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第47話 24時間働けますか?


「なあ、響。ちょっといいか?」


中間試験最終日の翌日である土曜日の昼。

俺は玄関で靴を履こうとしている響に声をかけた。


「ん? どーした、冬夢? 行き先ならちゃんと伝えたぜ?」


「あー、そうじゃなくて……」



ちなみに、響は今から昨日入った手芸部(響は恥ずかしがっていたが、ぬいぐるみ好きの響にはぴったりだと俺は思っている)の部員と手芸を始めるにあたって必要な道具を買いに行くんだそうだ。



「ん? だったらなんだ?」


「いや、和の奴、どうしたんだろう? と思ってさ」


「どうしたんだろうって、何が?」


「何が……って、昼になっても起きてこないんだぞ? おかしいと思わないか?」


そうなのだ。和が昼になっても起きてこないのだ。

和はもともと休日はゆっくり寝る派なので平日よりも起きてくるのは遅いのだが、それでも11時頃には必ず起きてきた。

しかしなぜか今日は1時になっても未だに起きてこない。


本当なら今からでも部屋に入ってどうなってるか確かめたい所だが、年頃の女の子の部屋に(しかも眠っているのだ)勝手に入るのは流石に気が引ける。



「別におかしくも何ともねーじゃねーか。だって和の奴、試験期間中ほとんど徹夜状態だぜ?」


「そうだったのか?」


「何だ、知らなかったのか? 和の勉強スタイルはコツコツ積み重ねるタイプじゃなくて、一日で一気に築き上げるタイプだぜ? 一夜漬けって基本的に失敗するのに、和は絶対に失敗しねーんだよなぁ。効率は決してよくねーんだろうけどさ」


「あー、そうだったのか。それなら仕方ないな」


確かに最近、物凄く疲れたような顔をしてたな。夜遅くまで勉強しているとはわかっていたが、まさかほぼ徹夜状態だったとは……。

俺なんか一日徹夜しただけで翌日フラフラなのに、それを何日も連続で…………。いやはや、やっぱり和は凄い奴だ。


響の言うように、効率が非常に悪いのは確かだが。



「んじゃ、行ってくるわ。晩ご飯前にはちゃんと帰ってくるつもりだから」


「わかった。後、帰る前に電話してくれると助かる。響が帰ってくる頃にちょうど晩ご飯ができあがるようにしたいからさ」


「おっけーおっけー。くれぐれも和を起こすような事はすんなよ? じゃ、行ってきます」


「おう。いってらっしゃい」


俺は響を見送り、玄関の鍵を閉めた。


「さて……どうしようか」


当初の予定では昼から全部の部屋(ただし和と響の部屋は除く)を掃除して回るつもりだったのだが……。掃除機の音で和が起きてしまうかもしれないし、今日はやめておこう。


……とりあえず、洗濯物にアイロンをかけていくか。


ためてしまったアイロン待ちの洗濯物の山を思い出し、若干ブルーな気持ちになりながら、俺はリビングへと戻るのであった。







「くーっ! ようやく終わった〜!」


アイロン開始から一時間と少し。

ようやく地獄から解放され、俺は座っていたソファーにそのまま横に倒れこむ。


どうしてアイロンはこんなにもしんどいのだろうか? もう何年も家事をやってきているが、未だにこれだけは慣れない。


あー…………アイロンがけもしてくれる洗濯機とか開発されたらなぁ。今すぐにでも買うのに。


HIT○CHIでもPanas○nicでもどこでもいいから作ってくれないものかな…………。



そんな事をぼんやりと考えていると––––––––


「お!」


––––––––廊下の方からトン トン トンと誰が階段を降りるという音が聞こえてきた。


…………ようやく和の奴、起きて下に降りてきたか。

きっと腹ペコだろう。ご飯の用意をしてやらないとな。



キッチンに向かう為、ソファーから起き上がった俺であったが、そこである異変に気づいた。


「…………いくら何でも階段を降りるのに時間をかけ過ぎじゃないか?」



聞こえてくる音から判断するに、一段降りるのにだいたい5秒はかけている。


もしかしてまだ寝ぼけてるのか?


