かいごう
所変わって……
「や、やめろ!! は、はな、離せぇぇええ」
「遠慮するな。はい、口開けてあーん、」
「あぁぁぁヴ!! やめろぉぉぅおお」
「はぁ、まったく往生際の悪い男だな」
「お前こそ、本当に女か!? 化け物みてぇな怪力しやがって!!」
男の上に馬乗りになった私は半身で体を左腕ごと押さえ込み、片手で両頬を鷲掴みもう片方の手で作ったばかりの朝食をねじ込もうとしていた。
どうしてそんなに嫌がるのか全くわからん。採れたての野菜と小麦粉を練り上げ焼いただけのものだが新鮮だし美味いぞ。
…………まあ、確かに見た目はそんなに良くはないが、味は保証するのに。
全力で抵抗されること半刻ほど。依然として頑固に口を開かない男に少々イライラしてきた。
人間は何もせずとも腹が減るし、飯を食わないと死ぬというのに何故こうも拒むのか甚だ疑問だ。「俺を殺す気だろう」だとか「毒が入ってるに違いねえ」だとか、果てには「お前みたいなやつの作る飯はクソまずいと相場決まっている」だとか。全くこの男はずっと何を言っているのか。お前みたいなやつってどんなだ。失礼な男だ。私の作る料理は味に相当うるさいシーフーも黙って食うレベルだぞ。美味しいに決まってるだろシバくぞ。
「だから、私がお前を殺して一体なんの得があるんだ」
「はァ??! 逆にお前が俺を殺さない理由が思い当たんねえだろうが! 馬鹿なのかてめぇ」
「お前極端すぎるぞ。なぜそうなる」
なぜ私がこの男を殺したがってるみたいな感じになるんだ。そもそもこの男が誰か分からないし、たまたまザイオンから迷い込んだ迷子か何かかと思ったけど、違うのか? 私に命を狙われる理由があるのか? なにか企んでるのか? 知るかそんなこと。まあ確かに初対面でいきなり斬りかかってきたけど、私は無傷だったし気にすることでもないだろう。むしろ死にかけたのはそっちの方だし……ああ、だからか?
「いやいや、違う違う。あれは事故だから」
「うるせぇ! お前がトルヴァン王家に仕える精霊だってことは分かってんだぞ」
「はぁ? 何言ってんだ? 全然分からん」
王家に仕える精霊ってなんだ。そんな精霊いるのか? いや知らんけど。精霊ってみんなお母さんみたいな感じじゃないのか。あんなんが人に仕えられる訳ないだろ。馬鹿なのかこいつは。
「とぼけんじゃねえ! だいたい、お前が俺を助ける理由なんか無っ」
「いいから食え」
「ンぐぅヴっ!!??」
ぎゃあぎゃあと喚いているすきに鷲づかんだ朝食を口にねじ込むと、男は目を見開いて大人しくなった。……いや、違うか喋れないのか。
口を塞いだままでいると青くなった顔で渋々咀嚼をし、ごくん、と喉を鳴らした。
「てっめ、何しやがる!!」
「どうだ、美味いだろ。別に毒なんか入れてないし」
にっこり笑ってそう言うと男は驚いたとも怒っているともつかない顔で暫く黙り込み、それから顔を背けて鼻を鳴らした。なんでそんなに警戒してるのかは謎だけど、普通に目の前で死なれたら寝覚めが悪いだけだ。
家で死なれたら色々面倒だし、普通に困る。
「フェリル様!!!! お変わりありませんか!」
なんか多分きっと歳上だろうけど、子供っぽいやつだな〜元気でよろしい、とか思ってたら扉が開く音がして数週間ぶりくらいの聞き慣れた声がした。
「…………は?」
「……あ?」
「あ、シーフー、おはよう」
「………………」
「…………………」
「……………………ん?」
寝床に男を羽交い締めにして押し倒しているわたしとわたしの下にいる男を交互に見て、たーっぷり沈黙した後、シーフーはいつものように笑みを張りつけた。
「これは、一体なんですか?」
「ひっ!」
れ、冷気が! 冷気が放出されている気がする。なんか知らないが物凄く怒っている気がするのは私の気のせいだろうか? 心做しかメラメラと揺れる風がシーフーの周りを包んでいる気すらする。……いやそんなわけない幻覚だ。
兎にも角にもなんかよく分からないがめちゃめちゃ怒っている……。あれか、勝手にシーフーが買ってきた食材を使ったからか? それともシーフーの気に入っている食器を昨日割ったのがバレたのか? そもそもこんな山小屋に上等な食器なんて持ってくるのが悪いんだ……。いやそんなこと言ったら殺される。
「はぁ、フェリル様貴方は本当に……」
「ユ、ユウロン?」
「は?」
「え??」
何故か全く全然分からないが、気がつくと男はわたしの下でダラダラと涙を流していた。
ーーーーーーーーーーーーー
「はぁ」
……なぜフェリル様はこうも厄介事ばかり持ってくるのだろうか。
何だこの状況。なぜ男を押し倒して組み敷いている? というかなに、は? もしかしてフェリル様の手ずから手作りの食事を食べさせて貰ってないか? は? 何、意味がわからないのだが、とりあえず処分したらいいのか?
