30.冬至の祈り
「どうして、どうしてなのじゃ〜」
精霊王がさっきから号泣している。
いつもの嘘泣きではない、本気泣きだ。
ヤツが“本当に”泣くと、涙が真珠や宝石になって転がるからタチが悪い。
絶対に全部拾わせて帰るぞ、とラディは思う。
これだけの“泣き”は、ミーナが精霊王から買った花をラディにプレゼントしたためだ。
しばらく黙って聞いてやったが、ラディにも言い分があった。
「まあ、お前の気持ちもわかる。俺もまさかミーナが俺にプレゼントするなんて思わなかったんだよ」
「はあ?!ニマニマしながら、受け取っておった癖に!」
「娘から父親への感謝の贈り物だぞ?!しかめっつらなんてできるか?!バカ!」
「バカじゃと〜〜?!精霊王をよくも」
「バカだろうが。花にあんな仕掛けをどっさりしやがって!」
「し、仕掛けだと?」
精霊王がぎくっとひるむ。やっぱりだ。
なんか変な感じがすると思ったラディが《検分》し、さらに《精査》したら、まあ、色々詰め込んでいた。
「お前、覗き趣味があるのか?!この変態スケベの色ボケ精霊王!」
「なんじゃ、その物言いは?!」
「あの花には、ミーナの様子が俺の《結界》を抜けて《通信》できるよう、まあ、色々としてあってさー。
悪いが全部外して、置いてあるのはキッチンのテーブルだ。どのみち持ち込めねえよ。
俺の《結界》を甘くみんなよ。
最初に持ち込もうとした時点で、弾かれてたぞ」
「お前の《結界》はどうなっているのじゃ?!
なぜ人間にあんなモノができるのじゃ?!」
「悪いねー。俺は“ほぼ人外”なもんでな。
結界に弾かれないマトモなモンなら、俺が買って部屋に入れてやる。
ちったあ頭を働かせろ!以上!」
「花以外でもよいのじゃな?」
「4歳の魔法薬局の娘にふさわしいモンじゃねえと、俺は買わねえぞ」
「わかった。考える」
「で、ニクスに“力”は返したのか?」
「ああ、我はお前と違って約束は破らぬゆえ、返したぞ。《祝福》もしておいた」
「お前!俺がいつ約束を破った?!
それに余計なコトをするなと、あれほど言ってるだろうが?!」
「ふんっ!大したコトではないわ。
あの男から“感謝”の心が消えれば、消えるようになっておる。
わかりやすいであろう?ではさらばじゃ。また参る」
「こら、掃除してけ!このーっ!3歩で忘れる精霊王!」
泣き散らかした宝石を置いて、精霊王は《転移》した。
ラディは仕方なくセバスチャンを呼び出し、集めた宝石を城へ持ち帰らせる。
世にいう“精霊の涙”と伝わる宝石類は《祝福》付きも多く、国宝級の品なのだが、ラディにとっては製造者と同様、厄介なモノでしかなかった。
〜〜*〜〜
12月に入り寒く乾燥した天気になると、風邪が流行り始めた。
ラディもミーナもマスクと帽子を付け、予防に努めながら対応し、魔道具の《加湿暖房器》も出してフル稼働だ。
どっちが前か後かといった順番争いも起きそうだったので、来局順に番号札を渡すようにした。
待ち合いの席を増やしても追いつかず、立って待つ患者がいる。
《転移》して“城”から来てくれるセバスチャンが夕食を作ってくれ、本当に助かっていた。
そんな中でもミーナの楽しみは、刺繍のレッスンだった。お洒落できるのも嬉しいが、何より父ラディに内緒にしてることがあった。
王都では昼がいちばん短くなる日、冬至を祝うルクス祭がある。
その日は、光に恵まれる季節が無事に来るように、太陽神に祈りを捧げたり、神殿へ参拝したりする。
夜は家族で蝋燭を灯し、夕食を摂る。
その時、家族で贈り物をする家庭が多い。
去年はラディからは温かいセーターを、セバスチャンからは可愛い靴下を贈られた。
ミーナはラディとセバスチャンには『肩たたき券』をあげた。
ラディは使ったが、そういえば、セバスチャンは「家宝にする」とちっとも使ってくれていない。
今度、授業の前か後に肩たたきすればいい、とミーナは思いつく。実施したところ、セバスチャンは「ありがたすぎます」と泣いていた。
そんなある日——
ラディはストックに余裕がなくなってきた素材を仕入れに、空いてる時間を見計らいギルドを訪れた。
受付担当、女装趣味のローラことローランドが、カウンターで手を振り迎える。
「ふくろう魔法薬局は忙しそうね〜。今日は購入?」
「そうだ。これを頼む」
