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第51話 カップルはお互いにどんな些細な事であっても自分の身の回りで起きた出来事をやたらと報告し合いたがるものだ


「…………」


ソファーに横になりながら俺はぼんやりとテレビを眺めていた。


デザートを食べ終わり、後片付けをしようとしたのだが杏子さんと柚子さんに「それぐらいはわたし達がやるからテレビでも見てて」と言われたのだ。


桐生は杏子さんと柚子さんを手伝っている––––という事はなく、萩原に電話をする為に自分の部屋にこもってしまった。何でも俺が泊まりに来た事を報告するんだとか。


どうしてカップルっていうのはああやってどんなに些細な出来事でもすぐに相手に報告したがるんだろうか? きっと彼女がいる、もしくはいた事がある人ならばその気持ちを理解する事ができるのかもしれないが、年齢=彼女いない歴である俺には残念ながら全く理解できない。



ちなみに桐生のご両親は今日は帰って来ないんだそうだ。

そもそも桐生のご両親はここから少し離れた場所で自営業をやっており(何をしているのかまでは知らない)忙しくなるとそこでそのまま泊まってしまう事も珍しくないのだ。


久しぶりにお会いしたかったのだが、流石にこれは俺にはどうしようもない事である。




「あ、電話といえば……」


俺は全く面白味のないただただ下品なだけのバラエティを消し、テーブルの上に置いている自分の携帯を手に取る。


「和と響からの返信はきてるかな……と」


実はここに向かっている途中に2人に『今日は桐生の家に泊まります。明日の朝には帰るのでよろしくお願いします』と送っておいたのだ。


文体が丁寧語なのは単純に阿修羅のごとく怒り狂っていた2人の顔が頭から離れないからだったりする。

情けない話ではあるが、やはりいつでもどこでも怒らせたら本当に恐ろしいのは男ではなく女なのだから仕方ない。




「お、きてるきてる」


携帯を見てみると2人共から返信が来ていた。

早速本文を読んでみる。


『恩を仇で返すような真似をしてしまい本当にすまなかった。あの時は色々あって、冷静さを欠いてしまって周りを落ち着いて見る事ができなかったのだ。許して欲しい。その代わりと言っては何だが、今日は私達の事は一切気にせずに役所の家で楽しんで来てくれ。繰り返しになるが本当にすまなかった。 追伸 熱はもう完全に下がったから安心してくれ。後、半日つきっきりで看病してくれてありがとう。とても嬉しかった』


一通目は和であった。


ちゃんと平熱まで下がっているんだな……よかったよかった。

俺はホッと胸を撫で下ろしつつ、次のメールを開く。




『ごめんなさい。本当に反省していますので許して下さい。わたしが冬夢の言う事を落ち着いて聞いていればこんな事にはならなかったのに……ごめんなさい。お詫びのの気持ちと言ってはなんですが、冬夢が帰って来た時にあっと驚くような物を用意しておきますので……許して頂けると幸いです』



…………ん? これが響からのメール? 顔文字はないし、丁寧語だし…………本当に?


いつもの響からは想像もつかないメールの文体に、俺は思わずこのメールの送り主を確認してしまった。


当たり前といえば当たり前だが、やっぱりこのメールは響から送られてきた物であった訳で。


いやー、まさか響の口から(メールなので指からと言った方が正しいかもしれないが) “わたし” という単語が発せられる日が来るとはびっくりだ。

このメールは消してしまわないようにロックをかけておこう。

もちろん本人には内緒だ。言えば強制的に消されるのは目に見えているからな。






それにしても……俺が帰って来た時にあっと驚くような事をしてくれるみたいだが、何をしてくれるのだろうか。手作り料理か? 家全体の大掃除か? それともそれとも……。



そんな風に色々想像しつつ返信をしていると––––


「とーく〜ん、おわったよ〜」


「あー、疲れたー」


––––杏子さんと柚子さんがリビングに戻ってきた。


「お疲れ様です」


メールを打つ手を止め、2人に労いの言葉を述べる。



「あ、とーちゃんがメールしてる。誰としてるの?」


「もしかして〜、彼女〜? 彼女なの〜?」


「えっ? ああ、えーっと、いや。違いますよ。友達ですよ男友達。俺に彼女なんている訳がないじゃないですか」


俺はニヤニヤ笑いながらこっちにやって来る二人にそう嘘(後半は紛れもない事実だが)をついた。


実は今年の4月から女の子2人と同居してて、その2人とメールしていたんです……だなんてたとえ口が裂けても言える訳がない。

別に同居の事は伏せて「確かに相手は女の子ですけど彼女ではないですよ。ただの女友達です、女友達」と正直に話してもよかったのかもしれないが「やっぱり女の子なんだ〜。あやしいな〜」とか言って徹底的に追及されそうなのでやめておく。こういう時に “女” という単語はおくびにも出してはいけないのだ。



