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とある猛暑日

あまりにも暑すぎるので、唐突に書きたくなりました。


 夏、それは最高に素晴らしい季節だ。


 転移される前の世界では学生だったので、勿論夏休みが存在していたし、家の中で冷房を付けながらアイスを食べるのは最高だった。道端で仰向けになっている蝉に突撃を喰らったり、宿題は多かったがそれでも最高な季節だった。




 そして現在、ハリエド国では近年稀にみる猛暑が襲っている。毎年この国の夏は少し汗をかく程度だが、今年の夏は日本の猛暑地帯と似ているかもしれない。家族も屋敷の使用人達も皆汗だくになりながら過ごしている。城ではアイザックが、風魔法を使い空調を整えているらしい。王弟を扇風機みたいに使うんじゃないと言いたいが、この暑さだからしょうがない。


 城下町では体調不良者が大量に出ているそうで。ガヴェインも今日は国からの要請で現地へ応援に向かっている。この暑い中ご苦労な事だ。

 私はクロエが持ってきてくれたアイスティーを飲みながら、部屋の中でぐったりとソファに座っている。クロエも自分のアイスティーを飲みながら、向かいのソファにぐったりとしている。こんなクロエの姿を見たら、執事長はきっと最愛の妻でも叱責するだろうが、その執事長は現在熱中症で休んでいる。やはり執事長の様に熱血真面目ではなく、適度に休まなければいけないのだ。


「暑いよぉ〜クロエどうにかして〜〜」

「私は風の精霊じゃありません〜〜無理ですぅ〜〜」


 お互いぐったりとしながらソファに寝転がり、この暑さで頭がやられていた。


あー本当に暑すぎる、日本にいた時は冷房があったし、夏休みには海開きもあったから快適だったなぁ。


 ……………うん?海?



「そうか!!!海だ!!!!!」

「どうしたんですか〜〜〜頭やられましたか〜〜〜」









《 ハリエド国の猛暑 》







 ハリエド国では今、前例のない猛暑が襲っている。もはや災害レベルと言ってもいい位のもので、まだ死者は出ていないのが奇跡な位だ。


 先ほどディランさんが「なんか皆求めてくるから!お前にもやろう!」と笑顔で冷たい水の入ったグラスをくれた。この教会に入り浸っているディランさんは、他の精霊の王弟殿下やウィリアムさん達より気さくで、教会の職員とも仲が良い。水の精霊なので、出会う職員に水を求められているのだろう。逆にウィリアムさんの元へは誰も近寄らないと聞いた。あの人の側暑いからな。


 自分の研究室で暑さにやられ伏せっていると、床に突然金色の魔法陣が浮かび上がった。精霊のものより輝く、黄金の紋章。眩い光が収まると、やはりそこにはシトラ様がいた。今回は元予言の神で、今はシトラ様の侍女をしているアルヴィラリア様もいる。


「アメリア!!!今暇かな!?」

「暇ですよね!?」


 この暑さなのに、やけに二人は眩しい笑顔を向けてくる。私はグラスに入った水を飲みながら、呆れるようにため息を吐いた。


「この異常気象で、仕事も手に付きませんから暇ですけど………お二人とも、何でそんなに元気なんですかぁ?」

「ふっふっふ!!暇なら是非とも来て!!一緒に涼もうよ!!」

「涼むぅ〜〜?」


 今のハリエドに、城以外で涼める所があるのか?そのまま二人に腕を引っ張られるので、私は半信半疑になりながら了承した。まぁどうせ暇だし、シトラ様達がここまで意気込んでいるのだ。

 二人はお互い顔を見合わせ、嬉しそうに移動魔法を唱えた。絶対の信頼関係のある姿を見て、何だか乗り越えれない壁を見たような気がして、少し嫉妬してしまった。私もシトラ様と仲良しなのに。