ローラは渡されたリストを受け取ると、奥に行きしばらくして戻る。
「はい、どうぞ。お確かめくださ〜い」
素材と請求書をカウンターに置き、ラディはきっちり確認する。
「ここはそろってて助かるよ」
「あら、少しお高いって文句言われる時もあるのよ〜」
「素材探しに費やす時間を考えれば、安いもんだ。品質も申し分ない。代金だ」
「ラディさんは分かってくれてて嬉しい〜」
ラディはカウンターに金貨と銀貨を並べ、チップに銀貨を1枚上乗せする。
「なにか面白い話はあるか?」
ローラは地声に戻り、ラディに囁く。
「あるぞ。とっておきだ。
“魔力枯渇”してた、例の氷魔術師だが、豊穣祭の夜に魔力が急に戻ったそうだ。それも氷魔術は前より強くなったらしい」
あのバカ、やり過ぎるなとあれほど言ってるのに、とラディは心中で精霊王を蹴飛ばすが、続きを促す。
「豊穣祭の夜に、前より強く、か。意味深だな」
「でっしょ〜〜。それよりもさ〜。
その氷魔術師から、“いい匂い”がしちゃうんですって」
「いい匂い?」
「そう。若木のような、グリーンノートって言えばいいのかしら。爽やかでス〜ッてする感じ」
「ああ、臭いを消すのによく使うな」
《消臭》ができない庶民が使ったり、貴族や女性が用いる香水でも使われる。
「それが《消臭》の魔術でも消えなくて、ちょっと困ってるんですって。《変化》しても消えないし、捜査や魔物退治にも差し支えるんじゃないかって。
でも氷魔術は強くなったから、氷魔術師の班長には復帰したそうよ〜」
「へぇ、そりゃよかった。確かに面白かったよ。
また来る」
「ラディさんなら、いつでもどうぞ〜ん」
ギルドからの帰り道、ラディは精霊王から《祝福》され、“匂い付き”となったニクスに同情していた。
〜〜*〜〜
ルクス祭当日——
ふくろう魔法薬局を昼から休み、ミーナと太陽神殿へ参拝する。
店に仕込まれた、“精霊王からの贈り物”を帰り道に買いに行くのだ。
そこはアンティークの小物雑貨店だった。
1週間前に見せられた品は、こりずに貴金属製だったので即却下し、同じデザインの木工細工ならいい、と厳命した。
その自鳴琴は、店の中央のテーブルに並べられていた。
外側は寄木細工で可愛い花々を描き、蓋を開くと内側には鏡で、底や側面には赤いビロードが張られていた。
ラディは《精査》を繰り返したが、今度こそまともなようだ。
ねじを巻くと、子守歌としても親しまれている聖歌が流れる。これにも魔術はかかっていない。
試しにミーナに触れさせても、変化は起こらなかった。
「うわあ、かわいい。お父さん、これ、なあに?音が出てたよ」
「自鳴琴って言うんだ。ミーナ、これどう思う?」
「とってもきれい。中に何か入れてもいいの?」
「ああ、ブローチやリボンとか、ミーナの宝物を入れておけばいい」
「え?ミーナの宝物って?」
「ミーナが気に入ったなら、これを冬至の贈り物にしたいんだが、どうかな?」
「え?いいの?!」
驚きと喜びにあふれる表情で決定だ。
美しい包装紙に包んでもらうと、「とってもきれ〜い」と大切そうに触れる。
魔法薬局に帰った後もずっとご機嫌なミーナが、夕食のテーブルに座ると、ラディに小さな包みを差し出す。
「お父さんへの“おくりもの”です。どうぞ」
「おっ、今年は何かな?」
愛らしい包み紙を開くと、中には白のハンカチと茶色のポケットチーフが入っていた。
どちらにもラディのイニシャル『R』と花の刺繍入りだ。少しふぞろいだが、精いっぱいの努力が伝わってくる。
「ミーナ、とても嬉しいよ。綺麗な刺繍だ。こんなに刺せるってすごいぞ。がんばったな」
ラディミーナの頭を優しくなでる。ミーナも嬉しそうに目を細める。
「お父さん、大好き。いつまでも元気で一緒にいてね」
「父さんもミーナが大好きだ。来年も元気で無事に過ごせますように。さあ、光の加護を祈ろう」
「はい、お父さん」
親子二人、蝋燭を灯し、大切な互いのために祈りを捧げた。
ご清覧、ありがとうございました。
コミカルなファンタジーを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と、精霊王様の斜め上溺愛、その周辺を描けたら、と思います。
誤字報告、ありがとうございます。参考と学びになります。




