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いちなんさったけど



「……ユウロン??!」


「人違いです」



騎士たちが連れてきたシーフーは何故だか後ろ手に縛られていた。のくせにやたらと堂々としていて何故だか騎士たちはキラキラした目を向けている。意味がわからん。



それよりもっと訳分からんのは、シーフーを見た途端にジェンシー殿下が顔を真っ青にして叫んだことだ。

というかこのやり取り前も見たぞ。確か森で。


こんなに間違えられるということはもう本人なんじゃなかろうかとも思うが、当の本人はやはり笑顔で、片腕男はともかく、片や大国の王太子ともあろう人間相手に食い気味に否定した。



「そんな……まさか、ユウロンは死んだはずじゃ……」


「だから人違いですって」



狼狽しきったご様子のジェンシー殿下に、シーフーは笑顔のままサラッとそう言った。

笑顔ではあるが目が笑っていない。心底面倒くさそうな、うんざりしたような顔に見えるのは私だけ? というかザイオンの王太子に向かってなんて顔してるんだシーフー。いや、私が今更言えたことじゃないけどね。



その間に大急ぎでジェラルド殿下が騎士たちを下がらせ、ティティー様とお母さんはいつの間にか消えているし、陛下はいささか慌てた様子でお父さんに事情を聞いている。



「あの男はリー・ユウロンなのか? お前はザイオンの王族をこき使っていたのか?」


「ま、まさか!! さすがに私も身元の確認くらいしましたよ! 王家に仕えていて、王家に捨てられたしがない従僕だと……。アリエルは嘘に敏感ですから、それが真実であることは確かです」



あたふたするお父さんにざっと目が向き、それからジェンシー殿下がシーフーに向き直る。



「……影武者(ダミー)か」


「ご明察」



ジェンシー殿下の言葉にシーフーはあっさりそう言って目を細めた。

やはりどこか面倒くさそうに見えているのは私だけなのだろうか。怖いんだけど、なんかちょっとイライラしてそうなシーフー。



そういえば、この二人はなにげに初対面なのか。ジェンシー殿下が入国してから随分と経つが、例え城だろうが地獄だろうがなんでも着いてきそうな執事が、一切城に近づこうとしなかったのはもしかして、こうなることが分かっていたからだろうか。



「ユウロンに影がいるなんて聞いたことが無い」


「ええ、リー・ユウロンは王位を継ぐ気はありませんでしたからね。そうでなくとも、政敵に影の存在を悟らせるようなことします? それに私は王家で正式に擁された影武者とはおそらく違います。私はユウロン派の人間が個人的に作り出したもので、元はただのスラムの孤児です」


口を開き、何も言わずグッと唇をかみ締めたジェンシー殿下にシーフーは「他人の空似にしては似過ぎてますよね」と言ってからからと笑った。




「何故影が生きている? お前が生きているということは14年前の夜に殺されたのはリー・ユウロン本人の方だったということか。影武者として役目を果たさず、」


「いいえ。あの日私は死ぬはずでした。リー・ユウロンの生死は今となっては不明ですが」



青い顔で、口元を押え、それでも睨みつけるような殿下にシーフーは相変わらず清々しいほどの笑顔で、なんでもない事のようにそう言う。飄々と口を開く彼はそれが本当にどうでもいい事のようにあっけらかんとしていて、むしろ面倒くさそうに言葉を紡いだ。



「貴方が指示したことなのかどうかはわかりませんが、確かにリー・リュウォンとリー・メイファは苦しみ抜いた挙句毒殺され、私は毒矢を受けリー・ハオランと共に堀に転落。普通に考えて生きてはいません。たまたま私はアリエル様に見つけていただき、トルヴァンへと辿り着き、そしてフェリル様によって死んでいたはずの命を救われました」


「フェリルに?」



青い顔のジェンシー殿下がこっちを見てくる。その顔になんだか期待的なものが浮かんでいる気がするし、青い顔のくせにちょっと頬が赤らんでる気がして気持ち悪いからやめてくれ。「やっぱりフェリルは女神じゃないか」だのなんだの思ってるわけじゃないよな、まさか。さっきまでお母さんを口説いてたじゃん、やめてください、何その顔。節操無さすぎじゃないかこの王太子。


