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なぞのおとこ2






あーー、暇だ。

ここに来てから何日経っただろう。朝日の出とともに起きて、畑の世話をし飯を作り、気まぐれに狩りに出て、気まぐれに家具を作ったり家の修繕をしたり、たまに来るシーフーと薬草を摘みに行ったり、王都の話を聞いたり……。そういえばザイオンとの同盟が正式に締結されたとかそんなこと言ってた気もする。いい事なのかどうなのかいまいち分からないけど。


というかシーフーなんか私にいろいろ言ってきた割には、全然一緒にいないじゃん。まったく。……いや、本業はマーデリック家の執事なんだから仕方がないけどな!

なかなかやってこない割に絶対森から出るなの一点張りで、めちゃめちゃ怖い笑顔で迫ってくるし。まったく。


森ってこんなに暇だったっけ……?


日差しをめいっぱい浴びながら畑の草むしりをし続けるのも飽きてきた。



「山いちごでも詰みに行くか」


小腹がすいてきた気がするし。伸びをして詰んだ草を桶に放り投げた。


沢山取れたらジャムにでもするか。シーフーが買ってきたものに小麦もあったからパンでも焼こうか、マルタ(雌鶏)の卵を後で拝借して……。


なんだか楽しくなってきたぞ。そうそう人生うまいもん食って適当に体動かしてれば幸せだからな!


「よしよし」


手をパンパンと叩いてわたしは意気揚々と森の奥へ向かった。







ーーーーーーーーーーー



「チッ、なんでこうなるんだ。せっかくイレオラの加護が減って楽に入れると思ったのに……使えねぇなァあの女………。何だこの国は、チッ相変わらず気持ち悪ぃ」



久しぶりにシーフー以外の人間の声がすると思ったら、人間じゃなかった。こんなところにいったい誰だ? 何故こんな人のこない森に?


……いや、人間か? 人間が乗ってるのか? 多分そうだよな。



山いちごの群生地を見つけて夢中で詰み、しかし籠を忘れたことに気がついたわたしは引っ張ったワンピースの布地にせっせと山いちごを積んでいたところだった。

そこへヒソヒソと不機嫌そうな声が聞こえる…と思ってそちらを見ると巨大な灰色の生物がいた。


ツヤツヤとした硬そうな鱗におおわれた体とトカゲのような頭。チロチロと伸びる長い舌は蛇のようだが……これは、確か。


「地竜……か? 初めて見た」


なんてことだ。

まさかこんな所で、対ジェンシー殿下用に叩き込まれた知識が役に立つとは。確かザイオンに住まう生物で軍隊にも使われているとかいないとか。飛竜よりは幾分か個体数が多いらしいとか何とか……。


「……何だこの森は竜ばっかり来るな」


余談だが、わたしがこの森であったことのある人間はシーフー以外でいえばジェンシー殿下とこの男だけである。シーフー以外には竜とセットの男ばっかくるな。なんなんだ一体。……というかその竜と男のセットには良い思い出が無いから関わりたくないんだけど……。



「チッ、しかし森に竜は相性悪ぃ。木が邪魔で仕方ねえ。加護のある地は招かれない人間はまともに歩けもしねえし……本当に面倒な国だ」


木の影からこっそり様子をうかがうと、男は未だ文句を垂れ流しながら不機嫌そうにため息をついていた。



「せめて、馬が使えりゃあもっとやりようもあるってえのにクソみてえな土地だよ本当」



男はそういって唾を吐いた。そしてわたしの好感度は急降下した。ついでに怒りのボルテージは急上昇だ。

神聖なるこの美しい森に……勝手に入ってきやがったどこの誰かは知らないけど…………。



「おい、お前」


「ぁあ?」


「汚い唾を吐きやがって。この森がどれほど素晴らしいと思っている」



ワンピースの腹のところに山いちごを抱えたまま、木の影から飛び出したわたしに男は片眉を上げ、それからガラ悪く唸った。


「ンだ、テメェ。なんでこんな森に人間がいんだよ」


煤けたような黒髪に栗梅色の瞳。釣りがちな双眸はジェンシー殿下にどことなく似ているし服装こそトルヴァンでよく見る貴族らしきそれだが、耳の装飾品は控えめながらザイオンのものに似ている。顔はそれなりに整っているように見えるのに雰囲気が粗悪極まりなく、ジェンシー殿下にどことなく似ているだなんて表現するのが申し訳ないほどだ。


そしてなにより、左頬から鼻にかけて走る引き攣った大きな傷にわたしは目を細めた。



「……怪我をしているのか?」


「あ?何言ってんだお前。……チッ。お前に恨みはねえが、死んでもらうぞ。……ジーアン、やれ」


「グォォオオオ」


「お?」


わたしの質問は華麗に無視されてなぜだか地竜が太い前足を機敏に動かし襲ってきた。

ガサガサと森の気を薙ぎ倒しながら向かってくる様にため息が出る。……ああ、その木は秋になると実に美味しい実を実らせるというのに……!


