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ぷれしす  作者: みずきなな
最終章
164/173

162 初心

 電車からバスを乗り継いで、とある久喜にある大型商用施設に到着した。

 ここは埼玉県でも有数の大型商用施設でいろいろな店舗が入っている。

 とりあえず、各自でおのおのの予定を消化するために二手に分かれた。

 一緒に買い物しろよって突っ込まれるかもしれないが、これはデートじゃない。

 それに、まさか男性ものの漫画の爆買いに茜ちゃんを付き合わせる訳にはゆかない。

 そしてついた。書店だ!


「ああ、この匂いっ! これだよこれ!」


 書店の入口で鼻息を荒くしている女子高生ってどうなんだと思いつつも、やっぱり興奮する。

 なんともいえないインクの香りに俺は惑わされるように歩き始めた。

 速攻で男性向けの漫画コーナーへと向かう。決して成人向けじゃないぞ。


「うーん、ちょっと出すぎだろ」


 新刊コーナーで困った。ほしい本がありすぎる。

 俺が買っていない間にこんなにも新刊が出ていたとは。


 ずらりと積み上げられた漫画を手に取っては戻す。それを何度も繰り返していた。


 あれもこれも全部続きが気になる。

 でも、俺には資金的に最大使える費用が決まっている。

 これはどうするべきか……。


「ん? 悟?」

「っ!?」


 俺は身構えて振り向いた。

 なぜなら、いきなり中身の名前で呼ばれたからだ。


「よう、久々だな?」


 なんて気軽に挨拶してきたのは桜井正雄だった。

 いやいや、お前って大阪の大学に進学したんじゃ?


