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ぷれしす  作者: みずきなな
前途多難な超展開な現実
155/173

154 俺の望む世界とは? 中編

 ぽんっと手を打つ音に反応して俺は顔をあげた。

 見れば、和実はまだじっと俺の顔を見ていたが、なぜかこくこくと頷いている。

 何かに納得したように頷いる。一体なにに納得してるんだ?


「そっか、今の君にはこの時間軸の記憶がないんだ? そっか、悟くんにはそういう感じにしたんだ」

「えっ?」


 和実の意味がよく理解できない言葉に戸惑いを覚えた。


「どうしたの? 不思議そうな顔してるわね」

「ごめん、和美の言ってる言葉の意味がわからない。どういう事なんだよ? この時間軸って? そういうふうにしたって?」


 和実は目を細めて俺を見る。


「ああ、そっか、そう思うのも当たり前か。悟くんは本来の時間軸の記憶しかないんだもんね? そりゃそうだ」


 またしても何かに納得したようにこくりと頷いた。

 しかし俺はまったく納得どころか意味がわかってない。

 時間軸という言葉が何度か出たが、どういう意味なのか。


「待ってくれ、お前が勝手に納得しないでくれ。俺には話が通じてないんだけど?」


 和実はソファーから立ち上がると、いつも野木の座っていた長机の引き出しをあけた。

 そして中から黄色いカードを取り出した。

 それは見覚えのあるカード。


「そ、それって、まさか!」

「うん、そのまさかだと思う。悟くんは見覚えあるよね? このカード」


 それは俺の体内に一時的に入っていた魔法のカードだった。

 前に魔法力を貯めるのに絵理沙の用意したカードだ


「それって? なんでそれがそこにあるんだよ?」

「なんでって……なんでもかな?」

「いやいや、なんでもかなって意味がわかんねぇよ」


 ちょっとふざけた答えをする和実に少しイライラする。が、ここは我慢だ。

 そしていつの間にか話題をすり替えられているが、それも今はスルーしておく。

 さっきの事よりもカードが気になる。あれは確かにあのカードだ。


「そんなにイライラしないのって。それよりもさ、これって絵理沙のカードなんだよね」

「そんなのわかってる!」


 やっぱりそうだった。、見間違いじゃなかった。


「やっぱりそうだよね? 悟くんなら解るよね」

「で、それがどうしたんだよ?」


 本題になかなか入らない和実にイライラは募る。


「うん、そうそう、本題に移ろうか」


 と、心を読んだ訳ではないだろうが、やっと本題に入ってくれるみたいだ。

 早く教えて欲しい。俺は色々とわからなすぐぎんだ。


「ああ、とっとと説明してくれよ」


 和実の表情がいきなり真剣な表情になった。

 今までのへらへらしていた表情が嘘みたいだ。


「これには絵理沙から悟くんへのメッセージが入っているの」

「絵理沙からのメッセージが!?」


 黄色いカードを右左と振りながら和実はソファーに座った。


「そうよ」


 そう言いながらカードを俺に差し出してくる。

 俺は黄色いカードを手に取って目の前まで持ってきた。

 そしてカードをじっと見ていると、急にカードが光を帯びる。


「眩しいっ!」


 手でカードの光を遮ると、手の影が動いているのに気がつく。

 ハッと気がついた時、カードが有無を言わさずに俺の右手から体内へと入ってゆくじゃないか。

 

「ちょ、ちょっと待って! どうなってんだよこれ」


 眩しい光は徐々に収まるが、同時にカードは痛みも無く俺の体へとめり込む。


「なるほど、どうやら悟くんが手にした瞬間に同化するようになってたみたいね」


 先程とは打って変わり、再び軽く言う和実。


「同化ってなんだよ!? メッセージが入ってるんじゃなかったのか? 同化してどうするんだよ?」


 しかし、気がつけばカードはもう俺の中だった。

 そして、次の瞬間だった。怒涛のごとく俺の脳内へと流れ込む記憶。

 それは自分のものではない他人の記憶。

 野木絵理沙のものだった。


 最初は乱れ入る記憶に収集がつかない状態で言葉も出なかった。

 しかしそれもだんだんと落ち着いてくる。


「あ、あれ?」


 すると、俺のものではない記憶がゆっくりと脳内で再生を始めた。

 そしてまるで走馬灯のように頭の中を流れてゆく。


 俺はじっと瞼を閉じてその記憶を頭の中で観る。

 絵理沙の残した俺へのメッセージを確認した。


 いつの間にか記憶の再生は終わってた。

 俺はゆっくりと瞼を開く。


「どうだった? 絵理沙からのメッセージは?」


 妙に落ち着いている和実に俺は言葉を投げ掛ける。


「どうもこうもない……結論から言えば最悪だよ」

「ふーん」

「お前は知らないのかよ? 絵理沙が何をやったのかって」


 すると和実は視線を逸らした。


「そんなの……知ってるわよ」

「そっか……やっぱりな」


 絵理沙の記憶の断片で和実が出ていた。

 そうなれば和実も絡んでいるとすぐにわかる。


「だけど知ったのは昨日の事だから。私は昨日の夜にもうひとつの記憶を取り戻したんだからね?」


 和実の表情から笑顔が消えていた。フラットな表情で窓の方向を向いている。

 そして和実の言葉の矛盾に動揺した。

 絵理沙の記憶の断片で和実が出ていたのに知ったのは昨日なんてありえない。


「おい、知ったのは昨日? 取り戻したってどういう意味だよ?」

「そのまんまだよ」

「そのまんまって?」

「二日前の私にはもうひとつの記憶は存在していなかったって事」


 なんだ? どういう意味だ?


