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11 人生最大のモテ期

私は現在、人生で一番モテ期かもしれない。その証拠に私の両腕を美女と美少女がそれぞれ掴んでおり、ミシミシと音が鳴るほどに引っ張りあっている。


「お姉様は今から私と一緒に、城下町の建国祭限定スイーツを食べにいく予定ですの。ですのでその幼稚な手を離していただけますか?」

「私はゲドナ国王女として、建国の聖女様のお話が聞きたいと思っておりますの。貴女様こそ、その無礼な手を離して、そのスイーツはお一人で行かれては如何です?」


開会式が終わり、来賓も自国の貴族達もそれぞれ、解放された城や教会の見学へ向かう為に会場を出ていく中、私はかねてよりリリアーナと約束して下町の限定スイーツを食べにいく予定だった。私は明日から分刻みのスケジュールの為、限定スイーツを食べるのは今日しかない。しかしいざリリアーナの所へ行こうとした時、先ほど花を贈った桃色髪の美少女がやって来て、私と話がしたいと申し出てきた。


その隣にはダニエじゃなくてルーベンがおり、どうやらこの美少女はルーベンの妹で、ゲドナ国王女なのだと知った。……流石に長年友好国として親しくしている、ゲドナ国の王族の誘いを断る事は出来ない。その為申し出を受けようと声を出そうとした所で、突然後ろから腕を引っ張られ、後ろを振り向くと険しい表情をしたリリアーナがいた。彼女は先に約束していたのはこちらだとゲドナ王女に告げるものだから、いつもの洗練された彼女からは考えられない失礼な物言いに驚いた。だがそれで黙っていないのがゲドナ王女で、王女は私の反対側の腕を掴んで対抗する。リリアーナも更に険しい表情になり掴む腕を引っ張り、そして王女も………と今ここ。


美女と美少女にモテている今を噛みしめつつ、腕の関節が泣き叫んでいる事に恐怖が込み上げる。私の腕を引っ張りながら二人は、美しい笑顔を相手に向けているが目に光がない。なんなら可愛らしい口から出る丁寧な言葉も、相手を蹴落とそうとしているのが分かる。ゲドナ王女はリリアーナに小さく舌打ちをしてから、こちらに可愛らしい上目遣いを向ける。


「聖女様、私に聖女様の事を沢山教えてください!だからこれから一緒にお食事でも如何ですか?」


思わず喉が鳴るほどの可愛らしさに、つい「はい喜んで!」と言いそうになるのを抑える。それを察した反対側のリリアーナは、私の腕に更に密着し、こちらも上目遣いを向けてくる。


「お姉様!先に私と約束していたじゃないですか!私と限定スイーツの食べさせ合いっこしましょう?」


こちらは可愛らしさではなく美しさでアピールしてくる。つい「あーんしてください!」と言いそうになるのをこちらも抑える。……なんてことだ。美女と美少女に求められるなんて、どっちを選べばいいのか分からなくなってきた。政治的な事を考えればゲドナ王女だが、長年の親友リリーアナがここまで願ってくる事なんて珍しい。ぶっちゃけ私が二人いればいいのに……魔法でそんな事出来たりしないか?そんな事を思っていると、側で見ていたルーベンがため息を吐きながら王女の頭を軽く叩く。


「マチルダ。気持ちは分かるが、今回は聖女様のご友人の方が約束が先なのだからやめなさい」

「ルーベン兄様!でも」

「でもじゃない。また時間を取って貰えばいいだろう?」


兄に諫められどんどん暗い表情になるマチルダが、お菓子を食べすぎて兄により禁止されていた時の私の姿と重なって見えてしまう。そんな暗い表情をさせたい訳じゃない、何か解決策はないかと悩んでいると、気づかないうちに近くにいたギルベルトが声を出した。


「シトラ達が行こうとしていた限定スイーツ、確か持ち帰りが出来るお店でしたよね?人数分買って、皆で違う場所で食べればいいのではないですか?」


ギルベルトの天才的な解決策に、私は目を輝かせて何度も頷いた。マチルダの方を向き微笑む。


「でしたら私の家で食べましょう!家の温室の花が丁度見頃でして!」

「まぁ!宜しいのですか?」


嬉しそうに目を輝かせるマチルダを見て、次に隣のリリアーナへ了承を得るために見ると、彼女は下を向きながら「二人っきりだったのに皆になってるし、行く店を知っている所からして先回りして会おうとしてたなこの腹黒王子」と早口で何かを喋っているが、やや聞き取れない部分が多く私は首を傾げる。もしもリリアーナが嫌なら無理強いは出来ないが、私は彼女の顔を覗き込む様に見る。


「リリアーナと一緒に植えた花が見頃なんだ。皆で食べながら見ようよ?」

「ぐっっ…………わかり、ましたわ」


最初のぐっっ、は何だリリアーナ。しかし彼女の了承を得る事が出来たので、予定とは変わるがこうなったら友人達皆を呼んでお茶会としよう!リリアーナ、ケイレブ、マチルダ、ルーベン。解決策を与えてくれたギルベルトに、後は兄とリアム、ガヴェインも呼ぼう。私は両腕に捕まる力が緩まったのでそのまま腕を離してもらい、今ここに居ない友人と兄を呼ぶ為に探す事にした。






◆◆◆






開会式が無事終わり、俺はシトラの護衛のガヴェインに、明日のスケジュールを伝える為に声をかけた。声をかけられてあからさまに嫌そうな表情を向けて来た癖に、内容が彼女関係だと分かった途端に大人しくなるのだから、あの誇り高い狼族が随分飼い慣らされたものだと内心笑ってしまった。そのまま内容を話していた所で、後ろから来賓の中年男性に声を掛けられる。