 光が収まり目を開けると、そこは公爵家………ではない。


 目の前には何処までも続く青い海。カモメの鳴く声。少し奥には海辺に寝転がれる椅子とパラソル。海風が心地よく、汗ばんでいた体に当たっていく。


「………こ、ここは」

「何処かの中立地域にある海辺だよ!ハリエド国には港はあっても海辺はないからね!」

「遮断魔法でこの近辺は人が入れない様にしました!私とお嬢様が許可した人しか入れなくなっていますので、どうぞお寛ぎください!」


 まさかの国外、150年余り旅をしていた私でさえ知らない場所。相当遠い地域に来ているのだろう。さすが元予言の神と、世界と契約した聖女だけあって魔法の規模が規格外すぎる。思わず顔を引き攣らせていると、シトラ様は紙袋を差し出してきた。


「リリアーナが最近ブティックを始めたんだけど、そこでいま一番売れてるんだって!海にもってこいだって言ってたから、アメリアの分も買ってきたよ!あと仕事終わったらリリアーナも来るって!」


 そういえばリリアーナ様は、あの若さで貴婦人向けのブティックを経営していると言っていた。気になり教会の女性職員に聞くと、流行を先取りした服飾が多く、とても人気な店だそうだ。近々二号店も出来ると聞いた気がする。……それを経営する理由も、シトラ様と一緒になっても苦労しない為に、と本人が言っていたので恐ろしい。先日の彼女の成人舞踏会では、シトラ様と婚姻すると叫び大荒れになったそうだ。どれだけ人を誑し込めば気が済むんだこの人は。


 今一番来店するのが難しい店も、シトラ様にかかればVIP待遇なのだろう。あのリリアーナ様の店の服だ。きっと流行の最先端だろうから、少し胸を高鳴らせながら紙袋の中身を見た。







◆◆◆






 ハリエド国を襲う猛暑で、城の人間達は皆、暑さでのぼせた表情をしている。流石に仕事に差し支えるので風魔法で空調を整えた所、ジェームズに毎日やれと命令された。お前の国で祀られている神になんて無茶振りをするのだと腹が立ったが、体調不良者が出て仕事が滞るよりマシだ。


 だが、流石に毎日広大な城に風魔法を使うのは疲れた。しかも魔法をかけたとしても、王弟の仕事量は全く減らない。こんなにしてやってるのだから、少し位減らせと思うがあの男は絶対しない。本当に最低な国王だ。10歳の頃に国王になってから、ここまで育ててやったのは誰だ?


 今日も今日とて城中の空調を整え終え、疲れで王弟室のソファに寝転がる。流石に毎日させているのに引け目が出たのか、国王には内緒でと、皆が今日の分の仕事をやってくれる事になった。本当に何故、あのふざけた国王にこうも素晴らしい人間が下につくんだ?


「…………シトラに会いたい」


 彼女もこの暑さで苦しんでいる事だろう。公爵家には過去の失態で、個人的に会いに行くのは禁じられているし。向こうから会いに来てくれなければ、愛おしい彼女に会う事が出来ない。少しでも良いからシトラに会いたい。何なら触りたいし、笑顔で癒されたい。……予言の神になってから、将来自分のものになると言ってくれた時から、どうも今まで以上に彼女に執着している様だ。


 すると突然、天井に金色の魔法陣が浮かび上がった。シトラに会いたいと強く思っているから、頭が可笑しくなり幻覚でも見たのかと思ったが、その魔法陣は眩い光を出す。

 それと同時に自分の腹に重さと、柔らかい感触がする。今までこんな柔らかいものは感じた事がない。驚いて上半身を起こすと、その柔らかいものから「うぉっ!?」と見知った声が聞こえた。



「ごめん変な所に降りちゃった!ねぇねぇアイザック今暇?すっごい良い場所見つけたから一緒に涼みに行こうよ!」

「………………」

「……や、やっぱり暇じゃなかった?ごめんね急に来ちゃったから、お邪魔だった?」

「…………シ、シトラ……様……?」



 目の前には、会いたくて会いたくて仕方がなかったシトラがいた。どうやら魔法が少々失敗した様で、自分の腹の上に彼女は跨っている。

 だがそれよりも服装だ。普段のドレス姿ではなく、紺色の布面積が余りにも少ない服を着ている。胸と股は隠しているが、もはや下着の様な見た目だ。柔らかいと思っていたのは、曝け出された腿の感触だった。


 ………えっ、これは夢だろう?こんな破廉恥な彼女の姿なんて、妄想でしか知らない。本能的に彼女の腿に右手を這わせると、手に柔らかい感触がある。なんて素晴らしい夢だと感心した。えっこのまま襲ってもいいのか?


