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こんやくしゃどうし



僕ってこんな人間だったっけ。


近頃ふとした瞬間にこう思う。僕は自分で言うのもなんだけどもっとこう、冷静で他人に心をかき乱されない理性的な人間だったはずだ。


それなのに、近頃の僕ときたらなんだ。あの頭のおかしいフェリル・マーデリックに振り回されてばかりだ。

全くもって僕らしくない。自分でも訳が分からないことをしてしまうし、感情に至っては制御不能で自分が何を考えているのかさえ謎だ。



くそ、なにもかも、彼女と知り合ってからの僕は本当におかしい。疲れる。苦しい、イライラする…………って、あれ、そう言えば僕はフェリル・マーデリックとシュウ・ジェンシー殿下に謝罪をしてて…………




「そうだ! 王太子殿下は……!!」




ガバッと起き上がったところで初めに目に飛び込んできたのは、近頃の悩みの種である瑞々しい水色の髪と金の瞳だった。……と、イレネー様。ん? なんでイレネー様が??


なんとなくモヤモヤとした感情に襲われてまたしても不快というかいらだちを覚える。フェリル・マーデリックの姿を見たからだろうか。

最近の僕と来たら謎の感情に襲われてばかりで本当に収拾がつかない。はぁ……。


…………というか、一体何がどうなって…………。




「ユーリウス殿下! 目が覚めたか!!良かった〜……。なんか魘され出したからどうしようかと思ったぞ」



「うなされ……、そんなことより、王太子殿下はどうなったのですか。それに何故イレネー様が??」


魘されていたのだとしたらそれは十中八九フェリル・マーデリックのせいだけど。……まあそれはどうでも良くて、問題はあの後どうなったのか、だ。僕はまさかあの大事な局面で倒れてしまったのか、それもこのフェリル・マーデリックとザイオン王国の王太子の前で。



サァーーッと血の気が引くのが如実にわかり、僕はイレネー様が差し出してくれた水差しを受け取るのに苦労した。……震えが止まらない。

なんという失態。僕の人生史上最大の厄日だ。



「王太子は既に来賓室にお戻りいただいた。心底心配しておられたが特にご気分を害されてはいないから安心しろ。この事は兄さんと陛下にも伝えるよう言ってあるが、お二人共気にせず休めとの事だ。ロバルト医伯によると睡眠不足と過労の様なものだそうだ。」



「あ……そう、ですか」



良かった……。ほっと、胸を撫で下ろす。とにかく王太子殿下が大丈夫なら、よかった。僕が外交において足を引っ張ってしまったとかいう事態になったらもうこの命程度じゃ償えないだろうから。



「あの、それで、何故イレネー様が……?」




そう尋ねると、二人は顔を見合わせて妙なアイコンタクトを取ると、意味ありげに微笑んだ、気がする。

それを見て僕はまたしてもモヤモヤに苛まれた。はぁ、どれだけフェリル・マーデリックが嫌いなんだ僕は……。気にしすぎにも程がある。全く情けない……。




「たまたまイルが近くにいて色々してくれたんだ。それにしても目が覚めて本当に良かった……」


「そっ……お、大袈裟ですね」


眉を下げ目を細めて前のめりになりながら本当に嬉しそうに話すフェリル・マーデリックに思わず動揺する。

なにしろこんな顔は初めて見るんだ。しかも僕に向けられているし。この人は心の底から訳が分からない。コロコロ変わりすぎだ。色々と……。


ついつい目を背けてしまったが別に照れた訳では無い。ただ、なんか胸の辺りの変な感じが酷くなって気持ちが悪いから、だから……



「ま、そういうことだ。ユーリ最近本当に働きすぎというか、まあ気負う気持ちは分かるけど、当の本人がこんな感じなんだから、もっと気楽に行けよ。ちょっとおかしかったよユーリ」


「ご心配をおかけしてすみません」




人好きの良い顔がさらに柔らかくなり、僕は素直に頭を下げた。

確かに自覚はあるのだ。

無理して執務を大急ぎで片付け、騎士団の兵舎に気がつけば向かっている足。王太子の事やら最近の自分の上手くいかなさやらを考え過ぎて眠れない日々……。そう言えばイレネー様には大変な迷惑をおかけしていただろう。




