第23話 恋と戦は先手必勝
麗奈回スタートです!
「ふあぁ~あ…ああ、眠い」
響が俺の家にやってきてから、早2日が経ち、今日は月曜日。
土曜は響救出“劇”、日曜は響の必要な物を買いに行き、体力を消耗しまくった俺は、学校に着くや否や、机に突っ伏して寝てしまった。
それ程に土日はハードスケジュールだったのだ。自分で言うのも何だが、よく頑張った俺。
HRが始まるまでの間、寝たって罰は当たらないだろう。
それからどれぐらい寝ていただろうか。
俺は「うおぉぉぉぉぉおっ!」と言う、男子共の謎の雄叫びで目を覚ました。いや、正確には叩き起こされた。
「ぬおっ⁉ な、何だ⁉」
「あ、冬夢、起きたのね。おはよ。まだHRも始まってないから、もう少し寝れたわよ?」
隣の美都が声をかけてくる。
確かに時計は、HR開始5分前を指していた。
…くそ…もう少し寝れたのに、残り5分となると二度寝もできやしない。男子共…中途半端な時間に起こしてくれたものだ。
「にしても、朝から寝るなんて珍しいわね…この土日に何かあったの?」
「えーと…プラモデルを徹夜で作ってたから…かな」
本当の事を言うと、また色々と説明しなくてはならなくなってしまうので、俺は適当に嘘を言う。
…あ…そう言えば、最近プラモデル作れてないや。何だかんだで忙しくて、すっかり忘れてた。
「まったく…自分の体調ぐらい、自分でしっかりと管理しなさいよ? 体調崩して熱出しても知らないからね?」
「ああ、心配かけて悪い。気を使ってくれてありがとうな」
「ーっ‼‼」
顔を真っ赤に染める美都。
俺…何か美都が顔を赤くするような事、言ったか?
う〜ん、わかんないなぁ…。もしかして、これも「女心」をわかってないからなのか?
一昨日、和と響に無理矢理読まされた本…厚さ(聞いて驚け! 何と900ページ越え!)の割には内容無かったしなぁ…。著者ーリリスだったっかな? にはもう少し頑張って、読みやすくて内容のある本を書いて頂きたいものだ。
「そっ、それより冬夢知ってる?」
「何を?」
「男子が騒いでる理由よ」
「いや、知らないな」
俺は学校に着いて即寝たのだ。知ってる方がおかしい。
「実はね…またこのクラスに、女の子の転入生が来るそうよ」
「え?」
俺は背筋が寒くなるのを感じた。
いや…まさかな…。響が俺のクラスに入ってくるなんて事は無いよな?
確かに響は「月曜から鳳凰に通う」と言っていたが…。
…はい…どう考えても響がこのクラスに来るのは確定ですね。
転校生が一気に2人くるなんて、よっぽどの事(例えば、兄弟だったり学期始めだったり)がない限りあり得ないしな。
そもそも、こんな中途半端な時期に転入してくる事自体あり得ない事だ。
「どうしたの? 顔が真っ青よ?」
「いや…大丈夫だ」
本当は全然大丈夫じゃない。だって転入生がやって来て、今日1日が平和に終わる訳が無いからだ。
キング オブ 平凡みたいな子が転入して来るなら、話は別かもしれないが…響は金髪碧眼の美少女。
和の時のように、男子のテンションがクライマックスになるのは目に見えている。
下手すれば、響と同居している事が男子達に早々にばれて…またあの時のように…。
「本当に大丈夫? 何だったら保健室行く?」
「…だ、大丈夫…」
…そう言えば、和の時はなぜか男子達に紛れて、美都も俺に詰め寄ってたよな…。
そんな事をふと思い出した俺は、美都に気付かれ無いように、そっと机の位置を少しだけずらした。
まあ、無いとは信じたいが…念の為である。
後悔してからでは遅いからな。
と、そこへ
「冬夢、美都、おはよう」
和が急いで教室に入って来て、俺の左隣に座った。
「おはよ、和。今日も朝練してたのよね? いつもより少し遅いようだけど」
ちなみに和はこの前、正式に女子剣道部に入部した。
そして基本的に、毎日朝練に行っているのだ。
一度、和が練習してる姿を見てみたいな。物凄く上手いらしいし。
「ああ、今日はいつもより汗をかいてしまったのでな、シャワーを浴びていたのだ。それでいつもより、遅くなってしまったと言う訳だ」
なるほど。道理で和から、シャンプーの良い香りがほのかにする訳だ。
あぁ…ずっとこの良い香りをーって、そうじゃ無くて!
