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第45話 オーダーメイド人形 サイズ小 (キーホルダーチェーン付き) 1050円〜


…………どうしたらいいのかしら……。


私、榎本 美都は一生懸命頭を回転させる。

どうすれば “あの約束” を覚えているかどうかを自然に聞き出せるかを考えながら観覧車に乗った私であったが、私達の乗っているゴンドラが全体の四分の一進んだ今でもいい案が思い浮かばない。


冬夢も何か考え事をしているようで、ゴンドラに入ってからずっと難しい顔をしている。


そんな事をお互いしている為、当然ゴンドラに入ってからは終始無言状態。近くにあるアトラクションの騒がしい音ばかりがゴンドラの中で鳴り響く。



………………もう “あの約束” を覚えているかを聞き出すのは諦めよう。こうして二人きりで観覧車に乗れたのに、このまま無言で終わってしまうのは流石に悔やまれる。



冬夢の考え事を邪魔するのは気が引けないでもないが、ここは許して欲しいものだ。この観覧車は私にとって、とても大切な場所なのだ。やはり新しい思い出も作っておきたい。


そう思って、私が冬夢に話しかけようと口を開いたまさにその時––––


「なあ、美都。ちょっといいか?」


––––なんと、冬夢の方から話しかけてきたのだ。しかも顔はいつになく真剣である。


「ど、どうしたの?」


予想外の出来事に少し動揺しながらも、何とか返事をする事に成功する。とても雑談をする時の顔ではないのだが…………一体、何の用なのだろうか?


私はすっと背筋を伸ばした。



「あー…………そのだな…………」


しかし先ほどまでの真剣な顔はどこへやら。冬夢は気まずそうにあちこちに目を泳がせ、一向に続きを話そうとしない。


一体、何を話そうとしているのだろうか?

ますます謎は深まるばかりである。



もしかしてこ、告白?


…………いや、唐変木でなおかつ女性の事となると異常なまでにヘタレになる冬夢なのだ。そんな事は100% ありえない。


だったら––––––––



と、そんな感じで冬夢が何を話そうとしてしているのか予想しながら待つ事、約1分。



ようやく決心がついたらしく、冬夢は大きく深呼吸をした後、こっちを真っ直ぐに見つめてきた。


見つめられるのが恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまいそうになるが、いくら幼馴染の関係とはいえ流石に失礼なのでそこはぐっと堪える。


「なあ、美都…………」



一旦言葉を切り、冬夢はもう一度深呼吸をする。



「…………美都は “あの約束” 覚えてるか?」


「……………………え?」



私はあまりにも予想外な冬夢の言葉に、息が詰まりそうになった。一瞬、言葉の意味が理解できなくなる。


…………どういう事? 冬夢が…………え…………覚えている? “あの約束” を?




言葉の意味を理解したと同時に嬉しさと安堵感が湧き上がってきて、涙がこみ上げてきた。

今まで心を満たしていた不安や諦めといった感情が一気に払拭されていく。



「…………うっ……えぐっ……」


「ちょ、な、何で泣いてるんだよ?」


私を見て慌てふためく冬夢。

相変わらず女心がわからない男だ。これで女心を一生懸命勉強してると言うんだから、お笑いものである。



「…………冬夢がお、覚えていてくれて…………う、嬉しいからに……決まってるじゃない……バカ……相変わらず鈍感ね……そのぐらい察しなさいよ」


「え? 美都も覚えていたのか! もうすっかり忘れているものだと……」


冬夢はそう言って、驚いたように目を見開いた。どうやら本気で私が泣いている理由がわからなかったようだ。

もうこの鈍感っぷりは一生治らないに違いない。



「それは……こっちのセリフよ…………冬夢はもう “あの約束” 覚えてないんだって……思ってたんだから!」


「忘れる訳がないだろ。観覧車の中で急に怒鳴りだすとか、どれだけインパクトあると思ってるんだ? あの時の美都の顔、今でもはっきりと覚えてるぞ。いやー、怖かった怖かった。あの時の顔はまさに般若だったな、うん」


「…………い、言ってくれるじゃない。あの後、一人で気持ち悪いぐらいに大爆笑してたくせに」


「だ、だってあれは……だな……」


そうなのだ。

私が怒鳴った後、あろう事か冬夢は笑い始めたのだ。それはもう、私が苛立ちの気持ちを忘れて「もしかして頭がおかしくなったんじゃないか?」と心配するぐらいの大爆笑。


そして冬夢はひとしきり笑った後、突然真顔に戻りこう言ったのだ。


「さっきともだちなんかいらないって言ったよね? みとちゃん、うそはだめだよ」と。


私は心の底から驚いた。


確かに友達が欲しかったのは事実だ。

実際、冬夢に怒鳴った主な理由は「自分が素直になれない事の八つ当たり」だったのだが、今思い返してみると「友達が沢山いる冬夢への嫉妬」も僅かながら含まれていた気がする。


