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ぷれしす  作者: みずきなな
前途多難な超展開な現実
156/173

155 俺の望む世界とは? 後編

 いきなり聞こえた声。それも真横から。

 先ほどまでなかった人の気配が右横から今は感じる。

 俺はすぐに反応した。すぐに横を見た。


「き、輝星花!? なんで? ちょ、ちょっと待てくれ」


 そう、声の主は輝星花だった。

 先程マンションで見たのと同じ服装で横に座っている。

 でも何で? 何で輝星花がいきなり現れたんだ?

 魔法か? 魔法しかないよな?

 でも、あれ? もしかして輝星花はこの世界じゃ魔法使いのままなのか?


「僕は和実よりも一日早く記憶を取り戻した。そして僕は絵理沙との約束を果たすために行動した」


 なんだと? マンションで出会った時はもう俺を思い出してたのかよ!?

 やっぱり輝星花は魔法使いなのか? 輝星花は俺を覚えているのか?


 しかし、思った事を質問もできずに険しい表情で語りかけてくる輝星花を見ていた。


「や、約束だと?」

「そう、約束だ」


 しかし聞かないなんてできる訳がない。約束は確かに気になるけれど、それでも確かめておかないとダメだ。


「ちょ、ちょっと待て! 輝星花、お前もしかして、さっき俺とマンションで出会った時に俺のこと思い出していたのか?」

「ああ、もちろん」

「あと、お前は魔法使いなのか?」

「ああ、その通りだ」

「なんという……」


 輝星花はこの世界だと魔法使いのままだった。そして俺の事も思い出していた。


「悟くん、今の僕にも和実と同じように記憶が二種類あるんだ。それは君が綾香くんになった本来のルートと、君が男性のまま過ごしていた別のルート。だから思い出したという表現はおかしいかな。だって僕はこの世界のルートであっても君とは面識はあったのだからね」


 相変わらず理屈っぽい言い回しだが、輝星花の話で理解した。

 まず、和実と輝星花は絵理沙がタイムリープの魔法を使うために協力した共犯者だった。

 そして、絵理沙は過去を改変し俺が男のままでいる世界を構築した。

 そして、時限魔法を使い、この時間軸での和実と輝星花の記憶を取り戻せるように設定していた。

 だけど、そうなるといくつかの疑問が沸いてくる。


 まず、何で俺にはこの二人のように別ルートの記憶がないのか?

 今の俺にあるのは本来のルートの記憶だけだ。


 あと、なんで絵理沙はタイムリープの魔法なんて使ったのか?

 俺を男に戻す魔法を、あの再構築魔法を使えばよかっただけじゃないか。


 そして、昨日の夜、なんで俺はこの学校へいたのか。

 この世界が本当の世界のルートとはずれているのなら、俺は昨日の夜に学校にいる訳がない。

 俺の記憶の中にある、あの田んぼ道での修羅場は別のルートで起こった事なんだから。


「昨日の夜は僕が君を呼び出した。昼間の学校へ来るように僕が仕掛けをした。そして魔法で眠らせた。夜、君の記憶を改竄する魔法が発動するまで」

「えっ!?」


 輝星花は元気なく微笑んでいた。


「この世界での僕は今も魔法使いなんだ。そして君がチート呼ばわりする考えを読む魔法も健在って事になる」


 マジカ!?


「マジだよ」


 マジだーーー!


「ダメかな?」

「いや、ダメじゃなけど」


 今になって妙に焦りを感じてきた。汗が全身から滲みでている。

 そして、絵理沙の記憶からは見えなかったけど、和実と絵理沙の話からある推理ができている。


「なぁ輝星花」


 それを確認する為に俺は聞く。


「なんで俺は前のルートの記憶だけ残っているんだ?」

「それは絵理沙が自分の事を覚えておいて欲しかったからじゃないのかな? この世界では絵理沙と悟くんとは面識がないからね。いや、絵理沙は人間世界に来る前に……来てないんだ」


