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第41話 ミッション スタート!

「ほら冬夢! もたもたしてないで、次行くわよ! 次!」


「ちょ! な……なあ、美都。ちょっと休まないか? いや、休ませて下さい。お願いします」


デモアに入って約3時間。

まだ正午にもなってないというのに、早くも俺の体力は限界を迎えようとしていた。



「はぁ……相変わらず情けないわね、冬夢」


呆れたようにこちらを見てくる美都であるが、これは仕方のない事である。


なぜなら––––


「あのなぁ……あんな馬鹿みたいに休みなくジェットコースターに乗り続けていたら、普通の人は誰だってこうなるぞ……」


そうなのだ。

俺と美都は入場してから今に至るまで一度も休む事なくジェットコースターに乗り続けているのだ。


俺もジェットコースターは嫌いではない––––いや、むしろ好きな方だが、乗り始めて2時間ぐらいで流石に飽きてきて、更にもう10分ぐらいで乗るの事が苦痛になってきた。


あ〜、もう嫌だ。これ以上ジェットコースターには乗りたくない。可能ならば視界にもいれたくない。



そもそもここはコスプレを楽しむ場所だぞ? エリア(江戸や近未来、学園など場所ごとにセットが組まれている)に合わせたコスプレを着て楽しむ場所だぞ?


それなのに、俺と美都は最初に着た王女様と執事のコスプレのまま様々なエリアにあるジェットコースターに乗り続けた。


江戸の城下町エリアのジェットコースターに乗った時の俺達の浮き具合と言ったらもう……。

周りの視線が物凄く痛かったです、はい。




いやはや、それにしてもまさかここまで美都がジェットコースター好きだったとは……。


あまりにも美都が楽しそうにしていたから黙っていたが、流石にもう我慢の限界だ。このまま休みなく乗り続けたら、確実に死ぬ。

この後もジェットコースターに乗るのであれば、ちょっと––––せめて30分ぐらいはジェットコースターが視界に入らないところで休憩させて欲しい。



「もう……しょうがないわね。いいわよ。そ、そんなぐったりとした顔をされてちゃ、こっちも気分が盛り下がっちゃうから……仕方なくよ、仕方なく。ほら、近くに休憩スペースがあるみたいだから行きましょ」


「おっ、本当か! ありがとうな、美都」


厳しい事を言いながらも、何だかんだで実は優しい幼馴染の気遣いに感謝しながら、俺は美都の後ろをついて行くのであった。









「……なあ、美都」


「何?」


「……本当にこれに入るのか?」


「嫌なの?」


「いや…………嫌ではないんだけどさぁ……」


そう言って、俺は自分の目の前にある看板を見る。



「妖怪屋敷はなぁ……」


休憩ついでに早めに昼ご飯(ちなみに美都の分は俺が出した、と言うか出させられた)を食べた後、俺は美都に連れられるがままに江戸エリアにある「妖怪屋敷」に来ていた。


ちなみに今、俺と美都は陰陽師ののコスプレをしていたりする。

着替えた後に美都が俺の事を写真に撮りながら「うんうん! いい感じ! これで気分も出るわね!」とか言っていたのは、こういう事だったんだなぁ……。


はぁ……ここにくる事が事前にわかっていれば、ある程度心の準備もできたのに……。



美都の前では若干強がってはみたが、実は俺はこういうお化け屋敷系が大の苦手なのだ。


昔、お袋に「パパと冬夢の可愛い悲鳴が聞きたいの!」とかいう極めて理不尽な理由で、短期間の内に全国にある怖いお化け屋敷に連れ回されたからである。



とは言え「俺はここで待ってるから一人で行って来なよ」なんてヘタレた事を言える訳がないし、言った所で美都が許してくれないだろうし……やっぱり入るしかないのか……。



……よし! ここでくよくよしたって仕方が無い! 気合と根性で乗り切ってやる!


