かぞくかいぎ
時が経つのは早い。
森で暮らしている時には思いもしなかったことだ。森では日とともに起きて作物を育て狩りをして、飯を食って日が落ちたら寝る。
たまにやってくるシーフーと話したり動物を観察したり、とても時間がゆっくりだ。
しかし、最近の私ときたらどうだ。
「お姉様が震えているわ。明日は大雪ね」
「本当だ。明日は槍が降るね」
そう言いながら天使のような顔をした弟は私の顎をぐいっと引き寄せた。
視線を逸らそうとし損ねた変な顔が鏡に映っている。
飾り立てに飾り立てられた顔、髪、服。
極限まで締められたウエストが悲鳴をあげているが、姿勢を崩そうものなら天使のような妹がにこやかに背中を叩いてくる。……貴族名鑑で。
「あらあら、なんて顔。せっかくお母様に似た綺麗な造形が台無し。そんな風でお姉様が失敗したらどうなるのかしら。この国は滅亡するの?」
「そうだね、東の大軍勢が攻めてくるかもしれないね」
「ヒィ!!」
「でもしょうがないわよね。なんていったって、お姉様が自分でしたことですもの。何をどうしたらそんなに馬鹿ばっかり出来るのか、わたくしには分からないわ」
「本当にね。どうしてねえさんはこんなに残念なんだろうねえ」
……やめてくれ、天使たち。
そんな目の笑っていない笑顔で私の周りをクルクル回るのは、やめてくれ…………。
あの、城で謎の精霊と会ってから早くも五日が過ぎた。
わたしはあの後陛下の前でお父さんと謝り続け、陛下は数え切れないほどの溜息をつき、イルは困ったように笑いつつ長い溜息をつき、ユーリウス殿下は青い顔でため息をついた。
いかに今がとんでもない状況かを、陛下はとても丁寧に話してくださった。その頃にはわたしも、気持ち的には床の底の地面のもう誰も到達できない地底に埋まりたいと考え始め、顔を床に押し付け続けた。多分多少あの床凹んでいると思う。
とにかく、わたしが言われたことは、ユーリウス殿下が言ったことと余り変わりない。
勘違いだったことを謝り、あの森で出会ったのは自分だと正直に伝え、全力で謝り、諦めてもらい、全力で謝る。ただし撃ち落としたのが自分だとは絶対に言うな、と。
そして余計なことをするな、と全部で2時間分くらいは言われた。
1人じゃ不安すぎるからユーリウス殿下をつける、彼の言うことに合わせろ、とも。
私はとにかく色々な人にやいのやいの言われている間、頭を床に擦り付けながらウンウンと頭がおかしくなったように頷き続け、解放された時はすっかり日が暮れていた。
あの日から、五日後。今日私はついにシュウ・ジェンシーに謝りに行くわけだ。
そして、なぜ今双子にねちっこく嫌味を言われながらクルクル周りをまわられているかというと、私がジェンシー殿下の言う婚約者をネリーと間違えたことがバレたからである。バレたというか、もう頭がパンクしかかっているお父さんがポロッと言っちゃったんだけど……。
「まさかわたくしの婚約者だと思うだなんて、そんな馬鹿げたこと誰が思いつくのかしら。それとも何? お姉様はわたくしをさっさとこの家から追い出したいの? この国から追放したいの??」
「め、滅相もございません!! ネリーとずっと一緒にいたいです!!」
「でも、残念だよねー、もし失敗したらねえさんは殺されちゃうかもしれないよ。それとも、そのまま花嫁としてザイオンに連れてかれちゃうかな? あ、でもねえさん阿呆だから病弱なフリして幽閉されちゃうかもね」
「ひぃぃぃい!!」
「そうね、メディ、でも仕方がないわよね。お姉様の自業自得だもの」
「おっしゃる通りです。すすすみませんでしたっ!!」
というか、ユーリウス殿下が迎えに来てくれる手筈なのだが、遅い……。時が経つのは早いなーとさっき思ったばかりなのに、全然時が進まない! どういう事だ! 早く来てくれユーリウス殿下!! お願いだから!! いや、ユーリウス殿下にこんなことをお願いする日が来るなんて思いもしなかったけど……。
でも、なぜだかシーフーは一緒に来てくれないらしいから迎えに来てくれるのは助かる。一人だと正直不安だ。私は一人だと確実になにかやらかす、気がする。……なんでシーフーは来ないのだろうか。絶対付いてくると思ったのに。この前もずっと一緒にいる的なこと言ってたし…………よく分からん男だ。
「ああ、不安で心臓が取れそうだ。この阿呆がヘマしたらどうしよう……。アリエルなぜ、うちの長女はこんな感じになってしまったのだ」
「お父さん……本当に、ご、ごめん」
お母さんの肖像画を握りしめながらブツブツ言っているお父さんにそう言うと、お父さんは音が鳴るほどに素早く振り向いて真顔でこちらを凝視してきた。
「…………お前は悪くない。お前はただ、馬鹿なだけだ。……あ、そうだ、シーフー今からでも遅くはない。どうだ、フェリルを嫁に。そしたらどう考えてもさすがの王太子殿下も諦めるだろ」
「旦那様、冗談は顔だけにしてください」
「冗談なんかじゃない! ……ん? ちょっと待てどういう意味だ」
「私の手には余りまくります」
「おい、シーフーどういう意味だ」
ああああ、ものすごくバカにされている気がする。いや、確実にされている。いや、私は馬鹿だ。されているとかじゃなくて。阿呆だ、猿以下だ、バッタ以下だ。バッタ以下に育ってごめんなさい、お父さん。バッタはバッタらしく森で自由に生きます。だから探さないでください。というか、早く迎えに来てくださいユーリウス殿下、お願いします。
「お姉様、もし、もしよ、もし諸々が終わって無事に帰ってきたら覚悟していてちょうだい」
「ねえさん、僕達は反省したよ、ねえさんを甘やかしすぎたってね。ねえさんもやっぱりマーデリック家に相応しくあるべきだよね」
「へ、へへへい! それは勿論!!」
だから、クルクル回るのをやめてください。私が悪かったです。本当に煮るなり焼くなり好きにしてください……すみませんでした、あれうちの双子こんなに怖かったっけ??
「旦那様、ユーリウス・トルヴァン王子殿下が御到着されました」
その声にわたしとお父さん(顔面蒼白)は一緒に飛び上がったのだった。
いつもありがとうございます!!
ブクマ、ご感想、メッセージ本当に有難いです……(泣)
毎度ながらの阿呆展開が再び続きますが、許してください……