「ははは、根性あるじゃん、この国の人間にしては」


突進してくる地竜の前に仁王立ちし、山いちごをひとまず足元に置く。

それから両手を突っ張り地竜を睨みつけた。


「バカ!! この後ろは良い山桃の木があるんだー!!」


「グォ、シューー!!!」


ぺと、と掌に冷たく固い鱗の感覚を覚えた瞬間、両脚を踏ん張り、鼻から大きく息を吐いてその巨体を止めた。

ガガガガ、と抑えきれなかった勢いが踵にかかり、数メートル後ろに引きずられ地表を捲り、地竜がなおも前進しようともがく。が、わたしが踏ん張りながらもう一度目を細めると地竜は、その三白眼を戸惑いの色でいっぱいにした。


「シューー」


「なっ!! ば、馬鹿な! お前まさか精霊か!」


「うるさい! どっちでもいいわー!!!!」


精霊だとか人間だとか、そんなことばっかりだな、本当に。もうめんどくさい。そんなことより今は…。


「いいからお前、ちょっと降りてこい」


観念した地竜から手を離し、人差し指をクイクイと動かし男を凝視すると、男は目を見開いたまま固まっていた。



「そうかそうか、ではわたしが行こうか」



ふっふっふ、と笑いながら言ったわたしに男は訳が分からないという顔を一瞬したが、直ぐに腰に手を伸ばし剣を抜いた。


「はは、驚いたなジーアンが怯えてやがる……。お前がなんなのか知らねえが、こんな所で殺られる訳には行かねえんだよ」


鞘に触れキッと短く鳴いた剣を構えた男は、ひらりと地竜から舞い降りると羽織っていたマントを腕でいなし、こちらを見下ろすように顎を上げた。



「何を言ってるのか分からないな」


「それは、お互い様って、ね!!」


男が剣を構えて走ってくる。ーー早い、が、イルよりは遅い。この独特の構え方はやはりザイオンらしいな。


妙に冴えた頭でどうでもいいことを考えながら振り下ろされる剣を交わしながら後ろに下がり続ける。

というかこの男、なんで向かってくるんだ? わたしなんか言ったか? ちょっと注意したはしたけど……。というか手ぶらの女相手に普通こんなことする? 騎士道の風上にも置けないじゃないか。第二騎士団のみんなが見たらきっと、


「ボッコボコにされるんじゃないか、っと」


「ぁあ? てめぇちょこまかと……。本当に女かよお前っ」


まあそれはよく言われるな。女かよどころか、猿じゃないのかとか…。いやでも女です一応。こんなでも。


女相手だからか片手で剣を振り回すせいで剣の重さも速さもそうでも無い。男自体の身のこなしはいつかのジェンシー殿下のように機敏で華麗で柔軟なのに。なにか不自然に見える。


「おっ、?!! 嘘、だろっ」


「ふんっ!!」


避け続けるわたしに苛立ってきたらしい男の剣の柄を下から蹴りあげ、その勢いで宙返りをしてそのまま顎を蹴りあげた。



「がァっ!!!!!!」



男は後ろ向きにお手本のごとくゆっくりとそして綺麗に倒れ込み、運悪くあった岩に後頭部を強打した。


「わ! す、すまん! そんなつもりじゃ……!」


「ん、だよ、てめ………」






そう言い残して男は白目を向いて失神した。









「う、うわーーー!!!! し、死ぬなーーー!!!!!」



「グォォオオオオオ!!!!」



















いつもありがとうございます!ゴールデンウィーク更新できなかったので、まとめて……。

正直まさかこんなに長引くとは思ってなかったんですよねぇ(いつも言ってる)。いつも長くなるんですよねぇ……。

でもまあ、もうそろそろ終盤なのでフェリルの恋の行方(??)も物語も新展開です。……そろそろ空気王子立ちを出さないと……変態執事と変人父しか出てこないっすね……。

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