第24話 ハーレムと修羅場は紙一重
「…………と…とう、冬夢君…。わた、わ、私の…かれ、彼氏になって下さいっ!」
「「「「「…え? ええぇぇええぇぇぇっ⁈」」」」」
麗奈を除いた、俺・美都・悠里・和・響が一斉に驚きの声をあげる。
も…もしかして、こ、告白? 告白ってヤツですか?
麗奈が俺に告白! って事は…麗奈が俺の彼女になるのか?
ヤバいヤバいヤバいヤバい! テンション上がってきたぁっ!
親父! お袋! どうやら俺にも、春がやって参りました! 桜満開で御座います!
周りにいる美都達も、俺と麗奈の事を祝福して…祝福して…あれ? おかしいな? 皆、これ以上に無い位に「顔」は笑ってるんだけど…。目が全く笑ってない。全然、これっぽっちも笑ってない。瞳孔が開き切ってるし…。
……物凄く怖いです。
怒りのオーラがひしひしと伝わってくるし…。
俺、何にも悪い事してないぞ?
「…ねぇ…麗奈。ちょっと屋上まで来てくれるかしら?」
食べている途中の弁当を片付けながら、美都が言う。
疑問形で聞いているのに…どうしてだろう、美都の言葉には有無を言わさない威圧感があった。
「はっ、はいっ!」
その威圧感に気圧されてか、慌てて弁当を片付け、立ち上がる麗奈。
「ついて来て」
「…は、はい」
そう言って教室を出て行く2人。
…一体、屋上で何をするんだろうか?
「なあ、あの2人、屋上で何をするんだろうなーって、お前ら?」
いつの間にか、悠里・和・響も弁当を片付け、席を立っていた。
そしてそのまま、2人の後を追うように教室を出て行ってしまった。
「………」
しばらく呆気にとられていた俺だが、すぐに意識を取り戻し、再び弁当を食べ始める。
「……ニヤニヤ…」
あ〜ヤバい。ニヤニヤが止まらない。
正直、弁当の味なんてさっぱりわからない。
ただ1つわかるのはー俺が今、物凄く幸せである事だけだ。
初デートはどこに行こうか? 遊園地? ショッピング? いや、映画館ってのもいいな。
「いやー幸せだなぁ…」
俺は浮かれていた。
「ん? どうしたんだ、お前ら。目をギラギラさせ、こっちに近寄って来て。あ! もしかして、俺と麗奈の事を祝福してくれーギャアァァァァァア‼‼」
自分に迫りつつあった危機に気付け無い程に。
「はぁ……」
私ー榎田 美都はため息をつきながら、屋上のドアを開ける。
幸い、屋上には誰もいなかった。
「ねえ、麗奈。あそこに座ってくれるかしら?」
私はそう言って、なぜか屋上に一脚だけある青いベンチを指差す。
「わかりました」
麗奈は「何で呼び出されたのかわからない」と言ったように、首を傾げつつベンチに座った。
…麗奈…本当にあなたは、自分の犯した事の重大さに気付いていないの? これは立派な同盟条約違反なのよ! 「自分から一ノ瀬 冬夢に告白してはならない」という条約の!
転入して来た響が、冬夢に好意を抱いている事にいち早く気付き、急いで同盟に加入させたのに…全部台無しじゃない!
確かに「告白」という行為に、制限をかけるのはおかしいと思う。間違っていると思う。
でも…でも…。私だって…冬夢の事が…。
頭の中では言いたい事が、次々と浮かんでくるのに…いざ口に出そうとすると、どうしても喉でつっかえてしまう。
「…美都さん。どうしたんですか?」
「えっと…その…」
「麗奈先輩! どうしてあんな事をしたんですか?」
いきなり悠里が屋上に飛び込んで来た。
その後ろから、和と響もやって来る。
どうやら…私の後ろを追って来たみたいね。
「えっ? えっ? あんな事って…何ですか?」
「とぼけんじゃねー!」
「ひっ!」
「条約違反をするとは…見損なったぞ!」
「じょ、条約違反なんてしてないですよ!」
…いつまでとぼけてるつもりなのよ、麗奈。いい加減にしてほしいわ。
そう思っているのは、他の皆も同じようで、苛立ちの色が顔に強く現れていた。
「何をとぼけてるのかしら…冬夢にこ、告白したじゃないの!」
「こ、こ、こ、こく、告白っ⁈ わた、わ、私がと、冬夢君に? そっ、そんな事してませんっ! そりゃ、こ、告白でき、できたら嬉しいですけどっ! 私はしてませんっ!」
本当に湯気が出るんじゃないかと、思わず心配してしまうぐらいに顔を赤くした麗奈は、勢い良く両手をブンブンと左右に振る。
…嘘をついているようには思えないわね。
それによく考えてみれば、麗奈は嘘をつくのが下手くそじゃない。
そんな麗奈に、とぼけてるふりは無理よね。
でも…あれはどこからどう見ても告白だった…。
…二重人格なんて、マンガみたいな事がある訳無いし…。
一体、どうなってるのよ?
