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第50話 あゝ 胃袋よ 僕の胃袋よ もっと強靭たれ もっと貪欲たれ


「よし、できたっと」


柚子さんと杏子さんが帰ってきてから約30分後。

ようやくデザートを作り終える事ができた俺はそのデザートを冷蔵庫の中にしまい、具材を盛り付けた海鮮丼をトレーに乗せみんなの待つ食卓へと向かう。



「遅くなって悪い。思いのほかデザートを作るのに時間がかかって……」


「いよっ! 待ってました!」


「いやいやいいんだよ〜。とーくん、ありがとね〜」


「久々のとーちゃんの手料理。楽しみだね」


「はい、どうぞ。蓋はまだ開けないでね」


3人にそう忠告しつつ、海鮮丼を配っていく。

蓋をしている理由は食べるギリギリまでわからない方が色々と想像が膨らんで、ぐっと食べる楽しみが増すからだ。


人によって考え方は違うかもしれないが、俺は料理は楽しみながら食べてこそだと思っている。

だから家でご飯を食べる時はなるべくみんなで食べるように心がけているし、少しでも食事を楽しめるように色々と工夫を凝らしてみたりしている。


この蓋をギリギリまで開けないように促したのも工夫の内の一つだ。

3人とも楽しんでくれると嬉しいんだけど……。


全員に配り終わり、最後に自分の分を持って席に座る。


ちなみに俺の横は桐生で、食卓を挟んで俺の前に杏子さん。桐生の前に柚子さんといった具合だ。



「ね〜、とーくん。もう開けてもいい? 早くとーくんの手料理食べたいよ〜。ね? いいでしょ〜?」


子犬のようにウルウルさせた目で見上げてくる柚子さん。


あまりの可愛さに思わず「いいよ! もう開けちゃって!」と言いそうになったが、和の看病で鍛えに鍛えた理性を動員して何とかこらえる。


このような可愛い仕草を全部無意識でやっているっていうんだから柚子さんはつくづく恐ろしい人である。


またマイペースでややわがままな所がある為、時々周りがびっくりするような言動をとったりする。


そうなった柚子さんを止めるのが––––


「柚子! まだいただきますしてないんだし、勝手に開けちゃダメ!」


––––杏子さんの役目だったりする。


柚子さんとは違って杏子さんはしっかりしており、周りへの気配りがとてもできる。そして運動もよく(柚子さんは全然運動ができなかったりする)高校生の時にはバレー部キャプテンもやっていたほどだ。

そのように性格が真逆な2人なのだが、悲しいかな。胸の大きさも全くの真逆なのだ。


立派な胸を持つ柚子さんに対し、杏子さんは––––流石に響や悠里レベルとまではいかないが––––残念な胸の持ち主である。


本人は「これは美乳であり貧乳ではない」と言い張っているのだが「微乳の間違いでは?」とついつい思ってしまうのは俺だけではないはずだ。


一年経ってもやっぱりと言うか何と言うか杏子さんの胸は相変わらず残念なままだなぁ……。



「ん? どうしたのとーちゃん。わたしの方をじっと見てさ。何か顔についてたりする?」


「え? ああ、いえ何でもないですよ」


「そう?」


「え、ええ。さあ、ほらそんな事より食べましょう。いただきます」


「「「いただきまーす」」」



さて、喜んでくれるだろうか?