「なんだよその顔は? ゴールデンウィークだから戻ってきてるんだ。悪いか?」


 聞いてもないのに答えやがった。


「悪くない。でもここで何してんだよ?」

「何って、見てわかるだろ? 本を買いに来たんだ」

「……だよな?」


 確かにそれ以外の目的があるはずないのだが。


「で、お前は何してるんだ?」

「俺も本を買いにきたに決まってるだろ?」

「へー……何を買うんだよ?」

「ああ、ええと……」


 俺は購入を予定していた漫画の題名を正雄に教えた。


「なんだよ、それだったら俺のをやるのに」

「えっ?」

「俺もさすがに漫画は寮に持っていけないからさ。それに家にだってそんなに戻ってこないし」

「でも、さすがに悪いだろ?」

「じゃあ、一冊五十円でどうだ?」


 なんという安さだ。これは願ってもない話だ。

 正雄の持っていない新刊だけの購入なら予算で収まる。


「の、のった! マジでいいのか?」

「いいよ、別にお前なら」

「やったっ!」

「じゃあ、交渉成立な」


 思いもしなかった提案に俺は別の意味で浮かれていた。


「じゃあ、いつ取りにくる? 俺も早めに大阪に戻るし、できれば早めがいいんだけど?」

「そっか、そうだな?」


 明日は家族で用事があるから……。


「明後日なんかどうだ?」

「ああ、ごめん、大二郎と約束があるんだ」

「大二郎かよ……」

「なんだ? お前も来るか? あいつ喜ぶぞ?」


 と怪しい笑みを浮かべる正雄。思いっきりからかってやがる。


「行かないわい! 誰か行くか!」


 まさか大二郎と逢うなんてできる訳ない。

 もし万が一でも、俺が行って大二郎の恋心が再発したらどうするんだ。

 それに俺だってな……な、ないけど! ないけど、変な気持ちになりたくないからな。


「じゃあ今日しかないだろ?」

「今日? 今日かぁ」

「で、お前って一人で来たのか?」

「まさか、茜ちゃんと来たんだよ」

「茜? ああ、越谷茜か」

「そうそう、その越谷茜だ」

「なるほどなぁ……じゃあどうするんだ? 俺は夕方や夜でもいいけど? あ、そうだ。夜にお前の家に持って行ってやろうか?」


 なんという優しい奴だ。

 俺が正雄の家に行くのにはちょっと躊躇があったんだ。

 設定上とは言っても俺は正雄の前カノなんだから。って、思い出した。

 そうだった。こいつも俺が好きだったはず。


「ん? どうした?」


 やばい、こういう風に仲良く会話してるとこいつにまた勘違いされるかもしれない。

 俺だって気持ちがどう揺れるか解ったもんじゃない。

 となると……やっぱりそうだよな。


「正雄、ごめん、やっぱいい。やめとく」


 関わるのはやめておくべきだ。男に戻る前は。


「なっ? どうしたんだよ?」

「別にどうしたこうしたじゃないけど、じゃあ、俺はもうそろそろ行かないといけないから」


 と、移動しようとしたら腕を捕まれた。それもかなりしっかりと。


「おい、逃げるなよ? いきなり態度を豹変させるとかひどくないか?」


 確かに酷い、酷いけど仕方ないだろ? って言えないし。


「いや、なんて言うかさ、やっぱりやっぱりマズイんだよ色々と」

「何がマズイんだ? マズイとこなんて無いだろ」


 やばい、なんていうかやばい展開だなこれ。

 でも、やばい展開にしてしまったのは俺なのかもしれない。

 俺が気軽に正雄と受け答えをしてしまったから。


「綾香?」


 突然聞こえたのは茜ちゃんの声だった。

 横を向けば男性向け漫画コーナーの入り口に茜ちゃんが立っている。

 そして、茜ちゃんの表情が突然豹変した。

 俺が正雄に掴まれているのを見て、俺の表情を確認し、茜ちゃんは強引に正雄の腕を払ったのだ。


「桜井先輩、何してるんですか!」


 俺と正雄の間に割り込み、両手を広げて俺を守ろうとする茜ちゃん。

 正雄もまさかここに茜ちゃんが来るなんて思っていなかったのか、驚いた表情で見ている。


「何って、漫画を買いに来ただけだろ」

「それで何で綾香の腕を掴んでたんですか!」


 事情を知らない茜ちゃんは、正雄を敵だと認識て攻撃態勢をとっている。


「別に何もない。そいつが逃げようとしたから捕まえただけだ」

「逃げようとするって事は先輩が何かしようとしたって事ですよね!」

「だから、なんでそうなる? 別に何もしてないって」

「い、いくら先輩が綾香と前に付き合ってたからって、今はもう他人なんですから! もう前みたいな関係には戻れないんですから! 戻させないんですから!」


 どうしてここまで強く出るのかわからなかった。

 それでも、茜ちゃんは興奮しながら正雄に向かって声を荒げているのは事実だ。


「ちょっと待て? なんでそんなに俺が言われなきゃいけないんだ?」

「もう綾香に付きまとわないでください!」

「だから落ち着けよ。どうしたんだよ? そんなに俺が嫌いなのか?」


 すると、茜ちゃんはハッキリと言い切った。


「嫌いです!」


 正雄の眉がぴくりと動く。

 眉間にしわを寄せて茜ちゃんを睨んだが、すぐに表情も緩んで元に戻った。


「あーわかった。もうそいつにはちょっかいは出さない」

「絶対ですからね! 約束ですからね!」

「わかったって言ってるだろ? くそっが」


 完全に機嫌を損ねた正雄は、俺をちらりとだけ見てその場から立ち去って行った。

 正雄が去ってから茜ちゃんはほっと肩を下ろしたようだ。

 そんな茜ちゃんの背中を見ていて俺は思い出す。


 そうだ、茜ちゃんってこういう子だった。

 爆発すると俺の想像以上の行動をやってのける。それが越谷茜だった。


「綾香っ!」

「えっ?」


 振り返った茜ちゃんの表情は険しいままだった。

 ほっとはしているようだが、それでも険しい表情で俺を見ている。


「来てくださいっ!」

「な、なに?」


 茜ちゃんはぐっと唇を噛んで俺の手を引っ張った。


「ま、待って! まだ本を買ってないんだけど?」

「ダメです!」

「ダメって!?」


 茜ちゃんは止まらない。手を引っ張られる。

 俺は持っていた漫画を無造作に置くとそのまま引っ張られて移動した。

 そして、どんどんと施設内を移動をしてゆく。


「ど、どこ行くの?」


 しかし茜ちゃんは無言。

 ただ、ちらっと見えた瞳が潤んでいた。ただ事じゃないみたいだ。

 茜ちゃんはそんなに俺が正雄に絡まれているのが嫌だったのだろうか?


