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44 15歳の誕生日

「お母様………これは………」

「とてもよく似合っているわ、シトラ」


今日は私の誕生日でもあり、15歳の誕生日。……500年前の時にも15歳で死んでるから、それを合計すれば30歳になるが、それは数に入れない。

もうすぐ私の社交界デビューの舞踏会が始まるので、母と一緒に仕立てたドレスを初めて着る。だがそのドレスは、私が選んだものと色は同じで、薄い水色だが、それ以外が全く違ったのだ。胸元あたりがレースでちょっと肌が透けて見えるとか、背中がこんなにも開いてなかったりだとか。もう全部違う。……おそらく、側で優雅に椅子に座る母が勝手にオーダーを変えたのだろう。ドレスを着た姿を見て母は嬉しそうに微笑む。


「だって、せっかくの15歳の誕生日よ?少しは色っぽくしなきゃ」

「それにしても破廉恥すぎるでしょう、このドレスは!露出しすぎてスースーしてますよ!スースー!」

「何言ってるの、今の最先端なのよ〜?」


くそう、母にしてやられた……!ドレスを着せてくれたクロエも「とてもお似合いですよ」と言ってくれるが、似合う似合わないの以前に、この露出は恥ずかしい……!時間もないのでドレスを着替える事もできないし、今日のエスコート役のギルベルトがもう会場で待っている。行くしかない………ギルベルトごめん……痴女みたいな女をエスコートする事になって……。


私は観念したように固い表情をしながら、公爵邸の舞踏会会場へ向かう。この格好は果たして、父と兄の了承を得ているのだろうか。否、絶対にしてない。母が独断でやったに違いない。会場にいる父と兄にこの格好を見られて、怒られないか心配すぎる。




そのまま会場の扉へたどり着くと、使用人達が会場の客人へ大きな声で私の名前を伝える。……私は大きく息を吸って、マナー講師に教えられた通りに歩いて会場へ入る。


会場にいる客人、そして父と兄も驚いたような表情を見せる。お父様、お兄様。私は悪くありません、悪いのはお母様です。お母様が全て悪いのです……!あまりの沈黙に、私は特訓した作り笑いを引き攣らせてしまう。

……すると、人混みをすり抜けて、静まり返った会場を誰かがこちらに向かって歩いてくる。その人物は、物語の王子様のように着飾った、ギルベルトだった。王族の証である真紅の正装を着ており、その鮮やかな色がギルベルトの美しい金髪碧眼を引き立てている。そしてギルベルトは私の目の前で立ち止まり、手に口付けをする。


「シトラ嬢、誕生日おめでとうございます。……とても美しいですよ」


その言葉を皮切りに、周りの静けさも段々となくなっていく。空気を変えてくれたギルベルトが神様に見える。そしてそのまま私は、ギルベルトにエスコートされながら、私は成人になって初めてのダンスを踊るために中央へ向かった。


私達が中央についたすぐに、ダンスの音楽が流れる。……よし、色々あったがとりあえず、最初の試練であるダンスだ。特訓の成果を見せる時がやってきた!


「ギルベルト様、お願いします」

「喜んで」



何度も練習したダンスを、今度こそギルベルトに負けないようにと意気込んでみたものの、始まってしまえば、やはり足捌きを間違えそうになってしまう、それも全てカバーしてしまう、美しく微笑む第二王子に、周りの令嬢が顔を赤めらせてため息を吐いた。


「……今日の貴女は、いつもと違った雰囲気ですね」

「痴女っぽいですか!?」

「痴女ではありませんが、中々そそるものがあるのは事実ですね」


そう言いながら背中をゆっくりと撫でられ、悲鳴をあげそうになるが抑える。対するギルベルトは、どこかねっとりとした瞳を向けてくる。……似てないと思ったが、やはりイザーク第一王子に似ている。そのまま音楽が終わり、ギルベルトと繋がれた手を離そうとしたが、それよりも先に手を引っ張られて抱きつく形になる。……まさか、あまりにも私が足を踏みそうになるのを避けていたから、疲れてしまったのか!?

そのまま背中を撫でられていると思えば、ギルベルトの手はそのままドレスの中へ入り込む。。と言っても人差し指を少しくらいなので、多分間違えて入ってしまったのだろうか。くすぐったい。


「ギルベルト様、くすぐったいです」


そう伝えてみるが、指はそのまま中指、薬指と入っていく。どうしたのかと、少し離れてギルベルトの顔をみると、先ほどの表情と変わり、熱を帯びた目でこちらに熱い息を当てる。


「………堪らないな」


いつも飄々としているギルベルトが、見た事がない表情でこちらを見ている。……まるで、この表情は、興奮をしているようだった。どこに興奮する所があった?と思いつつ、リアムで慣れていたであろう色気適応力がどんどん削られていく。このまま当てられたら、舞踏会デビュー初日に倒れてしまう所まで行った所で、ギルベルトの肩を誰かが叩いた。いや叩いたというより鷲掴みにした。


「王子殿下とのあろう方が、公共の場で何してるんですかぁ?」


ドスの効いた声を出したのはリアムだ。だが鷲掴みにしているのは兄で、またその後ろにいたケイレブが無言で私とギルベルトを引っぺがした。ギルベルトは目が笑っていない笑顔を三人に向ける。

「今日は私がシトラ嬢のパートナーなんですから、引っ込んでくれませんか?」

「パートナーだからって何しても言い訳ではありません」


ケイレブが険しい顔でギルベルトへ答える。それに対してリアムも兄も深く頷き、そして三人とも私の方を見る。最初に声を出したのはリアムだ。


「誕生日おめでとう、シトラ。とても似合ってるし、綺麗だね」

「ありがとうございます、リアム様」


「本当に綺麗だ……リリアーナも今日は来たがって、珍しくわがままを言っていたよ」

「リリアーナにもよろしく伝えてください、ケイレブ様」


「おめでとう、シトラ。…………で、そのドレスは前に確認したものと大幅に違うようだが、何か言い訳はあるかい?」

「ありがとうございます!!全てはお母様のせいです!お兄様!!」


友人達にお祝いを述べられ、私は全員にお礼を伝えた。ギルベルトはそれを見ていたが、しばらくすると私の腕を掴んで再び引き寄せる。


「シトラ嬢は今日は、私のパートナーですから。あまり取らないでくれます?」

「え?皆とダンスできないんですか?」


私の言葉にさらに不機嫌になるギルベルトにだったが、リアム達はそんな事お構いなしに、私の目の前に手を差し出す。そしてリアムは、一面の薔薇を背後に咲かせながら、微笑む。


「シトラ、僕たちと踊っていただけますか?」


私は笑顔で、「もちろん!」と答えた。


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