「なあ、和」
「何だ、冬夢?」
俺は右隣にいる、美都に聞こえないように、声をトーンを落として、和に話しかける。
「響がこのクラスに来るみたいなんだが…」
「そりゃあそうだろう。昨日、響が私に冬夢は何組か聞いてきたからな」
「ん? 何だそれ? …まさか自分の入りたいクラスに行けるとか?」
「ああ、自分の希望したクラスに入れるぞ」
「どうやって?」
俺が尋ねると、和は肩をすくめ
「その辺は正直、私にもわからない。ただ、私は上司に、冬夢のサポートの為、鳳凰学院高校2年B組に転入したいと報告しただけだからな」
なるほど。つまり手続きとかは全部上司がやっているって事なんだな。
いやはや、上に立つ者も大変だね。
俺は一生高校生がいいなぁ。上下関係もそこまで気を使わなくていい訳だし。ああ、素晴らしき高校生活!
などと妙に残念な事を考えていると
「おーいお前ら、席に着け」
このクラスの担任である、岩峰 博雅が教室に入って来た。
岩峰は英語の教師なのだが…なぜか白衣をいつも着ている。見た目が体育会系なだけに、物凄く似合わないのだが…。
理由は全く持って不明であり、鳳凰学院高校7不思議の内の1つに数えられている(本人に直接聞け! と言うツッコミはなしで)。
まあ…やや荒っぽい所はあるが面倒見はいいし、授業も面白いので、何だかんだで生徒からの人気は強い。
一度話し始めると止まらなくなるのが、唯一の欠点と言えば欠点であるのだが。
「先生! 女の子の転校生がこのクラスに来るって言うのは本当なんですか⁈」
和の時と同じように、1人の男子がクラス(の主に男子)を代表して聞く。
「ああ、本当だ。お前ら喜べ。とっても可愛い女の子だ。まあせいぜい頑張るこったな」
おぉぉっ! とざわめき立つ男子達。
男子生徒諸君が頑張ってくれるのは一向に構わないが、響は男性恐怖症だからな…。上手くやっていけるだろうか。
男子を怖がって、不登校なんて事は避けたい。
…いや、でも…よく考えてみれば、直接触れられさえしなければどうって事ない訳だし、俺と和がフォローしてやれば何とかなるだろう。
そう考えたら、同じクラスで良かったかもしれないな。
「よーし、善家入って来い」
「ちぃーっす」
ズカズカと教室に入って来る響。
いきなり「ちぃーっす」はないだろ「ちぃーっす」は。
響らしいっちゃ、らしいけどさ。
「「「うぉぉぉぉぉおっ‼‼」」」
響の姿を見た男子達が咆哮をあげる。…動物園かよ、ここは。
まあ、叫びたくなる理由もわからない事もない。だって、響は金髪碧眼の美少女だからな。
「えーっと…オレの名前は善家 響だ!」
そう言って、でかでかと黒板に名前を書く善家。
「オレっ娘だ! 本物のオレっ娘が目の前にいる!」
「しかも金髪碧眼の美少女だ! ヤバイ…こいつはヤバイぞ!」
「榎本さんに音尾さん。そして新たに加わった善家さん。沢山の美少女と同じクラスで勉強ができる…B組で本当に良かったー‼」
男子のテンションは、予想した通りクライマックスだった。中には感動の余り、泣き出してる奴もいる。
ここで俺が響と同居してるとばれたら…俺は確実に「三途の川」行きの超特急に乗せられる。
用心しなければ…。
「あ、大事な事を言うの忘れてた。オレは男性恐怖症だから、わりーが男子とは余り近付けねーんだわ。触れられるとちょっとマズイんだ。普通に喋るくらいなら何でもねーから、その辺、協力頼むな」
響が恥ずかしそうに苦笑いしながら、頭を少し下げた。
ちゃんと成長してるな。
俺はふとそう感じた。
と言うのも、前まで響は男性恐怖症である事を周りには秘密にし、自分だけでなんとかしようとしてきた。