「はぁはぁ……」

「ひぃひぃ……はぁはぁ」


 結局、俺は立体駐車場まで連れていかれた。

 かなりの距離を競歩的に運動させられて息が切れてしまった。

 しかし、まさか店内から出るとは思ってもなかったよ。


「っ!」


 息を切らしていたはずの茜ちゃんが、怒ったような表情で、瞳に涙を浮かべたまま俺を睨んだ。

 まるで俺に対して怒っているようにすら見える。


「ど、どうしたの? なんか茜ちゃんおかしいよ?」


 ギッっと歯を食い縛ってから茜ちゃんが俺に迫る。

 俺はずるずると後退して壁際まで追い込まれた。


【ドン!】


 なんと、茜ちゃんに壁ドンされた。


「な、なに? どうしたの? ほんとどうしたの?」

「私……私、もう我慢できません!」

「へっ? な、何が?」


 我慢できないって何が何だか理解できなかった。

 でも、茜ちゃんの唇から少し血が滲んでいる。

 そのくらいに強く噛み締めたって事だ。それほどの思いだって事だ。


「茜ちゃん、唇……血が」


 右手で唇に触れて血がでているのを確認したが、それでも茜ちゃんは表情を変えなかった。


「こんなのいいです!」

「よくないでしょ? 何があったの? 本当におかしいよ? あれかな? 正雄と話をしてから? でもよりを戻すつもりなんてないよ? 本当に」

「違います! 違わないけど違います!」

「えぇぇぇ……」


 マジどうしたの? 乱れる茜ちゃんの動きが止まった。

 そして、俺の瞳をじっと覗き込んできた。潤んだ瞳が何かを訴えかけている。

 この視線は友人におくる視線じゃない。


「このままじゃ私は蚊帳の外になっちゃいます……」

「蚊帳の外? 意味がわからないんだけど?」


 そう答えながら俺は不安に押しつぶされそうになっていた。

 この対応、この視線、この言葉づかいはどう考えても綾香に対するものじゃないから。

 と言う事は、茜ちゃんは俺の正体を? いや、ありえない。


「お願いです。私も見てください! ちゃんとしっかり見てください!」


 でも、やっぱりこの反応は綾香に対するものじゃない。

 そして、その悪い予感はすぐに的中した。


「姫宮先輩、私をおいていかないで下さい。私は先輩が好きなんです。先輩が大好きなんです! だから……だからお願いします……お願いですから……」


 弱々しくなってゆく茜ちゃんの言葉に俺は何も言い返せなかった。

 車が通るたびに排ガスの匂いがする立体駐車場。

 俺は茜ちゃんに衝撃の告白されてしまった。


 いや、なんで? そんな気持ちが頭を巡る。

 誰が? 誰が茜ちゃんに俺の正体を教えたんだ?

 全身から汗が噴出し、頭には血が上り、心臓は苦しいほどに鼓動する。


「先輩……お願いですから、お願いですから私の事も見て下さい……私の方も向いて下さい………うっ…うう」


 コンクリートの床に黒い斑点がいくつもできてゆく。

 俯いた茜ちゃんの背中が震えている。


 俺はぐっと胸を右手で掴むと唾を飲み込んだ。

 そして何度も深呼吸をした。


 この気持ちは前にも感じた気がする。

 そうだ、あれは八月だ。

 俺が行方不明になってしまって、そして茜ちゃんが綾香だと思った俺に相談しにきて。


 あの時は俺は綾香だと思われていた。今とは少し状況が違う。

 だけど、この想いの強さは同じだ。

 茜ちゃんは……こんなに俺を?


