けっせん
「えっ、、、と、、じゃあ、なんだっけ。つまりフェリルがあの時の女神って、こと……?」
青ざめた顔で口元を抑える王太子にわたしは頭を深くめり込ませて頷いた。
結局、もう潔くそのまま簡潔に、ずばり勘違いだったことを告白したわたしを「冗談キツいわ〜」と笑い、深刻な顔で俯くユーリウス殿下の肩をバンバン叩き、「え、この国のジョーク笑えないよ〜ねえ、ユーリウス殿下」と笑い、そしてユーリウス殿下に頭を下げられ、しばらく経ってから王太子は顔をひきつらせた。
「嘘だろ」
「……申し訳ございません。ジェンシー殿下」
「え、嘘だよね」
「本っっ当に申し訳無い!! 」
「この猿みたいなのが、あの時の……?」
「……はい、この頭のおかしい猿があの時のです」
ユーリウス殿下、私が悪かったのは分かっているがせめて「猿みたいなの」にしてくれ。猿じゃないんだわたしは。百歩譲って頭おかしいのは認めるけど。
「……」
「…………」
「嘘だろぉぉぉ……!」
たっぷり間をとって、王太子は頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
ひぃぃぃい!!めちゃくちゃ落ち込んでいらっしゃる!!すみません!!本当に頭おかしくて!猿ですみません!!
「待て待て待ってくれよ。じゃあなんだ、えっと、意気揚々と嫁連れて帰ってくる!って言って飛び出してきたオレはなんなんだ。どんな顔して戻ればいいんだ……!絶対連れて帰る気だったもん!口説き落とす気だったんだもん!」
「……すみません」
いやすごい自信。
というか、勝手に勘違いしたのはそもそもそっちじゃん。そんなに絶望されましても……。いや、私が悪いんだけどね!
「え、本当にフェリル? 本当に君だった?? だってオレの怪我治してくれて、女神かと思わんばかりの微笑みを向けてくれたよね!? え、あれ本当に君だった?!!」
「まあ……怪我は治しましたよ」
怪我させたのもわたしだけどな。ははっ。
微笑み? 微笑んだか? ああ、申し訳無かったな〜みたいな感じで笑ったかもしれん。
どんだけ美化してるんだ。それわたしだけど最早わたしじゃないだろ。
「…………ぅぅ、くそっ。嘘だろ……。どうすれば…………。この際仕方がないからフェリルを嫁に貰うという手も……」
「殿下、申し訳ないのですが、彼女は私の婚約者なのでご容赦ください」
「あああ、そうだった〜!! というか中身猿だった〜!!」
王太子が膝立ちで両手を床に殴りつけた。
一国の王太子にあるまじき取り乱し方。本当にすみません。……もう猿でいいです。
「…………フェリル、一つ聞くけど、その、君の妹のネリーちゃんは、おいくつかな」
「14歳です」
「子供じゃん……!!」
8個下のネリーではダメなのだろうか。この国では14歳と言えばもう嫁ぎ始める頃だけど。
というか、ネリーは14歳だけど14歳とは思えないほどしっかりしているぞ!!
