おとうさんとしつじ
「フェリルぅぅぅうう?!!」
シーフーが怖い。
あの異様に綺麗で完璧な笑顔を携えたなんでも出来ちゃううちの執事は怒ったら怖い。
あの笑顔で説教されるのは本当に堪える。
いや、そうなのだけど。シーフーが怖いなんてこの世の常識っていうか、わたしが産まれた頃から決まっていたんじゃないかってくらい当然のことっていうか。いや、何言ってるのかよく分からなくなってきた。
とにかくあの何を考えているのか全く分からない笑顔の執事は恐ろしいのだ。
同じ笑顔貼り付け系人間のユーリウス殿下は、まずもう目が笑ってないし割と感情分かりやすくてアレだけどシーフーのそれは本当に不気味だ。
いや、そうなんだけど、そうじゃなくって。
それよりも何よりも、今は。
「お、おおお襲われたって本当なのか!!」
「まあまあお父さん、落ち着いて」
「旦那様、鼻水が出ております」
お父さんの取り乱し方が怖すぎるって話だ。
「襲われたって言ってもちょっと縛ら」
「し、し縛られ?!!」
「旦那様、フェリル様が物凄く嫌そうな顔を」
ユーリウス殿下の部屋でシーフーに荷物かなにかのごとく引き渡されたあと、二人で馬車に乗り無言の気まずい時間を過ごし、そして家に帰った途端、涙と鼻水とよく分からない液体でぐしゃぐしゃのお父さんに迎えられた。
……ちょっと本当に鼻水つくからもう少し離れて欲しいんだけど。
がっしり掴まれている肩を振りほどいてもいいかな、と思ったところでシーフーと目が合いふるふると首を振られた。
「旦那様、誠に申し訳ございません……私が付いておきながら」
「シーフー、それについては後で話がある」
「承知しております」
今まで取り乱していたおじさんとは思えない顔で低い声を出したお父さんにはっと顔を上げる。
まずい、このままじゃ軟禁コースだ。
お父さんがシーフーに禁止って言ったらお終いだ、シーフーはもう何がなんでも外に出してくれなくなるに違いない!
「ま、待ってお父さん! シーフーは悪くないんだよ!」
「何を言ってるんだフェリル!」
「わたしが勝手なことしたからはぐれただけで」
「フェリル様……」
「だからシーフーは悪くないんだよ! むしろ勉強の息抜きに連れて行ってくれたんだ!」
「フェリル……」
お父さんが目を丸くしてこちらを見ている。
とりあえずわたしは必死だった。シーフーに余計なことを言われたら大変だしというか全部事実だし。
……というか、そういえばなんでわたしは襲われたんだろう。
どう考えてもあれはわたしだと認識していた感じだったけど。
…………いや、まあそんなこと言ったら絶対に面倒になるから言わないけどね。
「だからお父さん!」
「うっ、フェリル……っ」
何故だかお父さんの鼻水が悪化した。
すかさず横からハンカチを差し出すシーフーは流石だけど、どうでもいいからちょっと離れてくれ。
「お前は、バカだバカだ、アホだポンコツだ、猿だと思っていたけど……」
「あれ、なにこれ貶されてる?」
「いいえフェリル様」
「そこまでっ、人の事を考えられるようになるなんてっ」
「え、わたしのことなんだと思ってたんだこの人」
「先程旦那様が仰られた通りかと」
……ん? シーフー?
「不可抗力とは言え、森から連れ出してきて正解だった!」
なんだかキラキラと目を輝かせたおじさんは、そう言ってわたしを抱きしめた。
なんてことだ、鼻水がついたに違いない!
思いっきり顔を背けた先でシーフーが件の読めない笑顔でこちらを見ている。……不気味すぎるこわい。
「お父さん、く、苦しい……」
「ああ、すまん……。何かと常識のないアホになったと嘆いていたけど漸く人間らしくなってきたみたいでお父さん嬉しいぞ!」
正直あんまり褒められている気はしないけど、やたらとキラキラした笑顔でそう言われるとむず痒いものがある。
照れながら釣られて笑ったわたしと、ウンウンと頷くお父さんがしばらく見つめ合うという客観的に見たら大変気持ちの悪い光景が繰り広げられた訳だが、それもシーフーのセリフであっさりと終わった。
「まあ、ユーリウス殿下の話によるとフェリル様はその際、ザイオンの王太子殿下と遭遇し大変仲良くなってしまわれたようですが……」
ぴしり。
どこからかそんな音が聞こえた気がした。
お父さんはそれを聞いて石のように固まり、やがて後ろに倒れた。
いつもありがとうございます!
お父さん回でゴメンナサイ……。イルが出せなくてゴメンナサイっ!次はねっとり陰険シーフー回です多分。
よろしくお願い致します!




