10.花の病気
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ある病気の症状が出てきます。
ご不快な方は、閲覧にはご注意ください。
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「デニス隊長!」
「おう、ニクスか。お疲れ様。すごい匂いだろう」
二人は花の満開現象が発生した公爵邸にいる。
デニスはマスクをし、目をしょぼしょぼさせていた。
「えぇ、私は《清浄》魔術で匂いを防いでいるのでマシですが、お辛そうですね」
「ああ。目が猛烈に痒い。後は鼻水が嫌ってほど出てくる。これは呪いか?」
ニクスはデニスのマスクを取り、その場で簡単に診察する。
王国魔術師団、氷魔術師班班長だが、治癒師でもある。
「う〜ん。なんとも言えませんが、なんらかの原因で炎症を起こしての症状ですね。《治癒》か《回復》かけてみますか?」
「頼む。集中できん」
ニクスが《治癒》を施し、デニスはすっきりした表情を取り戻す。
「助かった。さすがニクスだ。
で、この怪現象と深夜の発光は関係あると、思うか?ハックション!ゔ、また鼻水が……」
「一旦、《治癒》で治っても、すぐに症状が戻る。
この怪現象と関係ありそうですね」
「呪いなら、ねちっこくていやらしい。
鼻水と涙と痒みがこれほど集中力を欠くとは。情けない」
「あちらでは咳をされてますね。皇城の医術師に相談してはいかがでしょう。彼らは病気が得意です」
医術師は《治癒》や《回復》はできないが、《探知》で体内の異常を発見し、医学知識と技術で治療する。
「そうだな。ここではなんの手がかりもなかった。
『起きたらこうなっていた』ばかりだ。
庭師達は絶望していたが。どこから手をつけたらいいか、話し合ってる」
作業服を着た庭師達は5、6人が集まり、額を寄せ相談していた。
「おい!撤収するぞ!担当の初動捜査は終わった」
部下に呼びかけるのも鼻声だと締まりが悪い。
隊ごとに、王城内の騎士団本部へ帰還する。ニクスも着いてきていた。
団長にまずは口頭で報告する。どの隊も似た捜査状況だった。
執務室で報告書をまとめていると、ニクスが話しかける。
「デニス隊長。この花が満開になる怪現象、あなたのお宅が最初だったんですよね」
「ああ、一日早かったが、朝起きたら、ってのは一緒だ。全く気づけなかった。ただ夜中の発光現象は確認されていない」
「昨日はお茶会だったとか。例の魔法薬局の親子を招待されていかがでしたか?」
「良識を持った親子だったぞ。
なんでもラディ殿の亡き師匠が、『魔術師はどんな方に依頼されるか分からない。礼儀正しくあれ』というお方だったらしく、本人はもちろん娘も礼儀正しかった」
「そうですか……」
「しかも義理堅くてな……」
ロバートの一件の念書などについて話す。
「ああ。患者もある意味顧客です。トラブルを起こしたくなかったんでしょう。
で、師匠の名前は?」
「聞いていない」
「肝心なところを。機会があったら、聞いておいてください」
「まだ怪しんでいるのか?」
「この花の件で、もっと濃くなりました。
あなたのお宅の花が満開になった日に、ラディ親子は現れた。果たして偶然でしょうかねえ」
「親はともかく、娘は途中から辛そうだったぞ。対面していたので、よくわかった。きっと香りが混ざり強すぎたためだろう。妻もそう言っていた。
大切にしている娘を苦しめるか?」
「それは何とも。俗に言う『やっちった』のかもしれない。まだあの親子への接近は禁止ですか」
「私は話してさらに疑いは晴れた。禁止だ。
私を納得させる何かを持ってこい」
「それって捜査はしていいってことですか?」
「周辺捜査だ。親子への接触は変わらず禁止だ。
子どもには特にだ。健気で愛らしかった。
父子家庭をさらに悲しませ苦しめたくはない。
魔術師団には私が依頼をしておこう。
ニクスから上に報告しておけよ」
「わかりました。早めに医術師に診てもらってください。すごい鼻声です。では失礼します」
「了解した」
ニクスはラディの周辺、特に師匠が気になった。だが存命ではない。
