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ざいおん





「……フェリル様、私はちょっとこの(アホ)

話があるので少し出てきます」


「あ、ああ、うん。知り合いな」


「いいえ」




だいぶ食い気味にそう答えたシーフーは笑顔で男の左手を引っ張って……というかほとんど引きずって外に出ていった。けたたましい音を立てて扉が閉まり、途端に静寂が訪れる。


嫌でも絶対知り合いな感じだったと思うのに、何をそんなに頑ななんだシーフーは。 というかユウロンって呼ばれていなかったか? ユウロン? ユウロン・シーフーなのか? それともシーフー・ユウロンなのか? まあどっちでも別にいいけど、本当にわたしはシーフーのことをよく知らないな。



とりあえず勿体ないので、あの男が食べなかった朝食を平らげ、野菜を収穫し、庭と畑の水やりをしてから一息ついた。

今日は何をしようか。あの男、やっぱり腹が空いてるだろうから狩りに行って猪か鹿なんかを狩ってきてやろうか。ああ、もしかしたら腹が減っていてあんなに怒りっぽいのかもしれない。私も身に覚えがありまくるからよく分かる。それとも、魚の方が良いだろうか? 魚だったら湖まで行って……。そういえばシーフーは今日はどのくらい森にいるんだろう? いつもは戦争に行くみたいにピリピリした目でさっさと王都の屋敷に帰っていくけど……。



…………というか、遅いな。




昔、私とシーフーで作ったテーブルセットにかけ、マダムにバレたら八つ裂きにされそうなだらしの無い格好で寛いで、しばらく。漸く外から小さな音がして、ノックが聞こえた。



「はーい。遅かったな〜」



というかノックなんて普段しないくせに、カッコつけたくなるような仲の知り合いだったのか? ぷぷ、シーフーも案外可愛いとこあるじゃないか……。


声をかけたのに中々入ってこないシーフーに、しぶしぶ立ち上がりドアを開けに行く。




「紳士ぶっちゃって、ぷぷ、……」



「こんにちは」




森から差し込む陽を浴びて美しく輝く金髪。


そこに立っていたのはあの見慣れた嫌味男シーフーでは無かった。








ーーーーーーーーーーーーー




「ーーで、何の目的でトルヴァンに来た」



ずいぶん森の奥に引きずってきたが、面白いほどに無抵抗。嘲笑を漏らしながら木の幹に乱暴に身体を縫い付けると、「ぐっ」と短く息を吐いた。


途中、どこに隠れていたのかこいつの地竜らしき生き物が私に向かってこようとしたが、こいつはそれを目だけで諌めて黙って私についてきた。はは、カワイイ忠犬ぶりだ。変わってないな。



「あんた、本当にユウロンか?」


「違うと言っているだろう。私が本当にお前の兄に見えるのか?」



木陰で更に深い赤をした瞳を真っ直ぐに見下ろすと男は瞳を見開き、揺らし、それから諦めるように目を伏せた。



「……違ぇな」


「だから最初からそう言っているでしょう」



はぁ、とため息をつくと男は眉間と鼻の頭にこれでもかという程にシワを作った。涙でもこらえているのだろうか。鬱陶しい、そういうの、本当にどうでもいい。



「でもユウロンを知ってるな。……お前何者だ、何故こんなに、」



「似てるのかって? はは、笑える」



突き放すように手を離した私からだらりと男が揺れ、右側に倒れ込んだ。しかし、右腕が無いから受身が取れないのかそれともそもそも受け身なんて取る気がないのか、無様に地面に倒れ込む。



こちらを威嚇するような目で睨み、しかし、縋り付きだそうな情を浮かべる男に吐き気がする。鼻から頬にかけて走る引きつった傷跡を無感情に見下ろした。




「……先に私の質問に答えろ」


「お前が何者か分からないうちは無理だ」


「お前の目的がフェリル様でない限り、恐らく邪魔をすることは無い。というか興味もない」


「…………信用出来るか」



私から目を離さない男はそう言って鼻で笑った。本当に荒んだものだな。こんな顔をする子供ではなかったのに。まあ、14年だ。それだけあれば、変わらないものの方が少ないか。




最近少し伸びてきて鬱陶しい前髪をかきあげ、腰に手を当てる。懐に仕込んだ仕込みナイフはいつでも取り出せるような位置で両手を遊ばせながら私は笑った。フェリル様には絶対に見せない、汚い笑い方で。



「その傷は14年前に負ったのか。右腕も。まったく相変わらず酷いことを。その耳飾りはユウロン気に入りのものだった。形見に持ち出しでもしたか?」


よくそんな暇があったな、とこれは心底思ったことだが、口を開く度に驚愕に栗梅色の瞳が見開かれていく。わなわなと小刻みに震える唇がなんとも哀れだ。


男の反応をまるっきり無視して私は続けた。



「家族は全員殺されたか? お前の母親も父親も、何が悪かったんだろうな。…………違うな何もしていないよな。あの国で産まれて少しでも王家の血を引いていた、それだけだ。ユウロンが神童だと持て囃され民の支持を受けていたことも良くなかった。もっと早く継承権を破棄していれば良かったのにな。悔やんでも悔やみきれない、そうだよなぁ。あの毒は解毒法も無く血を吐き続けて話すことも叶わずじわじわ命を蝕む残酷なものだった」



「……お、お前は」


もう14年も前のことなのに、まるで昨日の事のように思い出せる。

あの痛みも苦しみも、絶望も、怒りも、なにもかも。



青い顔をした男に私は笑いかけた。まるで男の兄のように優しく。争いにも王位にもまるで興味がなかったくせに、その人格と器のせいで敵対視され真っ先に狙われた哀れな男のように。





「ハオラン、私はお前の兄ではない。だがお前の兄の足跡を知っている。お前が私の質問に全て答えるというのなら、教えてやってもいい」




「……な、」




「…………もっとも、生きているかどうかは、私にも分からないが」



そう言ってやるとハオランはまた、壊れた蛇口のように静かに涙を流し始めた。









いつもありがとうございます!

シーフーは性格悪くて書くのが楽しいです(すみません……)

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