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ぷれしす  作者: みずきなな
前途多難な超展開な現実
152/173

151 予想と現実は一致しないもの

 先程まで俺の目の前でもじもじしていた女の子【栗橋・サンライズ・南】

 中身は妹だったはずのその彼女。

 しかし、しかし、だけど……。


「な、なんで?」


 彼女は俺の目の前でその姿を変化させた。

 俺もまさか姿が変化するなんて予想もしていなかった。

 だって、南は綾香で、綾香は魔法使いじゃないからだ。


「お前が……」


 そして、南の姿になっていたのは俺のよく知る女の子だった。


「ただいま……悟」


 俺は忘れない。

 その綺麗な髪色を……。


 俺は忘れない。

 その綺麗な瞳を……。


「逢いたかった……」


 俺は忘れない。

 魔法使いに生まれた不遇な双子の妹の存在を。


「え、絵理沙なのか?」

「うん!」


 そう、彼女は絵理沙だった。

 南に化けていたのは、俺を殺し、俺をこんな姿にした張本人である野木絵理沙だった。


「お、おまえ! なんでここに!」


 思わず声が荒ぶってしまった。

 それも仕方ない。俺は絵理沙は魔法世界で記憶を操作されているって聞いていたから。


「なんでって? なんでかな?」

「なんでかなじゃない!」


 絵理沙とはもういつ逢えるかわからないって思っていた。

 俺はもう男に戻れないのかもしれないって思っていた。

 だけど、絵理沙は戻ってきた。

 全ての予測を裏切るように俺の元にたった今戻ってきた。

 だけど本当に絵理沙なのか? もしかして本物じゃないんじゃ?


 こんなにいきなり絵理沙が現れて俺は信じきれていなかった。しかし。


「うん、大丈夫。ちゃんと本物だし記憶だってあるよ」

「あっ……」


 絵理沙は笑顔で瞳を潤ませて俺をじっと見ていた。

 かわいい。綺麗でかわいい。絵理沙だ。これは絵理沙だ。


「本物だよ?」


 やばい……俺はこんな女の子を振ってしまったのかと少し後悔するくらいにかわいかった。


「ねぇ悟」

「な、なんだよ?」

「おかえりって言ってくれないのかな?」

「あ、ああ」


 しかし、申し訳ないが、絵理沙の顔を見て可愛いの次に思ったのは、やっと男に戻れるということだった。

 あと数ヶ月もすればきっと絵理沙は魔法力を回復するだろう。

 そうなれば、俺はきっと元の姿に戻れるはず。

 そんな考えが絵理沙との再開の喜びを上書きしていた。


「お、おかえり?」


 絵理沙の表情がいきなり曇った。


「そっか、私が戻ってきても嬉しくないんだね? 男に戻れるって方が重要なんだ?」

「えっ?」

「だから、私が戻ってきても男に戻れるから嬉しいだけなんだよね?」


 あれ? おかしい? 何だこの反応は?


「あは、やっぱりおかしい?」


 待て! まさか俺の心を読んでいるのか?

 いやない。絵理沙は人の心を読めるはずない。


「ううん、違うよ?」

「えっ?」

「心が読めるんじゃないの。人の考えが、悟の考えが私の中に流れ込んでくるの」

「そ、それって!」


 まさか絵理沙が俺の思考を読める? って、待ってくれ。この能力の持ち主は……。


「そう、これはお姉ちゃんの能力だよ。人の考えがわかる魔法」

「お前……それって」

「私はお姉ちゃんの魔法力をすべて吸収した。そう、望んでもいないのに吸収してしまった」

「そ、そうなのか?」

「うん。そうなんだ。そして私はお姉ちゃんの使える魔法も吸収してしまったみたいなんだ」

「嘘だ……あるのか? そんな事が?」

「うん、あるみたい」

「あ、ご、ごめんな? 俺は別に絵理沙との再開が嬉しくない訳じゃなくって、絵理沙との再開はすごく嬉しいんだ。それは本当にだ」


 すると絵理沙は首を横に振った。


「いいの。だって私は悟にもう振られてるんだもんね? 私の片思いなんだもんね?」


 そう言った時の絵理沙の笑顔がまたしてもとても可愛かった。

 思わずドキっとしてしまうくらいに。

 あれ? そうい言えばまだ俺は絵理沙にもドキッとする?