「じゃあ…あれは何だったっていうんですか? 麗奈先輩」
「あ、あれっ、あれって、な、何ですか?」
「……えっとですねー」
小さくため息をつき、「あれ」について簡単に説明する悠里。
「ーと言う訳です」
「わ、私…と、冬夢君に…そん、そんな事、言っちゃったんですか⁈ あわわわわ…ごめんなさい! 本当にごめんなさい! …いや、でも…これで冬夢君がOKしてくれたら、私と冬夢君は…憧れの彼氏彼女の関係に…。って、何を言ってるんですか! 私は! 本当にごめんなさい! ごめんなさい!」
「「「「………」」」」
急に始まった、麗奈の一人芝居に呆然とする私達。
えーっと…とりあえず…麗奈は本当に知らないみたいね。でも…何でなの? 全くわからないわ。
あー…頭が痛くなってきた。
「とりあえず落ち着いてくれるかしら? 麗奈」
理由を聞き出す為に、私は1人盛り上がっている麗奈に話しかける。
「わ、私は、は、は、は落ち、落ち着いて、いま、いま、いますよ?」
…今の状態のあなたが落ち着いていると言うのなら、ヤバい薬をキメてどっかの世界にぶっ飛んでる危ない人だって、落ち着いている事になるわよ。
「…麗奈、今すぐに深呼吸をするのよ」
麗奈が落ち着くのをただ待っていたら、それだけで昼休みが終わってしまう気がする。
「な、な、何を言っ、言ってるんで、ですか? わた、わ、私は、お、落ち着いー」
「良いからやるのよ!」
「は、はいっ! すーっ、はーっ。すーっ、はーっ…」
「どう? 落ち着いた?」
「はい…」
「じゃあ…話してくれるかしら? どうして冬夢にあんな事を言ったのかを」
「はい。実はー」
麗奈は真実を語り始めた。
「……死ぬかと思った」
皆、手を出して来る事は無かったものの…流石に机をぐるっと大勢に囲まれて、引っ切り無しに詰問されると精神的にくる物がある。
HPは全然余裕だが、MPは極めて0に近い。MP回復ポーションがどこかに無いかな。500円までならお金も出すぞ。
「…それにしても…麗奈達はどこに行ったんだ? 出て行ってから15分は経つぞ」
弁当も途中で片付けてしまったし…。
おかげで麗奈の告白に対して、まだ返事ができていない。「YES」という返事が。
「早く帰ってこないかな…」
若干イライラしつつも、さらに待つ事数分。
「いや〜、そんな事があるなんてよ、お嬢様ってのは大変なんだな」
「全くだ。私は改めて麗奈を見直したぞ」
「いえいえ。そんな事無いですよ」
「…でもあのミスは、いくらなんでも致命的ですよ。麗奈先輩」
「うぅ…すいません」
「悠里。過ぎ去ってしまった物は、今更何を言ったってどうしようも無いわよ」
「そんな事言って…麗奈先輩が告白して、1番焦ってたの…美都先輩のくせに…」
「そ、それは言わないでよっ!」
麗奈達が教室内に戻って来た。
何を話しているのかはわからないが、教室を出て行った時の不機嫌オーラはどこへやら。皆、楽しそうに喋っている。
平和で何より…って、そうじゃ無いだろ、俺! ちゃんと麗奈に「YES」って言わないと!
俺は席を立ち、麗奈達の方へ向かう。
…親父、お袋…見ていてくれ。今、俺は新たなスキルを手に入れようとしてる…「彼女持ち」という最強のスキルを!
「え、えーっと…れ、麗奈」
うう…「YES」と言うだけなのに…それだけなのに…めちゃくちゃ緊張するな…。名前を呼ぶだけで精一杯だ。思わず逃げ出したくなる。
だが、俺も漢だ! 勇気を振り絞って言うぞ!
「その…さっきの返事なー」
「ごめんなさい!」
俺の言葉を遮り、深々と頭を下げる麗奈。
「え? え? えぇぇぇぇぇぇぇぇえっ⁈」
いやいやいやいやいや! ちょっと待って! ごめんなさいって! ごめんなさいってどういう事だよ!
何だ? つまり俺は告白されてフられたのか?
どうして? どうしてこんな目にあうんだ?
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ、冬夢」
「これが落ち着いていられるか!」
もしかして新手のイジメか? 俺を弄んで楽しんでいるのか?
「何で俺をイジメー痛っ!」
騒ぐ俺に苛立ったのか、頭にチョップを決めてくる和。
…物凄く痛いです、はい。
「どうだ? 落ち着いたか、冬夢?」
確かに、落ち着いた事は落ち着いたが…和よ、もう少しマシな方法があるだろ。深呼吸させるとか!
まあ、取り乱した俺が悪いから口には出さないけども。
「ああ…」
「よし、じゃあ麗奈、後は頼むぞ」
満足そうに頷いた和は麗奈の肩を軽く叩いた。
…俺の時も、そのぐらいの強さでやってくれたら良かったのに…。まだ少し頭がクラクラするぞ…。
「はい…えっと…冬夢君」
顔を赤くして俯く麗奈。
しばらく俯いたままだったが、急に決心したように顔をあげ、大声でこう言い放った。
「冬夢君! 私の彼氏に1日だけっ! なって下さいっ!」
…え? どういう事だ?