「うぅ……うぅぅ……うぅ」


 俺は泣いている茜ちゃんの背中に両手をまわす。

 茜ちゃんが震えている。

 あと少し腕に力を入れれば、俺は目の前の女の子を抱く事ができる。慰める事ができる。


 でもいいのか? この行動は自分を悟だと認めるようなものだぞ?

 ここで否定する事だってできるんだぞ?


 俺は葛藤した。

 そして……そっと茜ちゃんを抱き寄せた。

 こんな行動は取るべきじゃない。これは俺が悟だと認める行為になる。これが勘違いの元になる。

 そんなの解っている。だけど、こんな弱々しくなってしまった茜ちゃんをほっておけなかった。


 くそ、茜ちゃんがなんで? なんでこうなった?


 思い返してみれば俺は自分の境遇に関わる人間ばかりに気持ちを向けていた。

 絵理沙、輝星花、和実、正雄に大二郎。

 茜ちゃんには本当に関わってあげられなかった。いやあげてなかった。

 それはあまりにも茜ちゃんに手がかからなかったからだ。

 手がかからないイコール俺に対する想いもすっかり冷めたんだろうと思い込んでいた。


 だけど、違った。それは俺の一方的な考えだった。間違っていた。

 茜ちゃんはずっとずっと俺を想っていてくれた。

 あの夏からずっと変わらない気持ちで、今日の今まで俺を好きでいてくれた。

 その気持ちは絵理沙や輝星花が俺を想ってくれている気持ちと同じくらいかは解らない。

 だけど、俺はそんな気持ちを前に出さない茜ちゃんを蔑ろにしていた。


「先輩っ……ごめんなさい……ごめんなさい。本当は、本当はこんなことするつもりなかったのに……」


 泣いている茜ちゃんをぎゅっと抱く。

 綾香の体のままでは胸に顔を埋めて貰う事はできない。

 せいぜい肩に顔を乗せてもらう程度しかできない。

 だけど、俺は精一杯茜ちゃんを包み込んだ。


「待ってようと思ってたんです……元の姿に戻るまで待っていようと思っていたんです……でもごめんなさい……私……さっきの桜井先輩とのやりとりを見て我慢できなくって……迷惑をかけちゃってごめんなさい……」


 そんなに自分を責めないでくれ。

 茜ちゃんが悪い訳じゃない。俺が悪いんだ。

 あの時、俺は正雄の腕を振り払えた。でもしなかった。

 そう、俺はまた拒むべき場面で拒んでいなかったんだ。


「こんな事しちゃって……これから学校でどう接していいのかもうわからないです……どうしよう……私はどうすればいいですか……うぅぅ」


 本当に良い子だ。茜ちゃんは本当に素敵な女の子だ。

 俺が好きになったのはそういう女の子だったからなんだ。

 すっかり忘れていたよ。俺は君に惹かれていたんだってね。

 絵理沙も輝星花も大二郎も正雄も、あっちが俺を好きになった。

 でも、君は……。


「あかね……」


 きゅんっと胸が痛んだ。


 ああ、なんだろこれ? 綾香、俺、どうしよう?

 すっげー心が揺れてるよ。胸が締め付けられるよ。

 このまま茜ちゃんを自分のものにしてしまいたくなってるよ。


 心の中で自分に投げ掛ける。

 姫宮悟! 絵理沙は? 輝星花は? お前はどう思っているんだ?


 そして答えは?

 嫌いじゃない。


 自己嫌悪に陥る。

 嫌いじゃない? なんて都合のいい逃げ文句なんだよ。


 俺は卑怯ものだ。

 そう、俺は絵理沙も輝星花もみんなみんな嫌いじゃない。いや好きだ。好きだけど……。

 俺ってなんなんだよ?