「はぁ……危ない事するなぁ。足を滑らせたらどうするんだよ……」


俺は様子を見る為に階段の方へ向かう事にした。





「おーい、なごみー寝ぼけてるのかー? 危ないぞー。––––––––って、和⁈」


予想していた姿と全く違う姿をしていた和を見て、俺は思わず声を荒げてしまう。


「…………冬夢か……おはよう」


「ああ、おはよう––––って、そうじゃない! おい、大丈夫か⁈」


「……何を言っているのだ……私は大丈夫だぞ?」


「いやいやいやいや……」


髪はボサボサ。顔は赤く、目は虚ろ。体もふらついているし、階段を降りるのも物凄くしんどそうだ。とてもじゃないが大丈夫には見えない。



……これは熱をはかってみた方が良さそうだな。


とりあえず和は自分の部屋に戻ってベッドで休んどいて貰おう。

でも、今の状態の和では自分の部屋に戻るまでにぶっ倒れてしまいそうだし…………やりたくはないが、仕方ない。



「和、しっかりと掴まってろよ」


俺は和の背中と膝の裏に手を回し、持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。



「…………ん……」


自分で「大丈夫だ」と言っていたし、ちょっとぐらいは抵抗するものだと思っていたが、和は全く抵抗する事なくお姫様抱っこを受け入れた。口では強がっていたものの、やはり相当しんどいのだろう。



「うわっ……あっつ」


腕から伝わってくる体温はとても高く、熱い。下手すれば38℃ぐらいあるんじゃなかろうか。



「和、両手を俺の首に回してくれないか? 階段を上るにはこのままだとちょっときつい」


「…………ん……」


俺の言葉に素直に従い、首に手を回し、体を密着させてくる和。


当然、響とは比べ物にならない程の(決して響のを卑下している訳ではない。あれはあれで魅力的だ)存在感を誇る “あれ” が押し付けられる訳で。



「––––––––っ⁈」


和のパジャマ越しに伝わってくるあまりにもリアルな柔らかい感触…………もしかして、和つけてないのか? ちらちら谷間まで見えるし……。


くそっ。だからお姫様抱っこは嫌だったんだ。理性が吹き飛ぶのを抑えるのがどれだけ大変な事か……。


和と響と一緒に暮らし始めて約一ヶ月。

色々とあった中で、一度も獣と化さなかった事を誰かに褒めて欲しいぐらいである。




落ち着け俺……落ち着け俺……。人間としての道を踏み外すんじゃない……。冷静になれ……。



和の胸から意識を全力で逸らしつつ、俺は和を運ぶのであった。








「おーい、和。入るぞー」


そう一言かけて、俺は和の部屋に入った。


和の部屋は響の部屋と比べて非常にこざっぱりしている。

置いている家具も “茶色” を基調としたシンプルなものでまとめており、特と言って目立った場所はないのだが……。

置いてある小物が色々とカオス過ぎる。



本棚には唐揚げについて書かれた本や雑誌(所々に普通の本が並べられているのが、余計にカオスさを引き立てている)が並べられ、壁には「唐揚げ同好会終身名誉会員証明書」と「唐揚げ検定一級合格証書」が額縁に入れて飾ってある。