 だが、目の前にいる彼女は、首を傾げながら俺の額に触れた。その所為で体を更に近づけるものだから、彼女の色香が襲う。思わずぐらつく視界に、目一杯に彼女の顔が近づいた。


「どうしたのぼーっとして?暑さでやられちゃった?」

「……………夢じゃない」

「夢?」


 襲わなくてよかった。












 シトラに魔法で連れられた海辺は、見た事もない土地で、確実にハリエド国内ではない事は分かった。まさか涼む為にここまでするとは。


 引き潮の近くでは、シトラと同じ様な布面積の少ない衣装を着た、アメリアとリリアーナ嬢、そしてアルヴィラリアがいた。アメリアは白、リリアーナ嬢は紫で、アルヴィラリアは桃色の衣装をそれぞれ着ている。三人で水を掛け合い楽しんでいるようだ。海辺にはパラソルの下で、夏らしい白のサマーシャツ、そして短パン姿のウィリアムとディランがいた。海を見ながらサマーチェアに腰掛け、グラスに注がれたアイスティーを優雅に飲んでいる。


 あまりの光景に呆気に取られていると、横にいたシトラが紙袋を差し出してきた。


「はいアイザックの分!ウィリアム達とお揃いにしたよ!」


 中身を見ると自分用らしいサマーシャツと短パンが入っていた。あの二人とお揃いは本当に嫌だが、まさかここまで用意周到だとは思わなかった。そして喜ばれると思って、期待の目を向けているシトラが可愛い。俺は魔法で衣装を変えて、彼女に微笑んだ。






 そのまま女性陣の元へ駆け寄り、彼女達と水遊びを楽しんでいる光景を、パラソルの下から見ていた。同じ事をしているウィリアムとディランは女性陣、というかシトラを凝視している。暫くそのまま三人で見ていたが、最初に声を出したのはディランだった。


「お前達、よくあの姿の娘を見て襲わなかったな?感心したぞ」

「夢かと思ったんだ」

「俺も夢だと思った」

「奇遇だな、俺様も夢だと思った」


 つい最近まで足や腕を出すのは破廉恥だと言われていたが、もうあの格好は破廉恥どころではない。彼女が足を気にして屈んだり、勢い良くジャンプする姿はもう見ていられない。それは二人も同じ様で、さっきから中身がないグラスを動揺で、何度も口につけている。


 こちらの舐めるような目線に気づいたシトラは、不思議そうにこちらを見てから、何かを察したのか明るい笑顔を見せてきた。もう心臓が痛すぎる。そのままこちらへ駆け寄り、顔を近づける為なのか、最終的には四つん這いになりながら近寄ってくる。もう襲いたい。


 彼女は男達に向けて、眩しいほどの笑顔を向ける。


「そんな情熱的な目線で見て!皆誰か気になる子でもいるの!?」


 気になる所じゃない、ここにいる男達は君の為に、必死に理性を保とうとしているんだ。丁度三人の真ん中にいたウィリアムは、一番近くでシトラの姿を見る事となった。………彼は、理性を保とうと必須すぎて、もう死んだ魚の様な目をしている。


「貴女はもう少し、頭が良くなってほしい」

「どうしたウィリアム?喧嘩か受けてたつぞ?」


 精一杯の理性をかき集めて、彼女に唱えた言葉は無礼だがその通りだ。そんな事も知らずに喧嘩を売られたと思ったシトラは、笑顔のまま手の音を鳴らす。


  俺とディランは、そんなシトラを抑えようと必死になった。







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