「……殿下ネリー・マーデリックは器量良しで賢く、また表では華のように振る舞いしかし内に大の大人をやり込める程の英明さを秘めた」
「腹黒いってことじゃん!!」
「え! そうなのか!!」
ユーリウス殿下の言葉に再び床を叩いた王太子にわたしは何か既視感を覚えた。
……この光景割と最近見たことがあったような……。あれ、どこでだっけ。なんかすごい親近感が湧いてくるというか……。
ユーリウス殿下が膝をつき眉を下げて微笑む。いつもの冷たい目をした微笑ではなく。なんというか……哀れんでいるような……。まあ分からなくもないが……。いや、本当にすみませんでした。
「シュウ・ジェンシー王太子殿下。この度は本当に申し訳ございません。貴方様のご希望に尽く沿うことができないようで、私共トルヴァンとしても殿下の心痛を思うと無念遣る方無く……」
「…………いや、良いんだ。オレが勝手に勘違いをして君たちを巻き込んでしまった……。確かにあの時は衝撃と激痛と、フェリルの神々しさに驚いて正気でなかったかもしれない……。それにトルヴァン側は再三に渡って野生児だの、王妃になれる器じゃないだの、猿だの……そういえば散々言っていたのだった……。てっきり嫁がせたくないからとばかり……」
うぐ、と眉を寄せて歯を食いしばる王太子の痛たましさたるや……。
物凄く深刻な顔しているけど、問題は正直物凄く……残念な……。本当にすみません……。
というか、この感じだと、別にわたしもユーリウス殿下も殺されなさそうだ。怒っていないっぽいぞ!! 今にも首を吊りそうだけど……。
「…………オレのほうこそ、すまなかった。愛し合う君たちを引き裂くつもりは無いから、安心してくれ。オレの理想は美しく聡明で気配りが出来、夫の半歩後ろを淑やかに歩いてくれるような女性で、間違っても男相手に鳩尾に拳を叩き込んだり、スカートを翻しながら頭突きをかます女じゃないんだ……」
「心の底から同感です」
「おい、」
「あ、悪い。別に他意は無いんだよ」
では何故こちらをチラチラ見るんだ。王太子殿下。そしてユーリウス殿下、大きく頷くにも程がある。そんな神妙な顔で頷くんじゃない。
「…………はぁ、まあ、分かった。嫁探しは自分でどうにかするよ。トルヴァンとの同盟の件も別にオレの私事でどうこうはしない。安心してくれ」
「ありがとうございます」
「ほ、本当か!!? あ、ありがとうございます!!本当に、申し訳ございませんでした!!」
すっかり肩を落としてしまった殿下とは対照的に私たちは顔を見合わせてあからさまに晴れた顔で頷いた。
人生で初めてユーリウス殿下と心が通じあった気がする。
ああ、本当によかった! これで、この国が滅ぼされることも、私たちが首をはねられることも、家族が危険に晒されることも無い。
そしてようやくユーリウス殿下はお役御免でわたしから開放されるのだ。
良かった、本当に良かった!!思う存分ティアナ・レイクと愛を囁きあえ! わたしは人生をかけて応援すると誓おう!
いやーどうなることかと思ったけど、本当に、良かったな〜
「……はは、しかし、ユーリウス殿下。君はフェリルのどこが好きなんだ?」
「……………………え?」
「……おう、?」
ぴしり、
もう心の中では手を取り合って喜んでいる(妄想)私たちはその言葉に面白いくらい固まった。
………………好き、なわけがない。好きじゃない。1ミリも、むしろ嫌われてる、100%嫌われている。
や、やばい……。
ぎぎぎ、と恐らく青い顔でユーリウス殿下を見ると彼は美しい微笑を盛大に引き攣らせていた。
「…………えっと、」
「あ、まあ、政略結婚だよな〜そりゃあ。王族だもんねー。大変だね君たちも」
……ふ、ふう。
良かった。ユーリウス殿下の引きつった顔を勝手に解釈してくれたらしい王太子は随分やさぐれた顔でニヒルに笑った。そういえば政略結婚云々の話もしていたのだった。はは、良かった。あの時話していて。
よ、よし、何はともあれ、これで終わりだ。わたしたちはこれで元に戻…………
「ま、オレも同盟の件が片付くまでこっちにいる予定だから、もう数ヶ月、よろしく頼むよ」
………………もう数ヶ月、だと……??
ユーリウス殿下は美しく笑みを張りつけたまま、ゆっくりと音も立てずに倒れた。いや、どんな魔法だ。
いつもいつも、ブクマ、ご感想本当にありがとうございます!!
大分前回から時間が空いてしまい申し訳ないです……。
そしてユーリウス殿下の胃に穴があきそうです。