俺は腹を括り、思い切って列の最後尾に並んだ。






「…………うわ、思ったよりも列が進むのが速いぞ、これ」



列を並んでいる間に心を落ち着かせて、少しでも緊張を和らげようとしたのだが……列の進み具合からして、十分もしないうちに中に入れられてしまいそうだ。



ああ……こんな事を考えるのは良くない事であるのは重々承知しているが……中で何かしらのトラブルが起こって俺達が入る前に中止にならないだろうか……。



「はぁ……」


しかし、そんな事を必死に願った所で、現実に何の変化も起こらない訳で。


前に進みながら、俺は深く深〜くため息をつくのであった。










「はぁ……」


横にいる冬夢が深いため息をついている。


ふふっ……今の所は計画通りに進んでいるわね。


私、榎本 美都は一人心の中で満面の笑みを浮かべる。




このまま順調に進めば…………うへへうへうへ。


この先の展開を想像するだけで顔が自然とニヤついてしまう。

顔には出さないように心がけているのに全然抑えられない。




なぜなら 、5日前からずっと温めてきた作戦が上手い事進んでいるからだ。



作戦名は “妖怪屋敷で冬夢を心の底まで震え上がらせて、私に抱きついて貰おう! そして和達と差をつけちゃおう!” 作戦。


作戦内容は至ってシンプルそのもので––––



① 冬夢と一緒に妖怪屋敷に入る


② 妖怪を見て、冬夢が怖がる


③ あまりの怖さに横にいる私に抱きついてくる


④ 私、幸せ



––––といった流れである。


最初の計画では ③ の部分で冬夢が私に抱きついてくるのではなく、私が冬夢に抱きつく予定だったのだが、冬夢が昔に「俺、お化け屋敷が苦手なんだよな」と言っていたのを思い出し、急遽今の計画に変更した。



抱きつく為にはお化け屋敷の中でも相手がしっかりと、そして堂々としている事が絶対条件である。

とてもじゃないが、ヘタレでその上お化け屋敷が苦手な冬夢ではその条件を満たせそうにない。



抱きつけないのはとても残念ではあるが、よくよく考えてみれば、冬夢に抱きつくのは私がやる気をだせばいつでもできる(その後、とんでもない事になりそうではあるが)のだ。


しかし 冬夢から抱きついて貰うなんてそうそう起こる事ではない。宝くじで一等を5回ぐらい連続で当てる並みのレアさ(人によって個人差はあるだろうけど)だ。



そう考えると、冬夢がヘタレでお化け屋敷が苦手である事を天照ちゃんにでも感謝したくなる。と言うか、実際にした。

天照ちゃんは「きゅ、急にどうしたのじゃ?」と戸惑っていたが。




もちろん、作戦実行に際して下準備はきちんとしてある。

実はこの妖怪屋敷のスタッフは全員グルで、私を脅かさずに冬夢だけを集中的にかつ徹底的に脅かすように頼んであるのだ。




どうしてそんな事が可能なのかというと……。


なんとここ、デ・モート・アルテニアは麗奈の叔父さんが運営している場所だったりしてしまうのだ。



5日前、冬夢とデモアに行く為の前準備として公式ホームページを見ていたのだが、そのページのトップに「運営最高責任者からのあいさつ」が載っており、そのあいさつ文の最後に「水沢 創」という最高責任者の名前が入っていたのだ。


「いくら麗奈と同じ苗字とは言え、まさか……ね」などと思いながらも、可能性としてはゼロではないので、何となくで麗奈に尋ねてみると「デ・モート・アルテニアは私の叔父さんが運営していますよ」という答えがあっさりと返ってきた。



ちなみに、デモアの運営はあくまでも副業であって、本業は他にちゃんと存在するらしいのだが……あまりにも話のスケールが現実離れし過ぎていて、その事実を知って5日経った今でもいまいちピンとこなかったりする。