しかし今は、自分が男性恐怖症である事を、自ら告白し、周りに協力を求めている。
俺が土曜に公園で言った事を、きちんと守ってくれているのだ。
響は何だかんだで真面目だからな。まあ、口調が口調なだけに誤解されやすいかもしれないが…その辺は俺が補ってやれば良いだろう。
「…で、善家の席なんだが…」
和の時とは違って、男子が「俺の横に座ってくれ!」と叫ぶ事は無かった。
皆、早速響に気を使ってくれてるんだな。ありがとう。
などと、俺が男子達に心の中で感謝していると…
「あ〜…先生。冬夢の後ろに座る事って…できないんすか?」
「「「え?」」」
某然とするクラスの皆様。ちなみにその中には俺も含まれてたりする。
いやいや、何を言ってるんだ、響! そんな事言ったら、俺とお前が既に知り合い(既にそれ以上の関係ではあるが)だってバレるだろ! これじゃあ和の時と一緒じゃねーか!
ああ…こうなるとわかってたら、あらかじめ響に「同居してるって事は学校の奴らには秘密だ」と言えたのに。
このままじゃ…このままじゃ…。
「まあ、構わんが…どうして一ノ瀬の後ろが良いんだ?」
「その…オレ…冬夢と同居してて…冬夢なら大丈夫…みたいな?」
顔をほんのりと染めて、ぽそぽそと言う響。
ああ…こっち向いてないのに男子達から物凄い殺気が…。そしてなぜか、右隣の席からも…。
ヤバイ…殺される!
本能的にそう察知した俺は、勢い良く机から立ち上がった。
よし…まだ男子達は椅子に座ったままだ。右隣さんも固まったままで、ピクリとも動かない。
物凄く不気味だし、後が怖いが…これなら脱出できる!
「和! 後は任せた!」
和にそう言い残して、俺は教室から飛び出した。
…あんな拷問はもう嫌だからな。
「ふぅ…いただきます」
ようやく今は昼休み。
俺は小さくため息を吐きつつ、弁当のフタを開ける。
HRの時、プロの格闘家のような殺気を俺に向けていた男子達も今は落ち着いている。
俺が教室を飛び出している間に、和が上手い事やってくれたようで、俺が帰って来た頃には、既に男子達と美都はすっかり落ち着いていた。
どんな説明をしたのかは知らないが…今度お礼に、飛びっきりの唐揚げを沢山作ってやるとするか。
「なあ、響」
俺は真後ろの席に座っている響に声をかける。
「ん? なんだ?」
「さっき、美都と話をしてたけど…何の話をしてたんだ? 同盟がどうたらこうたら言ってたが…」
俺は詳しく知らないーと言うか、聞いても教えてくれないので知りようがないのだが…美都達は何かの同盟を結んでたんだよな。
響なら教えてくれるはずだ。
そう思って聞いてみたものの
「そっ、そんな事教えれる訳ねーだろ!」
と赤い顔で怒鳴られてしまった。
そんなに怒らなくてもいいだろ…。
「ところで美都と和は?」
俺は聞き出す事を諦め、話を変える。
「麗奈と悠里を呼びに行ったはずだぜ?」
「麗奈? 悠里? なあ響、お前知り合いだったのか? あの2人と」
「んなわけねーだろ」
「じゃあどうして呼び捨てなんだ?」
「休み時間に美都と和に連れられて、会いに行ったんだよ。んで、その時にお互い名前で呼び合おうって決めたんだ」
「ふーん」
確かに毎休み時間、美都達3人は教室にいなかったな。何をしてるのかと思ったら、なるほど、麗奈と悠里に会いに行ってたのか。
「一ノ瀬せんぱ〜い、今日も来ましたよ〜」
「一ノ瀬君、こんにちわ」
噂をすれば何とやら、で中溝と水沢が教室に入って来た。
その後ろから美都と和も入って来る。
「あ、響先輩、一ノ瀬先輩の後ろの席なんですね」
中溝が近くにあった椅子を引っ張って来て、俺の前に座る。
おいそこ! 自分の席に中溝が座ったからって、ニヤニヤしない!