「ユウロン、ユウロンなのか!」
「いいえ、人違いです」
状況がその小さすぎる脳みそ……失礼、常人よりいささか少なすぎる知能では処理しきれず、固まるフェリル様を押しのけて黒髪の男が這い出てきたかと思えば肩を掴んできたので、さりげなくそれをかわし、冷静に男を見下ろした。
…………ああ、嘘だろ。なんだこれ、こんな偶然あるか? いや無い。あっていいわけない。
黒い髪に濃い赤の瞳。トルヴァン貴族のフリをしてはいるがどう見てもザイオン国民。そして先程は余りの状況に気が付かなかったが、この顔……。
はるか昔の記憶を呼び起こしてため息をつく。
14年前はもっと幼く可愛げのある顔だったが、まあ随分と荒んだものだ。
私と兄の見分けもつかず、足元にすがりついては「兄様兄様」とじゃれつき、屈託のない澄んだ瞳で笑うこの男が昔っから私は大嫌いだった。まあ、あの頃の私に好きな人間などいやしなかったんだけどな。
「いや! ユウロン! ユウロンだ! 俺にはわかる」
だから違うって言ってんだろうが。俺にはわかる? 分かってなどいなかっただろ。昔からいつも、一度として。
切り捨てたい気持ちをどうにか押さえ込み笑みを張りつけたまま、五月蝿いその男を押しのけ、フェリル様の腕を引き立ち上がらせた。
「フェリル様、一体これはどういう事ですか」
「ひっ、」
「私が少し目を離した隙に、あなたって人は」
「少しって……全然帰ってこなかったじゃないか」
私から目を逸らし、口をとがらせて拗ねたように独りごちるフェリル様は天使のごとき愛らしさでうっかり抱きしめそうになった。
……危なかった。この人たまに素でこういうことするから困る。いつもは猿か猪なのにな。知能野ねずみくらいしかないのにな。素でやるから、素で。
はぁ、これもそれもどれも全部あのユーリウス殿下のせいだ。大体いつも昼過ぎに来るから、今日は早朝なら大丈夫かと飛んできたが、実は気が気でない。あいつがもし来ていたら、フェリル様が森にいてしかもめちゃめちゃ元気に跳ね回っていることがバレる。
正直こんなアホほど面倒くさそうなことに巻き込まれている場合ではない。……けどなぜか面倒事ばかり引き寄せるんだよな、このおバカさんは……。
気がつくと自分でも気が付かないうちに笑顔が溢れていたらしい。ふふふ、こんな穏やかな気持ちになる日が来るなんてあの頃の私は想像もしていなかっただろう。
……何故かフェリル様は私の顔を見て悲鳴をあげたけど。
いつもありがとうございます!!
前回ようやくイルが出せました。゜(´∩ω∩`)゜。シーフーばっかで、視点もコロコロ変わってすみません…