「本当に? 嬉しいな」

「あぁぁぁ、だから心を読むなって!」


 本当に面倒な能力だ。


「うん、ごめん、面倒で」

「だからーーー」


 両手で顔を覆ってた俺の手をぐいっと絵理沙が引っ張った。


「じゃあいこうか? 早く悟を男に戻さなきゃいけないよね?」

「えっ? な、? 今なんて言った?」

「いいから早くいこ」

「いやいや、だから良くないって。なんだよそこ超展開は? いきなり男に戻すとか? おい!」

「だから、悟を戻すんだよ? ダメ?」

「ダメじゃないけど」

「じゃあいこうか……すべての始まった場所に」


 その深い意味がありげな一言にいきなり不安に襲われた。

 優しく、寂しそうな絵理沙の笑顔に余計不安を感じてしまう。

 しかし俺は素直に絵理沙に手を引かれた。


 ★☆★


 【特別実験室】


 ここはすべてが始まった場所。

 野木絵理沙が俺を殺し、野木輝星花が野木一郎としてつかっていた教室。

 そんな色々な事件がおこった教室に俺と絵理沙は立っていた。


「なぁ、ここで男に戻す魔法を使うのか?」

「まぁ……それに近いかな?」

「それに近いって? 違うのか?」


 絵理沙はうす嫌い教室にあるソファーに腰掛けた。


「まぁ、いいから悟も座りなよ?」

「あ、ああ」


 そして俺も正面に座る。


「あれ? 横じゃないの?」


 ぽんぽんっと右横を叩く絵理沙。しかしまさかここで横に座れない。

 座ってしまうとなんだか襲われそうな予感がするし。


「襲わないけど?」


 また心を読まれた!


「ねぇ、ちょっとだけ話をしない?」

「話?」

「そう、私と悟が出会った話とかさ、あと色々と積もる話もあるじゃない。ちょっと落ち着いてなかったし」

「なんだよそれ?」


 なんて言いつつも俺は絵理沙と色々な話をした。

 それは楽しくもあり、懐かしくもあり、そして苦難の日々を思い出す話でもあった。

 輝星花の事、大二郎の事、そして正雄の事もいっぱい聞かれた。

 今回の件だって納得のゆかない展開にいつつもの質問をした。

 綾香はこの事を知っているのか? どうして絵理沙がここにいるのか?

 しかし、絵理沙はほとんどはぐらかすばかりでまともに答えてはくれなかった。

 俺はそんなにも信用がないのだろうか?

 そしてすぐに話を別の話にすりかえる。

 女性化してモテモテとかおかしいよねなんていきなり話を返るし。


 確かに、言っている張本人も俺が好きだという本気のハーレム状態かもしれない。

 男の戻るのに後悔はしないかってまた聞かれたが、ここまできて戻らない選択はない。

 理由は簡単だ。

 俺はあくまでも妹のふりをしていただけで妹ではない。

 俺は姫宮悟なんだから。元に戻るのは当たり前の事だから。

 綾香だってもう戻ってきているんだから。

 

 話してしている途中で俺はとある疑問を覚えた。

 なんで俺を、それもこんなに急に男に戻そうとしているのかだ。

 俺は絵理沙と出あった事を誰にも報告していない。

 絵理沙の口調からして、絵理沙も誰にも話をしていなさそうだった。


 正雄こそ南の姿の絵理沙に合ったが、中身を綾香だと勘違いしているままだ。

 このままだと、絵理沙とであったのは俺一人という事になる。


 やっぱりおかしい。

 絵理沙はなぜ急に俺の前に現れて、なぜ急いで俺を男に戻そうとするのか?

 誰にも報告しないでいいのか?

 急ぐ理由がどこにあるのか?