「あー、まあ確かにそうだよね。とーちゃんに彼女ができちゃったりなんかしたら、その翌日隕石が降ってきて地球滅んじゃうもんね」


「だよねぇ〜。とーくんに彼女は奇跡が起こらない限りできっこないよねぇ〜」



すると杏子さんと柚子さんは納得したようにうんうんと頷いて、そんな辛辣な言葉を俺に向けて放った。



「ど、どうしてそう言い切れるんですか? もしかしたら明後日できちゃうかもしれません……よ?」


「いやないね。だってとーちゃん、ヘタレじゃん」


「うんうん。ヘタレだもんねぇ〜。それに鈍いし〜」


「うぐっ」


少しばかり言い返してみるも、いつの間にか目の前まで近寄ってきた2人に即否定されてしまう。

まあ確かに彼女ができない理由は自分でも痛いほどにわかってはいるんだけれども、改めて他人にそれも仲のいい人に面と向かって言われるとやっぱり精神的にキツイものがあるな……。


「という訳で、はい」


「…………え?」


唐突に俺の方に手を差し出してくる杏子さん。

差し出してきた意図が理解できず、俺はただその手をぼんやりと眺める事しかできなかった。


という訳で……ってどういう訳なんだ? うーん、よくわからん。




「あー、もう! わかんないかなぁ? ほら、ケータイ貸して!」


「あっ!」


一瞬の隙をつかれて、杏子さんに手に持っていた携帯をいとも簡単に奪われてしまう。


「ちょ、ちょっと何するんですか!」


慌てて立ち上がる俺。

流石に携帯の中を見られるのはまずい。


和と響の件ももちろんあるが、絶対に他人には見せたくないメール(主にミス アビゲイルさんと雀部さんである)がたくさんあるのだ。

あんなえげつないメールを見られたら俺は一生二人に顔を合わせる事ができなくなる。桐生にそのネタで一生バカにされ続ける事間違いなしだ。



「杏子さん! 返して下さいよ!」


「ちょっと待ったちょっと待った。すぐ終わるから」


強い口調で迫ってみるも、杏子さんは一向に返してくれる気配を見せない。それどころかどこからともなく自分の携帯を取り出し、何やらいじくっている。


柚子さんはニコニコ笑っているだけで杏子さんに何も言わないし…………仕方ない。相手が女性だから相当気は引けるが力づくで取り返そう。

確かにこの場の空気は悪くなるかもしれないが、メールを読まれて俺があっち系だと誤解され、蔑んだ目で見られるよりは何倍もマシだ。



「杏子さん! いい加減に––––––––」


「よしっ! とーちゃんありがと」


俺が奪い返そうと携帯に手を伸ばしたまさにその瞬間。

あろう事か杏子さんは携帯をこっちに投げてきた。


「えっ? あっ、ちょっ!」


不意をつかれ危うく落としそうになったが、何とかキャッチする事に成功する。


ちなみに俺の使っている携帯は中学入学当時から使っている物で、ここ最近動作が不安定な時が増えてきていたりする。スピーカーが途切れたり電源が突然切れたり。

買い換えなければいけないのはわかっているのだが、手続き等が面倒だしそもそも携帯自体が高いので放置しているのだ。


ここで落としていたら十中八九壊れていただろうな……危ない危ない。


「ちょっと〜杏子さん! 何したんですか? まさかメールフォルダ覗いたりしてませんよね?」


「ん? 流石にそんな事はしないよ。ただとーちゃんのケータイ番号とメアドを登録させて貰っただけ。はいこれ、とーちゃんのメアドとケータイ番号ね」


柚子さんに自分の携帯を渡しながらそんな事を言う杏子さん。


「俺の電話番号とメアド……ですか」


「そうそう。最近、母さんと父さんが家に帰ってくる事がだんだん減ってきてさ、そうなると自然とわたしと柚子で家事とか––––少なくともご飯は作らなきゃいけなくなる訳じゃん? 桐生は全くそういう系できないから」