 歯切れの悪い輝星花の言動にどんどんと俺の不安は募ってゆく。


「あのさ、もういっこ確認してもいいか?」


 輝星花は俺が質問をする前に口を開いた。


「ハッキリしておこうか、そうだよ、絵理沙はこの世界にはもう存在しない。もう絵理沙はこのルートでは死んでいる」


 そして俺が質問しようと思っていた事を答えてきた。

 そして言葉の中にあった【死】という言葉に体の力が抜けた。


「う、嘘だよな? 絵理沙が死んでる?」

「嘘じゃない」


 俺は全身の力が一気に抜けて意気消沈してしまった。

 大事な何かを失ったかのようなショックを受けた。

 体の奥底からあふれるものが俺をダメにしてしまいそうだ。

 だけど我慢した。懸命に我慢した。

 体がら放出されたはずに液体は俺の体内に潜んだまま出ることはない。


「絵理沙が……絵理沙が死んでるって……。あ、あはは……な、なんで……なんでこんな事になってんだよ? こんな展開なんて望んでないのに……いくら男に戻りたいからって、絵理沙は何やってんだ?」

「絵理沙は君を男に戻したかった」

「戻したかった? 戻す? これが? これが戻す?」

「……確かに、これは戻すじゃない」

「その通りだよ!」


 ドンとテーブルを叩いた。ジーンと両手に痛みが伝わる。


「でもね、君に男として生きてもらう事が絵理沙の望みだったんだよ……。方法が結末がどうあったとしてもね」


 すごく悲しそうな和実の顔が視界に入った。


「そんなのわかる! けど……」


 俺は両手で顔を覆った。


「だからってさ、相談もなしで何やってるんだよ? こんなのなしだろ?」

「私もなしだと思う。だけどね? もう変える事はできない。私じゃ一度曲がってしまった世界の道筋を正す事はできないんだよ」

「何でだよ! 何で絵理沙は俺を男にする魔法を使わなかったんだよ!? タイムリープなんてしなくてもいいだろ? 俺は世界を変えてくれなんて言ってない!」


 その問いに答えたのは輝星花だった。


「悟くん、絵理沙は君を元に戻す魔法が使えなかったんだ」


 背筋がゾッとした。


「俺を元に戻す魔法が使えなかった? って……いやいや、嘘だよな? あいつは俺を殺して、そしてその魔法で生き返らせたんだぞ? それに魔法力が戻ればまた使えるって言ってたんだぞ?」


 輝星花はジッと俺を睨んだ。思わず身を引いてしまう。


「悟くんは絵理沙の記憶からわかっているんだろ。あの子は僕の魔法力を引き継いで、そしてその代償として固有魔法が使えなくなったんだ」

「あ、いや……えっと……」


 確かに記憶の中で絵理沙は【もうあの魔法が使えないの】って言っていた。

 だけど、簡単に信じる気にはならなかった。


「いくら君が吼えても事実は曲がらない。今、僕が話した事が事実なんだ」


 そう、その通りだった。輝星花の言う通りだ。

 輝星花が話した事は全て事実。

 絵理沙の記憶で俺はそれを知っていた。だけど、俺は信じずに聞いてしまった。


「こんなのさ……予想外の展開すぎるだろ……」

「そうだね、こんなの予想のしようがないね」

「あのさ、輝星花……こうのってさ……こんなんじゃさ、元に戻るって言わないよな?」


 俺はぐっと両手を握りしめる。

 すると輝星花が立ち上がった。


「本来のルートの僕の考えと、今のルートの考えと、僕は二つの記憶と思考を元に考えた。結論から言えば今回の絵理沙の行動は許せない。僕も自分が犠牲になってまでやる行動だとは思わない。だって君は絶対に喜ばないからね」


 しかし和実は反論した。


「絵理沙はすごく悟くんが好きだったんだよ! どうしても悟くんを男に戻したかった。だから方法を探した。そうして見つかった方法がタイムリープだった! 結果、悟くんは男に戻って綾香ちゃんも飛行機事故にはあってない。絵理沙はこれでよかったんだよ! 輝星花だって前のルートで賛成してたじゃん! 私だって絵理沙が死んでしまったのは悔しいけど、だけど、だからって絵理沙を責めるのは間違っている! 輝星花だって今更すぎる!」


 すかさず輝星花も反論する。


「本来のルートの僕は駄目な判断をしている! そして、僕は姉として妹のした間違いを間違だと言っているだけだ! 個人的な事情で世界を正しくない方向へと進ませて何が責めるなだ! 絵理沙や本来のルートの和実や僕のせいでこの世界の何人の人間が成功していた未来をなくしたかわからない! 僕たちには世界をどうこうする権利はないんだよ! わかるだろ?」