「あまり詮索はしない方がいいよ」


 やっぱり心は読まれてしまう。

 こいつだって読みたい訳じゃないかもしれないが、だけどやっぱりこの能力はやっかいすぎる。


「詮索しない方がって……なんで?」

「うーん? なんでもかな?」

「それは答えになってないだろ」

「じゃあさ、男に戻ってからみんなにはサプライズって事にしておこうよ」

「おいおい……」

「まぁ、とりあえず、誰にも話をしなくていいよ(どうせ無駄だから)」

「ん? 最後の方が聞こえなかったんだけど?」

「話をしないでねって念を押したの」


 そういうふうには聞こえなかったけど……。


「絵理沙」

「なぁに?」

「輝星花には逢わないのか?」

「うん。お姉ちゃんに迷惑かけたくないしね」

「じゃあ、和実は今日の事を知っているのか?」

「さぁ……話てないから知らないと思うよ」

「お前、マジでそれでいいのか? 俺だって綾香になってからそんなに時間が経ってる訳じゃないし、今日だって色々あったのに、それで今日男に戻るとか、あまりに急すぎないか? もうちょっと段階が必要なんじゃないのか?」

「段階って何? 別に私たちは劇をしてる訳でも連載ドラマの登場人物って訳でもないのよ? 一気に色々な事がある事だってあるでしょ?」

「そ、そりゃそうかもだけど、それでも誰にも相談しないって言うのはどうなんだよ? 綾香だって南の格好になったままなんだろ? だったら俺を男に戻すついでに綾香も南の姿から戻さなきゃいけないだろ? 先に綾香を戻してもいいんじゃないのか?」


 絵理沙は反応なくじっと俺の話を聞いている。


「やっぱりさ、一応は輝星花と綾香には言っておこう」


 次に、俺は聞いた事のないような絵理沙の怒鳴り声を聞いた。


「悟は男に戻りたくないの!?」


 あまり突然の事に反応ができないでいると。


「私は戻したいの! 今すぐにでも! なのにダメなの? 貴方を男に戻しちゃだめなの!?」

「い、いや、ダメじゃない」

「だったらいいじゃないのよ! 男に戻りたい。すぐに戻る。これでいいじゃない!」

「そ、そうだけど……」


 暗くなった教室の中でも絵理沙の動きはわかった。

 ふと時計を見ればもう夜も八時になっている。


「じゃあ、始めるよ」

「いや、ええと……」

「とめても無駄だから。私はもう覚悟を決めたから」


 すくりと絵理沙が立ち上がった。

 絵理沙はゆっくりと中央のテーブルを回り込むと俺の横に立つ。


「さぁ、手を」

「手って?」

「そう、手を出して」


 そっと伸ばされた絵理沙の手を俺は握った。

 でも、俺を元に戻すのになんで俺の手を握る必要があるのか?


「悟」

「なんだよ?」

「好き……」

「!?」


 不意打ちの愛情表現に戸惑う俺を、絵理沙はぐいっと力強く引っ張った。

 引っ張られた俺の体は簡単にソファーから浮いた。


「ちょ!?」


 そして、そのまますぽりと絵理沙の胸に飛び込んでしまった。


「悟、悟、悟……」


 まさかの絵理沙に抱かれてしまった状態。柔らかいアンドいいにおいすぎる。


「お、おい!?」

「悟、ありがとう、本当にありがとう」

「いや、ちょっと待て」


 唐突に絵理沙は感極まった感じに俺をぎゅっと抱きしめた。


「悟ぅ……」


 しかしおかしい。絵理沙の様子がおかしい。まるで永遠の別れの前みたいな感じがする。

 俺を男にする魔法ってそんなにリスクの高いものなのか?


「絵理沙? 大丈夫か?」


 絵理沙はゆっくりと俺のからだを放した。


「悟、バイバイ」

「えっ!?」


 いきなり光に包まれた。

 暗闇の中で涙を流す絵理沙を目の前にしながら俺は動けず、ただ光に飲まれていった。

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