やくそく
皆様、ものすっごくお久しぶりです……。
ご覧くださった読者様本当に本当にありがとうございます!!
なんだかんだと忙しく気がつけば1年近く放置しておりました…。申し訳ございません!!
久しぶりに頂いたご感想を読み返して感動のあまり泣きそうになりました……。
というわけで来週より週2.3回になるかとは思うのですが更新を再開しようと思います!
こんだけ放置したので読者様がどれほどいてくださるかは分かりませんが、完結まで諦めず持っていきたいと思います、ので、どうぞよろしくお願いいたします!!
「……さて、フェリル様」
「は、はい!!」
「二人きりですね?」
「ひっ……!!」
美貌の執事はそう言ってにっこりと微笑む。
それから白い手袋をビシィッと伸ばした。シーフーは怖い。そんなことこの国が設立された何百年前(知らない)から決まっている事だ。
この執事を怒らせてはならない。そんなことこの世界ができたウン万年前(知らない)から決まっている事だ。
焦げ茶の瞳の中の瞳孔がギラギラと嫌に光っている気がする。まるで草食動物を追い込んだ肉食動物の如く……否、捕食対象をいたぶる前の獣の如く……。
彼の言うとおり、私とシーフーは二人きりだった。お父さんは気を失い何かをブツブツと呟きながらくずおれた所を使用人に連れていかれた。
シーフーはその後無言で扉を閉め、中から施錠すると、カツカツと靴音を鳴らして私に振り返りそう言ったのだ。
「も、申し訳ございませんでしたっ!!」
「おや、何を謝っておいでなのか、私にはサッパリ」
「は、は、はぐれてすすすみませんでした!!」
「私の不徳の致すところです。フェリル様の行動が常軌を逸していることくらい理解して居たはずなのですが、警戒が足りなかったようで」
「め、め滅相もございません!! 全面的に、いやもうなにもかもわたしが悪いんだ!! ざ、ザイオンの王太子にも会ってしまったし、その、いろいろと勘違いを……」
「それは本当に肝が冷えました。まさかそのような偶然があるだなんて誰が思いましょう?」
「ほほ本当にすみませんでした!!」
ニコニコと美しい笑みを湛えながら一歩、また一歩と近づいてくるシーフーと反対に、わたしはずりずりと後ずさっていた。
な、なんで近づいてくるんだ。
というか普通にいつもみたいに嫌味たらしく毒を吐いて怒ってくれたらいいのに、なんで自分が悪いみたいな言い方ばかりしてくるんだ。こわっ。何考えてるんだこの男は。こわっ。ひぃぃ!! 近っ!!
気がつくともう腕を伸ばしたら手が届く距離にスラリとした体躯は迫っている。恐らくものすごく分かりやすく顔色が悪いわたしはそのまま後ろに足をもつれさせ、あっという間に視界がぶれていった。
「ぅわっ……!!」
「フェリル様!!」
バスッ。
床に後頭部を強打することを覚悟して目を閉じたわたしが倒れたのは運がいい事にソファだったらしい。
危惧していた後頭部も手袋越しのシーフーの手に支えられどうにか無事だった。なんという強運! しかし、近っ……!!
「あ、ありがとう……」
「……フェリル様……」
「………………ありがとうシーフー、もう大丈夫だ」
「…………」
「………………」
……無言。
なぜこの執事は手を離さないのだろうか。
その腰を屈めた体勢はキツくないのか。わたしは腹筋がキツい。
シーフーに頭を支えられているとはいえ、上半身だけアンバランスにソファに沈みかけている体勢のせいで腹がプルプルと悲鳴をあげている。むしろ手を離してくれた方が楽になるのではないだろうか? それともこの嫌味なシーフーはそれを分かっていてわざとやっているのだろうか。……ふむ、有り得る。
「し、シーフー? どうした」
恐る恐る、シーフーの顔を覗き込むと彼はなんと無表情だった。
このいつも美しい笑みを貼り付けている執事の無表情なんていつぶりだろうか。焦げ茶色の瞳が真っ直ぐに私をみていて思わず肩が跳ねた。
「シーフー、本当に、もう……」
は、は腹が、限界なんだ、が……!!
