ひとりごと
「……おかしいわ」
冷えきった声音はそのまま、誰に拾われることも無く城の廊下へと消えた。
何もかもが上手くいっているような気がしていたのに。ここ数ヶ月、何かがおかしい。
それもこれもあの女のせい。それは分かっている。だけど、なぜ?? どうしてユーリウスのことまでおかしくなるのかしら……。
窓越しに見える男は金の美しい髪を靡かせて忙しそうに城門へ向かっていく。
近頃忙しいはずのあの王子は時間を作っては城門の方へ向かう。それは兄のいる兵舎であったり、はたまた馬車に乗ってどこかへ行ったり……。
つい数ヶ月前まで彼が時間を作って向かう先は他でもなく自分の元だったのに、こちらから声をかけなければ来てくれることはなくなってしまった。
もう随分会っていない背中に、燃えるような苛立ちを感じ、空色の目を細めた。
男爵家から行儀見習いとして城に入って一年余り、第三王子とかいうなんの価値もない男の下に付くなんて思いもしなかったけれど、会ってみれば顔は美しく好みだし、何よりも扱いやすくて良い。
少しコンプレックスをくすぐってみたらすぐに転げ落ちてきて、面白いったらなかったわ。
クスクスと漏れそうになる笑いを隠すようにして、既にピカピカの装飾品を磨いた。
「私のチカラも少しくらい残っているみたいだし、本当に愚かなものだわ」
どうしてこんなのを今まで護ってやってたのかしら。馬鹿馬鹿しい。大昔の約束だなんて今の私達が律儀に守ってやることないのに。本当に誰も彼も愚かなのだから。
「何? 汚れが残っていたの?」
「ええ、頑固なのが。なかなか取れないの」
同じ行儀見習いのテレサが近づいてくる。
クロスでシミひとつない石の壁を擦りながら微笑むと彼女はまだ幼さの残る顔を僅かに染めた。
当然ね。私の美しさはこの城で一番ですもの。……それなのに、あの第一王子と第二王子ときたら……、どうかしているわ。わたしの魅了がやはり消えているのかと思えばそうでも無いみたいだし……。ティティ様と契約しているあの王の子息だからかしら。でもその息子にまで? ティティ様はほとんど城には来ないはずなのに、なぜ。
「大変、シミになっているのかしら」
「……しつこいけれどどうにかなりそう。大丈夫」
そう、どうにかなるのよ。
あの女の娘はやはり、一筋縄ではいかなかった。せっかくさっさと国外に売り飛ばしてやろうと思ったのに、ケロッとして帰ってくるのだもの。目障りったら無いわ。
やりようはある。そもそも居ても目障りなだけで大した障害でもないし。
ユーリウスのことは少し引っかかるけれど、婚約者の振りをさせられていて忙しいだけね。
ユーリウスも本当は早く私の元に戻りたいはず……。あの女に振り回されて可哀想に。私の傍にいれば癒して落ち着かせて思う通りにしてあげるのに、ああ可哀想。……でもそれも今だけの話。
簡単な第三王子の次はあの野蛮そうな第二王子、そして第一王子をどうにかすれば全て終わりよ。
堪えきれない笑みが思わず漏れて口元を隠す。
「ねえ、あなたって本当に美人ね。ユーリウス殿下も夢中になるくらいだし……。妖精のようだわ」
「テレサったら、そんな事ないわ。ユーリ様と私はたまたま心が通じあっただけなの。テレサの方が可愛らしいわよ」
「そんな! わたしなんか、そばかすがいつまでたっても消えないの……。お母さまはたっぷりの花油を毎日丁寧に塗ればいつか消えると言うけれど」
「大人になればきっと気にならなくなるわ。だから大丈夫。貴方は充分可愛らしいもの」
テレサのそばかすの浮かぶ鼻をつんとつつくと彼女は顔を真っ赤にして眉を下げた。
つくづく、人間はこんな事で悩むのだから大変よね。あなたが何をどう努力したって私の美しさに敵うことなんかないのだから、悩むだけ無駄なのに。
あの、裏切り者の娘も、馬鹿な人間の血さえ混じらなければもっと美しかったでしょうに、可哀想ね。
私の足元にも及ばないのだから。
この世で美しい人間はただ、あの方だけ。ただ1人だけ。
ああ、早くこの馬鹿ばかりの国が生まれ変わるといいのに。あの方の手であの方らしく、あの方の思うように……。
「ティアナ……あなたって、時々とても大人に見えるわ」
「ふふっ、なあにそれ、そんなわけないじゃない」
「……ええ、そんなわけ、ないわね」
可愛らしいテレサの藍色の瞳を覗いてにっこりと微笑む。
彼女は、一瞬虚ろになった瞳でこくりと頷いた。
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しばらくあまり更新できなくてすみません……今週あと1回くらいはできるかな??