 誰でも好きになれる俺。すっげー軽すぎだろ。

 まったくもって最低な男だな俺は。

 ほんっと最低だよなぁ……。


 ぶわっと何かがこみ上げて溢れそうになる。

 ダメだ! 我慢しろ! 俺は男だろ!


 俺は我慢した。ここで女々しくなんてならない。


 ダメだ。これじゃ本当にダメだ。

 ちゃんとしなきゃいけないのに。

 俺は恋だと愛だの言ってる前にやる事をしなきゃいけないのに。

 なのに俺はそれができてない。


 体を震わせる高校二年生の女の子のぬくもりを感じながら考える。

 こんな健気で真面目な普通の女の子を悲しませていいのか?


 結論は一つしかない。

【ダメに決まってるだろ!】


「茜ちゃん!」

「……ぐすっ」


 茜ちゃんの涙でびちょびちょになった右肩。

 その冷たさが心に染みる。


「そのままでいいから聞いて欲しい!」


 だからこそ、ちゃんとしなきゃいけない事がある。伝えておかなきゃいけない事がある。


「俺は姫宮悟だよ。君はもう知ってしまっているらしいけど」


 惑わされちゃダメなんだ。

 きちんとした気持ちで向き合わなきゃいけないんだ。


「せん……ぱい……」


 断ち切る。一度は気持ちをリセットする。その場の感情に流されない。

 そして俺が男に戻ったとき、すべてをきちんと考える。

 絵理沙、輝星花、茜ちゃんの事を考える!


「大丈夫だから、ちゃんと茜ちゃんの事を考えるから。本当に真面目に考えるから」

「じゃ、じゃあ…………」

「でも今は答えはでない。いや、出せないんだ」


 ゆっくりと体を離す茜ちゃん。茜ちゃんは恥かしそうに手で顔を隠している。

 しかし見えた。その表情はぐちゃぐちゃになっていた。鼻水まで出ていた。

 薄化粧してあったのか、その化粧も涙で取れていた。


「出せないって……」

「そのままだ」


 そう、今の茜ちゃんはとてもじゃないけど綺麗な女性ではなかった。

 でも、それが人間。これが人間なんだって思えた。


「やっぱり……私じゃダメですか?」


 俺は今の茜ちゃんを汚いなんて思わない!


「そうじゃない! ダメなんかじゃない! だって俺だって君をっ」


 やばい、いま決めたばかりなのに感情に流されそうになった。


「ごめん、ちょっとだけ待っててくれないか? 俺はまずは男に戻るから。絶対に男に戻るから。そしたらちゃんと考える。ちゃんと考えて、冷静になってから答えを出すから」


 手で顔を隠しながら、鼻水をすすりながら、それでも俺を潤んだ瞳で見つめる茜ちゃん。

 本当に俺はダメなやつだなって意気消沈しそうになる。


「うん、わかりました。私、待ってます……」


 鼻水、涙まみれになりながらも、それでも満面の笑みをつくってくれた茜ちゃん。

 素直すぎて怖い。


 そんな彼女の表情に俺の心臓はマジで破裂寸前になっていた。


 かわいい。かわいすぎる。

 茜ちゃんが健気でかわいすぎておかしくなりそうだ。

 やばい、マジやばい。

 このまま茜を本気で俺のものにしたくなる。

 だけど、やっぱり今はダメだ。ダメなんだ。


「ごめん、それまでは本当に申し訳ないけど待っててくれ……」

「うん……」


 ぐちゃぐちゃの表情のまま、それでもこくりと笑顔で頷いた越谷茜。

 ほんと、俺には勿体ないくらいに良い子だった。

 綾香が一押しするのも頷ける。


 そして帰りのバスの中。俺は半分眠りに入っていた。

 うとうとと瞼を閉じていると。


「先輩、私、先輩を信じて待ってます」


 なんて小さな声が聞こえた。

 結局、俺は久喜駅まで起きる事も眠る事もできなかった。

連続公開は一旦ここまでです。

最終は八月に更新予定です。

お待ちください。

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