しかし、その事を冬夢に一度も話した事はなかった。と言うか、お母さんや唯一の友達であった弥千流と深千流お姉ちゃんにも話した事はなかった。


驚いて何も喋れない私をよそに冬夢は得意げに話し続ける。


「だって、みとちゃん。ともだちといっしょにあそんでる子をものすごくうらやましそうにみてるんだもん。みとちゃんのこと、みてたらすぐわかるよ」


そうやって私の気持ちのうちを勝手に(それも得意げに)暴いていく冬夢に、気がつくと私は泣きながら本音を吐露していた。



友達が欲しい。皆と同じように外で鬼ごっこして遊んだり縄跳びやったり、教室で折り紙をして遊びたい。皆で一緒に話しながら給食を食べたい。

でも私は皆に冷たくしちゃう。友達になりたいのに冷たくしちゃう。どうしたらいいの? どうしたら友達ができるの?



最後の方は嗚咽でほとんど喋れてなかったような気がする。それでも私は必死になって話した。


冬夢なら何とかしてくれるかもしれない。


幼いながら直感的にそう思ったのだ。



私の話を黙って最後まで聞いていた冬夢は私が話し終わると、私の方にやってきて横に座り、私の頭を撫でながら––––



「だったらおれがともだちになって、いつもよこにいて、みとちゃんをみててあげる。みとちゃんがだれかにつめたくしそうになったら、おれが止めてあげるよ。だからなかないで。おれ、みとちゃんがないてるのみたくない」


––––そんな事を言ったのだ。



「…………ほ、ほんと? こんなわたしとともだちにな、なってくれるの?」


「うん、なるよ。やくそくする。おれはいつもみとちゃんのよこにいるよ」


そう言って右手の小指を私の方に向けてくる冬夢。


「ほら、ゆびきりげんまん」


「…………うん、ゆびきりげんまん」


私は小さく頷いて、自分の右手の小指を冬夢の小指に絡めた。



“あの約束” が交わされた瞬間である。



そして翌日から冬夢は本当に私の横にいて、色々してくれるようになった。


一番印象に強いのは翌日の朝の朝の会(中学 高校でいうSHRの事だ)で私を連れて前に立ち、クラスの皆に「みとちゃんはみんなにつめたくしちゃうけど、本当はみんなとともだちになりたいだけなんだよ。ほらみとちゃん、みんなにあやまって」と、皆とのわだかまりを解消する機会を与えてくれたのだ(後日聞いた話によると、これは冬夢のお母さんの入れ知恵らしい)。