また、机の上には表紙に「唐揚げについての考察 No.14」と和の達筆な字で書かれたノートが置かれている。


唐揚げの事だけで14冊も一体何を書いたのか気になりもするが、今はそんな事をしている場合ではないので、スルーする。



「ああ……冬夢か……すまないな、迷惑をかけてしまって」


もちろん和は頭に冷○ピタを貼って、ベッドで寝ている。先ほど熱をはかってみたのだが、思っていたほどは高くはなく、37.5℃だった。

恐らく徹夜を何日も連続で続けた事で体調を崩してしまったのであろう。




「とりあえずお粥を作ってきたぞ。お粥、食べれるか?」



そう言えば和がここにやって来たあの日、急に倒れてしまった俺の事を心配して和はお粥を作ってくれたんだよなぁ。結果は散々たるものだったが。

あの時は純粋に嬉しかったなぁ……。つい一ヶ月ちょっと前の出来事なのに、ずいぶん昔の事に感じられる。


まあ、この一ヶ月ちょっとの間に色々な人と出会い、色々な騒動に巻き込まれ尽きたから仕方ないと言えば仕方ないのだが。



そんな事を思いながら、俺は下で作ってきたお粥の入ったお椀を和に見せる。


しかし和は––––


「…………」


––––黙って首を横に振り、お粥の入ったお椀を受け取ろうとしなかった。


「あー、お粥はちょっときついか。だったらうどんはどうだ?」


「…………」


「アイスは?」


「…………」


「摩り下ろしリンゴは?」


「…………」


いくつか代案を挙げてみるも、和は横に首を振るばかり。




うーん、これは困った。

熱を早く下げるには当然薬を飲む必要がある。しかし、事前に何も食べずに薬を飲んでしまうと胃が荒れてしまうのだ。


かと言って、無理矢理何かを食べさせる訳にはいかないしな…………さて、どうしたものか。



などと俺が頭を悩ませていると––––


「…………そ、そのだな……冬夢……」


––––和がおずおずといったように話しかけてきた。


「ん? 何か食べたいものでもあったか?」


「…………いや…………そうではないのだが…………そのだな……」


なぜかそこで口をつぐんでしまう和。一体、どうしたんだろうか?


まさか無理矢理聞き出す訳にもいかないので、俺は和が続きを話すのを待つ事にした。



…………まさかとは思うが、唐揚げが食べたいとか言い出すんじゃないだろうな?


いや、和の事だ。あり得なくはない。と言うか、もうそれしか考えられない。

「私にとって最善の薬は唐揚げだ! 早く唐揚げを持って来い!」と誇らしげに言い放つ和の姿が容易に想像できてしまう。


流石に熱が出ている時にそれはダメだよな……。さて、どうやって説得しようか。




そんな事を考えながら待つ事数分。



「…………そのだな…………」


ようやく和は口を開いた。



「…………そのお粥をだな…………食べさせてくれないか?」


「え?」


俺は予想の斜め下をいく和の発言に思わず拍子抜けしてしまう。


何だ、そんな事か……。


「……あ、あれだぞ? …………体がだるくて自分一人では食べるのがしんどいからであって……た、他意はこれっぽっちもないぞ?」


「他意って……何をどう考えたらそんな物が生まれるんだよ。ただ食べさせるだけなのに」


俺はベッドに軽く腰掛け、スプーンでお粥をすくい取り、少し冷ましてから和の方へそのスプーンを持っていく。


「ほら、あーん」


「…………あ、あーん」


親鳥に餌をもらう雛のように、和が口を大きく開ける。


「ほら、どうだ?」


「あむっ…………う、うむ。色々な意味で美味しいぞ」


幸せそうに微笑む和。

何が「色々な意味で」なのかはわからないが、気に入ってくれたようでなによりだ。


「じゃあ、次いくぞ? ほら、あーん」


「あ、あーん」


食べさせる事がなんて何でもないといったように振舞っていた(少なくとも俺はそのつもりだ)俺だが、心の内では本能を理性で抑え付けるのに必死だった。



くそっ……お粥を作っている時に「相当しんどそうだし、もしかしたら一人じゃあ食べられないかもしれないな」と前もって心の準備ができていたから冷静に振る舞えてはいるものの……。


何だよこれ。和の奴、可愛過ぎるだろ。

口を大きく開ける姿。お粥を食べ終わった後に見せる微笑み。これだけでも十分可愛いのに、熱が出ている事で弱々しさがプラスされ、さらに可愛さが増している。


今、和がメイド服姿だったら俺の理性は木っ端微塵に砕け散っていたに違いない。


何とか “あーん” の攻撃には耐えたが、理性の制御が不安定になりつつあるのは確かだ。これ以上、本能を刺激するような何かが起きたら俺が俺でなくなってしまう。



何が来ても耐えるんだ。




吾妻 深千流(以下深)「深千流と」


吾妻 弥千流(以下弥)「弥千流の」


深・弥「かみるーらじお!」


深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」


弥「はろ~! 鳳凰学園高校2年の吾妻 弥千流だよ~。ちなみに、わたしは放送部副部長やらせて貰ってま~す」


深「“かみるーらじお!”とはもっと読者様に“神√”を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」


弥「ゲストを呼んでフリートークをしたり、リスナーの皆からのお便りを読んだり、質問に答えたりしちゃうよ~」


深「さて “第47話 24時間働けますか?” いかがでしたでしょうか?」


弥「いや〜、神√ にしては珍しく甘々な回が続くね〜」


深「珍しくって……。弥千流、一応神√ はラブコメなんですよ? 別に甘々な回が続いたって珍しくも何ともないじゃないですか」


弥「確かにそうなんだけど…………一年以上かけて書いたGW回があんまりラブコメらしいラブコメしてなかったからね〜。ラブコメの印象がだいぶ薄れてきちゃったんだよね〜」