ハードルは高いが、やってみる価値はある。
騎士団内はくしゃみがあちこちから聞こえ、すれ違う者には、マスクをし目が赤い者も多い。
「これだけ性格が悪い症状、立派な呪いだ」
呟くと、魔術師団本部に向かった。
〜〜*〜〜
魔法薬局では午後に入り、呼吸器系や眼、肌の苦痛を訴える人が増えてきた。
症状について、「いつから」と問診すると、「今朝、公爵邸に配達した」「貴族街での仕事だった」などと話す。
ピンときたラディは目の症状の患者を《探知》すると、眼球にびっしり花粉の粒子が付いていた。
どういう機序で起きるか不明だが、花粉が原因だろう。
目は洗い薬と抗炎症目薬、呼吸器系もうがいを勧め、抗炎症飲み薬を処方する。
肌は自宅でシャワーを浴びた後、抗炎症薬の塗り薬を出す。
最後の患者を送り出した後、ラディもミーナもぐったりするほど疲れていた。
それでもやることがある。
患者が持ち込んだ花粉の除去だ。
ラディは《浄化》を徹底的に行った。特に調合室だ。
ミーナには入浴を指示する。
「患者さんに付いてきた花粉が、ミーナにもかなり付いてる。途中からマスクと三角巾をしたが、よく洗ってきなさい。髪も丁寧にね」
「はい、お父さん」
「アルバスも一緒に洗ってやるといい。花粉まみれだ。床に転がってただろう?」
そこでアルバスが、「クシュッ!」とくしゃみをする。
二人は顔を見合わせた後、ミーナはすぐにアルバスを連れお風呂に向かった。
〜〜*〜〜
その夜も精霊王はご機嫌に登場した。
やり切った感に満ちあふれている。
「どうだ。我の力を思い知ったか。こんなことは指先一つで出来るのだ」
「……………………………ふうぅ」
ラディはジト目で見つめ続けた後、大きなため息を吐く。
「…………どうした?いつもと態度が違うではないか」
「さすが精霊王だと思ってな。
お前のおかげで疫病が発生した。一時的なものだが、大量の花粉が引き起こした。
ウチにも午後から患者が押し寄せた。その人達が持ち込んだ花粉で、ミーナも同じ症状になるところだったんだ」
多少大袈裟に言ってみる。ただコイツの頭がすくい上げたのはミーナだけだった。
「我が花嫁が?!具合はどうなのだ?!」
「安心しろ。俺が早めに気づいて処置し、ごく軽くで済んだ。もう眠っている。ぐっすりだ」
「よかった……」
「ちっともよくはねえんだよ。精霊王は祟り神か?
そう呼ばれたくなければ、今すぐ、適度な、いいか、土砂降りでも嵐でもない、普通の、ごく普通の雨を降らせろ。
花粉を空気中から洗い流すんだ。魔術より、水が一番早い」
「……どうして我がせねばならぬ」
「ミーナがまた疫病で苦しんでもいいのか?
空気中に花粉が浮かんでる間は、苦しむ可能性は消えない。
目は赤くなって涙が止まらず、猛烈にかゆい。
鼻水は湧き水のように流れ続け、時にはくしゃみが続く。そんな状態にしたいのか?」
「そんな、そんな酷い状態に、我が花嫁がなってしまうのか?!今すぐやろう」
《転移》しようとする精霊王を、ラディは止める。
「ちょっと待て。お前ならここでも出来るだろう。
俺の目の前でやれ。しとしと雨でいいんだ。光も無しだ」
「…………わかった」
ミーナに予想される症状がよほどショックだったらしい。大人しく雨を降らせてくれた。
いつもこうなら、ありがたいんだが。
「助かった。ミーナが苦しまずに済む」
「我が花嫁のためなら何でもする」
「だったら大人しくしていてほしいもんだ」
「は?大人しくしてるではないか?遊び心がうずいて、ちと楽しん……」
精霊王には珍しく、『しまった!』という顔をする。
「ほう、遊び心で楽しんだだと?!生命を弄ぶんじゃねえ!
“龍殺し”のランドラドラ・ラディスラウス、真剣にお相手させてもらおうじゃねえか?
命は取らねえよ。お前さん達は取れねえもんなあ」
その夜、怒髪天となったラディは、精霊王の周辺の魔素を《凝固》させ、首から下をピッチリ覆うと、原始的に“物理”で攻撃した。
ヘロヘロになった精霊王に「参った」と言わせ、とっとと退散させた。
ご清覧、ありがとうございました。
ファンタジー×コメディを目指しつつ、ミーナとラディパパの成長と精霊王様の斜め上溺愛を描けたら、と思います。