「いや、謝るのはわたしだ」



……うるさい、ちょっと黙っててくれ。


そもそも、君と出会ったせいで何もかもがおかしくなった気がしてならないんだ。本当にこれ以上僕をかき乱さないで欲しい。



内心ため息をついて水を飲むと、イレネー様が立ち上がった。



「じゃ、ユーリはもう平気そうだし。俺は兵舎に戻るよ。何かあったらすぐにユーリ付きの騎士に言うこと」


「イル本当に世話になった。ありがとう。忙しいのに申し訳なかったな。そのいろいろと、ありがとう……」


……だから、ちょっと黙っててくれって。色々ってなんだ。僕が寝てる間に、何があったんだよ。何故顔を赤らめる。やめてくれ、僕の部屋だぞ。


「構わないさ。じゃあ、フェリル、ユーリを頼んだよ」


「うむ、任せろ」


フェリル・マーデリックがどん、と胸を張る。任せられるか。絶対に何があっても頼らないし、頼ることなんて無いだろうし。

というかイレネー様もこの頭のおかしい人間に何を頼むっていうんだ。



「ユーリウス殿下。あの」



……だから、今度は何。君が話をすると胸が謎に気持ち悪いんだ。



「だから、黙って……」



フェリル・マーデリックはこちらをその不思議な虹彩の瞳で見つめたかと思うと、次の瞬間、盛大に頭を下げた。

うっかり声に出てたとか、そんなことすっかり忘れて僕は目を見開いた。





「…………え?」


「本当に!!申し訳ない! 今まで、出会ってから今までの全部のこと、巻き込んでしまって無理させてしまって、一方的に話したり、迷惑かけてばっかりですまん」


「は?」


「わたしは人と付き合うことが苦手だ。慣れていない。過去に人付き合いで失敗したことがあって、それ以来家族と身内としか関わってこなかった。だから、貴族として、婚約者として……の前に人としてどう接していいのか分からなくて変な態度をとった」



……な、何が始まったんだ。


唖然としていると、袖口が濡れていることに気付く。手元を見ると持ったままだった水差しが大いに傾いていて慌ててベッドサイドに置いた。


まあ、確かに色々とおかしかった。……しかし、家族と身内以外人と関わりあいを持ったことがない?? そんなことが有り得るのか……?

……まあでも、そうか、一般の常識で測るには少々型違いだ。なにしろ彼女は精霊とあの変じ……風変わりな叔父の娘で森で暮らしていたと聞く。……いや、森で暮らしていたってなんだ。



「そもそもわたしがやらかしたことだ。本来なら自分でカタをつけないといけないことなのに、ユーリウス殿下を巻き込んで、これからも迷惑をかける……」


僕は依然と唖然としたまま、突然の演説を聞いていた。

しりすぼみになる言葉と共に下を向く顔が突然ばっと上がって、うっかり肩が跳ねた。



「ユーリウス殿下、ありがとう」



「は、」



「わたしの婚約者役を引き受けてくれて」



「……は?」



はにかんだように緩んだ頬、細まる金の瞳に僕は情けなくも動けなくなった。



……別に、この人のためにやった事ではない。そもそも僕が決めたことじゃないし、やれと言われればやるし、というか全くもって成功しているとは言い難いし、この国のためであって……。



「わたしは執事が言うところのポンコツで貴族令嬢としてお話にならないし、森にひきこもっているべき人間だし、この国にとんでもない危機を与えてしまったが、でも思ってしまうんだ」


「な、にをですか」


「ユーリウス殿下や、イルと出会えてよかった、って。森を出て良かったって」



ぼ、僕と、出会えて良かった? 何故だ。どう考えても僕とこの人の相性は最悪でというか印象も最悪で、お互いに絶対相容れないしいいことなんて何も無かったのに……



「……なんの真似なんですか。イレネー様に何か言われたんですか。私は正直貴方と出会えてよかったなんてお世辞にも思えませんが」


「イルにはわたしとユーリウス殿下は真逆だと言われた」


「確かに」


「だから、仲良くなれるって」


「…………絶対に有り得ません」


……なんでそうなるんだ。そんなわけがないだろうに。


「前、ユーリウス殿下は、殿下のことどう思ってるかって聞いたよな」


「ええ、はあ、まあ、」



あの僕が最大限おかしくなっていた時にとち狂って言ったことか。出来ればもう忘れて欲しい、本当にあの時は何かがどうかしていたんだ。……あの時さっさとイレネー様に婚約者役を代わってもらっていればよかったんだ。そうすれば、……でも、それはそれでなにか、



「ユーリウス殿下のこと何も知らないから、どうも思いようがないんだ。わたしは好きでも嫌いでもない。殿下はわたしのこと嫌いだろうけどな」


本当になんでもない事のようにサラサラとそう言う彼女にぎょっとした。

なんというか、嫌われているとかそういうことを全く気にしていない。強がりとかそんな事ではなくて。これは……



……嫌われることに慣れている、みたいな。




「だから、ユーリウス殿下のことを知りたい。わたしは。最初はイルに聞こうと思ったんだけど、聞いた話じゃやっぱりあまり良く分からないな。森にいた時はそれで十分だったけど、森を出たらもっと世界が広がったみたいに、ユーリウス殿下と仲良くなりたい」



「な、なな」



「んだと思う」







満面の笑みの迫力はそれはそれは凄かった。


イレネー様はこんな顔を向けられていたのか。こんな、よく分からない、爆発しそうな感情で、胸が痛む気持ちだったのか。……イレネー様も大変だな……。






きっと、圧倒されたからだと思う、いや絶対にそうだ。そうに違いない、それ以外考えられないけど、何故か僕の顔は火が出るんじゃないかという程に熱かった。
















いつもありがとうございます!

このお話なんでこんなに長くなったんだろ……いつ終わるんだ……と毎作品思ってます。なかなか進まなくてすみません。でもいつか多分終わります、のでお付き合いいただけると嬉しいです!

良かったらブクマ、ご感想お待ちしてます!

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