「本当に離し、」
「……本当に」
「え?」
「……本当に、生きた心地がしませんでした」
シーフーは真っ直ぐ私の目を見てそう言うと、そっと両手で頭と腰を支え、ゆっくりと上半身を起き上がらせた。無駄に腹筋を鍛えて汗をかいたわたしは一息ついて、もう一度シーフーを見やる。
「え、」
「フェリル様を見失った時、正直あなた様ははぐれたくらいどうにでもするだろうと思ったのです。勿論必死で探しましたが」
「……あ、まあ、うん」
ぽつり、そう掠れた小声で語り出したシーフーはわたしと目線を合わせゆっくりと片膝をついた。珍しく真剣な顔をした彼にわたしは大層仰天した。
それから右手を手に取り目を伏せる。
「ですが、ユーリウス殿下からことのあらましを聞いた時、私は後悔しました。それはもう産まれてきたことを悔やむほどに」
「そ、それは言い過ぎ……」
「いいえ。あなたは暴漢に襲われ縛られ、売られる寸前であったと……。もし、偶然シュウ・ジェンシー殿下が居合わせなければ、あなたは……」
「シーフー??」
シーフーが俯く。綺麗な黒髪に隠れて顔が見えないが言葉の端々が震えている気がしてわたしは胸を握りつぶされるような衝撃を受けた。
怖い怖い、ねちっこい、うるさい、いつも一緒にいる、味方でいてくれる家族のようなもの。そんなふうに思っていて、いるのが当たり前でそれが私にとってどれだけ大切だったのか、彼がどれだけ私を大切に思ってくれていたのか……。
あまりに軽はずみな行動ばかりしていたのかもしれない……。 わざとでは無かったけれど、でももっと気をつけていれば……。そもそも私が外に出たいなんて言い出さなければ……。
わたしはもしかしたらこの執事を今までたくさん傷つけて……。
「私は、自分で自分が許せません……」
「……ッ」
なにか喉元に熱いものが込み上げてくる。
わたしのわがままのせいで、この大切な世話係はどれだけ心を痛めていたのだろうか。
「シーフー、本当にごめんなさい、わたしが悪いんだ。外に出たいなんて」
「いいえ、フェリル様、私が悪いのです」
「そんな事ない!! そもそもわたしが大人しくしていれば」
「そうですね。フェリル様が大人しくしていられる訳などなかったのです。そもそも外に連れ出すこと自体が間違いでした」
「う、うん、わたしがわがままを言ったせいだな……」
シーフーが、顔を上げる。
いつもの笑みはどこか疲れたようによれていた気がして、そして眉は困ったように垂れていた。
……良かった。泣いているのかと思った。この完璧な執事はもしかして自分のせいだと自分を責めすぎて、責任を感じすぎているのではないかと……。シーフーは悪くないのに。
少しだけ胸をなでおろし、わたしも小さく笑みを浮かべる。
「次からは絶対にシーフーの隣から離れないぞ。自分から外に出たいだなんてもう言わないから」
そう言うと彼はいつものように綺麗に笑った。
「絶対ですか??」
「ああ、もちろんだ」
「これからはどこに行くにも私を隣に置いてくださいますか?」
「当然だ」
「……そもそも初めから繋いでおいたら良かったのでしょうか」
「ぅん??すまん、聞こえなかった」
なにか小声でボソボソっとなんか言った気がしたが、わたしが首を傾げるとシーフーはいつも通りの笑みで「いいえ、何も」と言った。
今日はいろいろとあったから私も疲れているのだろうか。
「では、これからは私の傍を離れないと誓ってくださいますか」
「うん。心配をかけて悪かった」
「私の言うこともきちんと聞いてくださいますか」
「ああ、わたしが悪かったよ」
確かにいつも適当にあしらってばかりだったのは反省すべきだ。ついつい鬱陶しいとか口煩いとか顔が怖いとか思ってしまうがシーフーはいつもいつも、私のことを考えてくれていたのに。
双子はシーフーの言うことは常識ではないとか正しくない、とか言うけど、でもわたしのことを考えてくれているのはきっと間違いないだろうから。
もう、あんな顔してほしくないし……。
「約束する」
そう言うと彼は綺麗に微笑みわたしの手にそっと口付けた。
「……約束ですよ、フェリル様」
シーフーこわっ。
相変わらずユーリウス殿下は空気ですね(´ω`)