 和実は汗をかきながら唇を噛んだ。もう反論はしてこない。


「輝星花、どうにかならないのか? 俺はこんな世界は望んでない。こんな事になるなら男に戻りたくなかった。だからもう一度戻りたい! 俺が綾香だった昨日に! 本当のルートに!」


 和実は苦しそうな表情で言葉を紡ぐ。


「悟くんの夢を打ち砕くような話をしちゃうけど、時間を操作する系統の魔法は普通の魔法使いじゃ無理なの。もしも再び世界を構築しなおすのならタイムリープの魔法が必須になる」


 和実は本当に苦しそうに、困ったように俺を見てきた。

 俺も和実の苦しみが伝染したのか、再び不安と絶望に襲われる。

 そんな俺の左手に暖かさが伝わった。

 みれば輝星花が俺の左手を握っていた。


「大丈夫だよ。僕だって絵理沙の姉なんだ。タイムリープくらいやってのけてやるさ」


 しかし和実は再び反論する。


「絵理沙は特別だったの! あのこはおかしかった! いくら輝星花でも無理だよ! タイムリープなんて出来る訳がない! あんな魔法が何度も成功なんてする方がおかしい!」

「じゃあ僕もおかしくなればいい。僕も本ルートの絵理沙のようにおかしくなればいい。だって今の僕は絵理沙の魔法力を吸収しているんだ」

「でも、使えるかなんてわからないでしょ?」

「もちろん、使った事はないし、どうやって絵理沙がタイムリープをしたのかわからない」

「だったら無理だよ!」

「いや、やってみないとわからない」


 和実は涙を浮かべてゆっくりと輝星花の前に歩いてきた。


「輝星花は知ってるよね? 今までタイムリープの魔法を失敗してしまった魔法使いの末路を」


 和実の瞳からいくつもの雫が輝星花のスカートへと落ちた。

 そんな和実へそっとハンカチを差し出す輝星花。


「心配してくれてありがとう。でもこれだけは言っておくよ。僕は絵理沙に生きていて欲しかった。そして……」


 俺と輝星花の視線が合った。


「悟くんが納得のゆく世界にしたいんだ」


 相変わらず和実はしくしくと泣いていた。こんな和実は見た事がない。

 本当に女々しく、この世界の和実は大人になっているのに、前の高校生だった和実よりも弱々しかった。


「和実、タイムリープの魔法が失敗したらさ、どうなるんだ?」


 和実は嗚咽をあげながらもなんとか答えようとしてくれる。


「失敗……っ……したら……うっ……廃人になっちゃう……」


 その答えを聞いてから輝星花を見た。

 輝星花は相変わらず動揺の色も見せずに笑顔でいる。


「大丈夫だよ、絵理沙だって成功したんだ。僕が失敗する訳がない」

「待て、もしも失敗したら輝星花って死んでしまうのか?」

「いいや、正確には僕の思念が時空に漂い戻ってこれなくなるだけだ。体は生きているけど本能しか残らないから植物人間になるだけだ」


 そんな話を簡単にする輝星花。

 待ってくれ、そんなの聞いて輝星花にタイムリープの魔法をお願いできる訳がない。

 完全なる絶望に打ちのめされていると、輝星花が予想だにしていない事を言った。


「ああ、そうそう。僕はタイムリープなんてしない。するのは物質であって、魔法で言えば時間逆行魔法だよ」


 和実の涙が突然止まった。


「えっ? 物質時間逆行魔法?」

「そうだ」

「それって、物を過去に送るやつ?」

「それそれ。だから安心していい。僕はタイムリープみたいなリスクが高い魔法は使わない」


 いやいや、お前、さっきまで思いっきりタイムリープの魔法を使うような言動してたよな!?


「ふふふ、そうだね、確かにそう聞こえるように言った」

「ちょ!?」


 すっかり考えを読まれる事を忘れていた。

 やっぱりこいつの魔法はチートすぎる!


「よし、これより本来のルートへ戻すための作戦を開始する。作戦名は【ジャスティスパンチ】と名づける!」


 結果、すっごいださい作戦名だが、俺たちはこの世界を正しいルートへと戻すための作戦を実行する事になった。

 本当にすべてが元に戻るのかが見えない状況であっても。

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