1日限定の彼氏彼女の関係なんて聞いた事無いぞ。
告白されたと思ったら、いきなりフられるし。そして…期間指定の告白(それも2回目だ)をされるし…。
もう、わけがわからない。
「それって、どういう事だ?」
「えっとですね…実は私、今度お見合いするんです」
「うん?」
何でお見合いの話が出てくるんだ?
もう、本当に何が何だかわからない。どういう繋がりがあるのか、誰か教えてくれ。
「お見合い、これで5回目なんです。それも同じ人とですよ?」
「な、なるほどな…」
「それがもう、しつこくてしつこくて…我慢の限界です」
「…なら、断ればいいじゃないか」
「それは難しいんです。相手は超有名企業の社長の息子さんなんです。立場上、こっちからは断りにくいんですよ」
そう言って、とある企業名をあげる麗奈。
確かに、そこの会社は俺でも知ってるような、超有名企業だった。しょっちゅうCMやってるから、良く覚えてる。
「そこで私は考えました。お見合いを避けるには、どうすれば良いのかと」
「はあ」
「答えは意外と簡単でした。相手に諦めて貰えば良いんです」
「そりゃそうだろうけど…それができないから、苦労してるんじゃ無いのか?」
「いえ、この方法なら確実に諦めさせる事ができます! 名付けてー」
一旦言葉を切り、麗奈はクワッと目を見開いた。
えーっと…キャラが違うような気がするのは俺だけか? まあ、良いけどさ。
「ーお見合いに彼氏を連れて来て、相手に見せつけちゃいましょう! 作戦です!」
…何だそれは…。何なんだそれはあぁぁぁあ!
「ーという作戦です。わかりましたか? 冬夢君」
「なるほどな…」
時間は変わって、今は放課後。
俺と麗奈は家庭科調理室にいる。
つまり部活中って事だ。
一応、作戦の説明は昼休みにして貰ったのだが…あの時俺の頭は色々ありすぎて、半フリーズ状態だった為に、ほとんど説明を聞けてなかったのだ。
そこで、麗奈にもう一度説明を頼んだという訳である。
麗奈の説明を簡単にまとめるとー
①お見合い相手が来る前に、俺と麗奈は既にテーブルで(お見合い場所は、高級ホテルのレストランとの事)待機しておく。
②相手が来たら、麗奈が俺の事を紹介する。もちろん彼氏として。
③相手は俺の事を見て、「彼氏がいるんだったら…」と諦める。
④二度とお見合いは無くなる。
⑤作戦成功! バンザイ!
ーこんな感じだ。ちなみに作戦遂行日は来週の日曜だそうで。
今日は月曜だから、6日後だな。
正直、こんなにあっさり、上手くいくのか? と若干不安に思うが、相手の事をこれっぽっちも知らない俺が口出しするのも変だし…その辺は麗奈を信じよう。
「作戦はわかったが…1つ気になる事があるんだ」
「はい、何でしょう?」
「…何で…その…あんなに紛らわしい言い方したんだ? 告白みたいな…」
もう少しまともな言い方があったように思える。
ああ…バカみたいにはしゃいでいた自分が恥ずかしい。
「そっ、それはっ! な、名前で呼んで貰ったのが、余りにも嬉しくて…つい、舞い上がってしまったと言いますか、何と言いますか…」
「どうして、そんなに名前で呼ばれたのが嬉しかったんだ?」
「それ、それは…冬夢君の事が…すー」
「せんせーに部長。カップルみたいに、何イチャイチャしてるんですか? お互いに名前で呼び合ってるみたいですし」
麗奈の声を遮って、後輩部員が話しかけてくる。
「か、カップル⁈ い、イチャイチャ⁈」
「あのな…何回も言ってるが…俺の事を先生って言わないでくれ。何かむず痒いからさ。それに、俺達はカップルでも無ければ、イチャイチャしても無い。名前で呼び合ってるのは、友達だからであって、お前の思ってるような関係では無いぞ。なあ、麗奈…麗奈?」
麗奈に同意を求めようとした俺だったが…。
「…もう知りません」
そう言って、麗奈はそっぽを向いてしまった。お怒りなのか、頬をぷくっと膨らませている。
「え? え? どうして怒ってるんだよ?」
「怒ってません」
「いや、どこからどう見ても怒っー」
「怒ってません」
「あいかわらず鈍いですね~。せんせーは」
…ううう…また鈍いって言われた…。…やっぱり俺、女心わかってないのかな?
…これは…日曜まで、真剣に女心を勉強しないとヤバイかもしれないな。
そっぽを向いている麗奈と、笑っている後輩部員を見ながら、少し焦る俺であった。
誤字脱字や矛盾点などありましたら、ご報告よろしくお願いします。
感想や評価、レビューなどもお待ちしております。