「まあ…横に誰もいないのが、ちょっとさみしいけどな」
そう言いながら、響は自分の席を引っ張って来て、俺の横に座る。机は俺と共有するつもりらしい。
ちなみに水沢は、美都の机を一緒に使わせて貰っていた。
いやはや…美少女5人と一緒にご飯が食べられるなんて…。俺は幸せ者だよなぁ。これで彼女がいたら…なんて思ったりするが、それは流石に贅沢だよな。
「一ノ瀬先輩」
「ん?」
皆の弁当を見ていると(弁当にも個性があって、見ているだけで意外と面白いのだ)、中溝が声をかけてきた。
「あの…その…や、約束…覚えてますか?」
「約束? ん〜……ああ、あったあった」
確かに和の唐揚げ中毒を治す代わりに、何か言う事を1つ聞くと言う約束をしてたな。
「それがどうしたんだ?」
「その…今、使ってもいいですか?」
「まあ、中溝がそれでいいならな。でも、今ここでできる事なんか限られてるぞ?」
「えーっと…その…ボ、ボクの事、悠里って…名前で呼んでくれませんか?」
顔を赤くして俯く中溝。
…和といい、響といい、中溝といい…どうして女子って名前で呼んでもらいたがるんだろうか?
俺には、未だによくわからない。
まあ、別に構わないんだけどさ。
「えーっと…悠里」
「はっ、はいっ! 冬夢先輩っ!」
なぜか背筋をまっすぐにして、起立する悠里。
いや、そんな事よりも…今、悠里が…。
「俺の事、名前で呼んだ?」
「あっ、あのっ! ダメ…でしたか?」
「いや、全然OKだよ」
そんなウルウルした目で見られたら、断れる物も断れない。いや、そもそも断る気なんてないけどさ。
「そうですか! ありがとうございます! …エヘヘ…冬夢先輩に名前で呼ばれた…」
ありがとうございます以降は声が小さくて、何を言ってるのか聞こえなかったが、まあ喜んでるようだし…別にいいや。
「あ、あの…一ノ瀬君。私も…」
おずおずと手をあげる水沢。
どうやら、水沢も名前で呼んで欲しいみたいだな。
「ん? どうした? 麗奈?」
俺は先を読んで、さり気なく名前で呼んでやる。
これが大人の対応と言う物…ではないか。
「冬夢君…ありがとうございます。…あぁ…幸せです…」
深々と頭を下げる麗奈。
こっちもありがとうございます、以降は聞こえなかったが、悠里と同じで喜んでそうだし、よしとしよう。
「それで…冬夢君…もう1つだけ…お願いがあるんです。聞いてくれませんか?」
「まあ、内容にもよるけど…俺だって、何でもできる訳じゃないからさ。とりあえず聞かせてくれるか?」
「は、はいっ! そ、その…」
麗奈の顔はこれ以上にないぐらい赤かった。
熱出してるんじゃないかと、思わず疑ってしまう程に。
「…………と…とう、冬夢君…。わた、わ、私の…かれ、彼氏になって下さいっ!」
その瞬間、全世界の時間が止まった気がした。
誤字脱字や矛盾点などありましたら、ご報告よろしくお願いします。
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