揃って丼の蓋を開けようとする3人を期待半分不安半分で見つめるのであった。
















「あー……やっぱり美味いな〜。冬夢の料理は」


「ほんとだね〜。こんなに美味しい海鮮丼初めて食べたよ〜」


「あぁ……桐生もとーちゃんの半分––––いや、10分の1でいいから料理ができればわたし達も楽になるんだけど……」


「悪いけど俺、料理はもうとっくに諦めてるからね? 俺には料理は向いてないんだ。学校で調理実習やってみてそれが痛いほどよ〜くわかった」


「はぁ……我が弟ながら情けない」


あっという間に空になった丼を俺は再びトレーに乗せていく。


いやー、みんなが喜んでくれて本当によかった。

蓋を開けた瞬間の3人の驚きと喜びが混じった顔といったら……。


料理はこうだからやめられないんだよな。

頑張れば頑張るほど自分も満たされるし相手も満たされる。努力の結果がはっきりと実感できる。それが楽しくて仕方がない。

料理のスキルを磨く事ができたという点では勝手に出て行った両親に感謝である(もちろん迷惑の方が多いが)。



「ど〜したの〜? とーくん、ニヤニヤしちゃって〜? 何か良い事あったの〜?」


柚子さんがいきなりそんな事を聞いてきた。


「えっ? ああ、い、いえ。その…………ニ、ニヤニヤなんてしてないですよ?」


ううっ…………どうやらみんなに喜んで貰えた嬉しさが顔にまで出てしまっていたようだ。


何だか素直に認めるのも恥ずかしいので、俺は柚子さんから目を逸らしつつ白を切る。



「え〜、嘘だぁ〜。絶対とーくん、丼持ちながらニヤニヤしてたよ〜。ね〜、何があったの〜」


しかしそれでも柚子さんはしつこく食い下がってきた。


好奇心がとても旺盛で一度気になった事があったらとことん掘り下げるんだよなぁ、この人。

まあ、その好奇心は長続きしない為、しばらく白を切り続ける事ができれば大丈夫なのだが……。



「えーっと……その……そっ、そうだ! デザート取って来ますね!」


「あっ、とーくん!」


……これ以上柚子さんに追求されてはいずれボロが出てしまうかもしれない。


そう直感した俺は逃げるようにキッチンへと向かった。










「ふぅ……危なかった」


丼を簡単に水洗いしつつ、俺はホッと息を吐き出した。


いやー、危なかった。まだ柚子さんと杏子さんだけなら正直に認めて理由を話しても良かったが、なんせ桐生もいるからなぁ……。


あいつの事だ。理由を聞いたら絶対にからかってくるに違いない。

絶対に人の秘密を他人に言いふらす事はしないが、周りに誰もいないと散々その事でからかってくるのだ。

高校入ってすぐぐらいの時に「好きなタイプはメイド服が似合う人だ」と話したら(どういう話の流れでそれを喋ったのかは覚えていない)その後しばらくいじられまくったという苦い経験があったりする。


いつか仕返ししてやろうと、桐生が何か自分の恥ずかしい秘密をぽろっと喋ってしまう時をずっと待ち続けているのだが、残念ながら未だに仕返しのチャンスは来ていない。


あいつ、無駄に隠し事が上手いんだよな……。


「…………はぁ……あの時の事を思い出したら何だか悲しくなってきた」


いっその事、今から桐生の部屋に忍び込んで弱みを握れる物はないか探してやろうかとも思ったが、それは流石に卑怯な気がする。


かと言って俺の力だけでは一生桐生に復讐できそうにないしな……柚子さんと杏子さんに今度こっそり聞いてみるかな。


冷蔵庫から大きな皿に乗せたメロンを取り出しながらそんな事を思うのであった。









「デザート持って来ましたよ〜」


「わ〜、メロンだメロン〜!」


「おー、結構大きいじゃん。高かったんじゃない? これ」


「いえ、そんなに高くないですよ。行きつけのスーパーの青果店のおばちゃんと知り合いでして、安くで売って貰ったんです」


「へー。いわゆるお得意様ってやつね」


「ええ、まあそうですね……ってあれ? 桐生はどこに行ったんですか?」


なぜか食卓には柚子さんと杏子さんしかいなかった。


隣のリビングにいる訳でもなさそうだし……どこへ行ったのやら。



「きーくんなら電話がかかってきて自分の部屋に行っちゃったよ〜。『デザート、先に食べといてくれ』だって〜」


「ああ、なるほど」


電話か…………まあ十中八九萩原からだろうな。羨ましい。

が、妬んだ所で俺に彼女ができる訳でもなし。柚子さんと杏子さんと俺の3人で先に食べ始めるとしよう。


…………んん? ちょっと待て。

もしかして今、桐生の恥ずかしい話を聞き出す絶好のチャンスなんじゃないのか?

