに待った三日後、謹慎明け。特に時間を決められていなかったので、私はまだ日が昇る前に起き上がり、そのまま自分で支度をする。数時間後に来るであろうメイドへ向けて、一筆も忘れずにベッドの上に添えておく。普段はほぼ素の様な化粧しかしないが、今回ばかりは気合を入れて化粧をした。だって恋愛イベントだからね!少しでも可愛くしたい!


「よし!行くぞ!」


私は気合を入れて移動魔法を唱える。イザークがまだ部屋で寝ている可能性もあるので、私はその周辺に到着できる様に唱えた。自分の立つ場所に魔法陣が浮かび上がり、私はそのまま金色の光に包まれる。……そして、ついた場所は予想外の教会だった。


「あれ、間違えたかな」


こんな朝早くに教会にいると思えないのだが。最近は魔法もほぼ成功していると思っていたが間違えたのだろう。誰もいない教会の廊下で私は周りを見て、やはりイザークは居ないのでもう一度呪文を唱えようとした、その時だった。



「どうしてですか!!私はイザーク様が居ないと駄目なのに!!!」


廊下に響き渡るほど大声に私は驚いて震える。どこかで聞いた事のある女性の声だ。しかも、今イザークって言った気がする。


「アメリア、それは私も同じだが駄目だ」

「嫌です嫌です!嫌ですー!!!」



……うん?アメリアとイザーク?


私はその声の聞こえる部屋の前に着くと、中の人物達に聞こえない様にそっと扉を開いた。予想通りそこにはアメリアとイザークがいる。だが、アメリアは泣いているし、イザークも困ったような表情を向けていたが、その目は慈愛に満ちている。



そのままアメリアは、イザークの胸の中に体を預けて、彼の体に豊満な胸を当てながら上目遣いをした。


「私と一緒に居てください!イザーク様!!」

「……アメリア」










………私は、これ以上見ていられなくて、そっとその扉から離れた。









そのまま中には声を掛けずに、代わりに再び移動魔法を唱える。自分の体は金色の光に包まれて、ある人物の元へ移動した。その人物はまだ寝ていたのだろう、寝ている彼のベッドの上に降り立った私の体重で「あ!?」と驚いた声を出している。


「お前っ!!懲りずにまた来たのかよ!?」


その人物、ガヴェインは自分の腹の上に降りた私の肩を掴み怒鳴ろうとした。……だが、私の表情を見て目を大きく広げ、眉間に皺を寄せながらこちらを伺う。


「………おい、どうした?」


先程と変わって優しい声を出すガヴェインに、私は涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、彼の胸に飛び込む。振り払われない事をいいことに、そのまま何度か嗚咽を交えた呼吸をした。





最後に大きく息を吸った。





「しっ、失恋したーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」




あまりにも大きなその声は、他の聖騎士も起こして、危うくガヴェインが貴族令嬢と一夜を共にしたと思われ大騒動となった。


シトラは鈍感すぎるだけで、結構チョロイです。

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