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47 かつての騎士と今の騎士

今日はあの女の誕生日で、俺は貴族でもないから、公爵令嬢の舞踏会の参加資格はない。

だからせめて、明日花でも送ってやろうと、生まれて初めて下町の花屋になんて入った。通貨もよくわからない俺だったが、花屋の店主は丁寧に教えてくれた。そこで俺は勧められるままに赤い花の花束を買った。


「赤いアネモネ。貴方はそれをプレゼントした方がいいわ」


店主が何を言っているのか分からないが、買った花束はあのアホ面に似合うと思った。……明日、俺がこの花束を渡したら、喜んでくれるだろうか?




けれどその花束を買った夜に、俺は公爵家からの連絡で目を大きく開いた。






俺は公爵家の部屋に、ノックもなしに扉を開けた。そこにはいつものスカした奴らが皆、この世の終わりのような表情をしていた。俺はそんな奴らを押し退け、ベッドに横たわる女を見る。


「………」



真っ白な顔をしている女が、今にも途絶えそうな息を小さく出しながらいる。かつて自分が殺したくて殺したくて堪らなかった女が、目の前で息を引き取ろうとしている。ドレスは赤黒い血がこびりついている。思わず息をするのを忘れそうになるが、そんな俺に、女の周りに自分の血で魔法陣を描いていたウィリアムがこちらを見た。


「ようやく来たか。お前、治癒魔法は唱えれるか?」

「………は?」

「出来なくても教えるからいい。それを神の言葉で唱えろ。……それが彼女を救う唯一の方法だ」


平然と伝えている様だが、額には汗が伝い顔色も悪い。このベッドを囲むように描かれた魔法陣で、自分の血を大量に使っているのだろう。ウィリアムは、治癒の魔法陣を描く手を一瞬止める。


「獣人、俺はお前がこの世で一番嫌いだ。彼女を殺そうとした癖に、神に加護を受けて、かつての俺の場所にいるお前がな」

「……」


そしてまた下を向いて魔法陣を描き始める。


「でもな、俺は500年前に彼女を助けれなかった。間に合わなかったんだ」


そして大きくため息を吐いて、魔法陣を描き終わったウィリアムは、汗を服の裾で拭いながら俺を鋭い目で見る。



「俺みたいな思いをする聖女の騎士は、一生俺だけでいい。…………お前は、シトラを助けろ」



その言葉に、俺は手で拳を作る。そしてそのままシトラの側に立ち、目を瞑り治癒魔法を唱える。それと同時にウィリアムが描いた魔法陣が金色に光る。……それを見てウィリアムは一瞬驚き、そして俺に微笑んだ。



「なんだ獣人、やればできるじゃないか」







最初は、獣人族を滅ぼした復讐の相手だと思っていた。

けれど、お前はそんな気持ちを塗り替えす様に、俺に幸せをくれた。

お前の騎士になるのは悪くないと思えるくらいに、お前は俺の中で大きな存在になった。



俺は唱えながら、目を瞑るシトラを見る。……この感情の答えは、知っている。





「…………シトラ」






___________________





「ダニエル!!!………あれ?」



目を開けると、そこは公爵家の温室だった。……もしや、今のは夢?

温室は家の中で一番好きな空間。ここで食べるお菓子は最高なのだ。ふと目の前のテーブルに、下町で三ヶ月待ち必須のクッキーが置かれている。私は夢の事を忘れて、目を輝かせてそれを手に取り頬張る。そしてあまりの美味しさに体を前後ろに揺らす。

……そんな私に、私の大好きなローズティーを入れたカップを、テーブルに置いてくれる人物がいた。その人物は、公爵家のメイドで、いつも側に居てくれた存在だった。


「クロエ?」


彼女がクロエだという事がわかる。……けれど、彼女はメイドの服を着ていない。それに、こんな、金色の髪と瞳を持つ人物ではなかったはずだ。けれど、()()()()()()()()()()()()()()

私の表情に静かに笑って、クロエは私の向かいの椅子に座る。


「お嬢様。……もしも、もう苦しむ事がない世界があれば、そこへ行きたいですか?」


クロエは真っ直ぐ私を見つめて私に質問する。どうしてそんな事を聞くのか分からないが、私はクッキーを頬張りながら少し考えて、そしてクロエに笑いかける。


「そんな世界、すごくつまらないよ」


それを聞いたクロエは、嬉しそうな表情をする。私は最後の一枚のクッキーをクロエに差し出す。


「クロエ、美味しいから食べて。それ食べたら………あれ?」


遊びに行こう。そう伝えようとしたかったが、何かが引っかかる。クロエはクッキーを手に取りそれを愛おしそうに見つめて、そして私を見る。その表情は眉を下げて少し名残惜しそうだ。


「お嬢様、今まで有難うございました。……少しの間でしたが、とても楽しかった」

「……クロエ?」


温室の風景が、結晶の様に消えていく。私は慌てて周りを見て、椅子から立ち上がりクロエへ手を差し出す。けれどクロエは手を掴んでくれたが、首を横に振る。


「さようなら、私の愛おしい女の子。私の聖女」

「クロエ!!!」

「貴女はもう、シルトラリアじゃなくていいの」





クロエは私の手を離して、そして笑いながら結晶となって消えた。







「…………………っ」

「起きたかよ、バカシトラ」



ぼやける視界の中、ガヴェインが目の前にいた。耳がピクピク動いている。………ん?今名前呼ばなかった?


「ガヴェインが名前呼んだ!?」


私が驚愕で起き上がると、そこにはガヴェインだけでなく、ギルベルト、リアム、ケイレブ、リリアーナ、家族にウィリアムまでいた。どうやら私は自分の部屋で寝ているらしい。……そういえば、私ギルベルトにこっ、ここ告白された時に、アイザックに刺されなかったっけ?あれ〜?


そんな私を見て、ガヴェインは倒れるように床に座り込んだ。何事かと思えば、滝のように汗を流している。なんならウィリアムは右腕を血まみれにしている。え!とうとう、自分で自分を傷めつけるようになる所まで行ったのか!?ウィリアムに声をかけようとしたが、その前にギルベルトにきつく抱きつかれる。


「うわっ!?」


離してもらおうとしたが、震えている事に気づいてそれを止めた。よく見れば、友人と家族は目に涙を溜めている。……ギルベルトは、抱き締めるのを緩めて、青色の瞳から涙を流しながら、微笑んだ。


「お帰りなさい、シトラ」

「………ただいま」


どうやら心配をかけさせてしまったらしい。私は居た堪れないように言葉を注げる。……そして、今一番やる必要のある事を思い出して、私は奇声のような声を出した。兄は驚いてギルベルトを引っぺがして私の肩を掴む。


「なんだ!?どうした!?」


その言葉に、私は元の世界での最上級の侮辱のサインである、中指を立てて兄を見る。


「お兄様!!アイザックをぶっ飛ばしに行きましょう!!」


私の言葉に、周りは皆呆然とした。……唯一、ウィリアムだけ声を出して大笑いをした。


あと何話くらいかなぁ〜としみじみ思いながら書いています。

見てくださった方、有難うざいます。

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