「お初にお目にかかります第一王子殿下。まさか貴方様があの教会の大司教もされているとは思いませんでした。王子の公表された聖女関連の論文は我が国でも評価が高いですよ」

「有難うございます。ハリエド国では建国の聖女のお陰で精霊が多くいますので、彼らから当時の聖女の話を事を聞くことが出来るのです」


自分の名を告げずに、一王子の俺に随分な物言いをする。ガヴェインと話していた最中に話しかけてきた男性は、あからさまに分かる作り笑いを浮かべて、俺とガヴェインを見た。


「建国の聖女様は随分と変わった容姿をされた方ですね。護衛に連れている者も、まさか時代に乗り遅れ絶滅したと思われた獣人族とは、随分と物好きな聖女様だ」


男性はガヴェインを物珍しそうに見て笑う。その目線と言葉に馬鹿にされているのを分かったのか、ガヴェインは険しい表情をして男性を見る。その表情に恐怖を感じたのか、慌てて今度は俺を見た。


「王子は病弱で滅多に公に出ないとの事でしたが、とてもそうには思えませんな?……まぁ、私も王子の様な「目」なら、確かに公には出たくないと思ってしまうかもしれませんね」

「………」


思わず張り付いた笑みを浮かべてしまう俺に、男はにやけた表情を向けた。

俺の目の色は、かつてこの世界に存在していた「魔物」と呼ばれる化け物と同じ赤い目だ。魔物は神の怒りをかい絶滅したが、今でも赤目は化け物の象徴として他者から毛嫌いされている。俺とギルベルトを産んだ母も赤目だった為に、ハリエド国に嫁ぐまでは相当苦労をしたらしい。この国では精霊が多く存在し、他国より豊かで人も良い民が多いからか何も言われなかったが。


しかしこんな公の場で、まさか本人に言ってくる無礼者がいるとは。こんな男に腹を立てて我が国の評価を下げるわけには行かない。賢いガヴェインも自分が貶されても手を出さずにいるのだ。俺は目の前の男に適当に相槌を打とうと、表情筋をどうにかして笑わせようとしたその時。



「おい。おっさん歯食いしばれ」

「え?」



よく知っている声が聞こえたと思えば、突然の突風と床が揺れるほどの衝撃が襲う。思わず目を瞑ってしまったが、暫くして目を開ければ男はおらず慌ててあたりを見回せば、横の壁に大きな穴がありその下に倒れていた。……そして、先ほどまで男がいた場所には祭服を着た女性が、両手をボキボキと音を鳴らしながら倒れた男を見ている。隣にいたガヴェインも耳を立たせて驚愕の表情を向けており、周りも同じ様な表情だ。


周りの注目を一身に受ける、男を殴り飛ばしたシトラは強い鼻息を出す。


「さっきから聞いてれば、うちの騎士とうちの国の王子に随分な事言うじゃんか。おっさん」


おっさん、と呼ばれた男は意識を取り戻したのか、両足を子鹿の様に震わせながら懸命に立ち上がり、シトラに怒りの表情を向ける。


「こ、この小娘が!!私はゲドナ国将軍だぞ!?今回の不祥事は我が国とハリエド国の友好関係にヒビが入る事になるが良いのか!?」

「ゲドナの将軍様が、こぉんな小娘に殴られて意識飛んでだんですかぁ〜?戦いの神を祀るゲドナ国の将軍様がぁ〜?よっわ〜」

「き、貴様ぁあああ!!!!」


明らかな殺意を持って、男は腰に付けていた剣を抜きシトラに向かっていく。ようやく意識を戻したガヴェインが慌ててシトラの前に立ち守ろうとするが、その前に彼女は小さく呪文を唱えると、床に咲いていた花のツタが急速に伸び男の足を掴む。そのまま男はバランスを崩し再び地面へ倒れる。……その上に、仁王立ちをしたシトラが男へ嘲笑うような表情を向ける。


「500年前にゲドナ国に大量発生した魔物退治に協力した時、当時の国王に「願いをできる限り叶えよう」って言われてるんだけど。それ私が生きてるからまだ有効だよね?」

「……は?」

「おっさんの事好きにして良い権利をお願いしようかなぁ?前夜祭の時の花火、あれ物質を空中で爆発させて、その欠片に色魔法を付ける様な方法でやってたんだって?……それ、人間でやっても出来るよね?おっさん太ってるから、デッカイ花火打ち上げれそうだな〜〜〜」

「ひっ!!!」


男は恐怖で震えながらシトラを涙目で見つめる。仮にも神に愛された聖女が、なんて物騒な事を言っているんだ。守ろうとしていたガヴェインも真っ青になりながら耳が垂れているし、周りで見ていた野次馬も恐怖の表情を彼女に向けている。

その野次馬を蹴散らすように現れたウィリアムは、シトラの肩を叩き「いい案だ。よく燃えそうな脂肪だな」と言っているがそうじゃない。


既に限界に達したのか、泡を吐きながら男は倒れる。ウィリアムが蹴散らし開いた道から、ゲドナ国王太子が自国の将軍を助けようと真っ青な表情をしながら走ってくる。その王太子の顔がかつての自分と同じ顔なので、まるで500年前によく問題を起こすシルトラリアの元へ駆けつけていた俺と被って、思わずため息を吐いた。


……まぁ、俺の事で怒ってくれた彼女に、嬉しくないと言えば嘘になるが。


俺は嬉しさでニヤけそうになる顔を抑えて。来賓を花火にしようとする彼女を止める為に歩み出す。



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