萩原の電話だったらしばらくはこっちに戻ってこないだろうし……。


善は急げだ。早速2人に聞いてみるとしよう。フフフ……これで桐生に復讐する事ができる。



「あの、柚子さん杏子さん。デザートを食べる前にちょっといいですか?」


メロンと人数分の小さな皿とフォークを食卓の中央に置いて、2人に尋ねる。


「ん〜? な〜に?」


「いいけどどうしたの?」


「えーっとですね……きり––––」


「ごめんごめん! 急に部活の後輩から電話がかかってきてさ〜」


俺が2人に聞こうとしたまさにその時、桐生が部屋に戻ってきた。


「…………」


な、何だ? この見計らったようなタイミングは? ここには監視カメラでも設置されていて、桐生がずっと部屋の様子を把握しているのか?

それともあれか? 神である和と響を蔑ろにして桐生の家に来た俺に天罰でも下ったとでもいうのか?


ただ単純に俺に運がないだけなんだろうが、そう思わずにはいられない。

それ程に桐生が部屋に入ってきたタイミングは神がかっていた。



「あ〜、これでみんなで揃ってデザートが食べられるね〜。で、きーくん。何の用かな〜?」


「…………いえ、やっぱり何でもないです」


「ん〜? いいの〜? 変なとーくん」


「顔も何だか暗いし……どうしたの?」


「え? 何? 俺がいない間に何かあったの?」


「まあ……色々あるんです、はい」


まさか桐生がいる前で正直に話せる訳もなく。かと言って咄嗟に上手い代案を考える気力もなく。


俺は曖昧な返事をしつつ、小さな皿とフォークを配るのであった。








「ねえとーちゃん。ずっと気になってたんだけどさ」


「何ですか?」


皿とフォークを配り終え、自分の席に座ったところで杏子さんが話しかけてきた。


「あのメロン、今から食べるんだよね?」


「ええ、そうですけど。どうかしたんですか?」


「何で包丁を置いてないのかなぁと思って? もしかして忘れたとか?」


「あー、それ。俺も気になってた。まさかメロンの丸かじりなんて事はないよな?」


「メロンの丸かじり〜? そんなの歯が折れちゃうよ? やめといた方がいいんじゃないかな〜? ね〜、とーくん」


「いやいやいやいや……メロンの丸かじりなんてそんな馬鹿げた事はしないし、忘れたわけでもない。ほら、ちゃんとおたま置いてあるでしょ?」


俺がそう言って、メロンの横に置いてあるおたまを指差すと杏子さんと桐生、更には柚子さんまでもが露骨に呆れたような顔をする。


あらかじめ予想していた通りの反応なのだが…………実際にやられると結構きついな、これ。



「いや、誇らしげに『おたま置いてあるでしょ?』って言われてもなぁ…………。流石の俺でもリアクションに困るぞ? 大丈夫か? 冬夢」


「とーちゃん本当に大丈夫? さっきのあれといい、何かちょっと変だよ?」


「ねえとーくん。もしかしてお熱があるんじゃないのかな〜? しんどかったら言ってね〜? 体温計取って来てあげるよ〜?」



むむむ。「も〜何言ってんだよ〜! 冗談も大概にしろよ〜?」みたいな感じで呆れながらも、ギャグとして受け取ってくれるだろうと予想していたのに、まさか本気で心配されるとは。


まあいいや。

多少胸に突き刺さるものはあるが、まだメロンの仕掛けには気づかれていないみたいだし、ここらでネタばらしといこう。



「このメロンはですね……実はこうなっているんです!」


俺はメロンの一番上にあるT字の形に切り整えられたつるの部分を掴み、そのまま引き上げた。


するとあらかじめ切り取っておいた上部2cm程が鍋の蓋のように持ち上がり、中身が露わとなる。


「「「お〜!」」」


中を覗き込んだ3人が感嘆の声をあげる。


「どうです? 包丁ではなくおたまを使う理由がわかりましたか?」


おたまを手に取り、そんな事を尋ねる。



「わかったわかった。いやー、まさかこんな事になってるとは驚いたなぁ」


「こんなに手の凝った物をあの短時間で作るなんて、流石とーちゃんね」


「わ〜すご〜い! とーくんって何でもできちゃうんだね〜!」


よし! とっても喜んで貰えたみたいだ。

これを作るのは初めてだったのだが、上手くいってよかった。


一体何を作ったのかというと––––


「ね〜とーくん。これって杏仁豆腐だよね〜?」


「ええ、そうですよ」


––––そう、果物たっぷりの杏仁豆腐だった。

と言っても、杏仁豆腐自体は作っていない。杏仁豆腐はスーパーで買ったものである。


俺がやったのはメロンの中身をくり抜き器を作り、そこに一口サイズに切った果物(みかんにキウイにパイナップルにさくらんぼにぶどうに白桃。そしてもちろんメロンも)と杏仁豆腐を入れ、自作のシロップを注いだぐらいだ。