テーマパークの運営が副業って…………それだけで年間にどれぐらいのお金を稼いでいるだろうか。……うん。考えただけで怖い。

ただ、自分が一生働いて稼いだお金よりも遥かに高いのは薄々わかる。


こういう所は不公平よね、神様って。





とまあ、そんなこんなで麗奈の叔父さんがデモアを運営していると知った私はその日の夜、麗奈に作戦内容を伝え、お化け屋敷関係のスタッフを一日だけある人達に変えるように頼んだりしたのだが、流石の麗奈も冬夢絡みの用件の為か、タダでは動いてくれなかった訳で……。



結局「スタッフをとある人物に変えてくれる代わりに、デモアで撮った冬夢の写真のデータを渡す」という約束をしてしまった。


冬夢のコスプレ写真は特にレアもの(もちろん私の冬夢専用のアルバムにもない)なので、絶対に誰にも見せまいと考えていたのだが、仕方ない。

冬夢に抱きついて貰うのはコスプレ写真なんかよりも、ずーっとずーっとレア度が高いのだ。


それに、冬夢の事だ。何かしら適当な理由をつけて(例えば、コスプレ衣装を上手く撮る練習がしたい……とか)コスプレ衣装を渡せば着てくれそうな気がする。


上手くいけば、人目が沢山あるデモアでは着れないあんな服やこんな服を着た冬夢の写真が撮り放題。アルバムがこれ以上にないぐらいに潤う事間違いなし…………ぐへへ。



冬夢に着せる服……一体、何がいいかしらね? 露出度の高いヒーローコスチューム? それとも軍服みたいなワイルドな服? それともそれとも………………って、そんな事を考えているいる場合じゃない。

妖怪屋敷の中に入った後も作戦がスムーズに進むように、ちゃんと頭の中でシミュレーションしておかないと! 失敗も許されない訳だし!





「お客様方はお二人ご一緒でしょうか?」



そんな感じで頭の中でシミュレーションを行う事数分。

狐の耳と尻尾を付けた綺麗なスタッフさん(もちろん、このスタッフさんもグルである)が、こちらに寄って来て私達に声をかけてくる。


シミュレーションに集中していたので気づかなかったが、私達の順番はもうすぐそこまで迫っていたのだ。


ついに来た! 冬夢に抱きつかれる時が! これで和達に大きくリードを取る事ができる! 両想いという名のゴールにまた一歩近づく事ができる!



「ええ! はい! そうです!」


あまりの嬉しさについつい語調が激しくなってしまう私。


「こんなにテンションが高かったら冬夢に変に思われるかも?」と言った後に一瞬、不安に思ったが、幸い冬夢はさっきから深呼吸を繰り返し「大丈夫。俺ならいける……俺ならいけるんだ……」などと呟いている所から見るに、どうやら自分の世界に入り切っているようなので大丈夫だろう。