「あー……そうですね」


そこそこ成績のいい(毎回上から三分の一には入っている)桐生だが、家庭科だけは苦手らしく大きく平均を下回る点数を取っているのだ。


特に料理は和並みに––––いや、それ以上に壊滅的であり、見た目も味もこの世の物とは思えないレベルの出来である。

別に作り方が間違っている訳ではないのだ。入れる物の量は正しいし、勝手にアレンジを加えるといった事もない。


しかし不思議な事にいつのまにか何か不気味な物体に変化してしまうのだ。


何度もアドバイスをしたり横について桐生が料理を作っている所を見たりもしたのだが、一向に改善される気配は見られなかった。


あそこまでくるともう一種の才能なんじゃないかと思えてくる。


ちなみにこの前、メイド服の件で散々いじらられた時にこれをネタにいじり返したのだが、桐生が本気で凹んでしまったのでそれ以降は封印していたりする。



「でもわたしも柚子もそんなに料理ができる訳じゃなし、そもそもわたし達大学生だからさ、ちょっと時間的にも体力的にも厳しい時があるんだよね」


「そうそう。だからね〜今日もとーくんが来なかったら〜作るのしんどいし〜ピザ注文しよ〜って話だったんだよ〜。はい、杏子ちゃん。ケータイありがとねぇ〜」


俺のメアドと携帯番号を登録し終わったらしく、柚子さんが話に加わってきた。


「ああ、つまり俺からいつでも助言を得られるように…………って事ですね?」


「あー、まあざっくり言っちゃえばね。そういう事。でも純粋にとーちゃんとメールしたいって気持ちもあるよ」


「うんうん。とーくんと話してると楽しいしね〜」


「そ、そうですか?」


「うん。ほんとだよ〜。とーくんって〜話上手だし〜家事もこなせちゃうし〜周りに気配りもできるし〜後は女心を理解できれば完璧なのにね〜」


「うぐっ……それを言わないで下さいよ〜。何だかんだで気にしているんですから〜」


「あ〜、その〜ごめんねぇ。まさかそこまで気にしてるとは思わなくて」


二人に褒められて若干テンションが上がった俺であったが、柚子さんの遠慮のない一言で一気に通常のラインまで叩き落とされてしまった。



ネットで調べてみたり恋愛小説を読んでみたり桐生にアドバイスを貰ってみたりと、現在進行形で頑張ってみてはいるんだけどなぁ……。相変わらず周りからは「女心を理解できていない」だの「鈍い」だの「唐変木」だの、手厳しい評価が下され続けている。


はぁ……女心って本当に難しいな。複雑怪奇摩訶不思議。マスターできるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。