「本当に意味がわからないんだけど? 何を言いたい? お前は絵理沙がやった事を覚えてなかったのか? 昨日になって思い出したのか?」

「……」


 和実は無言のままゆっくりと首にかかっていたペンダントをはずした。

 紫色の宝石のはめ込まれたシルバーのペンダントだ。

 今まで和実がこういった装飾品をしていた記憶はない。

 大人になっているからしているのだろうか?

 だけど、なんで今ここでペンダントをはずすんだ?


「それがさっきの和実の話と関係あるのか?」

「あるよ。これが私に対して記憶を植え付ける魔法媒介だったからね」

「記憶を植え付ける魔法媒介って?」


 中央のテーブルにペンダントをゆっくりと置く和実。


「このペンダントが昨日の夜に光を帯びた。そして魔法が発動したの。それは記憶を植え付ける魔法。本来ならば人の記憶を別の人間の記憶と融合させるために使う高等魔法なの。だけど、私の場合は融合したのは自分自身の記憶だった」

「自分自身の記憶だって?」

「そうだよ。でもね、正確に言えば別の自分の記憶だった」

「別の自分!?」


 和実は苦笑しながらペンダントを手に取った。


「信じられない事だけどこの世界は本来あるべき道筋からはずれているみたい」


 そしてとんでもない事を話し始める和実。


「ちょっと待て、なんだか話がわからなくなってきた」

「まぁいいよ。わかりづらい事を言ってるし、とりあえずは私の話を聞いてくれるかな」


 まだ頭が混乱してわけがわからないが、でも聞いて理解できるのならば聞くしかない。


「わかった」

「うん、じゃあ話すね」


 和実は落ち着いた口調で話しを始めた。


「さっきも言ったけれどこの世界は道をはずれた世界なの」


「じゃあ本当の道筋は? なんて疑問に感じるよね?」


「うん、本当の道筋は悟くんの今の記憶の通りなんだよね」


「本当の道筋では綾香ちゃんが飛行機事故にあって、悟くんが絵理沙に殺されて綾香ちゃんの姿で生き返った。私が高校生で輝星花は科学教師だった」


「そう、悟くんがつい昨日まで見てきていた世界だよ」


 俺の心臓がドキドキと緊張の鼓動を強める。


「悟くんも見たかもしれないけれど、絵理沙はとんでもない事をしてしまった」


 そう、俺が見た絵理沙の記憶が正しければ、絵理沙はとんでもない事をした。


「絵理沙は絶対にやってはいけない事をした。ううん、絶対に不可能だと思われる事をやってのけた」


 俺も信じられないけど、やってしまったんだ。


「絵理沙は本当の道筋である世界からタイムリープの魔法を使って一年前に精神を戻した。そしてこの世界の道筋を変えてしまった」


 やはり、俺の頭に残る絵理沙の記憶は間違っていなかったのか。

 絵理沙は記憶の中でこう俺にメッセージを残している。


【私、悟が男性として生きる未来を構築してみせるね】


 そして彼女は過去へ記憶を遡らせ、結果的に俺が死なない未来に変えてしまった。


「なんでだろうね? 私に本当の道筋の世界の記憶を植え付ける必要なんてないと思うのに、なんで私にこんな記憶を植え付ける魔法をつかったんだろうね? って、本当は理由はわかっているけど」


 窓を見てから天井を見た後に、和実は再び俺を見た。


「私は絵理沙と共犯者だったの。絵理沙がタイムリープの魔法が使えるように、魔法世界の収容所から絵理沙を脱走させた」


 それは俺の知らない事実だった。いや、あの絵理沙の断片的な記憶に出ていた和実。

 あの和実は絵理沙を脱出させた時の記憶だったのだろう。


「でも、絵理沙は魔法世界で記憶を改竄されてたんじゃ?」

「そうね、改竄さえているように振舞っていたわね」

「なんだと!?」


 絵理沙は実は記憶の改竄なんてされていなかった。

 いや、今更すぎるよな。だって絵理沙が記憶改竄されていたら今回の事件は起こらないんだ。


「そして、前の時間軸で絵理沙の手助けをした魔法使いはもう一人いるの」

「えっ?」

「僕がもう一人の共犯者だよ」


 いきなり聞こえた女性の声。

 いつの間にか俺の隣に一人の女性が座っていた。

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