「かしこまりました。それではお気をつけて行ってらっしゃい」


そう言って、スタッフさんが妖怪屋敷の入り口を開けた。

中は薄暗く、冷房をガンガンにつけているのだろう––––ひんやりとした空気が私達の所にまで届いてくる。



いつもの私であればこの時点で腰が確実に引けていただろうが、今は違う。もう、妖怪屋敷が天国もしくはユートピアに見えて仕方がない。




「ほら、ボーッとしてないで行くわよ冬夢!」


「えっ? あぁ……って、うわ……もう俺達の番か……全然心の準備できてないのに……」


「何ブツブツ言ってんのよ! 早く入った入った!」


「わ、わかった! わかったから! 押すな押すな!」



こうして “妖怪屋敷で冬夢を心の底まで震え上がらせて、私に抱きついて貰おう! そして和達と差をつけちゃおう!” 作戦は次の段階へと進むのであった。

吾妻 深千流(以下深)「深千流と」


吾妻 弥千流(以下弥)「弥千流の」


深・弥「かみるーらじお!」


深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」


弥「はろ~! 鳳凰学園高校2年の吾妻 弥千流だよ~。ちなみに、わたしは放送部副部長やらせて貰ってま~す」


深「“かみるーらじお!”とはもっと読者様に“神√”を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」


弥「ゲストを呼んでフリートークをしたり、リスナーの皆からのお便りを読んだり、質問に答えたりしちゃうよ~」


深「さて “第41話 ミッション スタート!” いかがでしたでしょうか?」


弥「ん〜、そ〜だね〜…………って、違うよお姉ちゃん!」


深「ど、どうしたんですか弥千流? 急に大声なんて出して」


弥「いやいやいやいや! どうかしてるのはお姉ちゃんだよ〜! 何でそんなに普通に進めれるの? 今年に入って始めてのかみるーらじお! なんだよ〜?」


深「確かに……言われてみればそうですね。私としたことが……リスナーの皆様に新年初の挨拶をするのを忘れていました。皆様、だいぶ遅いですが新年明けましておめでとうございます。今年一年もよろしくお願いします。……ほら、弥千流も挨拶をして下さい」


弥「ああそうだね〜。リスナーの皆、あけおめ〜…………って、そうじゃな〜い! 大事な事だけどそうじゃな〜い!」


深「えーっと……じゃあ、一体何なんですか?」


弥「もう! お姉ちゃん覚えてないの? これだよ、こ・れ!」


深「ん? サンタクロースのコスチュームにミニクリスマスツリーに門松に晴れ着に節分の豆に鬼のお面にひな人形。それに桜の木のミニレプリカに……あっ! これは!」


弥「ふぅ……思い出してくれた?」


深「はい。思い出しました。はっきりと」


弥「リスナーの皆は何のことだかさっぱりだろうから 、私が説明するけど……実は、前回放送後に上から『次回からその時期にちなんだ物を身につける、もしくは持ってきてくれ』って言われたんだよね〜」


深「確か……雰囲気を盛り上げる為でしたっけ?」


弥「そうそう。そう言われたから、私たちはちゃんと前持って自腹で準備してたのに……結局、5ヶ月も間が空いちゃって……」


深「全部、無駄になってしまったんでしたね……」


弥「年越し蕎麦とか恵方巻きとかひなあられとかはね〜……食べれたからまだしも……」


深「…………相変わらずあの人は無能ですね。新年初の放送で見苦しい姿を見せるのは大変申し訳ない事ですが、探し出してお仕置き………………え? 何ですか? スタッフさん。……………え? あの人からのメッセージが届いている? ……はい。これですか…………ええはい。わかりました。はい。……………だそうです、弥千流。これをここで読んで欲しいんだそうです」


弥「……全く。直接謝罪しないなんて……非常識にもほどがあるよね〜。あの低脳は……。え〜っと、なになに〜……。『その季節にちなんだ物を自腹で用意させておいて、それを無駄にさせてすいませんでした。後程、ちゃんと全額支払わさせて頂きます。この先の分もレシートと領収書を渡して下されば全額払います。後、謝罪と言っては何ですがGW編が終わり次第、本編にて出番を用意する事を確約します』だって…………」


深「………………」


弥「………………」


深「………………」


弥「……い、いや〜流石だね〜。やっぱりあの人は偉大だよ〜。はは、ははははは」


深「そ、そうですね〜。あはははははは」


弥「………………」


深「………………」


弥「あ! そ、そうだ! この後すぐに、わたし達大切な用事があったんだ〜。ね〜、お姉ちゃん」


深「そ、そうですね! 弥千流、もう終わりましょう」


弥「じゃあ、お姉ちゃん閉めちゃって〜!」


深「“神√”を読んでいて疑問に思った事や、このキャラとこんなトークをして欲しいという要望があれば、感想やメッセージ、活動報告のコメント欄からお知らせ下さい。また、誤字脱字や矛盾点などがありましたら、ご報告よろしくお願いします。他にも感想や評価、レビューなどもお待ちしております」


弥「じゃあね〜!」

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