深「まあ、それは否定できませんね」


弥「でしょ〜? この調子でちゃんとラブコメを書いてくれるといいんだけどね〜」


深「私達にはどうしようもありませんからね」


弥「そう言えば、今回の話ってなごみんが人気投票でヒロイン一位の座を獲得したから、そのご褒美という事で書かれてるんだよね〜。いや〜、なごみんは本当に可愛いね〜。ヒロインの中で一番人気なのも頷けるよ〜」


深「ですね。安定感もありますし、もし2回目の人気投票があったら一ノ瀬君のV2を阻止しちゃうかもしれませんね」


弥「だね〜。キャラがあんまり増えてないから2回目の人気投票はだいぶ先になりそうだけどね〜」


深「さて質問コーナーの方に参りましょうか。今回はペンネーム “達也” さんから頂いた質問に答えたいと思います」


弥「え〜っと……なになに? 『冬夢の部屋の詳細を教えて下さい。お願いします』だって〜。あれ? 今回、一ノ瀬ゲストとして呼んでないよね? どうするの、これ」


深「本当は一ノ瀬君を呼んで直接答えてもらう予定だったのですが、どうしても都合が合わないという事で、代わりに一ノ瀬君の部屋に入った事のあるこの方をお呼びしました! どうぞ!」


倉稲魂(以下倉)「…………倉稲魂……よろしく……」


弥「あ〜! うかちゃんだ〜!」


倉「…………うかちゃん……誰それ……?」


弥「そりゃあ、うかちゃんはうかちゃんだよ〜」


倉「…………もしかして……私……?」


弥「そ〜だよ〜。もしかして気に入らなかった?」


倉「…………別にいい……それより……私は何を話せばいいの……?」


深「倉稲魂さんは以前、一ノ瀬君の部屋に入った事がありましたよね?」


倉「…………一応……」


弥「実はとあるリスナーから、一ノ瀬の部屋の詳細を教えて欲しいって頼まれたんだけど、一ノ瀬が来れなくてさ〜」


倉「…………それで私が……代わりに話せばいいの……?」


深「お願いできますか?」


倉「…………構わない……。…………確か……基本的にはごく普通の部屋……本棚があって……ベッドがあって……クローゼットがあって……ただ……机が二つ並べて置いてあった……」


弥「机が二つも並べて? 本当に?」


倉「…………本当……。…………片方は……きちんと整頓されていた……多分勉強机……。…………もう片方は……ロボットの絵が描かれた箱が山積みにされていて……全体的にごちゃごちゃしてた……その箱が何かはわからなかった……」


深「なるほど。どうやら勉強用とガン○ラ用で机を使い分けているみたいですね。他には変わった物はありましたか?」


倉「…………他には……ああ……勉強机の方に……幼い榎本 美都と一ノ瀬 冬夢が二人で写っている写真が……二枚飾ってあった……。…………一枚目は……二人とも……全然笑ってなかった……仲悪そうだった……。…………もう一枚は……二人とも……仲良さそうに……笑ってた……いい笑顔だった……」


弥「ん〜、ど〜やら、うかちゃんの話から察するに “あの日の約束” を交わした以前と以後の写真みたいだね〜」


深「 “あの日の約束” を片時も忘れない為なんでしょうかね?」


倉「…………後は……本棚に……ソフトボールが……飾ってあった……」


弥「ソフトボール? ん〜……ゆうゆうと何か関係があるのかな〜?」


倉「…………覚えているのは……そのぐらい……」


深「ありがとうございます、倉稲魂さん。わざわざこれだけの為にお越し頂いて……」


倉「…………構わない……今日は一日自由だし……読者に改めて覚えて貰えるいい機会になった……倉稲魂をよろしく……ぴーす……ばいばい……」


弥「うかちゃんばいば〜い。じゃあ、今日はこれで閉めちゃおうか。お姉ちゃん、お願いね〜」


深「はい、じゃあ閉めますよ。“神√” を読んでいて疑問に思った事や、このキャラとこんなトークをして欲しいという要望があれば、感想やメッセージ、活動報告のコメント欄からお知らせ下さい。また、誤字脱字や矛盾点などがありましたら、ご報告よろしくお願いします。他にも感想や評価、レビューなどもお待ちしております」


弥「じゃあまたね〜」


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