他にも友達を紹介してくれたり、相談にのってくれたりもした。


学年が上がるに連れ、周りから夫婦などとからかわれる(冬夢はどう思っていたか知らないが、私は満更ではなかった)事もあったが、冬夢は何だかんだで側にいてくれた。


まあ、中学にもなると流石にずっと一緒––––なんて事はなくなったが。







「それでさ、美都」


「ん? どうしたの?」


「………………」


冬夢は黙って私に何かが入った小さな紙袋を差し出した。

私の気のせいだろうか、冬夢の顔が若干赤いような気がする。


手に取って近くでよく見てみると、それはデモアのお土産屋さんのものだった。


「どうしたの? これ」


「………………」


私の質問には答えず、冬夢はそれを開けろと目で言ってきた。


私はそれに従い、紙袋を開ける。

中に入っていたのは––––––––


「…………人形?」


–––––––– 5 cmぐらいの小さなデフォルメ人形のキーホルダーだった。


ややぼさっとした髪、白いシャツに赤いジャケット。下はジーパンに…………って、これって……。


「そのまんま冬夢じゃない! どうしたねよ、これ!」


今日の服装とは違うが、このコーディネートは何度も見ているから間違いない。冬夢の一番のお気に入りのやつだ。


顔もなんとなく冬夢っぽい。

うーん、デフォルメ人形になった冬夢も可愛い。


でも、こんな人形どうしたのだろうか? まさか冬夢が作った訳ではなさそうだし……。



「…………あー……えーっと……そのだな……妖怪屋敷に行った後にお土産屋に寄っただろ? 実はその時に作ってもらったんだ」


「ああ、確かにお土産屋さんに行った時、一人でどこかに行ってたのはこれだったのね。でも、何の為に?」


「いや…………高校にもなると忙しくてなかなか側にいられないからさ……せめて身代わりでも––––と思って……やっぱり、いらなかったよな?」


そう言う冬夢の顔は暗くてもはっきりとわかるぐらいに真っ赤っかだった。


冬夢の人形を両手で大切に持ちながら私は答えた。


「そんな事ない。本当に最高のプレゼント。ありがとう、冬夢。何かお返ししなくちゃね」



「いや、いい。美都が喜んで––––」


「えいっ! スキありっ!」



私は素早く冬夢の右手を手に取り、手の甲に軽く口付けをした。


「なっ、ちょっ、み、美都っ⁈」


さっきよりも更に顔を赤くし、声を裏返す冬夢。


「あのねぇ……頬や口にキスした訳でもないのに、何でそんなに慌ててるのよ。たかが手の甲じゃない。まるで小学生みたいね」



今は “幼馴染”の関係だけど、将来は “恋人” の関係になれたら…………いや、なってみせる。和達には絶対に譲らないんだから!


まるで小学生低学年のような反応をする冬夢に軽口をたたきながら、そんな事を思う私であった。




吾妻 深千流(以下深)「深千流と」


初谷 音々華(以下音)「のっ、音々華のっ!」


深・音「かみるーらじお!」


深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」


音「えっ、えっと、鳳凰が、学園高校1年、し、しゅ、手芸部部長のはち、はちゅ谷 音々華です!」


深「“かみるーらじお!”とはもっと読者様に“神√”を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」


音「ゲストさんを呼んでし、質問に答えて頂いたり、2人でふ、フリートークをしていきます!」


深「はい。という訳で今回は私と音々華ちゃんでやっていきたいと思います。弥千流は今回も “一身上の都合” でお休みです」


音「あ、あのっ! 弥千流せ、先輩はどうしてお休みなんですか?」


深「音々華ちゃん?」


音「はっ、はいっ!」


深「世の中には知らない方がいい事も沢山存在するんですよ〜。言いたい事はわかりますね?」


音「ひゃ、ひゃいっ! わ、わかります!」


深「うんうん。音々華ちゃんは誰かと違ってとってもいい子ですね〜。ほんと、勝手に人の過去をラジオで暴露するどこかの誰かとは違って」


音「ひっ、ひいぃっ! み、深千流先輩! こ、こわ、怖いです! 顔が怖いですよ!」


深「あら…………これは失礼しました」


音「………………弥千流先輩、何をやらかしたんでしょうか」


深「さて “第45話 オーダーメイド人形 サイズ小 (キーホルダーチェーン付き) 1050円〜” いかがでしたでしょうか?」


音「と、とってもロマンチックな話でしたね」


深「音々華ちゃんもああいうのには憧れますか?」


音「え、ええ、まあ。憧れないっていったら嘘になりますね」


深「いいですよね〜。私もあんな王子様みたいな…………」


音「お、王子様みたいな…………?」


深「…………ハッ! 音々華ちゃん!」


音「はっ、はいぃ!」


深「今私が口にした事は忘れてください。いいですね?」


音「い、今口にした事と言いますと…………王––––」


深「音々華ちゃん!」


音「ひゃっ! ご、ごめんなさいっ!」


深「まあ、いいです。それより次回からは音々華ちゃんの話なんですよね?」


音「は、はい。そうです。正確にはわ、私と善家先輩の話です」


深「さあ突然ですが、あらすじを三十秒でリスナーの皆様にお話し下さい。どうぞっ! いーち……にー……さーん……」


音「え、ええっ! さ、さ、さん、三十秒で、ですか? え、えーっと……えーっと……」


深「じゅーう……じゅーいち……じゅーに……」


音「えーっと……えーっと……えーっと……あの……その……わ、わた、私はしゅ、手芸部にしょ、しょ、しょじょくしてまして、と、と言うかわた、私一人しかいないんですけど…………そ、そこにぜ、善家先輩が––––」


深「はいっ! そこまでー! しゅーりょーです!」


音「ふぇっ! も、もうおしまいなんですか? まだ半分も話してないのに……」


深「はい。非常に中途半端なあらすじ紹介でしたが、ルールはルール。おしまいです」


音「ううう……ご、ごめんなさい」


深「それでは今日はこの辺で終わりにしましょう。

“神√” を読んでいて疑問に思った事や、このキャラとこんなトークをして欲しいという要望があれば、感想やメッセージ、活動報告のコメント欄からお知らせ下さい。また、誤字脱字や矛盾点などがありましたら、ご報告よろしくお願いします。他にも感想や評価、レビューなどもお待ちしております」


音「えー、えーっと……し、質問のストックがなくなってきているので、も、もし何か聞きたい事や疑問があ、ある方は気軽にご、ご質問下さい。そ、それでは!」






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