思い切り目を逸らした私の隣でユーリウス殿下が固唾をのんで会話の行く末を見守っているが、見守っている暇があるならどうにかしてくれあの王太子の期待に満ち満ちた目を。なぜそんな目ができるんだ。嫁探しが難航しすぎて頭がおかしくなったんじゃないか。正気に戻ってくれ、そしてさっさと国に帰れ。多分選ばなければ嫁くらいすぐ見つかるって。本当。私が保証する。というかユーリウス殿下なんて使えない王子なんだ。一応婚約者役のはずだろう? ……ああ、もう終わったんだっけか。



「ええ、シュウ・ジェンシー王太子殿下。フェリル様はそういう方です。誰でも何の打算もなく助けてしまえるのですよ。別にあなたが特別な訳じゃない」



ニッコリ。


完璧な笑みでそう言ったシーフーにアホみたいな顔をしていたジェンシー殿下は目を丸くして、それから顔を強ばらせた。



…………おっと? なぜ、そこがピリピリする? なんで今更ピリピリするの? え? 本当にわかんない。


というか、シーフー助けた時はあんまり記憶にないし、ジェンシー殿下の時は打算ありまくりだったからね。むしろ私が殺しかけたんだから。そこらへん勘違いしないで、って言っちゃってもいいかな? いいわけないか。




ほら見て、ジェラルド殿下がめちゃくちゃいらいらしてるよ。イライラしすぎて後ろにブリザードが見えるよ。あそこだけなんか寒いよ。いい加減にしてくれ。




「ただの執事が偉そうなもんだ。せっかく救ってもらった命、大事にしないとねえ」


「ご心配なく、フェリル様に拾っていただいたこの命、散らすのはフェリル様の為にと心に決めております。見た目しかみれないような小童……失礼、若人に捧げてあげるには惜しいので、そろそろ黙ることにしましょう」



ぴきり、と額に青筋を浮かべた大国の王太子様は僅かに口端を引き攣らせて、ハーーと一度息を吐き、口を閉じた。



えーーーと、ちょっと状況を整理することにするけど、なんでこの二人出会って一瞬で喧嘩っぽくなってるの? その14年前とやらに因縁があるの? えっと、シーフーはユウロンって人の影武者で、あの片腕男もシーフーをユウロンって人と間違えたのか。

それで、なんだっけ、つまり、ジェンシー殿下がシーフーを死にかけさせた張本人ってことなの?



「あ、そりゃ喧嘩になるわ」


「はい? なんか言いました?」


「……なんでもないです」


隣のユーリウス殿下に頭を抑えながらそう言って、私はため息を着く。


……え、なんでなの、こんな偶然ある?



「……と、そんなことはどうでもよくて」


「そんなこと??」


「ユーリウス殿下、ティアナ・レイク嬢が探しておられましたよ。なんだかとても困っていたご様子でしたが渡り廊下を西に向かっていました」


「ティアナ・レイク? このオレとの会話がそんなことだと?」



ぴきぴきと青筋が増える音がする。私はうっかり猿のごとく叫びそうになって、慌てて口を抑えたが、突然話題に挙げられたユーリウス殿下はハッとしてシーフーを凝視していた。


「恋人の貴方が、」


「わーーわーーー!!」


「フェリル? ……今恋人って言ったか?」


「いいいいってない!! 言ってない! そんなわけないじゃないですかあ〜やだな〜、ほらユーリウス殿下、呼ばれているみたいですよ! さっさと行ったらどうですか!」



ちょっと! シーフーなんのつもりなんだ!


確かに問題は解決したし、もうユーリウス殿下とは婚約者役でもなんでもないかもしれない。

でも、ジェンシー殿下に嘘をついていたことがバレるのはまずいし、私とユーリウス殿下が婚約者でもなんでもないということがバレるのはもっとまずい。


だってこの王太子さま節操ないんだもの!



どういうつもりなんだ、とシーフーを睨んでみるが、奴はニッコリと読めない笑顔を返してくるばかりで辟易としてすぐにやめた。



「え? え、」とか腑抜けた声を出すユーリウス殿下を追いやってさっさと部屋から締め出し、一息ついてジェンシー殿下に笑いかける。



「ユーリウス殿下は城内の使用人にもとても友好的で頼られているんです」


「そうなのか? 恋人と聞こえたけど、やっぱり君たちは」


「いやいやいやいや、そんな訳がないじゃないですかあ〜」



シーフーめ、事情知ってるくせに。なんのつもりか知らないけど覚えておけ……!








いつもいつもありがとうございます(´;ω;`)

更新遅くて申し訳ないです…。


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