メロンの中身を綺麗にくり抜くのが思いの外難しく、また納得のいくシロップがなかなか完全しなかった事もあり、内容の割には恐ろしく時間がかかってしまったが、苦労して作った甲斐は十二分あったと思う。



やっぱり料理っていいよな。



目を輝かしている3人を見て、改めてそう実感する俺であった。











吾妻 深千流(以下深)「深千流と」


吾妻 弥千流(以下弥)「弥千流の」


深・弥「かみるーらじお!」


深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」


弥「はろ~! 鳳凰学園高校2年の吾妻 弥千流だよ~。ちなみに、わたしは放送部副部長やらせて貰ってま~す」


深「“かみるーらじお!”とはもっと読者様に“神√”を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」


弥「ゲストを呼んでフリートークをしたり、リスナーの皆からのお便りを読んだり、質問に答えたりしちゃうよ~」


深「さて “第50話 あゝ 胃袋よ 僕の胃袋よ もっと強靭たれ もっと貪欲たれ” いかがだったでしょうか?」


弥「う〜ん……何だか中身がありそうに見えてなさそうにも見える、何とも言えない回だったね〜。一ノ瀬の料理の話だけで終わっちゃったし」


深「まあ、たまにはこういう回があってもいいんじゃないんでしょうか? 一ノ瀬君は料理部部員ですし、料理の事になると夢中になってしまうのは仕方ないですよ」


弥「あ〜、まあ確かにそうだね〜。わたしもお姉ちゃんも演劇の事となると夢中になっちゃうしね〜。人の事は言えないね〜」


深「話は変わりますが、お泊まり回は次回で終わりだそうです」


弥「へ〜。お泊まりならではのイベントとかがあったらいいね〜。みんなで何かして遊ぶとかさ〜。例えば人生ゲームとかで」


深「トランプとかも面白そうですね。ババ抜き 大富豪 スピードなどなど遊び方も様々ですし」


弥「だね〜。あ、そういえば次回のかみるーらじお! にはゲストとして杏子さんと柚子さんが来るんだって?」


深「ええ、そうなんです。『リスナーの皆様に新キャラクターであるお二方をもっと知って貰おう』という訳で次回起こし頂いて、簡単な質問に答えて頂く予定です。質問内容はこちらで用意しますが、もちろんリスナーの皆様からの質問も受け付けておりますので、杏子さんと柚子さんにこんな事を聞きたい! と言った事があれば感想欄の方にお書き下さいね」


弥「なるほどね〜。そ〜いやさ、お姉ちゃん」


深「ん? どうしました?」


弥「あのさ、わたし未だに杏子さんと柚子さんの名前を聞いただけじゃ区別つかないんだよね〜。もちろん顔を見たらすぐわかるけどさ。お姉ちゃんは名前を聞いただけでちゃんと区別つく?」


深「確かに区別難しいですよね。私も最初は迷いましたけど……ほら、柚子って何だか癒しのイメージがありません?」


弥「あ〜、あるある。柚子風呂とかあるしね〜」


深「そして柚子さんって何というか……こう、ぽやぽやとした性格じゃないですか。やや強引かもしれませんが、その性格と柚子のイメージを結びつけました。杏子さんはその逆と覚えてます」


弥「あ〜、上手く言葉には言い表せないけどお姉ちゃんの言いたい事よくわかるよ。確かに覚えやすいね〜、それ」


深「まあその辺も含めて次回、本人に直接聞いてみればいいんじゃないですか?」


弥「元鳳凰学園高校の生徒らしいし、昔の学校の面白い話が聞けるかもね〜」


深「そうですね。今から楽しみです。さて “神√” を読んでいて疑問に思った事や、このキャラとこんなトークをして欲しいという要望があれば、感想やメッセージ、活動報告のコメント欄からお知らせ下さい。また、誤字脱字や矛盾点などがありましたら、ご報告よろしくお願いします。他にも感想や評価、レビューなどもお待ちしております」


弥「じゃあまたね〜」







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