「いや、いいですよ。悪いのは自分ですし。それよりせっかくですから今、簡単に作れるおかずのレシピをいくつかお教えしましょうか?」


「ほんと?」


「ええ、ちょっと手間はかかりますけど長持ちするおかずとかもお教えしますよ。紙とペンありますか?」


「ちょっと待っててぇ〜。すぐに取ってくるから〜」



さて、どんなレシピを教えようかな? やっぱり手軽さを最優先するから––––


パタパタと危なっかしく走る柚子さんの後ろ姿を眺めながら、俺は何を教えようかな考えるのであった。




吾妻 深千流(以下深)「深千流と」


吾妻 弥千流(以下弥)「弥千流の」


深・弥「かみるーらじお!」


深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」


弥「はろ~! 鳳凰学園高校2年の吾妻 弥千流だよ~。ちなみに、わたしは放送部副部長やらせて貰ってま~す」


深「“かみるーらじお!”とはもっと読者様に“神√”を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」


弥「ゲストを呼んでフリートークをしたり、リスナーの皆からのお便りを読んだり、質問に答えたりしちゃうよ~」


深「最近、ようやく秋に近づいてきましたね」


弥「だね〜。まだ日中は暑い日もあるけど、夜はだいぶ涼しくなってきたよね〜」


深「ちょっと前までエアコンなしでは寝る事ができなかったのが嘘みたいです」


弥「それにしても大雨が降った時はびっくりしたよね〜。大変だったしさ〜」


深「そうですね。とっても大変でしたけど、あの大雨のおかげで水不足を解消できた地域もあるみたいですし、一概に大雨がよくないとは言い切れないですよね」


弥「う〜ん……難しいところだね」


深「さて “第51話 カップルはお互いにどんな些細な事であっても自分の身の回りで起きた出来事をやたらと報告し合いたがるものだ” いかがでしたでしょうか?」


弥「いや〜、いつも通りと言えばいつも通りなんだけど内容が薄いね〜」


深「そもそもこの “役所家お泊まり編” はただ単に双子のお姉さんキャラが書きたいってだけで急遽組まれた話ですからね。プロットもろくに作ってなかったみたいですし」


弥「はぁ〜……ちゃんと内容を決めてから作って欲しい物だよね〜。じゃあ久々のゲストを呼ぶよ〜」


深「ゲストの方はこちら! 役所 杏子さんと柚子さんです」


役所 杏子(以下杏)「どうもー、役所 杏子でーす」


役所 柚子(以下柚)「柚子で〜す」


深「お久しぶりです。杏子さん、柚子さん」


杏「いやー、深千流久しぶり。元気してた?」


柚「久しぶり〜深千流ちゃん。卒業式を最後に会ってないからぁ〜3年弱ぶりかな〜?」


深「そうですね。お二人共、あの時から全然変わってませんね〜」


杏「そう? そういう深千流も全然変わってないけどね」


柚「そうだね〜。スタイル以外は全然変わってないねぇ〜。それに比べて杏子ちゃんはぁ〜」


杏「なっ? うっ、うるさいっ! わたしは美乳なの!」


柚「え〜? どうしたの杏子ちゃん? わたし、まだ何も言ってないよ〜?」


杏「うっ…………またはめられた……」


深「ふふふっ。やっぱり変わりませんね」


弥「あの〜、お姉ちゃん?」


深「どうしました?」


弥「お姉ちゃんって杏子さん 柚子さんと知り合いなの?」


深「あれ? 私、話していませんでしたか? お二人は私が高1の時の生徒会長と副会長だったんですよ。ちなみに杏子さんが生徒会長で柚子さんが副会長でした」


弥「ええっ! そうだったんですか? 聞いてないよ〜」


杏「あー、まあね。最初は別にやる気なかったんだけど、誰も立候補する人がいなくてねー。だったらわたし達でやろうよ話になってさ」


柚「深千流ちゃんは高1代表だったんだよね〜。しっかりした後輩だなぁ〜って思った記憶があるよ〜」


弥「へ〜、そうだったんだ〜。わたし、お姉ちゃんが高1代表をやってた事も知らなかったよ」


杏「で、何するんだっけ? 確か色々質問されるんだよね?」


深「あ、その件なんですが……すいません。今回はやりません。延期です。リスナーの皆さんに伝える事が多々ありますので」


柚「えぇ〜そんなぁ〜。ひどいよぉ〜深千流ちゃん。せっかく何でも答えられるように2時間かけてメモを作って持って来たのに〜。無駄になっちゃうの〜?」


深「あー、落ち着いて下さい柚子さん。次回に持ち越しですから。中止じゃないですよ!」


柚「あ、そっかぁ〜。ごめんね。聞き間違えちゃって」


深「いえいえ。構いませんよ。そういう事は誰にだってありますし」


柚「ありがとぉ〜」


弥「じゃあ早速お知らせそのいちっ!」


深「なんと! mickさんから表紙風イラストを頂いちゃいました〜」


弥「描いて頂いたキャラクターは前回のキャラ人気投票で2位3位だった なごみん と ひびきん だよ〜! 一番下にのせておくからみんな見てね〜! 続いてお知らせそのにっ!」


深「またまたやっちゃいます! 第二回キャラ人気投票!」


弥「近い内にまた前回と同じようにアンケートページへのリンクをのせるから、待っててね〜!」


杏「これってあれ? もしかしてわたし達も対象に入ってるの?」


深「ええ、もちろんです。“神√” に一度でも出てきたキャラが対象ですから」


柚「う〜……杏子ちゃん。わたし達、ちゃんと票はいるかなぁ〜? ちょっと不安だよぉ〜」


杏「だよねー。わたし達、登場して間もないし……」


弥「大丈夫ですよ。前回の投票では全員に一票は入ってましたからね。それに読者はほとんどが男性ですから女性キャラは自然と票が入るんです」


柚「へぇ〜、そうなんだぁ〜。みんな〜、わたしと杏子ちゃんをよろしくね〜」


弥「じゃあお姉ちゃん、今回はしめちゃって」


深「はい。 “神√” を読んでいて疑問に思った事や、このキャラとこんなトークをして欲しいという要望があれば、感想やメッセージ、活動報告のコメント欄からお知らせ下さい。また、誤字脱字や矛盾点などがありましたら、ご報告よろしくお願いします。他にも感想や評価、レビューなどもお待ちしております」


弥「じゃあまたね〜」


杏・柚「「ばいばーい!」」











挿絵(By みてみん)




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